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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]入部&春isポップン祭り編
6/172

茂華中学校 ティンパニと恋の章 [前編]

この物語はフィクションです。人物、学校名は全て架空のものです。


"キャラクター"

榊澤優愛(さかきさわゆあ)

中学3年生の吹奏楽部員。小倉優月と幼馴染み。

パーカッションパートで、実力もそこそこ高い。

優しい性格で、後輩の古叢井瑠璃から慕われている。

優月に片思いされていた。


古叢井瑠璃 (こむらいるり)

珍しい苗字と転校生だと言う理由で、浮いていた。その後、優愛の人柄に惚れたことと太鼓が大好きだという理由で、吹奏楽部に入部した。

だが、太鼓をやらせると、打面の皮を破るという事態を受け、鍵盤楽器をよくやっている。

あの事件から『破壊者』と部員から囁かれている。

本人曰く、『皮楽器は玩具』という認識である。


小倉優月(おぐらゆづき)

最近、吹奏楽部に入部した。

中学校では美術部で、優愛と幼馴染み。始めたきっかけも片思いしていた優愛に、憧れていたから。


小林想大 (こばやしそうた)

中学校では美術部で優月と親友。

優月の恋を後押ししていた。


香坂白夜 (こうさかはくや)

吹奏楽部部長。優愛と親友。しっかりしていて、後輩から慕われている。フルートをやっている。




「こんにちは」

古叢井瑠璃(こむらいるり)が、先輩の榊澤優愛に話しかける。

「こんにちはー」

優愛は彼女の方を見て、ニコッと、笑い返した。

榊澤優愛(さかきさわゆあ)は、茂華中学校の吹奏楽部員でパーカッションパートの女の子だ。

古叢井瑠璃も同じだ。年が1つ離れている。


「…新入部員、誰も入らなかったね」

瑠璃が、他のパートの子達を見て言う。

「そだね」と優愛は瑠璃を見る。何か言いたさそうだ。

「…私のせいじゃないよ。私はギュッとしてドーンしてただけだから」

「…それ、どういう意味?」

優愛が訝しげに訊ねる。

「…読んで字の如くぅ!」

そう答えた瑠璃は細い両腕を伸ばした。


優愛は、話しが落ち着いた所で、両手を叩く。

「…そうだ。瑠璃ちゃん、ちょっと今日は、やらせてみたい楽器があるの」

「…なぁに?」

優愛はニヤリと笑う。そして、指差した。


指差したものはティンパニだった。

「はぁぁ…」

瑠璃は、叩くものが好きだ。目を煌めかせる。

しかし、優愛もただ叩かせるわけではない。


「え?瑠璃ちゃんにティンパニやらせるの?」

すると、部長の香坂白夜(こうさかはくや)が優愛に話し掛ける。

その目は、訝しげだった。

…というのも、瑠璃は、去年の夏、ティンパニをやった際、打面である皮を叩き破ってしまった事があった。それ以降、彼女に皮楽器をやらせることは無く、グロッケンやマリンバ、シロフォン等の鍵盤楽器しか、やらせていなかった。



「大丈夫。任せて!」

だが、優愛が小さな声でそう言い返した。

「…先生にも話しは、通してるし、私が見てるから」

「…優愛がそこまでいうなら」

白夜は優愛の返答に、理解を示した。




「はい…」

ティンパニにも音を調節する工程『チューニング』が必要だ。ティンパニのチューニングを終えた瑠璃は、マレットというティンパニを叩くバチを正眼に構える。

「…瑠璃ちゃんは、叩く時の力が強いの。まず課題は、脱力と手首を使うことだよ」

「うん」

瑠璃は、そう言って、腕から先の所全てから力を抜く。

そして、思い切り振る。


ボォォン…!

重々しい音が響いた。窓が微かに揺れる。


「振りが大きいかな…」

「えー…」

すると優愛がマレットを構えて、ティンパニに近づく。

「…力を抜くのはいいけど、瑠璃ちゃんは極端なの。少しだけ力を入れて、低い位置で振る!」

優愛がティンパニへマレットを振る。


ドォォン…!!

