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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]文化祭始動編
44/209

弓道とオーボエの章

久し振りの東藤高校吹奏楽部編です!

今回から、むつみが主要で描かれます。

最初の弓矢のシーン、もしかしたら伏線かもしれません…笑

夜も深まる頃、空へパン!と鋭い音が響く。

誰かが、大きな弓を構えていた。

その人物は、井上むつみだった。白い髪は風になびき、紅い瞳は揺れ、白い腕は、大きな弓を支えている。

すーっと深呼吸をした後、再び矢を射る。その矢は、的の中心からやや右上へ、突き刺さる。


その時だった。

「むつみー!」

女性の声が、彼女の弓を下ろすことになる。

「明日も、部活なんでしょう?早く寝なさい」

その女性も、むつみのように、白い髪に、白い肌、紅い瞳をしていた。

「うん!」

むつみは、頷いて返事をすると、

「あと一発だけ」

と再び弓を構える。

(月まで届け、レクイエム…)

その言葉を秘めた矢は、的のど真ん中を、打ち抜いた。

可憐な彼女の姿は、いつもとは、また違う姿を見せていた。






翌日。

「えっ!?」

想大が驚いた声を張り上げる。その声は、音楽室の前の廊下に、色濃く響いた。

「何もそんなに、驚かなくても…」

優月は苦笑混じりに、そう言った。

「俺も行けばよかったなぁ。茂華の吹奏楽祭…」


実は昨日、茂華町民会館で吹奏楽祭があったのだ。小学校、中学校、高等学校が、集結して合同演奏会をやったらしい。


「てか、最初に誘ったのは、想大君なのに、どうして来なかったの?」

そうなのだ。最初に話を切り出したのは、想大だ。


「い、いやぁ、それは…」

「古叢井さんもカンカンだった…」

「えぇ!?」

やってしまったぁ、と想大は心のなかで絶叫した。

「カンカンだったとしたら?」

しかし、怒ってはいなかったのだろう。優月の口調は、興奮を帯びるものになった。

「大丈夫、全然怒っていないよ。ちょっと悲しんではいたけど」

「なんだ、会ってたのか…」


実は想大と瑠璃は、現在相思相愛中だ。だが、付き合うのが怖くて、付き合わない理由を探しては、逃げるという日々。


「でも、古叢井さん、すっごくドラム上手かったよ!」

「えっ…!!瑠璃ちゃん、ドラムやってたの?」

うん、と優月が頷く。

「えっ…。俺も見たかった」

「まぁ、文化祭で見れるかもしれないじゃん」

「そうだな」

そう言って、2人は音楽室へ入った。


どうやら、2人の心の中では、瑠璃がドラムをやってくれることは、決定事項らしい。

この後の悲劇を、知らないから。



「で、いつ話したんだ?」

想大が訊ねると、優月は「演奏の後」と答える。



ー演奏後ー


『優月先輩、見に来てくれたんだ!!』

楽器の片付けを終えた瑠璃が、優月に話しかけてきた。

『あれ?想大くんは?』

『ああ、想大くんは、体調崩しちゃってね』

すると瑠璃は残念そうに、『そうなんだ』と言う。嘘をついてしまったが、こればかりは、彼女を傷つけないためにも、必要だ。


『そうだ!古叢井さん、スカパラのドラム、良かったよ!』

『えへへ。皆にも言われたんだ。凄いって』

金色の光を放つ、二つ縛りの黒髪を指に絡め、そう言った。

『まぁ、また壊さないか、心配になったけど』

優月が、ついでのように、言うと瑠璃は、苦笑した。

最後のタムという太鼓の連打は、爆音も相まって凄まじい音と衝撃を与えた。

『私も、興奮してて、壊さないか心配する間もなかったよ』

『そっか』

瑠璃は、技術力も、一気に向上したことが、嬉しいようだ。

優月は、嬉しそうな彼女を見て、ニコッと笑った。

『私ね、実は和太鼓やってて、その時の癖かなって』

『えっ!?初めて聞いた』

『って言っても、小学校3年生くらいまでだよ』

『へ、へぇ。結構前までなんだね』


まさか、和太鼓を叩く要領で、ティンパニを壊してしまったんじゃ、と優月は今更、辻褄が合った。


『おっきい太鼓やってたから、その分、叩くのが大変でさぁ』

瑠璃は、そう言って、頬を赤らめた。なんだか恥ずかしそうだった。

『ティンパニも、そんな感じで叩いたの』

ああ、やっぱり…、と優月は苦笑した。


もしかしたら、『ティンパニ破壊事件』は起こるべくして、起こった事件なのかもしれないな…と思った。



「あ、こんにちは」

すると、先輩の声が聴こえてくる。むつみだ。

2人は「こんにちは」と返事した。

相変わらず綺麗だな、と優月は思う。

彼女の白い綺麗な髪は、部内でも際立っていた。祭典では黒髪に黒い瞳に変わってしまうが、優月は今の方が好きだった。

