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吹奏万華鏡2  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]輝く三つ巴 定期演奏会編
62/82

雨久朋奈 トランペットの章

今回は、OG初登場会&部長、雨久朋奈の過去編です!お気に入りのキャラクターいますか?

公園に高らかな音が響く。その音につられるように、少女は公園を見る。

そこでトランペットを吹いていたのは、自分より年下の少女だった。音は途切れ途切れになっているが、子供にしては上手かった。




『朋奈!』

その時、奏音に肩を叩かれる。

「うえ?」

さっきまでの光景は夢だったようだ。雨久は重い瞼をこする。

「最近、遅くまで勉強してるから、寝てないんじゃないの?」

「そうだけど…」

「戸締まりは私がやっておくから、早く帰って寝なよ」

奏音は、既にホルンを片付けた後のようで、雨久を心配して声掛けをしてくれたのだ。

「ありがと。今日はそうするよ」

雨久はそう言って、人気の無い音楽室を見渡す。茉莉沙がトロンボーンを吹いているが、これはいつものことだ。

「さよなら」

「また明日」

奏音は大きく手を振り、雨久を見送った。


玄関を出た雨久は、靴を履く。

その時、脳裏に少女の顔が浮かぶ。名前も知っている。

薬雅音乃葉。確か、同じ小学校だった。

今、彼女はプロレベルのトランペット奏者だったな、と雨久は懐かしそうに、闇夜を見上げる。

それ以外何をしているかも分からない。

「音乃葉…」

だから、時々つい身を案じてしまうのだ。




翌日、部活が始まる前。

「えっ!?朝日奈先輩も、天龍の演奏会行ったんですか?」

優月が、想大と先輩の向太郎と話していた。

「おう。久遠って子と会ってた」

「へ、へぇ…」

先日、想大は瑠璃と、和太鼓クラブ『天龍』の定期演奏会に行ったらしい。

「そういえば!國亥っていう人が、定期演奏会に来るらしいですよ」

そんな想大が、そう言った。

「へえ…。どういう子?」

「いやー、この高校を志望しているらしいです」

「そなんだー」

しかし、向太郎は定期演奏会で引退、卒業だ。もしかしたら会うことは無いのかもしれない。

でも向太郎は嬉しそうに言う。

「でも上手くいけば、入部してくれるかもなあ」

彼の言葉には期待が詰まっていた。 

「えっ?そうなんですか?」

優月が思わず声にする。

「おう。定期演奏会見て、吹部に興味持つ人も多いんだよ。俺もだし」

「そうなんだ…」

想大はニヤニヤと笑っている。その思考を読んだ優月は、

「それで必ずしも入部するとは限らないけどね」

と言う。

「…だ、だよな」

想大はガックリと肩を落とす。

「まぁまぁ、それでも、吹部に入ってる人の殆どは、天龍出身だぞ」

「えっ!?」

そうなんですか!?と2人が言うと、向太郎は「おう」と頷いた。

「あっちにいる奏もだし」

そう言って、ギターを調弦している澪に視線を向ける。

「へぇ」

「あとは…、雨久もだな」

「えっ?雨久部長」

「そうそう。雨久部長」

その時、雨久が顔色悪そうに、音楽室に入ってきた。

「はい!皆さん、揃っていますか?」

彼女は、そう言って辺りを見回す。

「では、出席をとります」

そうして、いつものように部活が始まった。




「周防先輩、ここのクレッシェンド合ってますか?」

「どれ?吹いてみてよ」

想大は、ホルンをすっと構え吹く。音が高鳴る。

「うん。いいと思う。でももう少し、吹くスピードを速くね」

「はい!」

この時期になって、教えを乞うているのは想大だけだ。それでも奏音の指導は的確で、彼の技術も上がりつつある。指導を終えた奏音は、想大に、

「ちょっと、朋奈に話があるから、反復練習してて」

