朝&放課後練習の章
今回は、瑠璃が主人公の話を、2話書こうかと考えています。
後々重要な伏線も、入っていますので、最後まで見てくれると嬉しいです!!
茂華中学校は、9月の東関東大会では、銀賞を獲った。
9月の中旬。
「楽譜を配りまーす!!」
顧問の笠松明菜がそう言って、楽譜を配る。トランペット、トロンボーン、フルート、サックスと次々と、楽譜の束が薄くなっていく。
それを見た古叢井瑠璃は、興味のなさそうに見ていた。いつものように、優愛がドラム、希良凛が小物楽器に決まっていると。
恐らく、早くても文化祭だろう。
そして、打楽器パートに回ってきた。
笠松が、瑠璃を呼び出す。そして、
「古叢井さん、ドラムやってね」
そう言った。
「えっ?」
それを聞いた瑠璃は、耳を疑う。
「は、はい!」
しかし、彼女は、大きく頷いた。
やっとドラムができるのか、と。
「良かったね、瑠璃ちゃん」
それを、見た優愛がそう言った。どうやら今回は、優愛が鍵盤楽器らしい。
「で、もう一曲は、榊澤さんに」
笠松は、当たり前のように、優愛へドラムの楽譜を、手渡した。
その優愛が、突然、こちらを見てくる。
「あ、これフォービートじゃん」
「フォービート?」
「そう、ツ、パン、ツ、パン!っていうやつ」
「へぇぇ」
「取り敢えず、やってみよっか!」
「うん!」
瑠璃は大きく頷いた。
取り敢えず、早く叩きたくて仕方がない。
楽器庫に、ドラムの音が響き渡る。
「そうそう。いいじゃないこ」
優愛が、そう褒めて、瑠璃の頭を撫でる。
「えへへへぇ」
瑠璃は、素直に喜んだ。
「私ね、いっこだけ嘘ついてたんだ…」
「んっ?」
「自由曲で、『メトセラ』やったじゃん?」
「うん」
「私、ソロで和太鼓やったじゃん」
「うん」
そう言って、ふたりは、毛布の掛かった和太鼓の群を見る。
「私ね、ここへ引っ越す前に、和太鼓習ってたの」
「えっ?初めて聞いた!」
「優愛ちゃんに、太鼓やったことあるって言っちゃったら、甘えられないと思って、最初からずっと黙ってたの」
「そうだったんだ」
優愛は大きく目を丸めた。
瑠璃は、当初、隠す気は無かったのだが、優愛に甘える為に、隠していたのだ。
「すごく、でっかい和太鼓やってた」
「すごいね」
優愛は、そう言って、にこりと笑った。それに呼応するように、瑠璃も目を細めて、笑った。
その頃、東藤高校
音楽室では、雑談の声が響いていた。
「えっ?文化祭の出し物?」
「そうです」
想大が、ゆなに相談していた。
「めんどぉ」
しかし、ゆなは気乗りしないようだ。優月は、そんな彼女に呆れ笑いを浮かべる。
「中学の時から変わってないんだから」
その様子を見た齋藤菅菜が苦笑する。
「鳳月さんは、中学の時から、ああだったんですか?」
「そうだよ」
颯佚の問いに、菅菜は更なる苦笑で返す。
「なのに、演奏は凄いんよね」
やはり、菅菜もゆなの実力には、驚いているらしい。
普段はゲーム三昧で、美心に怒られる彼女だが、演奏は必ず完璧に、仕上げる。やるときはやる子、と先生からも評価されている。
だが、人間性は正直過ぎる故、皆無で部員のストレスを誘発している。
そんなゆなは、いつか、しっかりした人間には、なれるのだろうか?
