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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]輝く三つ巴 定期演奏会編
63/208

御浦 ウラと定期演奏会の章 【前章】

御浦ジュニアブラスバンドクラブの定期演奏会が目前に。各キャラクターも活躍することでしょう! 

最後まで読んでいただけると嬉しいです!!

悠悠(ゆうゆう)ユーフォニアムコンビ復活じゃん」

開口一番、顧問の井土がそう言った。

「そうなんすよー!広一郎さん!」

「ぷふっ」

吹奏楽部OGの白波瀬悠吉が、熱を片手にそう言うと、井土が笑った。


「まぁ、それはそれで、姫さんも久し振りだよね?トランペット吹くの」

「そうですね。純一郎さん」

「誰?」

井土と姫石が、そんなやり取りをすると、クスクスと笑い声が聴こえてくる。


ドラムセット前の椅子に座った鳳月ゆなは、

「記憶障害じゃないか…」

と呆れ笑いを浮かべる。恐らく、この場に美心がいたら、彼女はどつかれていただろう。

「姫石さん、僕のことを小川っていってたよ」

優月が、ゆなに呆れつつそう言った。

「ふぅーん…。おぐらとおがわ…。何食べたら間違えるんだ」

「間違ったわけじゃないと思うけど…」

だが、優月には分かっていた。恐らく、名前を間違えたのは、わざとだ。彼女は一度印象を植え付けることで、相手から興味を引き付けている。


「それでは、練習始めますー!」

井土のこの一言で、基礎合奏が始まった…。




そして、この日の夕方、御浦ジュニアブラスバンドクラブでも、定期演奏会に向かって、練習をしていた。


『では、次の曲をやってみましょう』

そう言ったのは、監督の速水怜芽。優秀な指導者だ。

すると、一斉に楽器を構える。

『…いきますよ』 


トロンボーン担当の港井冬樹も、トロンボーンをスッと構える。

次の瞬間、音乃葉たちのトランペットが高らかに響く。パーカス隊も、各々のリズムを刻み出す。その音はあまりにも迫力があった。

だが、やはりひときわ目立つ存在がいた。


自分よりも、少し前の少女。その少女はホルンという金管楽器を構えていた。

彼女の名は野々村葉菜。日本国内でもトップレベルのホルン奏者だ。そんな彼女は、この強豪クラブに籍を入れている。

世界にも通用する彼女の実力は、相当なもので、トップレベルの奏者でも、劣等感を感じてしまうほどだ。


ドラムを打ち鳴らしながら、沢柳は愉しげに笑う。

(ウラが揃うと、本当に安定するねぇ)

そんな言葉が、脳裏でしみじみと浮かぶ。

ウラとは、皆が呼称しているトップレベル奏者のことを言う。

薬雅音乃葉、鈴木燐火、氷村清遥そして野々村葉菜だ。全員が県内トップレベルだ。

因みに、沢柳はウラになるべく、練習に励んでいる。


そうして、合奏が終わると、副監督の阿櫻克二(あさくらかつじ)が、パンパンと拍手をする。

『定期演奏会まで、あと少し。皆さん、しっかり休んでくださいね』

その言葉に、冬樹たちは『はい!』と返事した。


そうして、解散が言われると、各々が行動を始める。帰るもの、居残る者。

冬樹は、ふとトランペットを手にした2人を見る。

「えっ?薬雅さん、まだ吹くんですか?」

そう言ったのは、片岡翔馬。トランペット隊の中でも、かなりの実力者だ。そんな彼の問いに、音乃葉は、満面の笑みで答える。

「吹くぞ!トランペットが大好きだからな!!」

「…は、はぁ…」

「なんだ?一緒に吹かないのか?」

「いえ!お付き合いします!!」


そんな会話に、冬樹はクスリと笑う。何だか、聞いていて面白い。

それと同時に、明作茉莉沙の顔が脳裏に思い浮かぶ。

(そういえば、茉莉沙ちゃん、元気かな?)

