茂華町吹奏楽演奏会 [リハ・本番編]
瑠璃が主人公の話、今回にて完結です。
瑠璃が本気出すとどうなるか、最後まで、読んでくれると嬉しいです。
使用させていただいた曲
「東京スカパラダイスオーケストラ」
演奏会のリハーサルは、茂華中学校で行われた。
「私、ここわからないです」
「ああ、ここはねぇ」
図書室前の広間で、木管パートは練習をしていた。
木管は、クラリネットやオーボエなどだ。
そんな中でも、伊崎凪咲はクラリネットパートの中学2年生だ。そんな凪咲は、小学生の女の子に、クラリネットを教えていた。
「あ、できた」
その女の子は、思うように音が吹けなかったようで、凪咲が教えると、すぐに吹けるようになった。
「分からないことが、あったら聞いてくださいね」
「うん!」
凪咲は、そう言ってクラリネットを構えた。
(合同練習なんて、春にやった演奏会以来だな)
そうつぶやいた。
その頃、音楽室。
音楽室は、打楽器パートの練習場になっていた。
「あの、すみません」
ドラムを任せられた古叢井瑠璃が、練習していると、小学生の女の子が、話しかけてくる。
「はい」
瑠璃は、少し声のトーンを上げる。
「えっと…えーっと…」
その少女は、瑠璃の胸元を見ていた。
もしかして…、と思う。
「名前、分かる?」
「あっ…!」
図星だった。少女は彼女の名前が分からない。
古叢井。先祖がどんな人間だったかは、知らないが、現在になってはいい迷惑だ。この苗字で何度、笑われたことか。
「私は、古叢井瑠璃だよ」
そう言って、柔和な笑みを浮かべた。
「あっ!ありがとう…」
「瑠璃ちゃん、で大丈夫だよ」
「うん!」
その様子を見ていた希良凛が、苦笑する。
「苗字、何度見ても難しいですよね」
「だよね。でも、カッコいいよね。文字が」
「そうですね」
「でも、本当、瑠璃ちゃんが、ちゃんとした先輩になれてよかった…」
すると、優愛が、ホッと息をつくように言った。
「えっ?」
その言葉に気になった希良凛が、こちらを見てくる。その目は疑問に、満ちていた。
「瑠璃ちゃん、元々人見知りだったんだよね」
「へぇ。初めてあった時は、そんな感じしなかったですけれどね」
「なんか…私のお陰らしいよ」
希良凛は、その言葉に目を細めた。
「影響力が強いんですかね。先輩」
「どうだろうね?後輩」
2人は、ふふっと笑った。
最近、この2人の仲は、更に良くなってきている。
その時、高校生の女の子が、瑠璃へ言ってきた。
「あの、古叢井さん、ここ、もう一回いいかな?」
彼女は、少し驚いた表状をするも、
「分かりました」
と笑った。
『可愛いー…』
『うちの吹部に入ってくれないかなぁ』
その時、数人の女の子も、瑠璃へ視線を向けてきた。しかし、男子は、こちらには興味が無いようで、淡々と練習を続けていた。
10時には、全体合奏が始まった。
「はい、そこ!トランペットの動きがズレてますよー」
笠松が、小学生のトランペットの子を、じっと見つめる。
「もう少し、クレッシェンドしてください」
『はい!』
「では、トランペットだけで、やってみましょう!」
すると、トランペットの高らかな音が響いた。
瑠璃は、ドラムの椅子に腰掛け、足を小さく振りながら、その演奏を見ていた。
(なんでだろう?)
しかし、瑠璃は気になった。全然緊張しない。
本来なら、外したらどうしよう?と緊張が体を支配するはずだ。自分が本番に弱いことは、誰よりも分かっていた。それでも全く緊張しない。
その時、トランペットを吹く皆々を、笠松が手で制止する。
「はい!オッケーです!」
「では、もう一度、全員で通してみましょう!」
『はい!』
小学生、中学生、高校生が、自分の楽器を、構えた。辺りに緊張感が、張り巡らされる。
そうして、フルートの音が響いた…。
合奏が終わると、笠松が拍手をする。
「完璧です!あとは、本番まで練習あるのみですね!」
すると彼女が、香坂へ目配せをする。
その合図を受けた香坂が、突然立ち上がる。
『演奏会、頑張るぞー!』
香坂が声を張り上げる。彼女の声は、ビリビリと音楽室へ反響する。
突然のことだったが、部員も「おー!」と繰り返した。
それを見て、笠松は、彼女へ親指を立てた。それを香坂は、にこりと笑って返した。美少女の目が柔らかく歪んだ。
10月3日。本番の日だ。
茂華町民会館に、部員たちが集まった。
高校生の1人が、瑠璃へ訊ねる。
「よく寝た?」
「はい!」
「頑張ろうねー」
すると、瑠璃は「おー!」と右の拳を上に、突き上げた。
その反応に『可愛い…』や『ねー』などと、黄色い声が上がってきた。
「瑠璃さん、モテるんですねぇ」
それを見た指原希良凛が言った。希良凛は、まだ1年生だ。
「そうだね」
優愛も、小学生の女の子と、楽器を運びながら、同意した。
「白波瀬先輩、譜面台持ち、手伝ってくださーい」
