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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]輝く三つ巴 定期演奏会編
64/209

御浦 ウラと定期演奏会の章 【中章】

今回は、沢柳律の過去編になります。

最近、過去編が多くてごめんなさい!!


所でですが、過去編は語り形式が回想形式、どちらがいいですか?

感想にて教えてくれると嬉しいです。

部活終わりー。

「御浦の定期演奏会?」

茉莉沙の言葉に、優月たちが首を傾げる。

「はい。行きませんか?」

茉莉沙はそう言って、1年生を誘っていた。

御浦ジュニアブラスバンドクラブ。県内でも有数の強豪楽団だ。

今週、御浦市民ホールで定期演奏会が開催されるそうだ。


茉莉沙が誘うのは珍しいな、と誰もが思っていると、ゆなただ1人、肩を竦める。

「そんなに、沢柳って奴が怖いの?」

ゆなは茉莉沙の核心を突く発言をする。

「!?」

茉莉沙はそれを聞いて、苦い顔をする。


沢柳律。

彼は組織内でも、1番のパーカッション奏者だ。だが、彼は茉莉沙を無意識に何度も傷付けた。結果、彼女は心に深い傷を負ったのだ。

できれば会いたくない。


「鳳月さん、正直ですね」

茉莉沙はそう言って、へなへなと倒れ込んだ。

「僕、行こうかな」

その時、優月が小さく手を挙げる。他校の演奏会は、茂華中学校以来だ。

「…優月君が行くなら俺も」

すると想大も挙手する。

「私は家でゲームするから、パス」

ゆなは冷たく振りほどいた。

その時、岩坂心音が手を挙げる。

「私、初芽先輩と行きます」

「えっ?心音ちゃん!行くの?」

ゆなが驚いた声で言うと、心音は「うん!」と頷いた。

こうして、茉莉沙や初芽達と1年生3人は、御浦市民ホールへ行くことになった…。



その頃、強化練習をする沢柳律に、誰かが話しかけてくる。

「トントントントン…トトパンパン!」

ドラムでリズムを取る沢柳を、誰かが見守っていた。

「おん?莉翔、どうした?」

すると、和装の男の子が目に入る。

「沢柳先輩、凄い上手いですよね。今年もソロだし」

その男の子、指原莉翔がこう言った。

彼は、沢柳と先輩後輩関係だ。愛嬌があるので、仲も良く上手くやれている。

「…そんなことねーよ。今のも何回かミスったし…」

沢柳の脳裏にある言葉が浮かぶ。

『まさか、結果は出てるんだろうな?』

聴きたくもない父の声。沢柳の心臓がきしりと傷む。

「…沢柳先輩?」

その時、莉翔がこちらへ呼びかけてきた。

「あっ…!嫌な記憶を思い出してた…」

「嫌な…記憶?」

「そうだけど。莉翔は知らなくて良いよ」

彼はそう繕って、再び練習を続けた。



その頃、茉莉沙は初芽と2人で帰っていた。既に日は沈んでいて、街灯の光だけが道路に落ちていた。

「結羽香も、御浦の演奏会行くの?」

「うん。心音と行く予定だよ」

心音は、初芽の後輩だ。フルートを吹いている。

「じゃあ、1年生は3人行くんですね」

「そうなるねー。ゆゆと小林君も行くらしいし」

「…そうだ!」

その時、初芽がポンと手を打つ。

「茉莉沙!井土先生に何か言われなかった?」

それを聞いて、茉莉沙は微笑混じりに答える。

「田中美心先輩の代わりに、打楽器も入ってほしい、って」

「へぇ。何て答えたの?」

「…考えておきますって」

それを聞いて初芽は、えぇ!と驚いた。

「どうして!?やりたくないの?」

「やりたくないわけじゃないけど…」

茉莉沙は、そう言って写メを見る。

「このままじゃ、私、半分も打楽器になっちゃうんですよね」

「あぁ…」

初芽は彼女の心を察した。引き受ければトロンボーンが、希望以上に吹けない。

「やりたくないなら、それはそれで何とかなるみたいで」

「なるほどね」

大体、茉莉沙は進んでやりたいというわけではない。それでも、必要ならば引き受ける、そんなスタンスを取っている。

「まぁ、来週までには答えを出すよ」

茉莉沙はそう言って、不安気に笑った。



その日の夜。

練習を終えた沢柳は、ホールから家まで歩いていた。家はホールから少し遠い。

「くそっ、どうして毒親の声が…」

沢柳はそう言って、フラッシュバックする光景を恨んでいた。手には所々、豆ができている。最近は、本番前なので、スティックやマレットを握ることが、極端に増えた。 


その時、冬樹が後ろから駆け寄ってきた。

「沢柳さん、お疲れ様です!」

すると沢柳も「お疲れ」と返す。

「今日はバスか?」

「はい。お父さんとお母さん、今日は忙しいから」

冬樹がバスで帰る日は、ふたりは偶に帰り道で会う。その時は、全然話をしないのだが、沢柳は気まぐれに言葉を紡ぐ。

「ミナトは今年も、トロンボーンのソロなんだろ?」

「はい。沢柳さんもですよね」

「おう。まあ、毎年のことだがな」

沢柳は誇らしげにそう返した。

「…あ、メイがいた年は別だぞ」

だが、すぐにションボリとそう言ったので、

「くくっ…」

と冬樹は笑ってしまった。

茉莉沙とは、自分の直下の後輩だったが、僅差でオーディションに落ちてしまった。彼は小学5年生の頃から、パーカスソロは毎年だったので、あの茉莉沙に負けた時は、とても悔しかった。

