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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]文化祭始動編
45/208

吹奏楽部恋物語の章 [瑠璃&想大編]

こんにちは!

今回は、瑠璃が想大を好きになった訳が、明かされます!

最後まで読んでくれると嬉しいです!

むつみは、帰路につきながら、悠良之介と話していた。

「弓道ってさ、集中力も上がるから、オーボエ練習も集中できるのよ」

むつみは、家にある弓道場で、毎晩矢を射ている。その本意は、ストレスの解消だが、集中力は養われるわ、筋肉はつくわで、良いことの方が、多い。

「そういえば、ゆゆ君、この前褒めてたよ」

「何を?」

「むつみの、容姿は綺麗だな、って」

「えっ?小倉君が!?」

むつみは、その深紅の瞳を大きく丸める。ゆゆこと小倉優月は、音楽室の中では、静かでずっと練習をしているイメージが強いが、そんなことを言っていたとは。

「ああ。先週な」

「へぇぇ。小倉君も見る目あるじゃない」

むつみは、誇らしげに言って、地毛の白い髪を指に、絡めた。

いつ見ても綺麗だな、そう皆が思ってしまうのは、生まれ持っての姿だからだろうか。



そうして、東藤高校吹奏楽部も奔走する中、茂華中学校吹奏楽部も忙しい日々を送っていた。

そんなある日の月曜日の朝だった。 


「あれ?何だろう?」

瑠璃が下駄箱を見ると、ジップロックの中に、1枚の白い細長の封筒が、入っていた。

「もしかして、忘れ物?」

瑠璃は、その封筒を見るも、見覚えが無い。だが、その封筒の裏の左下に、[古叢井瑠璃ちゃんへ]と書かれていた。

「誰かのイタズラ…じゃないね」

瑠璃は、そう言って、手紙を細い腕に隠して、教室へ入っていった。


そして、すぐに、その封筒を上げる。

「凪咲には、見られたくないな、っと」

瑠璃は、そう言って、便箋の文字を見た。

「ん?昼休み…?今日の?」

内容は、昼休み、階段の前に来てください、とのことだった。

瑠璃は、名前のない手紙を見て、ため息をついた。

一体、誰が?何の目的で?




このことを、休み時間に、凪咲に相談することにした。

「えっ?昼休み、呼び出された?無名の人に?」

「うん」

それを聞いた凪咲は「こわぁ」と顔を白くする。

「まぁ、いれば気付くよ。階段前だから、人目がないしね」

瑠璃はそう言って、数学の教科書を机の中から、取り出す。

「私も行こっか?」

「大丈夫だよ。もしかしたら誰にも言えない大事な話かもしれないし」

「そんな話、瑠璃にする?」

しかし、凪咲は、どうしても訝しんでいるようだ。

「失礼だなあ。するよする」

しかし、そう言って瑠璃は便箋を見せた。

「確かに、名前はないね」

そう言って、送り主を当てようかと思った瞬間、チャイムが鳴る。

「あっ!凪咲、時間だよ」

「分かってる。じゃ!」

席に着いた凪咲は、にやりと笑う。

(あの文字って、やっぱり…)

