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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]茂華中学校ソロオーディション編
51/208

茂華ソロオーディションの章【前編】

いよいよ、茂華中学校オーディション編です。

古叢井瑠璃と指原希良凛が、ソロを巡ってぶつかり合います。

果たしてどちらにソロが巡ってくるのでしょうか?

茂華中学校。

文化祭より3週間前の話だった。


『えぇ、今年も各楽器、ソロをします。すごく目立つので、やりたい人はエントリーして下さい』

この言葉が始まりだった。


そして、この日から、各パート火花を散らし合うソロ合戦が始まった。

トランペットは勿論、トロンボーン、クラリネット、ホルン、ユーフォニアム、サクスフォン…。

ソロ合戦と聞いて、オーディション自体を辞退する部員は、1人も居なかった。それはそうだろう、諦める理由が無いからだ。

そして、それは打楽器にも。例年なら年功序列の風潮で、3年生がドラムソロをすることが条例で、オーディションとは深遠な存在だったわけだ。

だが、今年は違った。


「私はいいやぁ」

3年生の優愛が、ふふふと笑う。

「なら、私がやっても良い?」

後輩の古叢井瑠璃が、目を爛々と輝かせる。

「だって、瑠璃ちゃんもやりたい上に、ドラムソロ、枠1個でしょ。」

「う、うん」

「それにさ…、さっしーも狙ってるし…」

「さっちゃん?」


そういえば、と思い出す。

『希良凛もソロ狙ってますよ』

いつか、セルビアが言っていた気がする。


「そういえば、そっか…」

瑠璃は目を細めて、希良凛を見る。希良凛は、先生から仕入れたドラム用の楽譜を、苦戦しながらも、練習していた。

1年生とはいえ、彼女も小学生からの経験者だ。掠め取られても何ら不思議ではない。寧ろ危ない。

「じゃあ、私もソロ練してこよ」

「がんば」

優愛は、そう言って、瑠璃を見送った。

「うん。頑張るね」

真剣な表情をした瑠璃を見るのは、久し振りだ。

「そういえば、小林先輩、来るんでしょ?文化祭」

「う、うん。来るみたい」

すると優愛は、タンバリンを手に取る。

「じゃあ、いいとこ見せてやれ」

そう言って、いたずらっぽくその細い目を、更に細めた。髪を縛っていて、今日は一段と表情が読みやすい。

「ありがとう!」

瑠璃は、優愛の言葉を背に、音楽室の横部屋に、入っていった。

そんな2人の会話も、気にせず希良凛は、練習を続けていた。


土曜日。

「はぁー、疲れた」

優愛は、家の近くの公園のベンチで、黄昏れていた。

「あっ…」

その時、聞き覚えのある声が聴こえてきた。声だけで、すぐに分かる。優月だ。

「優月くん」

優月は、その先で小さく手を振っていた。それと同時に昔、よくここで遊んだな、と遠き日のことを思い返した。


「文化祭の方はどう?」

優愛が訊ねる。優月は「進んでるよ」と言う。

「まぁ、不満はあるけど」

と独り言を言う。

「不満?」

すると彼女が予想以上の反応をした。

「うん。実はね、メイド役をすることになって」

「なぁんだ」

しかし、大して優愛は驚かなかった。

「優月くん、学校の劇でママ役してたじゃん」

「そうだっけ?」

「あの時から、優月くん女の子のマネするの上手いなぁって思ってたよ」

「へ、へぇ」

何だか、優愛に言われるのは良い気がしない。それは彼女のことが好きだった頃の名残りだろうか。

「優愛ちゃんは、午後の自由発表は何か出るの?」

「出るよ」

「えっ…何するの?」

「ダンスだよ。白夜に誘われたの」

そう言われて、真っ先に頭に思い浮かんだのは、香坂白夜の顔。

「それで、さっき学校にいた時に電話が来たけどどうしたの?」

「ああ、実はね」

すると優愛が首を前に押し倒す。

「瑠璃ちゃんとさっしーが喧嘩しちゃって」

「さっしー?誰?」

優月は、そう言って首を傾ける。

「ああ、私の後輩。夏祭りで迷子してた子」

それを聞いて、茶髪で低身長の可愛らしい女の子を、思い返す。