だが、最初そんなソロは、目指そうとも、彼は思ってもいなかった。


その時、冬樹が、ずっと気になっていたことを沢柳に尋ねる。

「沢柳さんって、どうして、打楽器を始めたんですか?」

「はぁ?そんなこと知りたい?」

「茉莉沙ちゃんも、気になってましたよ。僕も、沢柳さんが、打楽器始めた理由知りたいです」

すると沢柳は珍しく顔を沈める。しかし、そんな表情は夜闇を歩く冬樹(かれ)には気付かなかった。

「はぁ…、最初はな、くだらないことだったよ」

沢柳は、彼にだけ話すことにした。黒歴史というものを。



彼が、御浦ジュニアブラスバンドクラブに入ったのは、小学4年生の時だった。

彼の親は、元プロのパーカッション奏者とサクスフォン奏者だった。しかし、彼を出産する前に、父が病気にかかり、パーカッション奏者を引退せざるを得なかった。

父も、病気にかかった自分を心底恨んだ。

そうして、塞ぎ込んでいたある日、子供が出産する、と母から言われた。


『私たちの子よ。やっと子供ができたわね』

妻の美矩恵(みくえ)がそう言うと、夫である岳は『そうだな…』と言った。しかし、内心には、プロ奏者に戻りたいという渇望だけだった。


その思いを隠しつつ、男の子を出産したのだ。

『名前、何にする?』

出産後、病室で美矩恵が聞くと、岳は、

『律だな』

と答えた。

『正しい道に進む。何があろうと自分を律する、あとは、音楽家の子供にはピッタリの名前じゃないか』

名前の意味を知った美矩恵は『いいわね』と笑った。

『イタタタタタ…』

その時、病気の症状が彼を襲う。

『…やっぱり、パーカッション奏者に戻るのは、難しいわね…』

『……くっ!』

岳は悔しそうに、顔を歪めた。


そうして、月日は流れ、律は小学4年生になった。

『ねえ、律ー』

家に帰るなり、母が彼に話しかけてくる。

『お母さん、なに?』

律はランドセルを部屋に置いて、リビングに入る。

『律は、打楽器、興味ない?』

『…ああ。お父さんがやってたやつ?』

『そう。木琴とかドラムをやるの。色々あって楽しいわよ』

と言う美矩恵の目は、どこか洗脳されているようだった。

『…うう、興味があったら?』

『御浦市で、吹奏楽のクラブがあるのよ』

こう、律は美矩恵に、執拗に進められるので、律は、ある日ついに…

『お母さん、僕、打楽器やってみるよ』

と言ってしまった。その時の母の表情は、今までに見たことがないほど、嬉しそうだった。


こうして、打楽器を初めてやや1年。

梅雨のある日、父の入院の見舞いに行った日のことだった。コンビニで菓子を買った律は、トコトコと父のいる病室へ戻っていた。

ドアを開けようとすると、岳の大きな声が聴こえる。


『そうか!律がA編成に選ばれたか!』

『そうよ!あなたの思惑通りね』

『美矩恵、ありがとう』

と同時、岳のすすり泣きが聴こえてきた。


それを聞いて、律は全身から力が抜ける。辛うじて、指の先だけで菓子をつまむ。

そんなに嬉しいのか…。律は一瞬だけど嬉しくなった。だが、その後の美矩恵の教育は、狂気の一言だった。


『律!練習頑張ってる?』


『練習の為なら、幾らでも付き合うわよ!』


その言葉が、まるで鎖のように、彼の自由を縛り付けた。それでも、あの日の岳の言葉を思い出すと、どんなに嫌でも頑張れた。

だが、ある日、気付いた。

父が泣いていたあの時の言葉に『思惑通り』と入っていたことを。


帰り道、歩きながら考え事をしていた時に気づいてしまったのだ。

『俺、お父さんの後を追わされてる』

そう、自分は父と母の理想像に近づかされていたということを。


その後、美矩恵や岳に辞めたいと言う度、ヒステリックを起こされた。だから半年で抵抗を諦めた。

彼はこう考えた。



『お父さんさんを超えてやる』

沢柳はそう言って、再び黙り込んだ。

「ひどい親」

「だろ!」

「親は子の物じゃないって、学校の先生が言ってた」

冬樹が自信満々にそう言うと、沢柳は「だな」と同意した。

「親が、実力主義な態度を取るから、俺もこうなったのかもしれないな」

親の愛情が欠落が、彼の人間性を変えたのだ。


そんな恥ずかしいことを、茉莉沙たちには言えるわけが無かった。

「親のプレッシャーと戦ってるんですね」

「そゆこと」

なんだか、こう言われると、少し悲しくなった。それでも彼は頑張り続けている。



こうして、このふたりも演奏会にて活躍するのだ…。


ーー続くーー

ありがとうございました!

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【次回】

冬樹の過去&茉莉沙の未来

御浦 定期演奏会 完結!

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