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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]輝く三つ巴 定期演奏会編
61/208

吹奏楽部と天龍の章

定期演奏会編スタート

今回は、今後活躍予定の人物について触れていきます!

11月中旬。

定期演奏会に向けて、東藤高校吹奏楽部は、練習を続けていた。

「オッケーです。サビで全員立ってください」

井土がそう言って、管楽器隊は椅子から立ち上がる。

「立った後は、右、左、右、左と向けてください」

井土がそう言って、手のひらを、右左右左と振る。その指導通りに、管楽器隊は、足先ごと体を右左に回す。


定期演奏会の楽曲は、殆どがポップスによって編成させられていて、観客を飽きさせない為に、ダンスや演技を加えられている。

今は、ダンスの指導を受けている。だが優月とゆなの打楽器隊は、踊れないのでひたすら、管楽器隊の指導を見守っている。

しかしゆなは、これはしばらく終わらないな、と判断したようで、スマホでゲームを始めた。彼女の行動は既に今に始まったことではない。

既に、井土もこんな事では怒らないので、黙認している。

金色のサックスをぶら下げた菅菜は、ゆなの方をチラリと見る。彼女の怠け姿が、中学の頃と重なる。

彼女は和太鼓部の頃からそうだった。他人のことになると素知らぬ顔。今も変わっていない。



こうして、今日は一曲一曲の動きと流れを指導されて、今週の部活が終わった。

『これで今日の部活動を終わりにします。お疲れ様でした』

部長の雨久朋奈が言うと、部員が『お疲れ様でした!』と繰り返した。

部活動が終わると、優月と想大は一緒に帰る約束をしている。

「想大君、帰ろ」

優月がそう言って彼を誘うと、ホルンを仕舞った想大は「いいよ」と頷いた。


「美心先輩いなくなって、どう?」

校門を出た想大が優月に訊ねる。田中美心は、優月とゆなの先輩だ。だが、複雑な家庭事情で文化祭の直後、この部を去った。

「うん…、合奏中の音が少し寂しくなったかな」

と言う優月の表情は、少し悲しそうだった。美心は時に面白く、時に厳しい先輩だったので、心のどこかで美心を頼りにしていた。


「そういえば、明後日でしょ?天龍の演奏会」

「ああ、そうだよ」

「でも、何で和太鼓クラブ?」

優月が気になって訊ねる。

「毎年見に行ってるんだ。それに瑠璃ちゃんもそこに所属していたらしくてね。毎年、見に行ってるんだって」

「へぇ」

そういえば優愛から、瑠璃は和太鼓クラブに所属していた、と聞いていた。和太鼓クラブ『天龍』。東藤町で活動している和太鼓クラブだ。数年に一度、共演しているので東藤高校吹奏楽部員にも馴染みある名だ。