瑠璃が、男の子へ呼びかける。すると、白波瀬雪斗という高校2年生の男の子が、駆け寄ってきた。
「はいー!」
白波瀬が、譜面台の入ったカゴを持つと、一気に姿勢が楽になる。
「じゃあ、行くよー」
「はーい」
このような形で、準備を終えた。
ついに、本番が始まる。
小学校、中学校の演奏が終わり、今は高校生の演奏だ。やはり、経験者が多いのか、今の自分たちより遥かに洗練されていると、痛感させられる。
「あのオーボエ、綺麗ですね」
「私も、あれくらいできればなぁ」
凪咲と、オーボエの久奈が、ヒソヒソと話していた。
「いや、新村先輩も、十分うまいですよ」
「ありがとう」
瑠璃も、スティックを振って、模擬の練習をしていた。練習では緊張しなかったのに、今では緊張する。
「緊張してる?」
その時、優愛が耳元で囁いてきた。
「うっ!優愛ちゃん」
「動きが硬いもん。分かるよ」
優愛は、そう言って笑った。彼女の柔らかい眼差しが、ピンと細まった。
「優愛ちゃは、最初緊張したの?」
「したした」
そうはいえども、瑠璃は過去に一度、ドラムをやっている。だが、あの時は大して観客はいなかった気がする。だが、今回は違う。親や知人が見ているかもしれない場所で、演奏するのだ。
緊張するはずだ。
「頑張ろうね」
優愛は、そう言って、瑠璃と手を合わせた。
ぱちん!と乾いた音が響いた。瑠璃は「うん」と力強く頷き、舞台の方を見つめた。
それと入れ違いに、今度は希良凛が、話しかけてきた。
「瑠璃さん、緊張してますね」
「うん、やっぱり、緊張するよ」
「頑張ってください」
そう言って、希良凛は瑠璃に、笑いかけた。
先輩と後輩に挟み打ちされた瑠璃は、思わず苦笑が溢れた。
程なくして、合同演奏が始まった。
フルートの音が、幾重にも重なって響く。洗練された音が、ホールを包む。
瑠璃は、深呼吸をする。そして、その刹那、スティックを手首から振り下ろす。
パシィン!!と金属が鳴り響く。
と同時に、ハイハットとスネアの往復を、始めた。そして、浮きだった右足を、すとんと落とし、バスドラムを打つ。
音が入る度、タムを打ったり、ハイハットとスネアを同時に打ったり、様々な技術を発揮する。
そして、香坂も必死に、フルートを吹き続ける。息が苦しいが、やめるわけにはいかない、その責任感を演奏にも、ぶつけた。
そして、演奏が終盤へ差し掛かった。
希良凛は、必死にシェーカーを振る。優愛も、マレットで連打する。
瑠璃は、その様子をちらりと見る。ふたりは、どこか楽しそうだ。
瑠璃は、隣のドラムを見る。高校生の男の子は、タム回しをしていた。
太鼓の音が絶え間なく繰り返される。
それを見た瑠璃の中で、何かがぷつりと切れる。
(私も!)
気付けば、瑠璃は全力でスティックを振っていた。
ドコドコドコドコドコドコドコドコッ!
相当な力に、タムが音を立て、震える。
数秒間、叩きまくると、音が小さくなっていく。瑠璃は、それと同時に、シンバルを両手で、叩いた。
指揮者の笠松が、大きく両手を振りかぶる。
それと同時に、瑠璃は、左右にあるスネアとフロアタムの太鼓へ、スティックを振り下ろした。
バン!と鋭い音。久し振りに本気で奏でた瑠璃は、満足そうに笑った。
ずっと我慢していたドラムソロができたことに、嬉しかったのだろう。
目を猫のように細め、頬を赤くし、白歯を横へ伸ばした彼女の表情は、誰よりも嬉しそうだった。
舞台を終えた瑠璃は、
「あー、楽しかった!!」
と両手を伸ばした。
「瑠璃、最後カッコよかったよ!」
凪咲が、本気で褒めると、彼女は、
「えへへ、実は、ちょっとだけ練習してたんだぁ」
続いて、ドラム担当の男の子が、
「凄かったよ!」
と瑠璃に言う。
「ありがとうございます!」
瑠璃は、ニコニコと笑って返した。
タムの打面に傷が付いただろうが、別に大丈夫だろう、と考えながら。
「瑠璃ちゃんも、片付けしょう!」
優愛がそう言うと「はーい!」と瑠璃は、トコトコと歩いて行った。
その時、希良凛が瑠璃をじっと見ていた。
明らかに技術が進化している。
「瑠璃さん」
普段は子供っぽい彼女も、本気を出せば、優愛を超えゆる破壊力と技術力を持つのかと。
希良凛は、険しい表情でひとり考える。
どうすれば、瑠璃からドラムソロを奪えるか…、と。
ありがとうございました!!
瑠璃の本気ってどれくらいなんだろう?って感じで書いてみました!
因みに、瑠璃の実力は、全キャラクターの実力でも、一桁いくレベルですね。
ちょっとここから、設定の小話でも…。
瑠璃の叩いてて楽しいっていう設定は、作者自身の感想を少し変えてみたものです。
作者も打楽器やっているのですが…。
実際、ドラム叩いてると、楽しくなっちゃうことがありまして…
いや、この話は、また後で。
良かったら、
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[次回]
むつみの悩み…




