1年1組ーメイド喫茶始動の章
こんにちは!
今回は、文化祭の出し物回です!優月たちは、メイド喫茶をする様ですが、優月が女装することになり…。
普段は中々見せられない優月の姿を、最後まで、楽しんでいただけると嬉しいです!
「へぇ、古叢井さんとねぇ…」
翌日、音楽室で優月が想大に言う。
今は、個人練習中で、皆の集中力も減ってきていた頃だ。
実は昨日、古叢井瑠璃と手を繋いで、一緒に帰ったという想大は、頬を赤らめていた。どこか恥ずかしそうに…。
「それでさ、瑠璃ちゃんも文化祭に、来るらしいんだよね」
「へえぇ」
「優愛ちゃんと」
それを聞いて優月が、半歩下がる。
「ま、まじで?」
「おう。マジだ」
そう言って、想大は笑った。
その時だった。
「むっつん!」
鳳月ゆなが、井上むつみに話しかける。
「何?」
むつみは、彼女の方へ振り向く。
「私たちのクラス、メイド喫茶やるみたいなんですよー」
「えっ…メイド喫茶かあ」
むつみが羨ましそうに言うと、
「むっつんのクラスは何するんですか?」
ゆなが訊ねる。
むつみは、白く細い髪をいじりながら、
「えっ…私は射的だよ」
と答えた。
「へぇ、見に行こうかな」
ゆなは、少し興味を示したようだ。そんな彼女の反応に、むつみは少し笑みを見せた。
「あ、それでさ、むっつん、メイド服とか持ってる?」
「持ってるよ。使うなら貸そっか?」
「ぜひ、頼む!!明日までに…」
彼女の無茶振りにも、むつみは珍しく笑顔で、了承した。
「朝日奈、1組は何すんの?」
3年生の周防奏音が、朝日奈向太郎に訊ねる。
「ああ、プリクラとミニゲームをやる予定だ」
向太郎は自信満々に答えた。
「へぇ」
「周防のクラスは何するんだ?」
「私のクラスは、ハンバーガーショップらしいよ」
そう言って、ホルンを構えた。
こうして、各々、文化祭の出し物の話しで、音楽室は熱を帯びていた。
その時だった。
「皆さん、何話してるんですか〜?」
顧問の井土が話しかけてきた。すると、一斉に合奏の用意を始めた。
「皆さん、文化祭で何するか、決まってますか?」
井土は意外にも、部員たちにそう質問した。
「ああ、メイド喫茶やる」
するとゆなが、何の躊躇いもなくそう言った。それを聞いた井土は「えっ?」と眉をひそめた。
「鳳さん、メイド服着るの?」
しかし、彼女は首を横に振った。そして、次の瞬間、とんでもないことを言い出した。
「いえ、ゆゆに着せようと思います」
それは優月にとっても初耳。井土と共に『えっ?』と疑問の声を上げた。だが、彼女は笑みを浮かべるばかりで、何も言わなかった。
翌日。
5時限目に、文化祭の役割について決めることになった1年1組は、話し合いをしていた。
「えぇ、メイド喫茶をやることになりましたが、誰が何をやるかを今日は決めたいと思います」
と学級委員長が言う。
そうして着々と話し合いは進んでいく。そして、ついに最後の課題に到達した。
委員長が重々しく口を開く。
「さてと、男子でもメイド服着る人が、出ると思います。やりたい人はいませんか?」
刹那、教室内に視線が飛び交う。誰か手を挙げろよ、やりたくないよ、と否定的な意見が上がる。
「…はぁ」
その時、優月の脳裏に、ゆなの言葉が浮かぶ。
『いえ、ゆゆに着せようと思います』
その時だった。
数人の女子が手を挙げる。垂直に伸ばされた手もあれば、肘を曲げ自信なさ気に上げる手もあった。
「はぁ」
優月が手を挙げる。仕方ないな、と思いながらも。このクラスは女子の方が圧倒的に多いが、恐らくシフトの都合で、男子も数人、接客役に回る人もいるだろう。それに、メイドになるのは、女子だけという固定概念も気に入らない。
ならば、と優月は手を挙げることにした。
「えッ!小倉君、女装するの!?」
「楽しみー」
その時、女子の黄色い声が、あちらこちらから、聴こえてきた。
そんなに楽しみか?と優月は予想外の反応に、驚いた。
しかし想大が途中で、突っ込む。