どうやら、凪咲は、送り主が分かってしまったようだ。



その頃、優月は、教室でひとり、本を読んでいた。今日は、親友の想大がいない。どうやら体調を崩してしまったらしい。


文字を目で追っていたその時だった。

「ゆゆ」

誰かが、話しかけてきた。

「ほ、鳳月!」

その誰か、とは鳳月ゆなだった。

「あのホルン男は?休み?」

「ああ。休みだけど」

優月は、冷たく返す。優月はゆなが、あまり好きでは無い。

「ふぅん」

「なに?寂しいの?」

優月が、茶化すように言う。

「…別に」


ゆなは、立ち去ろうとしたが、ひとつ気になっていたことがあったので、訊いてみる。

「鳳月ってさ、好きな人いる?」

「はっ?」

それを聞いたゆなは、目を細める。その瞳が僅かに揺れる。

「いるわけないでしょう」

「だよな」

優月はそれだけ言って、本をパタリと閉じた。

「そういえばさ、テメー、夏矢に彼女いたこと知ってたの?」

ゆなの質問に、優月は頷く。

「知ってるよ。本人から聞いた」

「へぇ。いつ?」

「市営コンクールのとき。凄いよねぇ。彼女彼氏いた人って…」

優月が、腕に顔を沈めた。

「なに?ゆゆ、彼女できたことないの?」

「ああ」

それを聞いたゆなはプッと鼻で笑う。

「何だよ?」

「私、彼氏いたことある!!」

ゆなは、満面の笑みでこう言った。

「っは?」

いまいち、言ってることが呑み込めなかった。あのゆなにも、彼氏ができたのか?しかし、1つだけ分かった。馬鹿正直な彼女は、嘘をつかない。

つまり事実だと。

それにしても、変わり者の彼女を本気で好きになる男の子がいたとは…、と優月は内心驚いた。



茂華中学校の昼休み。人気のない階段へ、瑠璃はひとり歩いていた。

「えっと、ここかな?」

すると、1人の男の子が、近くのベンチに座っていた。キョロキョロと、まるで人を探しているみたいだった。

「あっ!」

その人物に、彼女は見覚えがあった。

「セルビア君」


それは、瑠璃の後輩で、ユーフォニアム奏者の(みささぎ)セルビアだった。

「手紙、読んでくれたんですね」

「捨てられないよー」

瑠璃は、冗談めかしてそう言った。

「あの…古叢井先輩」

「ん?どうしたの?」

瑠璃は、紅い瞳を丸める。

「好きです!付き合って下さい」

唐突に出された言葉に、瑠璃の口は、ぽかんと開かれる。

「えっ?えっ?どういう事?」

瑠璃は、確認するように訊ねる。これで罰ゲームだったら恥ずかしい。

「そのまんまの意味です」

彼の瞳が、一瞬揺れる。

「えッ?罰ゲームじゃないよね?」

「違います!全っ然!!」

「そ、そう…」

瑠璃は、辺りを見回すも、人の気配はない。罰ゲームでなければ安心だ。


「それに、僕が罰ゲームで、そんな馬鹿なことをする人だと思いますか?」

セルビアがそう言うと、瑠璃は壁にもたれかかる。

「いやね、私が元いた小学校では、罰ゲームで告白するイタズラが流行ってたの」

「た、大変だったんですね」

「私、純粋で、すぐに騙されちゃって…」

流石に不憫だな、とセルビアは思った。

確かに瑠璃はいつもそうだ。ちょっとした事でも、すぐに喜ぶ。だが、そんな所が好きなのだ。


「えへへ。お返事欲しい?」

すると瑠璃は、両手を腰に隠し、ニコッと可愛らしい顔を向ける。

「は、はい!!」

本人が緊張しない為だろうが、そんな事セルビアが気付くはずがない。

「ごめんね。私、好きな人がいるんだ」

そう言って、瑠璃は胸元をさすった。

「この学校にはいないよ」

「そ、そうですか」

すると、彼女はツインテールの髪を揺らして、頬を赤く染める。

「でも、一緒に遊んでくれると嬉しいな」

瑠璃はそれだけ言って、去っていった。

内心、瑠璃は嬉しかったが、想大より好きな男の子はいない。



部活の時間、瑠璃は、優愛と凪咲にこのことを話していた。

「やっぱり、セルビア君かぁ」

凪咲は、そう言って、黒い髪をくしゃくしゃに掻いた。

「えっ?凪咲、知ってたの?」

「うん」

すると、優愛も、

「私も、さっしーから」

と言う。しかし瑠璃は、誰だか分からない。

「さっしー?」

「うん。指原のさっしー」

「へぇ」

納得すると同時に、どこか不快感を瑠璃は感じた。後輩の指原希良凛は、瑠璃には、あまり心を開いていないようだ。


そんな張本人は、淡々と打楽器の練習をしていた。

「さっしーか」

何だか、彼女が、遠く及ばない存在のように見えた。



そうして、基礎合奏が始まった。

「はい、パーカス、今日は、古叢井さんと指原さんが、スネアを、やってください」

突如、投下された言葉。

瑠璃は、その言葉に硬直した。

普段は、優愛が叩いているのだが、一体どういうことだ?

