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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]輝く三つ巴 定期演奏会編
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東藤高校定期演奏会 【開演の章】

年明け、いよいよ、定期演奏会に向けて、最後の練習が始まった。この日のために、部員たちはずっと練習を積んできたのだ。


小倉優月は、イヤホンを片耳に原曲を聴きながら、グロッケンで打つ。休符の時には、間違った箇所や不安な箇所を確認するという自称『原曲リハ』をしていた。

こうすることによって、実際に合奏している感覚が味わえるのだ。

ドラムパートの鳳月ゆなも、不安定な箇所や苦手な箇所を練習していた。スネアの細かいロールが延々と続く。やはりドラムを習っていると、高度な技術が身につくのか。


ホルンたちは、一曲一曲の通し練習をしていた。小林想大と周防奏音が、それぞれの動きを確認しながら、ホルンを吹く。奏音は中学からの経験で安定しているが、まだ想大は安定しない。

「想大君」

少し吹くと、奏音が想大にこう言った。

「動きがややこしい所は、無理して吹かなくて大丈夫だよ」

動きを重視して、ミスするようでは意味がない。

「あ、はい」

想大はそう言って、自らの手にある金色のホルンを見つめた。所々、白い光を放っている。


茉莉沙は、トロンボーンとパーカッションの往復だった。なので、音楽室に残って練習している。

茉莉沙のトロボーンの音は、一切ぶれない。それに加えて、どんな動きでも必ず実現した。

そして、もうひとつ。打楽器だ。

田中美心が抜けた分、鍵盤パートが多い。彼女は数分、基礎練習をすると、練習を始める。音は、目立ち過ぎず、小さ過ぎず、なのに一糸乱れぬその音は、やはりプロそのものだった。

そして、茉莉沙は音楽室の隅に、移送された黒いドラムセット前の譜面に楽譜を立てる。

「せーのっ…」

茉莉沙は自らのタイミングで、演奏を始める。


ちなみに、そのドラムは優月の個人練習の為に、わざわざ楽器庫から引っ張り出したものだった。旧式であまりにも小さいので、身長の低い優月と茉莉沙しか使わない。



そして雨久は、一曲だけ休符が一切無い曲を吹いていた。その曲は特別演奏で、姫石咲苗と吹くものだった。


間もなくして、全員が集まり、合奏が始まった。

「それでは始めますよー」

井土が合図すると、雨久のトランペットがイントロを奏でる。その悲しげな音に合わせるように、管楽器隊はゆっくりと立ち上がり、次々と演奏を始める。1曲を演奏すると、その後は5曲目まで、ノンストップで演奏が続いた。


「はい!OKです。完璧ですね」

井土がそう言ったことで、少し場の雰囲気が和んだ。


こうして、練習は本番前まで続いた。

無論、演奏面だけでは無い。冬休み最終には、衣装の着替えにかかる時間も計算している。

ちなみに、優月は文化祭でのメイド喫茶をきっかけに、メイド服を着て演奏することになった。

「うんうん、ゆゆの着替え時間は約2分。これなら特演の間に終わるね」

井土が彼の姿を見て、満足げに言った。

「はぁ…」

下半身がスカートなのは少し辟易するが、井土の頼みなので我慢することにした。


その時だった。ドアがギイと開く。

「井土さん、来たよー」

と大人びた女の子、いや女性が紙袋を提げて現れた。

「ひっ…」

優月は少し身震いをしてしまう。

その人物は、宮野優里奈。打楽器パートを務めていたOGだ。ちなみに初対面で、彼女に優月は抱きつかれている。

「えぇっ?もしかして、その子は新手の新入部員♡?」

回りくどい言い方をすると、井土が、

「ゆゆだよ。小倉君」

と言う。しかし、彼女は全く聞く耳も持たず、メイド姿の優月を抱きしめた。

「かーわいいー!お名前何?」

優月はブルブルと震えながら「あの、小倉です」と言う。

すると彼女は、わざとらしく彼から離れた。

「えっ?女の子じゃないの?」

「あっ…いえ、違います」

優月は、シワになったシャツを掴み、シワを伸ばす。

「ごめんね」

優里奈が頭を下げると優月は、いえ、と苦い表情を浮かべた。


(絶対わざとだろ…)