「ああ、いたね。指原希良凛って子」

「私、1人じゃどうしようもなくて…」

「友達に相談した?」

「みんな、瑠璃ちゃんと話すのが面倒なみたいで」

それを聞いて、優月は顔を歪める。

「なるほど…」


瑠璃は、優愛や後輩には優しいものの、年上が苦手なようで、よく反抗的になってしまうのだ。その上、ティンパニ破壊事件で、少し恐れられている。


「それこそ、香坂部長に頼んだほうが」

「あの天使ちゃんを、何とかできる?」

それを聞いて、優月は察した。多分、話が噛み合わなくなるだろう。そんな気がした。ましてや、相手との事情があるのだから。

「てか、喧嘩の原因って、何があったの?」

「うーん、ドラムソロ」

それを聞いて優月は、ビクッとした。

「待って、ソロって1年生もできるの?荷が重すぎない?」

「いやあの子、小学校からの経験者だから」

「へぇ…」

「パーカス内でバチバチにやってると、私が苦しいし、何より来月からが心配…」

「そっか。優愛ちゃん引退か。それはまずいね」 


この時の、2人の脳裏に浮かんだのは、ただ喧嘩を終わらせることでは無い。喧嘩する関係にさせないようにすることだ。

だから、優月が、その場面に遭遇しようとも、オーディションが終わるまで待つつもりは無いだろう。当然、優愛も同じだった。


「…因みに、優愛ちゃんにとっては、どっちが選ばれそう?」

「…うん、正直な所、どっちもどっちなの」

「えっ…」

それは意外だな、と思う。瑠璃に匹敵するのか?

「でも残酷なこと言うと、瑠璃ちゃんに1年生の時からドラムをやらせてたら、全然違ったと思う」

優愛が悔いるように言う。どこか責任を感じているかのように。

「…私は最後、瑠璃ちゃんに任せたい」

その時、彼女がそう言った。

「どうして?」

優月は、単に気になり訊く。と言っても、大体は分かるのだが。

「希良凛ちゃんが入部する前に、約束したの。絶対に瑠璃ちゃんにソロをやらせるって」

「へ、へぇ」

その瞳、声からは、並々ならぬ決意が込められていた。そこまで心配か、と。


「でも、なんかそれ聞いてると、明作先輩、思い出すなぁ」

「明作先輩?トロンボーンの?」

「そ」

優愛も彼女を知っている。

夏祭りで話したのだ。確か彼女も、元プロレベルのパーカッション奏者だったとか。


「先輩もバチバチに、オーディションやり合ったらしいよ…」

「へぇ」

優月は、茉莉沙の過去を知っている。だからこそ、声を大にして言えない。


「でも、さっちゃんもどうして、そんなにソロに固執するのかな?」

優月が訊ねると、優愛が少し俯く。

「あの子、弟がいるみたいでね。その子もプロレベルの打楽器奏者で、見返してやりたいらしいよ」

それを聞いて、優月は苦笑した。

「ってことは、その弟君との喧嘩が始まりってことか」

「多分ね。まぁ、私にアレコレ言う資格はないけど」

そう言って優愛は残念そうに笑った。

悔しいんだな、直感的に彼は気付いた。



その日の夜、瑠璃はひとり、家で練習をしていた。少し狭い部屋にパッドを打つ音だけが、空気に呑まれる。

瑠璃は、スティックで、練習用のパッドを、一定のリズムで打っていた。端にはスマホ。スマホからはメトロノームの音が無限に続いていた。

しかし、それさえも呑み込む集中力で彼女は、打ち続けていた。

『古叢井さんは、テンポ維持をしっかりしましよう』

顧問に言われた言葉が、時折蘇る。


最後は優愛とドラムをやりたい、瑠璃はその切なる思いを、スティックにぶつけていた。

絶対に負けない。


この練習は、オーディションの日まで続くのだった。【続く】

読んでいただきありがとうございます!

この物語の結末は、今までの数十話に伏線を散りばめてあります。良かったらコメントで予想をください!!


ありがとうございました!

良ければ、

ポイント、リアクション、感想、ブックマーク

をお願いします!



次回

『私だって負けないもん…』

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