【最終回】 地区コンクール大会の章
今回で、コンクール編は最終回です!
瑠璃が主人公です!最後まで読んでくれると、嬉しいです!
茂華中学校の多目的室に、和太鼓やパーカッションの音が響く。
先の市営コンクールでは、惜しくも銀賞だった。市営の時は銀賞でも、本番の地区コンクールでは金賞を獲る。そして次の大会に出場する。
そう部員たちは、各々練習に励んでいた。
「できた」
「じゃあ、合わせよっか」
「うん」 「はい」
瑠璃と優愛が、バチを構える。
今やっている所は、『メトセラⅱ』のパーカッションソロだ。
この曲には、ソロがあり、難易度が高い。
3人がバチを振り下ろした。
もう既に、本日4回目の合わせだ。
疲れはあるが、頑張らなければならない。
コンクールは3日後だ。
瑠璃は、先の市営コンクールを、思い出す。
確か…あの時は、と叩きながら記憶を巡らせる。
振りが大き過ぎたり、打つ位置が悪かった…。そう顧問から言われた。
瑠璃は、目の前の太鼓に、集中を注ぐ。余計なことを考えている暇はない。
東関東大会出場、という目標に、一歩でも近づくために…。
「えっ?付き合えないの?小林先輩と」
「うん」
正午、空き教室で弁当を食べながら、優愛と瑠璃が話していた。
「どうして?金賞獲ったら付き合うって、打ち上げで、言ってたじゃん」
「う、うん。でも想大くん、忘れちゃってたみたいで」
は?と優愛は思った。そんな訳はない。
「それさ、今すぐにでも、瑠璃ちゃんと付き合いたいってことなんじゃない?」
「えッ?」
瑠璃の目が大きく見開かれる。
「そんな、吹奏楽なんて団体競技なんだから、ひとり無理して頑張っても、結果は変わらないよ」
「う、うん」
「小林先輩は、結果と恋愛を結びつけたくなかったんじゃないの?」
確かにそうかも、と瑠璃は思う。
あの時、先に約束を取り付けたのも自分だ。
「そうかも。優愛ちゃん、どうすればいい?」
「うん、もう一回、付き合ってくださいって打ち明けるしかないよ。」
「う、うん」
「大体、いくら瑠璃ちゃんが、可愛くても、高校で小林先輩、取られちゃうかもしれないよ」
「そっか…。でもね、前から思ってたの」
「何を?」
瑠璃は食べ終えた、弁当箱を机の上に置く。
「だって、遠距離恋愛でしょ?私、できるかなって」
「確かに」
遠距離恋愛は、何かと大変だ。それは、彼氏のいない2人でも分かっている。
「てことは、付き合うのが、怖いの?」
「正直言って…」
「そっか。でも最後に決めるのは自分だよ」
優愛は、そう言って、バッグを両手に持つ。
その時、瑠璃は、自分の気持ちから逃げていた、そう感じた。
「がんば」
だからこそ、その声は、いつもより優しく響いた…気がした。
「で、でさ、優愛お姉ちゃん!」
「ん?どしたの?」
「あの、9月の小中高の合同演奏会でさ…」
「あれは、大丈夫!」
すると瑠璃の表情に、花が咲いた。
「ドラムでしょ?でもね、文化祭は、そうはいかないかもね」
「なんで?」
「さっちゃん。あの子も、瑠璃ちゃんと同じくらい上手いし、どうなるか…」
「ええ…」
恩人の優愛と同じ舞台で、演奏することに意味がある。
そして、文化祭が、先輩の優愛と演奏できる最後の機会だ。
「でも、さっちゃんには、実力で競り勝てば、いいんでしょ?」
「そういうことだね」
茂華にも、実力主義な所はある。
「私、頑張る!」
「その前に、コンクールだね!」
息巻く瑠璃に、優愛がそう突っ込んだ。
「うん」
瑠璃は、それだけ言って、空き教室を出ていった。
翌日。
バスは、再び御浦市のコンサートホールへ、向かっていた。
「眠らない眠らない」
サックスのひとりが、自己暗示をかけていた。
「眠いよね〜」
隣の席の子も、欠伸を必死に噛み殺す。
「はぁぁ…」
凪咲がそう言って、瑠璃の頬をつつく。
「寝んなよーぉ」
「うー…」
瑠璃は必死に、瞼の上を持ち上げる。まだ眠い。
「凪咲ぁ、私、ねむうい」
「緊張しないの?」
「してないフリー」
瑠璃の様子がいつもと変だが、寝てはいないので放っておくことにした。
そして、コンクール会場に着く。
今年2回目の、駐車場で見る向日葵は、先日よりも、爛々と神々しかった。
「それでは、準備します!」
顧問の笠松の声を、先頭に、各々が準備を、始めた。茂華中学校の今年の番は、2番だ。
2番は、何かと不利だが、受け入れるしかない。
「おっもぉ…」