その時、優月はハッと気になったことを口にする。

「そういえば、鳳月はどうして、その天龍っていうクラブに所属しないで、わざわざ部を創ったんだろう…」

「確かになー」

想大も少し気になったようだ。

だが、この時はゆなの過去なんて知らなかった。





日曜日。想大は茂華駅で瑠璃と合流した。そして列車で東藤駅まで行き、その後、町民会館まで歩いて行った。

「想大君、今日はありがと」

「いや、良いんだ。それより、瑠璃ちゃんは、茂華に来るまでは、どこに住んでいたの?」

「大内市に住んでたよ」

大内市、と想大は口の中で、その市名を転がす。大内町はここから車で30分程先の場所だ。

「私、群馬の病院で産まれた後、お母さんの実家がある大内市に住んでたけど、その後茂華の方に引っ越してきたの」

「へぇ」

想大もこの話は、始めて聞いた話だ。


瑠璃の幼少の話を聞いているうちに、町民会館に到着した。

「うわぁ」 

しかし、目の前の混雑を見て、2人は少し後悔した。目の前には人込み。どうやら、体育館の方でスポーツのプロ試合があるようだった。

「迷子にならないでね」

そう言って想大が、瑠璃の小さな手を繋ぐ。なんだか温かい。

「うん」

少し恥ずかしげに瑠璃は頷いた。


その時。

「あれ、古叢井やん!」

誰かが背後から、話しかけてきた。それに驚いて、想大は思わず繋いだ手を離した。

「あっ!トウモロコシ」

瑠璃が、話しかけてきた相手を指さしそう言った。

「トウモロコシ?」

しかし目の前には、大きな体をした男の子。

「この子、私の友達で1個上の諸越冬一君だよ」

「もしかして、この人は、古叢井の彼氏?」

諸越が言うと、瑠璃が「うん!」と頷く。

「で私の彼氏で、東藤高校に通ってる小林想大君だよ」

「よろしくお願いします」

「東藤か…」

こうして、お互いの自己紹介を終え、会館の中に入る。


「それにしても、古叢井は変わったな」

「えっ?」

諸越のその言葉に想大が反応する。

「この子、小学生の頃は、すげー静かだったんですよ」

「えっ?信じられない!」

想大と瑠璃が初めて合った時は、瑠璃が攻撃的だった。てっきり小さい頃からと思っていたのだが。

「ちょっと、それ言わないでよ」

瑠璃は恥ずかしそうに、諸越の袖を引っ張る。

どうやら秘密にしたかったらしい。

「あっ!」

その時、近付いてきた彼を見て、諸越の目の色が変わる。その目は少し、嫌そうだった。

「國亥」

「…誰です?」

想大にとっては分からないことばかりだった。何度も演奏会には来ているのだが、他人の名前までは知るはずもない。

「ああ、國亥孔真君か。まだ仲悪いんだ」

瑠璃が呆れ顔で言う。

國亥(くにい)孔真(こうま)。黒と赤の法被を着ていた。天龍のメンバーの1人だと分かる。


「あら?トウモロコシよ、来ていたのか?」

彼の口調はどこか煽りに聞こえた。

「悪いか?」

「別に」

なんだか、くだらない駆け引きでも見せられているかのようだった。

「おう!瑠璃ちゃん、吹奏楽はどう?」

すると國亥の話の矛先が瑠璃へ変わる。

「地区・県で金賞獲ったし、彼氏できた」

そう言って、想大を突き出す。

「おぉ!よかったじゃん。もしかして吹奏楽部?」

「そうです」

想大が頷く。

「どこの学校?何の楽器?」

「東藤高校です。ホルンを吹いてます」

想大が律儀に答えると、國亥は申し訳無さそうにする。

「やっべぇー、俺より先輩だったわぁ」

なんだか天然だな、想大は思う。

「東藤高校なら、俺も入学する予定なので、入学したら宜しくお願いします!!」

そう言って、想大の手を取る。手はマメだらけで、相当練習したのだと分かる。

彼が去っていくと、瑠璃は「変わってないなぁ」と独り言のように言った。

彼は、昔からどこか天然なのだ。それでも明朗な性格で友達作りが得意だ。そんな國亥と諸越とはどこか馬が合わない。それ故、不仲に見えるのだ。

こうして瑠璃と想大は、スマホの電源を切り、コンサートホールに続く回廊を歩き出した。



その後和太鼓の演奏会は、例年通りで特に変わったことは無かった。


終わると、瑠璃達はロビーに出る。

「よ!」

その時、國亥が瑠璃へ話しかけてくる。

「どうだった?」

「演奏なら凄かったよ」

瑠璃がニコニコと笑って返す。やはり吹奏楽で和太鼓をやるよりも、集団での演奏する方が迫力がある。

「小林君は?」

想大にも感想を求められ、彼も困ったように、

「良かったよ」

と手放しに褒めた。

「なら良い」

すると彼は満足そうに、何度も頷いた。

「そういえば、國亥君も東藤高校に入学するの?」

想大が尋ねる。その問いに國亥は「そのつもりだ」と言う。

「なら、定期演奏会、見に来てよ!」

彼が國亥に詰め寄る。

「う…うぇ…。い、いつなんですか?それ」

想大のただならぬ気迫に、國亥すらも圧倒される。

「1月12日の日曜日。午前11時から此処で…」

その時、熱が収まらぬ彼に、手刀が叩き込まれる。イテテ…と想大は頭を押さえる。

「想大君、受験近いんだから無理させないの」

手刀を打ち込んだ瑠璃は、呆れ顔で言う。

「そうだったぁ」

しかし、國亥はフフッと嫌らしい笑みを浮かべる。

「面白そうだし行くか」

なんと彼がそう言った。一瞬周りの喧騒が止まった。静寂の空間に放り投げられたかと思う頃には、想大の口から声が出ていた。

「ええぇっ!?いいの?」

「ああ。うちの親も、吹奏楽部のファンだし、1日くらい勉強しなくても余裕っしょ!」

悪びれもせず、こう言う國亥に、2人はポカンと口を開けた。


しばらく話して別れると、1人の男子に話しかけられる。

「孔真」

「箏馬か。片付けか?」

「ああ。一刻千金、時間を無駄にしないでくれ」

それだけ言って、彼はどこかへ消えた。

「別に無駄な話じゃねえがな」

國亥はそう言って、彼のあとを追うように、ホールへ歩き出した。

このふたりも、いずれ物語に大きく関わってくることをこの時、誰もが知る由もなかった。


天龍。この集団も物語に関わることになる。







「ああー、疲れた」

瑠璃が駅のホームで背伸びする。

「そうだな。ってか、まだ叩かれたとこ痛え…」

想大が瑠璃に叩かれた頭を押さえる。すると瑠璃が心配そうに、彼の頭に手を置いた。彼女の小さな背丈が無理矢理伸ばされる。

「ごめんね」

瑠璃は謝って、彼の頭を撫でた。

「それよりさ、私も定期演奏会見に行こうかな。さっちゃんと」

「いいと思う」

彼はそれだけ言った。

定期演奏会。それは少しずつ大きな舞台へと変わりゆく…。


その時、列車が音を立てて、ホームに滑り込んできた。


今回は定期演奏会繋がりで、和太鼓クラブ『天龍』を登場させました。因みに、出すのには理由がありまして、半分は来年度つまり続編にて、登場の可能性があります。

ですのでお楽しみに!



【次回】

雨久部長…の話し…

公園に響くトランペット…。


最後まで読んでいただきありがとうございました!


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