その意思を察したように、笠松が口を開く。

「そろそろ、榊澤さんは、引退ですからね。2人もできるように、ならないとですから」 

そういうことか、と瑠璃は頷いた。


「では、古叢井さんと指原さんは、スネアの前に立ってください」

すると、瑠璃は私用のスティック、希良凛は、学校のスティックを、握って前に出る。


「持ち方は、大丈夫ですね。それでは、いきますよ」

瑠璃は、そう言われるも、緊張してきた。確か最後に、やったのは、去年の夏ごろだ。ティンパニ破壊事件の少し前。それからは、ずっと鍵盤楽器ばかりだった。だから、この練習は殆ど、できない。


2人は、メトロノームに合わせ、スティックを振った。初心者ふたりのポンポンと音が、不揃いに響く。

何だこれは?と部員たちの音が揺らぐ。


すぐに笠松は、合奏を停止した。

「はいはい!ふたり共、私の手拍子に合わせて、叩いてね」

そう言って、再び楽器を構えた。


しかし、瑠璃の耳に、メトロノームの音は、聴こえなかった。隣のスネアの音と僅かな瞬迅が、彼女を邪魔していた。

そして、再び、2人はスネアを打つ。瑠璃は、必死に追いかけるも、中々ズレてしまう。この前の演奏会のようには、いかないのだ。その理由が、気の迷いからなのか、片手だからなのかは、分からない。