茉莉沙は、かつてパーカス隊の中でもトップレベルの実力者だった。だが、軌道に乗ったところでこの楽団を去ってしまったのだ。

そんな茉莉沙のことが、冬樹は大好きだ。


そして、冬樹は廊下を歩き出した。茉莉沙に電話でもしようかな?そう思っていたその時、

『そこは、違う』

クラリネットの練習場所にて、氷村清遥が指導をしていた。しかし指導を受けている子供は、皆涙目だった。

「才能に頼るな。努力に頼れ」

清遥は、手厳しい言葉を並べる。

「は、はい」

「さてと、他に分からない所はあるか?」

「あ、ありません…っ!」

すると、清遥は「そうか」とクラリネットを吹き始めた。

その音は、正確かつ淡々なメロディー。その音は、まるでプロの演奏から、切り取ったかの様な音だった。

その実力、そして氷のような冷徹な性格から、彼は『氷心のクラリネット』と呼ばれている。音乃葉や燐火とは真逆の存在感を放っている。


(怖い先輩だな…)

関わりたくなかった冬樹は、逃げるように、廊下を駆け抜けて行った。



数日後。東藤高校。

『さてと!みなさーん!注目!』

合奏練習をしていた部員たちを、井土が制する。

「今日は、毎年恒例の仮装演奏(・・・・)の話をしますよー!」

すると、1年生から『なにそれ?』という声が上がってくる。

「広一朗先生!仮装演奏って何ですか?」

ゆなが、訝しげな表情をして尋ねた。

「それはですね、読んで字の如く、仮装して演奏することですよ」

井土はそう答えた。

「まぁ、例えば、雨久さんがドレスを着たり、河又君がタキシード着たりして、演奏するんですよ」

引き合いにされた雨久と悠良之介が、

「アハハハ…」

と怒りの混じった声を漏らした。言葉の意味を完全に理解したゆなは、肩を竦める。  

「それ、恥ずかしいんですけど」

そう言った。井土は目を細める。

「いいじゃない?青春ですよー」

と言うので、ゆなは「恥ず…」と笑った。

ゆなは、目立つのが苦手だ。無論、そんな人間は、部内にたくさんいるだろう。

「なんだ?恥ずかしいか?青春は?」

すると、井土がそう畳み掛ける。

「恥ずかしいのよ。青春が」

ゆなは、敢えてなのか、真顔で返した。その時、クスクスと笑い声が起こる。

2人のやり取りも何だか面白い。


「偶然、演奏会でやる曲と被ってやがる…」

向太郎が驚いたように言うと、奏音が「そだね」と頷いた。


「…とまぁ、外野は何だか騒いでおりますが、ひとりひとり、衣装を着て演奏してもらいます。勿論、ゆゆはメイド確定ね」

井土の炎上発言に、

「外野じゃねー!」

「えぇぇ!?」

と打楽器のふたりは、叫び声を上げた。ちなみに、ゆなは井土との会話は、漫才感覚だ。


(優月君、どんまい)

想大が、その傍らでニヤニヤと笑った。

その時、初芽が茉莉沙の肩を叩く。

「御浦だと、こんなのは無かったから、新鮮でしょ」

そしてそう言った。

「ま、まぁ…」

しかし、茉莉沙は少し恥ずかしい。今年は、どんな衣装を着るのだろう?

御浦?そういえば、冬樹は元気にしているのだろうか?

茉莉沙の脳裏にそんな心配が浮かんだ。


確か、御浦ジュニアブラスバンドクラブの定期演奏会は来週だったような?