と言う。すると彼は「はーい」と返事する。奏音は一呼吸つき、雨久を探す。だが、音楽室を見渡しても、彼女の姿はどこにもなかった。


その頃、雨久は誰かと電話をしていた。

「えっ?いつ来てくれるんですか?」

『そうだね。来週とか?』

「ぜひお願いします」

電話先の声は、穏やかな女性のものだった。

「咲苗さん」

彼女が名前を呼ぶと、「了解!」と可愛らしい声が返ってきた。

電話先の相手は、去年、吹奏楽部の部長だった姫石咲苗(ひめいしさなえ)という女の子だった。


その日の部活終わり、井土が部員全員へ、とあることを伝える。

「さて、来週の土曜日は、OGの方が来てくれます。そこで合同演奏の練習をするので、準備しといてね」

『はい』

すると、雨久が『起立!』と呼びかける。

『これで今日の部活を終わりにします。お疲れ様でした!』

すると、部員も『ありがとうございました!』と繰り返した。


そして翌週の土曜日。


「OG来る日だね」

優月が想大に言うと、「だな」と言う。

「どんな人なんだろう…」

「さぁなぁ」

優月は、この吹奏楽部を去った人たちのことに、気になった。


「おはようございます」

ふたりが、音楽室に入る。すると…

『わぁ!姫さん!』

『あめー!来ちゃったぁ♪』

部長の雨久と、女性が喚き散らしていた。

「…雨久部長」

「珍しいな」

ふたりは、この再会の場を冷やさないように、それぞれの席に着いた。


「あれ?1年生ー?」

その時、人懐っこかった先輩が、ふたりを見つめる。優月と想大は、その視線に戸惑いながらも、

「は、はじめまして…」

と返す。

「私、元トランペットパート兼、去年の部長の、姫石咲苗だよ」

「小倉優月です」

「小林想大です」

2人も自己紹介をする。すると、

「小倉…くんと小林…くん…。どこ中出身?」

「し、茂華です」

「ああー、そうなんだ!」

よく分かっていないようなので、2人は苦笑でその場を誤魔化した。

すると、ガチャリと、休憩室から2人の大人が出てきた。


「お!誰だ?」

すると、男の子が再び、優月と想大の2人に、視線を向ける。

「この子たちね、小川(おがわ)君と小嵐(こがらし)君」

(は?)

ふたりは、的外れな名字に、頭を抱える。この人、耳が悪いのか。

「えっと!小倉優月です」

優月が慌てて、弁解する。

「小林です!」

想大も繰り返す。

「ちげぇじゃん!」

本名を聞いた彼は、呆れ笑いをした。

「オマエ、人の名前間違えすぎ!茉莉沙ちゃんにもまりかちゃんっていってたやん!」

「…むすっ」

すると彼女は分かりやすく、拗ねた。


そのやり取りが、何だか面白くて、2人は笑ってしまった。


「あの、あなたは?」

想大が、男性に尋ねる。

「俺は、神田皇盛(かんだおうせい)。姫石と同い年だな」

「…へえ」

だか、もう1人の女性は、優月に駆け寄る。

「小倉君だっけ?かわいい~♡」

「え、えへ」

優月は顔を引きつらせる。美少女の顔面を見てもなお体が震える。

「私ね、宮野優里奈なの!覚えてね!!」

やたら押しが強いな、と思いながらも優月は「はい」と頷いた。

その時、

「美心、辞めちゃったんでしょ?」

と彼女が少し距離を取り、彼に尋ねた。

「は、はい。僕も気づく前に辞めちゃって…」

「はぁ。まぁ、あの子の家庭環境を考えたら、妥当だとは思ったけど、悲しいな」

彼女の美しい瞳が細くなる。真っ黒な瞳の先には、悲哀の感情が詰め込まれていることだろう。


その時、氷空が音楽室へ入ってくる。

「おはようございますー」

「あっ!氷空ちゃん!おはよ」

「おはようございます」

すると、姫石が氷空に歩み寄る。

「おはよ!私、あめ…雨久の師匠なの!姫石咲苗ね!」

「よ、よろしくお願いします。姫石先輩」

つい押されて、氷空はそう返した。

「ふふっ。カワイイ後輩」

そう満足げに姫石は呟いた。

(姫さん、相変わらずだなぁ)