大きな長胴太鼓に、優愛が顔を歪める。
「優愛先輩!」
そこに、慌てて希良凛が入る。
「あ、いや!だ、大丈夫!さっちゃんは、他の楽器を運んで!」
「了解しました」
希良凛はそう言って、踵を返した。そこに、今度は瑠璃が駆け寄ってくる。
「優愛お姉ちゃん!」
「あっ、お願い!!」
先程とは違って、優愛は瑠璃の手助けを、要請した。
(なんか、差別みたいになっちゃったなぁ)
優愛は、そう思ったが、運よくも希良凛は、友達と他の楽器を運んでいるようで、こちらには気づいていないようだ。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
「ソロ、頑張ろ」
「うん」
その会話以降、運び出しでは、2人は何一つ話さなかった。
その後、小ホールで、最初だけを通した部員たちは、舞台裏で待っていた。
黄昏色の照明に、浴びせられ、各々の楽器の、音と光が煌めく。
(冬馬中、腕が落ちたなぁ)
久奈が、内心そう思う。なんだか、去年と違って、ハリがない。曲の佳境だというのに、やんわりとした感じだ。
その時、音がぴたりと止む。どうやら、終わったようだ。
『行くよ!みんな』
香坂が、白銀のフルートを片手に、左手の人さし指を突き上げる。
すると、次々と部員が、同じように、指を突き上げた。
『金賞獲得』きっとそんな意味だと、部員たちは思った。
そして、楽器を定位置にセットする。その間は、暗い闇が辺りを包んでいた。
そんな中、瑠璃は譜面をめくる。
『瑠璃!! 自分の気持ちをぶつけるように!!頑張ろう!』
その文字をみた瑠璃の目が、大きく見開かれる。
その時、見てもいない風景が、思い起こされる。
『えっ?アドバイス?』
『そうです』
聴こえてきたのは、憧れの先輩である優愛と、親友の凪咲の声だった。
『先輩、瑠璃とのコンクール、今回で最後かもしれないんですよ』
『そんなぁ』
『それに、優愛先輩が、書いてくれたら、瑠璃は死ぬほど喜び…』
凪咲が、優愛のボールペンを手に取り、彼女の胸へ突きつける。
『ますよ』
凪咲の言葉に、優愛は、分かったよ、と言った。
そして、優愛は瑠璃の譜面に、ボールペンで書き出す。
『本番まで、見えないように、私が隠すんで安心してください』
凪咲が自信満々に、そう言うが、この言葉の意味がよく分からなかった。
柔らかく丸い文字で分かる、優愛の文字だ。
優愛が書いてくれたんだ。
次の瞬間、何故か、涙が溢れそうになった。
もう優愛とは、演奏ができないのか?
この曲はもうできないのか?
いや、そうはさせない、と瑠璃の中で何かが、切れる。それは、理性の線でもない、迷いと緊張の糸だった。目の前が透明な空間になる。
『プログラム2番、茂華町立茂華中学校』
笠松が、指揮棒を構える。次の瞬間、トランペットの音が響いた。
続いて、クラリネットやオーボエなどの木管も入ってきた。
どれも、洗練された音。朝だろうと関係ない、その音は、研ぎ澄まされていた。
そうして、曲は進んでいく。
打楽器も、譜面通り、楽器を打ち込んでいく。
身を削ったその音は、先の本番よりも、更に優れたものになっていた。
そして、希良凛がスティックを、振る。
パラパラパラ…とロールの音が響いた。
そして、オーボエソロ。久奈が、心を落ち着かせ吹き始める。柔らかい音。
そして、打楽器のソロになった。
瑠璃が、バチを振り上げる。
ドドンド…!!
その時、頭の中で何かが聴こえてくる。
『簡単で楽しいじゃん』
それだった。悪魔のような囁きに、瑠璃の瞳が大きく開かれる。
確かにそうだ、瑠璃はその悪魔の囁きを、信じ込んでしまった。
彼女たちは、もう叩き切ることしか、頭にない。
それは、希良凛も、優愛も同じだった。
だが、瑠璃だけは違う。
楽しい、ずっと叩いていたい、そう思うくらいの余裕が彼女には、あったのだ。
先日とは違う、力強く、正確な音が、ホールへ響いた。
もう迷わない、失敗しない、そんな絶対的な自信が瑠璃の口元に笑みを作る。
そうして、演奏は従順に終えた。
だが、演奏が終わった瑠璃は、息を切らす。夢中になって叩いていたからか、息が苦しい。それと同時に、汗が込み上げてくる。
「はぁ…はぁ…」
深呼吸を隠すように、優愛の方をちらりと見る。優愛も、こちらを見ていた…気がした。
瑠璃は、怖くて既に泣きそうだった。これで優愛と舞台で演奏できなかったら、どうしょう?