そんなことを考えていると、合奏が再開された。




御浦ジュニアブラスバンドクラブ。

県内でも有数の強豪クラブだ。吹奏楽のコンクールでも上位を収めている。そんなクラブの演奏会だが、チケット等はいらないそうだ。

定期演奏会は、目前だった。


「よぉっし!この演奏会で全世界鈴木ランキング20位に入ってやる!!」

オーボエを掲げ、そう言ったのは、『焔のオーボエ奏者』こと鈴木燐火だった。

「鈴木先輩、気迫が違いますね」

後輩の女の子が、そう言うと、

「勿論!!」

と叫んだ。

だがそこへ、

『うるさいぞ』

と清遥が入ってくる。

「お前以外、きっと皆迷惑だ。静かにしてて」

彼が言葉の針を突き刺す。

「…氷村!もう少し、笑えないのか?」

「必要ないね」

清遥は冷たくあしらう。燐火は頬を膨らませる。

「分かった分かった…」

そう言って彼女は黙って、オーボエを吹き始めた。しかしその音には、一切私情は無かった。


氷村清遥。彼はどこまでも冷徹な性格をしている。こうなったのには理由がある。



清遥の周りは、色んなものに恵まれていた。両親は温厚でとても優しい人だ。

ある日の小学校からの帰り。

『清遥、お菓子食べる?』

母が話しかけてくる。

『わぁ!マカロン!俺の好きなやつ!!』

彼は、好物へトコトコと近寄り、

『いただきまーす』

と、マカロンを放り込む。

清遥は親から、無償の愛を受け続け育った。愛情を受けたことで、彼は家族が大好きになった。

そんな彼は、数日後、祖父母の家に、遊びに行った。


そこで、祖父のクラリネットに出会ったのだ。

『おじいちゃん、それは何?』

清遥が訊くと、祖父の芳國はいつもの温厚な視線を向け、こう答えた。

『クラリネットだよ』

芳國はバンドでクラリネットを演奏していて、クラリネットが上手かった。

『俺も、やってみたい!!』

だが、芳國は、苦い表情をする。

『…むぅ、それは小学校の吹奏楽部でやりなさい』

『それまで、待てないよ!俺、早く吹きたい!』

しかし、彼の音があまりに綺麗だったので、清遥はどうしても吹きたかった。

『なるほど…。厳しい指導になるが、いいのか?』

すると、芳國の瞳に鋭い光が宿る。

『うん!』

この時の清遥は、まさか、あんなことになるとは知らなかった。


1ヶ月後、芳國のレッスンが始まった。

『そこ、ズレてるぞ』

『えっ…はい…』

しかし、彼の指導には、いつもの温厚さが無く、厳しい言葉しか無かった。

『音量が足りん』

『今度は音が汚い』

『またキイの位置がズレてる』

当たり前のことを厳しく言われる。両親にこのことを相談した。

『清遥には、クラリネットの才能があるから大丈夫!』

『才能』。母たちのこの言葉が、清遥を支えた。 


しかし、ある日、芳國はこう言った。

『最近、演奏がよくなってきてる』

突然、褒められた清遥は嬉しくなり、そう言った。そして、

『やっぱり、才能があるからかな』

こう言った。


その時、

『才能だと?』

芳國の顔が、真っ赤になる。

『俺はその言葉が嫌いだ。才能の意味、清遥はどう考えている?』

『それは、才を持った能力…ですかね』

当時、小学校低学年だった彼は、必死に答えた。

『むう。そうかもな。だが、俺はこう考えている』

『相手を見下す言葉…では無いのかと…』

『相手を…見下す…ですか?』

その言葉の意味が、清遥にはよく分からなかった。

『お前はどうだ?清遥、君には才能が無かった。だから、上手くなれるわけがない、そう言われたら』

それを聞いて、キシリと心が痛む。

『…傷つくよ』

『そうだな。俺も何度も言われたことがある。その度、自信を失っていたよ』

『へぇ…』

清遥は少しながら驚いた。

『それにな、才能を理由に動かんやつもいる。才能ある者は怠け、凡才は努力する。その方程式がどうにも嫌いでね』

芳國は、清遥の肩を叩く。

『いいか?清遥。才能ある者は才能とは口にしない者。例え才能があったとしても、才能に頼るな。努力に頼れ。それがきっとお前を強くする』

その言葉は、清遥に迷いを生じさせた。

両親の言う事と、芳國の言う事が二分化している。


だが、御浦ジュニアブラスバンドクラブに入って、すぐに分かった。

この世は、自己陶酔で溢れている人間ばかりだということを。

(心を殺せ。才能は存在しない。それ故、失敗は許されない…)

クラリネットを吹く度、その言葉を繰り返していくうちに、冷静かつ冷酷な物言いになったのだ。

才能に頼るな、努力に頼れ。その言葉は、清遥の信条を表している。



気付くと、合奏が始まっていた。

(…うお)

過去の去来から覚めた清遥は、周りを見る。既に楽器を構えている。清遥も深呼吸の後、すぐにクラリネットを構えた。

(才能に頼るな、努力に頼れ…。だな)

その言葉を反芻しながら、彼は音を奏でた…。

ありがとうございました!

最近は過去編が多くて、申し訳ございません!それでも、本編とリンクするよう作って参ります! 


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【次回】

沢柳律の本性。

御浦の定期演奏会、開幕!


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