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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]文化祭始動編
48/208

ふたりきりの公園の章

『ちょっと!私の分まで触んないでよ』

『しょうがないでしょ!邪魔だったし!』

ほのかとゆなの言い合う声が音楽室に響く。まだ先輩たちは来ていないのだな、と優月と想大は思う。

「ゆなさん、降谷さん?」

想大が心配になって、2人へ駆け込む。

「ああ、小林君」

ほのかが彼を見つめる。

「どうしたの?」

「いや、私の使ってる譜面台を、放り投げたから、つい…」

「違うでしょ!?あなたの譜面台が邪魔で、取れなかったから、どけただけでしょ!!」

2人の口調の鋭さは、少しずつ増していく。

「もういいから、私のやつは放っておいて」

ほのかは、そう吐き捨て譜面台を組み立てた。

「珍しい」

優月が反射的にそう言った。



その日は、井土の都合で部活が、早く終わった。

茂華の町を歩きながら、優月と想大は話し始める。

「茂華中で迎え、待ってる…か」

優月はそう言って、家族のグループメールの入ったスマホを、ポケットに突っ込む。

「茂華中で?」

想大が訊ねると、うん、と答える。

「妹と迎えの時間が、合ったんだって」

「そっか、優月君、妹いたもんなぁ」

「うん」

空は夕日に照らされているが、間もなく沈むだろう。暁の淡い光が、今か今かと闇を待ちわびている。

「それより、降谷さん怒ってたね」

優月がそう言うと、想大の顔が少し曇る。

「なぁ、降谷さんについて…なんだけどさ…」

「ん?」

「なんか、打楽器の子だけ、異常に忌み嫌ってるように見えるんだ」

「っえ?」

優月は、少しショックを受けた。

「だって、優月君、あの子と話したことある?」

それを聞かれると、何も言えなくなった。心臓がドクンと身勝手なリズムで高鳴る。

「…ない」

そうだ。一度もない。いや、正確に言えば、一対一で会話をしたことがない。

「そう。それに田中先輩のことも避けているように、見えるんだ」

「そ、それは流石に気の所為かもしれないよ」

優月の声には、焦燥が混じっていた。もしかしたら…。


町中だからか、中学生の自転車や喧騒と、幾度となくすれ違う。


「降谷さん、ゆなさんにも異常に怒ってたし、あれは、流石にオーバーだよな、って」

その言葉に、優月の足が微かに震えた。想大は、人の真理を読む能力に長けている。だからこそ、彼の推測は恐らく…。




その頃、茂華中学校の音楽室。

メトロノームの音と共に、パンパンと何かを打つ音が響いていた。

「いち、に、さん、し…」

その時、音楽室のドアが、バン!と騒々しく開く。

「え?」

スティックを空中で止めた…瑠璃は、そのドアを開けた本人の方を見る。

「セルビア君」

すると、風もないのに、彼女の可愛らしいツインテールの髪が揺らいだ。

「あっ…、お疲れ様です」

そう言って、セルビアはテーブルを見る。その上には、真っ黒な筆箱。

「あったあった」

彼は、その筆箱を掴み取る。どうやら忘れ物をしたらしい。


その時だった。

「良かったぁ。それ、忘れ物だと思って、明日、職員室に届けようとしたんだよね」

瑠璃が柔らかな目をして、そう言った。

「えっ…?」

セルビアの頬が赤く染まる。相変わらず、瑠璃は優しいな、そう感じた。

先日、彼は瑠璃に告白したばかりだ。

「せっかくだし、途中まで一緒に…帰る?」

それを断る理由は、彼には無かった。


薄暗い廊下を歩きながら、2人は話し始める。

「瑠璃先輩、いつも遅くまで練習してるんですか?」

「うん。日によるけど」

「どうしてです?」

「うーん…。優愛おね…優愛先輩居なくなっちゃったら、リズム打つ人が、いなくなっちゃうからね」

セルビアは「そうだったんですね」と答える。

「でも、希良凛もいますよ?」

「そういうことじゃないよー」

瑠璃は言いたくなかった。本当は上手くなりたい、と。

「そういえば、先輩もソロ狙ってるんですか?」

「狙ってるよ」


ソロというのは、文化祭でそれぞれの楽器が独奏をするのだ。毎年、恒例らしく瑠璃もその座を、狙っている。


「セルビア君も上手だし、ソロ狙えると思うよ」

瑠璃がそう褒めると「えっ?」とセルビアの頬が更に赤くなる。

「頑張って!」 

そんな彼に、瑠璃は目を細めてそう言った。

「あっ!でも希良凛のことなんですが」

「んっ?なぁに?」 

「あの子も、ソロ狙ってるみたいですよ」

その言葉に、瑠璃の心臓がドクンと波打つ。

「そ、そうなんだ…」

その声には、動揺が隠されていた。

(それは…まずいなあ)