そんな気持ちが込み上げてくるが、今は余韻に浸っている暇はない。
他の学校の生徒が、迫っている。
瑠璃は、泣きそうになりながらも、楽器を持ち上げ、逃げるように舞台裏へ向かった。
「終わった…」
瑠璃は、へなへなと優愛に突っ込んだ。
「頑張ったね」
優愛は、それを驚くこと無く、頭を撫でた。
「泣いてる?」
その時、瑠璃が泣いていることに、気が付いた。しかし、瑠璃は
「泣いてない…よ」
とニコッと笑う。そんな細めの眉からは、涙が垂れていた。
それがなんだか面白くなった優愛は、クスッと笑う。
「まだ泣くのは、早いよ」
「こわ…い」
「えっ?何が?」
瑠璃の肩をさすりながら、優愛が訊く。
「もう…お姉ちゃんと演奏できないんだなぁって…」
瑠璃にとって、優愛は本物の姉以上の存在だ。孤独な自分に、いつも手を差し伸べてくれた。その結果、本当の自分を見つけることができたのだ。
だからこそ、瑠璃は、優愛も吹奏楽も、大好きなのだ。
「何言ってんの!駄目だったとしても、合同演奏会とか、文化祭があるじゃん!」
優愛は、ハンカチで彼女の目元を、ゴシゴシと拭う。
「うん…。そうだね…」
瑠璃もそう言って、打楽器を運び出した。
「瑠璃ちゃんのソロ、本当にカッコよかったよ」
「ありがとう」
「同じ音を、文化祭でも宜しくね」
「分かってるよ!」
瑠璃はそう言って、満面の笑みを浮かべた。
駄目だったとしても、まだ次がある、時間は待ってくれない。
結果発表の時がくる。
しばらく待っていると、結果発表の時になった。
『令和6年度地区吹奏楽コンクールの結果発表』
男性がそう言った。
ホール内に、緊張が走る。
「プログラム1番、冬馬中学校、銅賞」
すると、隣から涙ぐむ声が聞こえてきた。近すぎて、自分たちもそうなるのではないか、と思ってしまう。
「プログラム2番、茂華中学校、金賞」
こうして、着々と各学校の結果が、伝えられていく。
「続いて、東関東大会の出場校を発表します」
瑠璃や香坂は、両手を握って、神に祈る。
『2番、茂華中学校』
、
、
、
、
、
、
、
、
、
、
、
、
その時、部員全員が叫んだ。無意識にも、大きな声が響き渡る。
嬉しい!そう思った。今年もだが、また優愛と演奏できる、と嬉しかった。
『9番、神平中学校…』
瑠璃は、優愛の方を見る。その時の優愛の顔は、いままでに無いくらいに、優しい顔をしていた。
すると、夢が叶った、と誰かが言った。
だが、瑠璃はこう思った。
夢じゃないよ、願いだよ、と。
翌日。
「えっ?金賞?」
『そう!やったー』
想大は、コンクール帰りのバスに乗っていた。電話の相手は、瑠璃だった。
「すげぇな。俺等は銀賞だったよ」
『そうなんだ』
「まぁ、東関東でも、頑張って」
『ありがと!!』
隣にいた優月も、その言葉の意味を理解した。
優月はひとり、家の近くの公園に寄った。
「はぁ」
疲れが重くのしかかるが、思わずブランコの、鎖を引いてしまう。
その時だった。
『優月くん』
聴き馴染みのある声が、聞こえてきた。後ろを振り向くと、優愛だった。
「優愛ちゃん…!」
この公園は、昔から2人きりで遊んでいた思い出の場所だ。
「東関東、だね。金賞おめでとう」
「ありがとう」
「流石、茂華中学校だね」
「違うよ」
しかし、優愛は、褒める優月を否定した。
「瑠璃ちゃんのお陰だよ。あの子の太鼓が無かったら、パーカッションソロは、絶対に失敗していたもん」
「そっか」
優月は、先の話を思い出す。
初芽は、茉莉沙のお陰で覚醒した。瑠璃も間違いなく、優愛のお陰だ。
「僕、思うよ。優愛ちゃんが、いなかったら、古叢井さんは潰れてたって…」
「そう?」
優愛が、首を傾ける。
「じゃなきゃ、本番で覚醒しないよ」
「…そうかもね」
2人は、顔を見合わせて笑った。
吹奏楽が、この2人を繋いでくれている。その事実は2人の背中を、ゆっくりと押しているのだ。
だが、このあと、強大な試練が、2人を待ち受けているとは、思いもよらなかった。
ありがとうございました!
コンクール編いかがでしたか?
次回から文化祭編を描いていきます!
お楽しみに!!




