【最終章】 東藤・御浦・天龍の章
文化祭が終わり、いよいよ東藤高校吹奏楽部は、定期演奏会の練習に動き出した。
音楽室では、顧問の井土広一朗が、楽曲の楽譜を配布していた。
『はい!楽譜です』
そう言って、各パート楽譜を、パートリーダーに渡す。
『雨久さん、打楽器にも配布しといて』
「了解しました」
そう言って雨久は楽譜を、小倉優月、鳳月ゆなに配布した。
「はい」
「ありがとうございます」
優月は、小さく会釈して受け取った。
「鳳月も」
「ありがと」
ゆなは、礼儀作法に欠けているのか、年上に敬語をあまり使わない。
「奏さん」
「ありがとうございます」
ギター担当の奏澪も、井土から楽譜を受け取る。
「定期演奏会は、1月12日です。3年生はこの演奏会で引退です。頑張りましょう!」
この定期演奏会は、毎年1月に行われる。先日の文化祭同様、照明や演出もふんだんに使われる。毎年、この定期演奏会が行われるからこそ、地元から吹奏楽部は愛されているらしい。
「さて、定期演奏会で演奏する曲は20曲ぴったです。ですが、毎回5曲置きに、ゲスト演奏をしてもらいたいと思います」
ゲスト演奏?と優月たち1年生は首を傾げる。その時、クラリネットパートの降谷ほのかが手を挙げる。
「先生、ゲスト演奏って、何でしょう?」
「ああ。1年生には言ってませんでしたね」
井土は、コホンと一度咳払いをする。
「ゲスト演奏には、吹奏楽部のOGさんの演奏や、一部の部員だけが、出られます」
例えば、と井土はひとつ例を出す。
「朝日奈君がピアノの独奏をやりたい、と言ったらピアノの独奏をしてもらいます…」
「先生、わかってますねえ」
井土が話している途中だと言うのに、向太郎が途中で喋りかけてきた。
「まぁ、その間は、皆さんはお休み。休憩してもらいます。ですので酸欠がどうこう等の心配はいらないですよ」
彼の言葉に部員は納得するように頷き返した。
「田中さんがいなくなってしまって、リズム系統は心許無いかもしれませんか、共に頑張りましょう」
井土がそう言う。
田中美心。優月、ゆなの先輩でパーカッションパートだ。鍵盤面で活躍していて頼りにされていたが、複雑な家庭の事情で先日、この部を去ってしまった。
練習終わり、ドラムの個人練習をする優月に、想大が話しかけてくる。
「てか、優月君はさ、この団体知ってる?」
「ん?」
その紙には、和太鼓クラブ天龍の定期演奏会の宣伝が印刷されていた。
「てん…りゅう?」
優月は読み方が分からず、首を傾げるばかりだ。
「テンロンだってよ」
「へえ」
すると想大は「今度こそ行かないか?」と訊ねる。
「行かないよ。想大君は行きたいの?」
「ああ。瑠璃ちゃんと行くことになって…」
それを聞いて、優月は呆れたようにため息をつく。
「もしかして古叢井さんに誘われた?」
「うん。優月君はそういうの興味ないかなって気になったから聞いた」
「ごめん。和太鼓は興味ない」
優月は申し訳なさそうに断ってしまった。
「そうかぁー」
想大は残念そうに髪をくしゃくしゃとかき回す。
「また別の機会に2人で行こうね」
優月は、彼にそれだけ言ってスティックを振り下ろし始めた。
そうして現実は非情に、確実に本番への日は迫っていた。
東藤と御浦。
定期演奏会へ向けて、様々な戦いが始まる。
全員が心を鬼にして挑まなければならないのだから…。
読者の皆さん、アクセスしていただき、ありがとうございます。読んでいただけることこそ、作者としては無上の喜びです。
さっそく本編…といきたい所ですが、今回は、分からない方向けに、キャラクターの紹介をさせていただきます。
最終章に向けて、色々なキャラクターが重要になってくる予定であります。
ですので、今回は沢山のキャラクターを1から紹介したいと思います。
時間が無い方、既に読んで下さっている方は、あとがきまでスキップしてください。ただ最後に来年度に登場する新キャラクターが出てくるかも…?
それでは、まずは東藤高校吹奏楽部からどうぞ!