「ってか、女装なの?」
その問いかけに、優月が「多分」と頷いた。
「じゃあ、接客役は、渡見さん、篠田さん、中原さん、石田さんと小倉君で決定ね」
そう言って、名簿にマークした。
「それじゃあ、午後のシフトの子も…」
そうして、優月がメイドをすることが、決定してしまったのだ。だが、これが意外な結果を生むことになる。
そして今日も、文化祭の出し物の話で、吹奏楽部員は、盛り上がっていた。
「想大君、お前もメイドにならないか?」
どこかで聞いたことのあるセリフを優月がぶつける。
「えぇ…。瑠璃ちゃんに見られるのは嫌だな」
億劫そうに返す彼に、優月がため息をつく。
「それに、他のクラスの人に見られたら…」
確かに、と優月は言った。優月はあまり友達を作っていないから、そこまで言われることは、無いだろう。
その時、井土が音楽室に入ってきた。
「はいー、合奏するよー」
本番も近いからか、井土の雑談も少し減った気がする。
こうして、合奏が始まった。
何曲かこなすと、井土の指導が入る。
「…はい!トランペットとサックスの2つでもう1回!」
すると、トランペットとサックスの音が、ゆるりと絡み合う。普段打楽器で暇している優月は、それを、ぼんやりと見つめていた。
「次は、メロディーですね。フルートと鍵盤ふたりで合わせてください」
そう言うと、優月が慌てて、マレットを構えた。その横で美心もビブラフォンを前に目を細める。それと同時、初芽と心音がフルートを構える。
『だ・れ・か・に・あ・い・さ・れ・た・ことも』
優月は流暢に、マレットを動かす。暗記しているので、本当は譜面などいらないのだが。
「はい!良きです!それでは、もう一度皆で!」
優月は、タンバリンとグロッケンの担当だ。即座にタンバリンを構える。
ゆながシンバルを叩く。それと同時に、優月はタンバリンを振る。シャカシャカ…と軽やかな音が鳴った。
『天才的なアイドル様!フォウ!』
井土のボーカルに、優月は苦笑しながらも、音を奏でた。
そうして、練習が終わった。優月は楽器の後片付けをしていた。その時、ゆなが紙袋を眼前に突き出す。
「これ、文化祭の衣装」
「えっ?今?来週でいいよ」
「いや、明日も打ち合わせだから」
ゆなは、それだけ言って、去っていった。
「はぁ」とため息をつく。どうやらメイド服だけでなく、女装するのも確定らしい。
その日も、ドラムセットの自主練習をして、想大と他愛もない話をして、帰った。
翌日。
「どうして、ゆなはメイド服にならないの?」
とクラスメイトが、ゆなに聞く。
「面倒くさいから。私、面倒なことはしないの」
ゆなはそう言って、メイド服を抱えた生徒を見た。
優月も、確認のためにトイレで着替えることにした。
「よしよし…」
優月は、白いエプロンに黒いスカートと普段は見慣れない容姿を見せる。そして極めつけは…。
彼は白い髪の鬘を頭に付ける。これが、むつみから拝借したものだとは知らずに。
それにしても、女の子として人に接するのは久し振りだな、と思う。
昔、優愛と家族ごっこをした時だったか、何度か
母役を押し付けられたこともあった気がする。
そうして、衣装をクラスメートに晒される時間になった。他の女子は髪を縛ったり、普段と、そこまで変わらないが、唯一男の、優月は違った。
『えっと、着替え、終わりました…』
敢えて、声を高くして教卓の前に立つ。
「異装届けには、こんな感じでお願いします」
優月を見た、クラスメートが絶叫する。
『えッ?かわいい!!』
『本当に優月君!?』
担任の若村も、彼の変わり果てた容姿に、口を手で覆う。
鬘だが、真っ白な髪を、わざと束ね、爪にはチップ、いつもの可愛らしい目が強調され、品のあるメイド服姿。
その場にいた誰もが、優月かと疑ったに、違いない。
しかも、仕草もどこか女の子らしい。小さな手で口元をそっと覆う。その姿に、男子の数人が卒倒した。
(あぁ、ドン引きされてるなぁ。今日の晩御飯、何かなぁ?)