「あれ?古叢井さん」
6時近くまで、練習してた瑠璃に、副顧問の中北が声を掛ける。チャリン、と金属がドアの淵に、当たる音がした。
「あ、帰らなきゃですね」
瑠璃は、スティックを両手で押さえ、中北を見る。
「ごめんなさいね」
中北がそう言うも、瑠璃は「いえ」と笑った。
「大会終わって、練習疲れないの?」
「いえ、全然、全く」
瑠璃は律儀に、そう答えた。
「先生」
「ん?」
瑠璃は、荷物を持って、彼女を見る。
「さようなら」
「さようならー」
音楽室を出た瑠璃は、こう思う。
これで良いのかと。
ー数日後ー
『最近、古叢井さん、部活頑張ってますよね』
職員室で、そう中北が言った。
『確かに。遅くまでいますもんね』
笠松も頷いた。
『文化祭に向けて、と張り切っているらしいです』
『そっか』
笠松はそう言って、コーヒーカップを手に取った。
新入部員の希良凛が、刺激となったのだろう。近頃は休憩ひとつ入れずに、色々な楽器を叩いている。
そうして、2週間後。
茂華中学校で、合同練習会が行われた。
ーその日の朝
「ふぁぁー…」
優愛が欠伸をしながら、廊下を歩く。すると、2つの音が聴こえてくる。
クラリネットとドラムだった。
「先輩、おはようございます」
その時、指原希良凛が話しかけてくる。
「あっ、おはよう」
優愛も、ニコッと笑い、挨拶を返した。
「眠いね」
「本当ですね」
2人は、他愛の無い話をしながら、音楽室へと、歩いて行った。
音楽室へあと数歩という所で、希良凛が優愛へ訊ねる。
「これ、瑠璃さんが叩いているんですか?」
「そうみたいだね」
「最近、ずっとそうですよねぇ」
「瑠璃ちゃんにとっては、嬉しいんだよ。ドラムを任されたこと」
「えっ?」
優愛は、首をかしげる希良凛に、
「ドラムは、打楽器奏者の憧れだからね」
と言う。
「先輩も憧れたんですか?」
「うーん。最初は少し。でも、やっていくうちに、憧れよりも、尊敬の方が大きくなってきたかな。難しいもん」
「へぇ…、私は、先輩ほどやったことないので、分からないんですが…」
2人は音楽室へ入り、近くの椅子に腰掛ける。
「さっちゃんも、すぐに分かるよ。先生がさっちゃんに、やらせるかもしれないって言ってたし」
「では、文化祭は私もドラムできるんですか?」
「まぁ、簡単な曲だとは思うけど」
その時、希良凛の目の色が変わった。
「せっかくやるなら、難しい曲をやりたいです」
「そ、そう?」
「って、先生には言いました」
「えっ?直談判?」
「はい」
珍しく強気に答える希良凛に、優愛が苦笑した。
「先生は、何て答えたの?」
「経験者ですしいいですよ、と」
「へぇ…」
「まぁ、何でこんなこと言ったかといいますと、私、弟がいるじゃないですか?」
「ああ、うん」
そうだ、希良凛には弟がいたな、と思い出す。
「彼も、打楽器奏者で、楽団の中で1番上手い人に教えられてるみたいなんですよ」
「えっ?すごい」
「それで、私、よく親に厳しく言われるんですよ。弟より下手だね、って」
「ああ」
この話は、以前にも聞いた気がする。
「それで、カチンてきて、文化祭で見せつけてやろうと思いまして」
「そ、そうなんだ」
災難だな、と彼女は思うしか無かった。
その頃、曲を終えた瑠璃は、スティックを構え、凪咲に言う。
「私、上手くなってる?」
「うん、すごく」
凪咲は瑠璃の頭を、撫でて褒める。しかし、次の言葉は、疑問に変わる。
「てかさ、なんで瑠璃は、ドラムしかやらないの?」
「え?」
「いや、別に深い意味は無いよ。ただずっと遅くまで叩いてるじゃん」
すると瑠璃は少し黙り込んだ。
しばらくすると、口を小さく開く。
「それはね、皆に見せつけてやる為だよ」
「どういうこと?」
「だって、私、鍵盤楽器キャラになってるよね」
「まぁ、実際上手いし」
「私、別に鍵盤やりたくて、入ったわけじゃないからさ。なのに、鍵盤ばっかり上手くなってるから」
それを聞いた凪咲は、なるほど、と言う。
要するに、瑠璃は皮楽器が上手くなりたい、ということだ。
「もちろん、私のワガママだけどね」
「そんなことないよ。気持ちは分からなくもないし」
そう言って、凪咲は笑った。
自分に自信と誇りを持てる演奏をしたい。
それは確かに瑠璃のワガママなのかもしれない。だが、それ以上に意欲があるなら、それでいいのだろう。
だが、文化祭では、2つの執念がぶつかりあうことになる…。
読んでいただきありがとうございました!
良かったら、
ポイント、感想、ブックマーク、リアクション
をお願い致します!!
[次回]
茂華町 演奏会。いきなり本番…