■東藤高校吹奏楽部員紹介
▣1年生
小倉優月 打楽器パート
幼馴染でもあり好きな人に、憧れて吹奏楽を始めた。努力をしていて、小物楽器の技術も高い。演奏会では、観客への煽り役として活躍している。
小林想大 ホルンパート
優月の親友。曲を吹いてみたいと吹奏楽部に入部した。ホルンの実力は絶賛発展途上中。
鳳月ゆな 打楽器・ドラムパート
中学の頃は、和太鼓部でドラムを習っていたという変わり者。正直者で謙虚さが皆無。だが実力は飛び抜けて高い。
夏矢颯佚 サックスパート
強豪神平中学校出身。実力は部内でも高く、校内で彼を越えるサックス奏者はいない。元恋人と共に吹奏楽部を始めたのがキッカケ。
降谷ほのか クラリネットパート
クラリネットは高校から始めた。技術はあまり高くないが、言われたことをすぐに実現できるように努力をしている。何故か、打楽器パートの人間を忌み嫌っている節がある。
岩坂心音 フルートパート
初芽結羽香の後輩。高校から始めた。父がフルート奏者。『俺っ子』でボーイッシュな女の子。
黒嶋氷空 トランペットパート
部長雨久朋奈の直属の後輩。中学からの経験者で技術もそれなりに高い。
▣2年生
初芽結羽香 フルートパート
フルートの実力は、中学からの経験もあり、部長からも信頼されているほどに高い。中学で出会った茉莉沙と親友。普段は大人しい性格をしている。優柔不断な一面も。
明作茉莉沙 トロンボーン・打楽器パート
部内で唯一のトロンボーン奏者。実力は高校から始めたにも関わらず部内トップレベル。元々、御浦ジュニアブラスバンドに所属していた時は、プロレベルの打楽器奏者だった。その技術は今でも保持している。
井上むつみ オーボエパート
アルビノ体質で紅い瞳をしている。祭典の日は、髪を染めていると周りの生徒からは勘違いされているが、真っ黒な鬘を付けているだけ。中学からオーボエを吹いている。普段は元気溌剌でよく話している。家が弓道場で、幼い頃からストレスの溜まった日は矢を射ている。
齋藤菅菜 テナーサックスパート
高校から吹奏楽を始めた。中学の頃は和太鼓部でゆな達と共に活動していた。音ゲームが大好き。茉莉沙に憧れている。
河又悠良之介 ユーフォニアムパート
ユーフォニアム初心者。実力は2年吹いているのにも関わらず、あまり高くない。普段から怠けたり落ち着きがない。
▣3年生
雨久朋奈 トランペットパート
吹奏楽部部長。時に冷静、時に賑やかな性格をしている。御浦市に住んでいて、小学生の頃から独学でトランペットを吹いていた。
詳しくは本編で…
周防奏音 ホルンパート
想大の先輩。影響を受けやすい性格をしていて、ホルンに『レミリン』と名付けている。
朝日奈向太郎 チューバパート
祭り事が大好き。力持ちでイケメンという男子の憧れを詰め込んだ男の子。楽器に名前を付けている。そんな彼はピアノも得意。
ーーというわけで、東藤高校定期演奏会編は、1年生7人、2年生5人、3年生3人の計15人、そして顧問の井土と共に活動が再始動します!ーー
その他にも、活躍するキャラ&新キャラクターを紹介!
▣東藤高校吹奏楽部OG
□姫石咲苗 トランペット
東藤高校吹奏楽部OG 元部長
□神田皇盛 クラリネット
東藤高校吹奏楽部OG 元副部長
□宮野優里奈 打楽器
東藤高校吹奏楽部OG。田中美心の先輩。
□白波瀬悠吉 ユーフォニアム
東藤高校吹奏楽部OG。河又悠良之介の先輩。
▣御浦ジュニアブラスバンドクラブ
港井冬樹 トロンボーン
小学生の頃からトロンボーンを始めている。実力もトップレベル。茉莉沙のことが大好き。
片岡翔馬 トランペット
楽団内でもトップの実力者で、薬雅音乃葉に弟子入りしている。実は音乃葉のことが大好き。集中力が上がると、話し方が時代劇のようになる。
沢柳律 パーカッション
楽団内トップのパーカッション奏者。あらゆる楽器を使いこなす。プライドと野心が高い故、茉莉沙を傷付けたことがある。彼を越える奏者は茉莉沙だけ。指原莉翔という小学生を従えている。
指原莉翔 パーカッション
沢柳律の後輩。希良凛の弟で負けず嫌い。実力も飛び抜けて高い。普段は髪を縛り、和装なので小さい頃から女の子と間違えられている。
□ウラ奏者 (トップレベルの実力者)
薬雅音乃葉 トランペット
御浦市に住むトランペット奏者。腕前は全国クラスで、巷から『ウラ』と呼称されている。その名にふさわしい実力を持っている。
鈴木燐火 オーボエ
名前に『火』が付くことや感情豊かな音から、ついた異名は『焔のオーボエ奏者』。情熱的な性格で心配性。個人的に『鈴木ランキング』なるものを掲げていて、日々モチベーションを上げている。
氷村清遥 クラリネット
冷静沈着で、淡々と曲を吹きこなすことから『氷心のクラリネット』と楽団内で恐れられている。性格も非情で冷酷故に、その名が楽団内に広まった。燐火たちからも恐れられていて、まともに会話をできるのは葉菜だけ。
野々村葉菜 ホルン
中学生にして世界クラスのホルン奏者。その実力は、楽団内のトップレベルの奏者も舌を巻くほど。柔和な性格で話しやすく、人気が高い。
【作者から】
彼女たちも物語にとって重要になる人物なので、是非注目していただけると嬉しいです。
そして、いずれ登場予定のキャラクターも一部紹介したいと思います!
ーーその他紹介ーー
□國亥孔真
和太鼓クラブ天龍に所属している。演奏会の際、想大や瑠璃と出会う。
□諸越冬一
國亥孔真と犬猿の仲。あだ名は『トウモロコシ』。東藤高校志望。
□久遠箏馬
孔真の親友。冷静沈着で四字熟語を使うことを好む。締太鼓担当で、持ち手がお祓い棒のようなバチを使用している。他校の不良と殴り合いをしていたらしい…。
ーーこの3人も物語に絡み合いますので、お楽しみに!ーー
これにて紹介を終わりにしたいと思います。
この日の夜。
想大と瑠璃は、演奏会の打ち合わせをしていた。
『やっぱり、優月先輩は来ないんだ』
電話先からの瑠璃の声はやけに落ち着いていた。彼女も予想はしていたのだろう。
「だから2人で行かない?」
『いいよ』
瑠璃は、彼と2人きりで行くことを承諾した。最近はずっと瑠璃と2人きりだな、と想大は思う。
「じゃあ、9時に茂華駅で良い?」
『良いよ!』
瑠璃は快く返事した。
瑠璃も想大と2人きりで行けることが嬉しいのだ。
だが、当日。とんでもないことに巻き込ませる。