すると先程とは違って、芯のある大きな音が響いた。しかし、窓が揺れることはなく、辺りの空気が少し震えるだけだった。


「…これだけでいいんだよ。力をそんなに入れることはないよ」

「流石!おねーちゃん!」

優愛の言われた通りに、何度か、ティンパニを打つ。

ボォォン…!! ボォォン…!!と芯の入った音が響いた。


「いいんじゃない?」

優愛が瑠璃を褒めるように言う。

しかし「…うう」と彼女は不満気だった。

「でも、私、もっと思いっ切り叩きたいよー」

「…っえ」

その言葉に優愛は、困ったように眉をへの字に下げる。

「…うーん、相変わらず、瑠璃ちゃんは、破壊衝動が強いんだね…」

瑠璃は「うん!」と頷く。

「でも…ずっと私、グロッケンとかマリンバとかで正直つまんない…」

「…でもね、瑠璃ちゃん、破壊衝動は、少し我慢しないと…」

「で、でも…!!」


「瑠璃ちゃん、楽器は玩具じゃないよ」

優愛がそう言って、瑠璃の肩に手を置く。

「人を楽しませる為の物…なんだから、丁寧に使わないと…」

「…おねーちゃん…」

瑠璃は少し沈黙した後、顔を上げる。

「…分かった!」


「私、優しく叩く!」

「…ふふ」

普段は可愛らしい表情をする彼女が、生真面目な表情になるのは珍しいな、と優愛は微笑んだ。

「…がんば!」

彼女がそう励ますと、瑠璃が「分かったー」と両手を挙げた。

瑠璃も純粋無垢な女の子だ。




「…流石、優愛ちゃん」

と廊下から一連の会話を聞いていた香坂はホッと胸を撫で下ろした。



帰りに廊下を歩きながら瑠璃が優愛に訊く。

「私、叩くのどうなった?」

「うん。音も安定してきてて良かった」


すると、瑠璃がこう言ってきた。

「私もドラムできるかな?」

すると、優愛は「できるよ」と笑った。

「そんなに難しくもないし…」

その時、何かがフラッシュバックする。


『優愛ちゃん、カッコ良かった!』

ああ、優月の声だ、と気づく。


脳裏に浮かんだのは、優月との記憶。

面白くて優しい優月。


「…優月くん?」

優愛がついその名を叫んでしまった。

「優月くんがどうかした?」

瑠璃が気になったのか、顔を覗き込んでくる。

「私も何回か優月先輩と話したことあったなぁ」


その言葉に優愛は「そうだったね」と言う。実は何度か2人は、優月や想大に会ったことがあるのだ…。





その日の夜ー

「…優月くんからだ」

家で勉強を終えた優愛に通話が掛かってきた。

「…はい」

相手は優月だ。


『もしもし…』

「うん、どうしたの?」

優愛は、スマホの画面に耳を近づける。

『あ、話ししても大丈夫そう?』

しかし、優月の声は、どこかよそよそしかった。

「…ああ。今、勉強終わったところだから、全然大丈夫よー」

すると『ありがとう』と柔らかい声が返ってきた。すると、優愛は気になったことを口にする。

「東藤高校だっけ?どう?」

『ああ、楽しいよ』

「…で、部活は?やっぱり、小林先輩と同じ美術部?」

『そ、そのことに…ついて…なんだけど…』

「ん?」

また、彼がよそよそしい声になる。なにかまずいことでもあるのだろうか?

「…大丈夫?言いたくなかったら、言わなくても良いんだよ…」

『…い、いや…実はね…』

「もしかして、吹部?」

感づいた彼女がそう言った。

『う、うん…』

それを聞いた優愛は「まじか」と言う。

「まぁ、前から入りたい、って言ってたもんね」

『う、うん。ゴメンね。ストーカーみたいになっちゃって…』

「…大丈夫よー」


優愛自身も、自分に憧れていたことを知っている。しかし別にそんなことはどうでも良かった。

「それに、私もお勧めしたんだから」

『確かにそうだったね』

優月も、何かを思い出したようだ。


優愛も内心、吹奏楽の魅力が伝わったことが嬉しいようだ。

「後で、見に行けたら行こっかなー?」

と茶化すように言うと『来るの?』と驚いたように答え返してくれた。

「場所による。でも、夏の県内吹奏楽祭で見れそうだよ」

『…そんなのが、あるんだ』

「あるよー。私たち、それで金賞獲ったんだもん!まぁ、御浦と神平中と僅差だったらしいけど」

『…へぇ。神平中の人なら、1人、入ってたよ。夏矢颯佚って言うサックスの人』

「…え、ま?」

『ま!マジ』

「凄いね…。しかも名前からして凄く上手そう…」

『凄く上手いよ。先生からも褒められてるし…』

優愛は「いいなー」と羨ましそうに言った。

「しかも、東藤でしょ?強豪の人がいるとしても、御浦市のジュニアブラスバンドの子ぐらいだと思ってた」

『御山市のジュニアブラスバンド?』

優月がそう繰り返す。

「そ。御山ジュニアブラスバンドって言うんだけど、凄く上手いの。吹部の強豪クラブだよ。でもね…」

その時、優愛の、目の色が変わる。それは、疑惑に満ちた目だった。

「…そこ、凄く曰く付きなんだ」

『えっ?曰く付き?』


これには、優月にとっても、吹奏楽以前に気になる事だ。

「…そ。凄くブラックらしいよ。精神病んじゃう子も多いみたい」

『へぇ。怖いね』


その時だった。


「でしょ?私も、友達から聞いたの。でね…一番怖いのが、ウラって呼ばれる演奏者…」

突然、通話音に、ジジジッ…とノイズが入る。


『…ん?』

「どうしたの?」

ノイズが入ったことに気になったが優月は、そのまま会話を続ける。


『そういえば、古叢井さんは、どう?』

「あぁ。その話し、なんだけどね…」


優愛は、部活中にあったことを全て話す。


『…凄いねぇ。優愛ちゃんは…』

その言葉を受けて、

「ありがとう」

と笑った。


「…でも、本当に大変だったよー」

優愛にも積もる話しは、あったようだ。



この続きは、後編で話すことにしょう。

次回

『小林と古叢井、喧嘩する』

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