雨久はそう思って、姫石に笑いかける。

彼女にとって、姫石は特別な存在なのだ。吹奏楽を始めるキッカケをくれたのだから。




雨久は小学生の頃から、トランペットを始めた。

『すぅーっ』

練習場所は、住宅街から少し離れた公園だ。その公園はあまり人が来ない。

そういうところが、雨久にとっては好きだった。雨久はトランペットを吹き始める。


その時だった。

『また君か!』

自分とほとんど同い年の女の子が話しかけてきた。その手には白銀のトランペット。

『そんなに、トランペットが好きなのか?』

『う、うん。あなたは?』

『薬雅音乃葉だよ。君は?』

『雨久朋奈…だよ』

すると、音乃葉はふふっ、と笑う。

『一つ言っていい?』

『なに?』

『さっきのクレッシェンド、少し足りなかったぞ』

悪戯少年のように音乃葉が笑う。

『そこ、難しいのよ〜』

雨久が頭を抱えると、彼女がトランペットを吹き始める。

音が一瞬にして高まっていく。クレッシェンド、デクレッシェンド混じりのメロディーを、難なく吹きこなした。

『できた!』

『すごっ!』

雨久は、本音を思わず漏らす。

『ふふ。褒められると嬉しい…』

その言葉に、音乃葉が赤面をして笑った。

『一緒に、基礎やらない?』

音乃葉の問いに、雨久は『もちろん』と答えた。

『これからも、一緒に吹こうよ』

こうして、雨久のトランペットの腕は、音乃葉によって、高くなった。



しかし、中学に上がってからは、音乃葉と会うことすら無かった。小学4年生になってからは、年に数回程度だった。

部活動見学でも、雨久は音楽室に入ること無く、遠くから吹奏楽部を見つめるだけだった。

『はぁ。吹奏楽かぁ』

自由に吹きたい彼女にとっては、吹奏楽は足枷だと思っていた。

だが、その後のことだった。


たまたま、音楽室前の廊下を歩いていた時だった。

『ねぇ、そこのお嬢さん』

誰かが話しかけてきた。

『は、はい!』

その誰か、いや少女もトランペットを手にしていた。何故か雨久は、その少女と話したい、と思ってしまった。

『お名前は?』

『さ、雨久…雨久朋奈です』

すると、その少女がニコッと笑う。

『私は姫石咲苗!トランペットパートの2年生だよ!』

そう言って、姫石は満面の笑みを浮かべた。

『なんか、トランペットうまそうな顔してるね』

そう言って姫石が、雨久の頬を人差し指で、えいとつついた。

『…!』

その通りです、と雨久は恥ずかしそうに、瞳を細める。

『やっぱり!君も吹部に入らないか?』

彼女の声が一転して低くなる。その声には、ただならぬテンションが秘められていた。

『私と吹こうよ』


それを聞いて、雨久は、音乃葉の言葉を思い出す。それを言った彼女とは疎遠になった。

『一緒…ですか?』

『うん。一緒。ずっと一緒』

雨久の不安をはらんだ言葉にも動じず、姫石は頷き返した。

そして、その言葉には、ただならぬ彼女の決意が、秘められていた。

『…分かりました』

雨久は、姫石を信じることにした。


その後は、姫石とトランペットを吹き始めた。

コンクールでの成績も毎年銀賞と、あまり結果は振るわなかったが、彼女の技術は更に向上した。

時は経ち、卒業式に転機は訪れた。


『姫石先輩、卒業おめでとうございますー』

梅の木が咲く校門前で、楽器の片付けを終えた雨久が姫石に駆け寄った。

『あめー!』

すると嬉しそうに、姫石が駆け寄る。友達と泣いたのか、その瞼は赤く腫れていた。

『先輩、泣いたんですか?』

『うん。泣いたよ』

しかし、今の彼女は清々しいくらい笑顔だ。

『全く、そうには見えませんが…』

『なーに言ってるの?ところで、来年、副部長なんだって?あたしゃ悲しいよー』

『どうしてですか?』

姫石は部長だった。嫌味のつもりかと思った。

『だって、あめはしっかりしてるから、部長になって当然かと思ったもん』

しかし、彼女は笑うこと無く、真面目な表情で答えた。これでは何を言っても、彼女を責めきれない。


すると雨久は顔をうずめ、姫石の肩をぎゅっと掴む。

『先輩、東藤高校でしたよね。また…そこで会いましょう』

『…えぇ。私より頭良いのにいいの?御浦高校の方がいいんじゃないの?』

『いえ。次こそ、私があの学校の、あの吹奏楽部の部長に…今度こそ……今度こそ、なってみせます!』

決意の言葉に、彼女は、頑張れ、とは言わず、指で頬をつんつんと突いた。

『泣いてるよね』

そして、姫石はそう言った。すると嗚咽を堪えていた彼女が、溜め込んだ嗚咽を吐き出す。姫石は優しい笑みを浮かべ、雨久の頭を撫でる。


『…そこまでの覚悟があるなら、さようなら、じゃなくて、またね、の方が良いね』

そこで、初めて雨久は、顔を上げる。すると彼女も涙を流していることに気付いた。

『またね。あめ』

『姫さん。またね』


約束通り、東藤高校、吹奏楽部に入部した彼女は、部長になれるよう努力した。時には優しく、時には厳しく接するようにした。自分にさえも毅然と接した。

その甲斐あって部長になれたのだ。



ー現在ー

もし、あの廊下で、姫石に出会わなかったら、恐らく、あのままずっとトランペットは独りで吹いていたことだろう。


河又悠良之介も、先輩の白波瀬悠吉と話していた。

「いやー!1年ぶりだね!悠悠コンビ復活!!」

すると悠良之介は「たかが1年で…」と肩を竦める。

「されど1年!!」

悠吉のテンションも全く変わっていないようなので、悠良之介も安心した。

そんな空気感で、再開を懐かしむ声が漂ってくる。


「あめー?出席とるって!」

その時、姫石が顔を覗き込んできた。

「あ、し、出席とります!」

こうして、OB&OGの練習も楽しげな雰囲気で、幕を開けた。

ありがとうございました!

良ければ、リアクション、感想、ポイント等をお願いします!

【次回】 御浦ジュニアブラスバンド…。定期演奏会へ。 『野々村葉菜』と『氷村清遥』の真の実力…。




【予告】

演奏会の終わった4月…東藤高校吹奏楽部に所属する小倉優月も、無事2年生に進級した。

その先に待っているのは、新入部員の勧誘。その中で1年生と仲良くなっていく。

その中の1人、久遠箏馬。彼は新たに打楽器パートに希望。優月たちの後輩となった。しかし、そんな彼は、『曰く付きの人間』らしい。

そして新入部員たちをきっかけに、優月に再び試練が訪れる…。


『吹奏万華鏡2』

6月中旬に投稿予定です!!

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うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ続編キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
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