優月は緊張の余り、場違いな事を考えていた。
「優月君、めっちゃ可愛い!!」
その時、想大がそう言って、優月の肩を叩いた。
「あ、ありがと…」
優月は、恥ずかしくなり、思わず目を背けた。
しかし、それがまた歓声を誘発する。
「へぇ、意外」
ゆなも少し驚いていた。美女のゆな。逆に可愛らしい優月。絵になりそうだ。
優月は普段、吹奏楽部では冷静なのに、こういう時になると、少し弱くなる。
「あの…これで通りますでしょうか?」
その問いに、学級委員長が「うん!!」と自信に満ちた声で答えた。
「これ!1日中、シフト入れたい!!」
と言うが、優月は、
「吹奏楽部の発表もあるし、無理だよぉ」
とわざとらしく答えた。その声も、演技で声が、普段よりも幾分か高い。
『やべぇ。鼻血出そう…』
『おいおい…。でもあの子、女の子の演技上手いよな』
そう言う男子たちの反応に、優月は恥ずかしいな、と少し後ろへ引いた。
すると、若村がこう言った。
「では、メイド服のサイズに、問題はないですね?」
「はい」
優月たちが、そう答えると、この時間は解散になった。
「マジ可愛い」
「優月って、女装似合うな」
男子たちの褒め言葉を無視して、優月は着替えるためにトイレに走る。だが、既に個室は全て埋まっていた。
「えっ…!空いてない」
最悪だ、と内心冷や汗をかく。すると、颯佚に肩を叩かれる。
「小倉、ついに扉が開いちゃったか?」
「いや、コナンか!って、ヤベェ」
優月は、肌に冷や汗をかく。
「夏矢君、これ内緒ね!」
そう言って、優月は階段を慌ただしく降りていった。確か、次は音楽室が空いているはずだと思い、音楽室で着替えることにしたのだ。
しかし、道中、他学年の生徒とすれ違う。
『可愛い!!』
『えっ?誰?』
『あの子、吹奏楽部じゃなかった?』
そんな会話も無視して、優月は音楽室に走る。
真面目で冷静沈着という周りからの評価が、変わってしまった、と優月は焦る。後輩ができるまでは大人しくしていたかったのに。
やっとの思いで、音楽室に到着した。
その時、誰かとすれ違った。
「あれ?小倉君」
「あっ…!井上先輩、こんにちは」
すれ違ったのは、衣装を貸した本人、井上むつみだった。
「小倉君が女装」
『ううっ…恥ずかしいぃ』
どこか、意味ありげな感じで、言ったが、優月は逃げるように、音楽室へ入っていった。
慌ただしくドアが閉まる音を聞いたむつみは、クスッと笑った。
なんだか意外な一面を見てしまったような気がして…。
そして、これをキッカケに優月の吹奏楽生活は、大きく変わっていくのだ。
ありがとうございました!
優月の演技力は、幼馴染みの優愛と遊んでいくうちに、身についたものです。
この後も優月の意外な一面を見られるかもしれませんね…?
良かったら、
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