瑠璃は心の中で、どこか危惧していた。オーディションで彼女と競り合うのかと。瑠璃は、いかんせん本番に弱い。

「でも、スカパラの時、先輩大暴れしてたし、大丈夫ですよ!」

セルビアが太鼓判を押す。

「う、うん」

しかし、瑠璃は不安で堪らなかった。


「それより、瑠璃先輩…」

昇降口を出たセルビアが、先程とは、違う重々しい口調で語りかける。

「ん?どうしたの?」

「先輩から聞いたんですけど、ティンパニを破壊したってマジですか?」

それを聞いた瑠璃は仕方なさそうに笑う。

「本当だよ」

「そ…」

「私、小さい頃に和太鼓習ってて、その時の癖が抜けてなかったみたいでさ…、破壊しちゃったんだよね」

なるほどな、とセルビアは思う。

「まぁ、和太鼓って力使うみたいですしね」

「うんうん」

そう2人が話していると、見覚えのある姿が2つ。

「あっ…!」

瑠璃が足を止める。

「ごめんね、セルビア君、また明日」

そう言って、瑠璃は校門へ、一目散に飛び出して行った。

「瑠璃先輩」

しかし、セルビアは心の中で、彼女を諦めきれないでいた。



その時、優月と想大の2人は、茂華中学校前の歩道を歩いていた。

「そういえば、文化祭のクラスの出し物、何にするんだ?」

すると優月が、苦笑混じりに、

「メイド喫茶やるかもだって」

と言う。メイド喫茶か、と想大は少し、苦い顔をした。


そうして、優月と別れたその時だった。

想大の足が、ふと止まる。

「あれ?瑠璃ちゃん、まだ居たんだ」

目の前にいたのは、瑠璃だった。彼女は走ってきたのか、息を切らしていた。

「想大くん、久しぶりだね」

「おっ…!瑠璃ちゃん」

好きな人が目の前に、と想大は、頬を少し赤くした。


ふたりは、近くの公園で、話すことにした。

「えっ?想大くん、文化祭来るの?」

「うん。優月君と行く予定だよ」

日は沈みつつあったが、街頭の光が2人分の影を作る。

「私ね、今年は友達とダンス踊ることになってね」

中学校の文化祭は、合唱や吹奏楽発表の午前の部と、自由にステージで披露する午後の部が、ある。

「へぇ。もう練習してるの?」

「家で少し。でもさ、妹がうるさくてさ、全然練習する気になれないんだよね…」

「それは、大変だね」

その時、瑠璃の声が少し小さくなる。

「私ね、この前ね、後輩に告白されたの」

それを僅かにも聞いてしまった想大は、目を細める。

「えっ?告白?」

「うん。勿論、想大くんが1番好きだから、断っちゃったけど」

少々の不安に、瑠璃は純粋な笑顔を、振りまいた。

「えっ…」

「別に嫌いになんてなってないよ。付き合わないのも、遠距離恋愛が怖い…だけだし…」

その時、辺りを静寂が包みこんだ。僅かな無言の時間が支配する。



ここまで想大が、瑠璃のことが好きな理由は、1年前の夏の会話にある。

『想大先輩』

その日、ベンチで絵を描いていた想大に、瑠璃が話しかけたことがあった。

『あっ…瑠璃ちゃん』

ふたりは、学校でもよく話していたので、顔見知り程度には仲が良かった。

『今日も、絵を描いてるの?』

『そうだよ』

それはいつものことなので、瑠璃は静かにブランコに乗る。少し孤独に感じる。いつもの事だからだろうか?

『はぁ…、誰か遊んでくれないかなあ』

瑠璃はついそう言ってしまった。瑠璃は転校する前の学校を思い出す。

田舎の小学校だったが、全員が全員、仲良しだった。

その時、瑠璃の乗るブランコが前に進む。

『えっ!』

瑠璃は後ろを見る。すると後ろには、想大が笑顔で、手を振っていた。

どうやら想大が押したらしい。

『えっ……ええっ…』

瑠璃は驚きながらも、チェーンを握る。

『俺も暇だし、一緒に遊ぼう』

『う、うん!』

瑠璃は大きく頷いた。嬉しかった。

想大の温かな手が、瑠璃の小さな背に触れる。その手が、背中を押す度、高度は上昇していく。

『どう?楽しい?』

想大が訊ねると、

『はい!』

と瑠璃は喜んだ。

その後も色々な遊具で遊んだ。


ジャングルジムに登った2人は、話すことにした。

『想大先輩、どうして、瑠璃と遊んでくれるんですか?』

すると想大がニコッと笑う。

『だって、遊んでくれないかな…って言ってたじゃん。俺でよかったらいつでも遊ぶよ?』

そう淀みのない表情で言った。

彼女の鼓動が、ドクンと高鳴った。

『あ…ありがとう…ございます』

瑠璃は恥ずかしそうに言ったが、本音は嬉しかった。



そんなことを、思い出した想大は、ゆっくりと口を開く。

「俺、少し心配だったんだ。瑠璃ちゃんに、他に好きな人ができていたら、どうしよう…って」

想大の声が少し高くなる。

「私がこんなこと言うのもアレだけどさ…」

すると、瑠璃は立ち上がり、想大の眼前へ立つ。

「例え、どっちかに好きな人ができたとしても、お互い思い続けていれば、もう寂しくないんだよ」

と言って、目を細めた猫のように笑った。

「瑠璃ちゃん…」


少し、瑠璃に対して気が軽くなった気がする。

瑠璃は本当に、優しいな、と思った。

『そうだ?私、東藤の文化祭行きたいなあ』

『えっ?ウチのクラス、メイド喫茶らしいよ』

『ほんと!?』

2人は手を繋いで、公園をあとにした。誰にも見られず、ふたりきりで。



翌日、文化祭の準備が始まった。

優月と瑠璃。2人の主人公に、試練が襲いかかるとも知らずに……。

読んでいただきありがとうございました!

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【次回】

優月に女装…!?

1年1組大絶叫!!


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