髪を染めた時とは違う、高級感ある白髪、紅い瞳は、生まれ持ってのものだから、綺麗なのだろう。


そんなことを考えていると、ゆなが眼前へ立ってきた。

「ん」

ゆなが差し出してきたのは、楽譜。

「おう」

優月は、楽譜を受け取る。

「またかぁ」

またも、楽器は鍵盤楽器だ。別に不満は無いのだが、譜読みがキツイ。

それでもやるしかないか、と優月は鉛筆を、手に取った。

しかし、茉莉沙は既に、譜読みを終えたようで、音楽室に彼女の姿は、無かった。

相変わらず優秀だな、と優月は思いながら、鉛筆を走らせた。


想大は未だ奏音に、譜読みを教えてもらっている。3年生は1月上旬の、定期演奏会で引退だ。それまでに、想大はひとりで、譜読みを終えられるのだろうか?


そんな想大は、奏音に訊ねる。

「先輩、やっぱり難しいです」

「そう。でも、そろそろ1人で、できるように、ならないと」

「はい」

想大は、それだけ言って、黙々と鉛筆を走らせた。奏音は既に、ホルンを吹き始めていた。想大も必死に、残りの譜読みを終わらせた。




そうして初合奏、いわゆる初見大会というものが、始まった。

「さぁ、合奏をしてみますよ!」

井土が、そう言って、右手の手のひらを、空へ差し出す。それと同時に、全員が楽器を構えた。

刹那、雨久と氷空が、トランペットを吹く。と同時に、様々な楽器が入ってきた。

こういう時にも、法則のようなものが現れる。雨久たちのトランペット、颯佚のサックス、ゆなのドラム、茉莉沙のトロンボーンが、合奏を支えている。だから、彼女たちがいれば、怖いもの無しなのだ。


だが、オーボエのくっきりとした音が響く。吹いているのは、むつみだ。音は少々掠れはすれど、正確に音を吹き出していた。

上手いな、と井土は小さく頷く。


むつみは、慎重なので最初は、あまり目立たないように吹いている。だが、今日ばかりは、違うようだ。


3年生の、奏音、そして美心は必死にマレットを動かしてはいるが、時々音がもつれている。

向太郎のチューバも低音として響く。初見にしては、良い方となった。

 


「はい!」

井土が合奏を止める。

「皆さん、ちゃんと練習したんだね」

と彼は爽やかに、笑った。

「全っ然、練習してないけど」

ゆなは、水を差すように言った。だが、彼には聴こえていなかったようで、指示を始めた。

「1サビのユーフォ、音をしっかり聴き取ってください!」

「はい」

ユーフォニアム担当の河又悠良之介は、そう返事した。残念ながら、彼のユーフォニアムの技術力は、あまり褒められたものでは無い。

「オーボエも、音程は合っていますが、ロングトーンを練習するように」 

「はい」

むつみは、そう言って譜面を見る。

「あとは、フルートです。そこはもう少し、音量を上げても大丈夫ですよ」

そんな井土の柔らかい声に、「はい!」と初芽と心音は返事した。


「さてと、あとはゆゆかなぁ」

そう言って井土は、こちらを見てくる。意味が分からなかった優月は「えっ?」と首を傾けた。



「はぁ、未だシャープの意味がわかんない」

練習を終えた優月は、休憩室でドラムを叩きながら、ひとりごちる。

もう何百回もやっているからか、右足は勝手に、リズムを刻み、両手も勝手に動くようになった。だが、最近は課題もある。

それは、ハイハットのオープンクローズだ。ハイハットシンバルは、ペダルを上げたり、踏むことによって、音が変わる。

ゆなは、既にその技術をモノにしているので、優月も習得したいと考えているのだ。本番と自主練習。ふたつの演奏に、必死に食らいついているのは、部内でも優月だけだろう。



その頃、むつみは、悠良之介と帰ろうとしていた。

「むつみ、今日も射っていい?」

「いいよ」

その時、丁度通りかかった想大が「射つ?」と首を傾けていた。想大も荷物を持っていた。

「えっ…。ああ、むつみの家は弓道場なんだ」

悠良之介がそう答えた。

「ああ、そうなんですね。いいなぁ」

想大は、それだけ言って、ドアノブを回す。

「さようなら」

すると、むつみと悠良之介は「さようなら」と返した。


そして、彼は休憩室に入る。

「優月君、帰ろうぜ」

「想大君、分かった」

優月は、スティックをスネアドラムの上に、コンと置く。

そうして、2人は昇降口へと、歩き出した。



それから、しばらく経つと、むつみと悠良之介も、廊下を歩き出す。

「私ね、最近ストレス溜まっててさ」

「おうおう」

「沢山、射ってるんだよねぇ」

むつみは、そう言って、白髪をくしゃくしゃと掻き回した。

「ストレスかぁ」

「そ」

そう言って、2人は階段へと姿を消した…。

次回

古叢井瑠璃告白される。想大を好きになったワケ…

吹奏楽部恋物語、始まる。


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