それは、隣の希良凛も同じだった。希良凛も、基礎練習でスネアを、やったことが無いのだろう。

数秒で(もつ)れ切ってしまった。

「はいはいはい!!」

再び、笠松が制止した。瑠璃がすぐに、スティックを空中で止める。だが希良凛は、それでも数回、打ち続けた。

それと同時に、笠松がスティックを持って、こちらへ近づく。

「古叢井さんは、リタイア!指原さん、少し教えます」

「ええぇっ!!」

瑠璃は衝撃を受け、後ろへよろめいた。すると、優愛が準備室を指さす。

『瑠璃ちゃん、アレ使ってみたら?』

そう言って彼女が、指で示したのは、練習用のパッドだ。

瑠璃は、笠松が話している間に、そのパッドを運び込む。軽いので、瑠璃は片手でも持てる。


そうして、瑠璃は密かにスティックを構える。

絶対に許さない。そんな気持ちが湧いてくる。勿論、許せない相手は自分だ。

そして、手首で打つ。優愛に教わった時のように。

パッ!パッ!パッ!パッ!と軽い音が響いた。叩いた衝撃が、青いマットに吸収されて音に変わる。

しかし、途中で、異変が起こる。何かが見える。

その衝撃のあまり、瑠璃は、その右手に持ったスティックを、手放してしまった。

スティックは、畳んだ毛布へ落ちる。

彼女は、静かに座り込んだ。

『…想大くん』


見えたその人物は、いるはずのない想大だった。

想大が爽やかな笑顔で、こちらに手を振っている。


想大。瑠璃の好きな人の名前だ。

彼を好きになった理由。それは、ティンパニ破壊事件から、しばらく経った頃だ。


瑠璃の中で、基礎合奏の揃ってきた音が、次第に当時の雨音へと、変わっていく。


雨の降る日。瑠璃はひとり、親の迎えを待っていた。その時だった。

『あれ?瑠璃さん』

その声に、瑠璃は顔を上げる。そこにいたのは、少し優しそうな顔をした男の子。

『あ…、小林先輩?』

その人物に、瑠璃は見覚えがあった。

小林想大と初めて出会ったのは、数日前。ティンパニの解体をしていた時だ。最初は喧嘩腰だったが、少しづつ和解してきたところだったのだ。

『どうしたの?お迎え?』

『はい』

『じゃあ、一緒に待とうよ』

『えっ?良いんですか?』

すると、何も言わず彼は、瑠璃の隣に並ぶ。想大の身長は少し高い。だからかドキドキする。

『この前、優月くんと優愛ちゃんと一緒に話してた所にいたよね?』

彼がそう訊ねる。瑠璃は『はい』と答えた。

『優愛ちゃんとは、どういう関係?』

すると、瑠璃は彼を見る。

『お姉ちゃん、って言ってたじゃん?』

『いや、それは…』

『俺も、結構、優愛ちゃんと一緒に、いたから分かるよ。本当に頼りになるよね』

『は…はい!』

すると、想大はふふっ、と笑う。

『先輩、ひとつ訊いていいですか?』

『うん?どうしたの?』

『先輩はもしも、おね…いや、優愛先輩と小倉っていう先輩が付き合ったら、どうするんですか?』

『えっ!?』

『友達と友達が付き合ったら…どうするか?です』

『それは、素直に喜ぶかな。でも、瑠璃さんが少しだけ心配かな』

『えっ?』

今度は、瑠璃が首を傾けることになった。

『瑠璃さん、優しいから。ひとりで大丈夫って、強がりそう』

『あっ…』

この人言い当てた…、と瑠璃は思った。何を言い当てたかは、分からなかったが、何か、自分の核を見抜かれたような気がした。

『や、優しいかな?』

『うん。だって、瑠璃ちゃんと一緒にいると、楽しいな、って思うんだもん』

『えっ……』

『もう俺には、気を使わなくてもいいんだよ』

想大の優しい笑みと自信満々な表情に、瑠璃の頬がみるみる赤くなる。

その言葉は、今までどこか警戒していた瑠璃の、緊張感を焦がした。

『想大先輩、ありがとうございます』

瑠璃は、そう言って笑った。その笑った顔は、優愛に向ける表情とは、どこか違った。



次第に、雨音と思われる耳鳴りが、収まっていく。と同時に、胸が激しく痛んだ。

それと同時に、優愛がこちらへ、しゃがみ込んできた。

「大丈夫?」

「う…うん」

瑠璃は小さく頷いた。しかし、喉からは悔しさ、目元からは涙が込み上げていた。

しかし、その謎の痛みを耐え、練習を終えた。


帰り、瑠璃は、その胸の痛みを吐き出すように、泣いた。

「うまく…なりたい…」

悔しかった。後輩にも負け、自分にも勝てない自分が。本当に。

次の瞬間、瑠璃は人気のない路地めがけて、走り出した。

「もっと…うまく…なりたい!!」

涙混じりに、そう言った。

今までは、優愛と一緒に演奏できれば、何でも良かった。だが、今は違う。

希良凛を越えて、皆から尊敬されるくらいに、上手くなりたい。


上手くなる。絶対に!瑠璃は、橋の欄干を置き去りにするような速さで走った。その決意を胸に。





その頃…

東藤高校で異変が起きていた。

ありがとうございました!

瑠璃が主役の話が、多くてすみません!

なんだかんだ言って、瑠璃は作者のお気に入りなので、どうしても強調してしまいました。

実は、吹奏万華鏡の主人公『小倉優月』と『古叢井瑠璃』は、両方とも作者の感情で、作られています。

『小倉優月』は、キャラクター面、周りを取り巻く問題を気に掛ける優しさ、努力や向上心を描いています。一方の『古叢井瑠璃』は作者の負の感情を、少しぶつけたキャラクターで、本当は優しいけど誰にも気づいてもらえない、向上心よりも誰かと楽しめれば良い、苦手な楽器より好きな楽器を沢山やってみたい、等の部分を少し、キャラクターに反映しています。

はっきり言って、今後も、皆様に吹奏楽を通して、伝えたいことを伝えるべく、描くストーリーもあるでしょう。

今後とも吹奏万華鏡を宜しくお願いします。



【次回】

小倉と田中、強化練習。

田中の秘密…。

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