それを遠目に見ていたゆなは、直感でそのことに気付いてしまった。



そして、優里奈も加わって、合奏が始まった。動きやすく、硬い雰囲気にならないよう、部活のTシャツを着て、本番同様に合奏する。

「はいー、次は衣装着てねー。10分後スタート」

井土の指示に従い、部活Tシャツ、衣装、部活Tシャツ、衣装と着替えも含めた演奏が続いた。

今日、優里奈が来た理由は、優月たちの衣装の着付けを手伝う為だった。


「はい、小倉君、ヴィッグは緩くしておくね」

「ありがとうございます」

優月はそう言って、白い髪をさすった。

「最後に、シャツの後ろのリボンを束ねてと…」

優里奈は手先が器用だった。

「あ、ありがとうございます」

瞬く間に、背中のリボンを結び彼の背丈に合わせた。これが結ばれていないと、首筋にシャツの襟が食い込み、こそばゆくなるのだ。演奏どころでは無い。

「あと、スカートをキツくして…」

そう言って、彼の変装が完了した。

メイド姿でも、パーカッションセットなり、シンバルなり、グロッケンなりと演奏に支障は来さなかった。

やはり演奏者が制服以外の服を着ると、オリジナリティーもあって、演奏する側も見る側も楽しい。何より、コンクールの練習をするよりも、呼吸が楽だった。


「ゆゆ、シンバルの音がズレてるから、周りの音をよく聴いて!」

「あ、はい」

それでも、多少の指導はされるのだが。手に握られているシンバルは重い。指にはゴムの跡が色濃く付いていた。

「小倉君、無理しないでね」

そこへ、優里奈が話しかけてきた。

「は、はい」

少しありがたかった、と優月は「ありがとうございます」と礼を言った。

そうして、この日も部活が無事に終了した。


着替えを終わった部員たちに、雨久が大きな声で呼びかける。

「はい!宮野さんから、プリン貰ってます!お礼言いますよー」

すると部員たちは、プリンという単語に反応したのか、光の速さで整列する。

「ありがとうございます」

雨久が言うと、

『ありがとうございます!』

と部員も繰り返した。すると優里奈も小さく会釈をした。

そうして、差し入れのプリンを口にしながら、ゆなは井土に話しかける。

「どうして、私は巫女服なんですか?」

その言葉には、多少の不満が混じっていた。

「えっ?なんとなく」

「なんとなくー?」

事も無げに言う井土に、ゆなは訝しげに訊き返す。

「まぁ強いて言えば、田中さんに鳳ちゃんは巫女服似合いそうって言ってたから」

「えっ…」

美心の名を出され、ゆなはやや硬直した。

すると、そこに優里奈が入ってくる。

「井土さん、美心ちゃんは来るんですか?」

彼女の予想外の質問に、井土はやや面食らう。

「えっ?知らない…」

彼はそう答えることしかできなかった。

彼女は退部した身だ。彼女の行方は誰も知らない。

「…そうですか」

優里奈は、そう答えると、茉莉沙や初芽たちの方へ行ってしまった。


新学期からすぐの日曜日。

この日が本番だ。


前日の土曜日の朝から、東藤町町民会館に、部員たちは集まり、夜の9時まで準備・練習をする。

「さて、スポットライトの位置はどうかなー?」

井土たちが視察する。

それを優月は見守っていた。


いよいよ定期演奏会。

だが、これで終わりじゃない。この後には沢山の退部者が続出する。

それに備えなければいけないのだから…。


ー続くー

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【次回】

光り輝くスポットライト…。

優月が最大の危機!そこにいたのは…

定期演奏会 涙の終幕



【今後の予定】

6月6日〜7日 優月が最大の危機。そこにいたのは…

       定期演奏会 涙の終焉

6月8日〜9日 3年生ありがとう。打ち上げパーティー

6月10日 【最終回】卒業式。優月が…

         続出する退部者


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