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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]入部&春isポップン祭り編
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演奏と入部の章 [後編]

これは、第3章の後編です。

この物語はフィクションです。団体名、学校名も全て架空のものです。

「…あぁー…。鳳月ぃ…」

昼休みの教室。霊を妬むような声で優月が言う。

「誰かは、知らないけど…性格悪いんだな」

「そーなの。僕のこと頭が悪いって…」

「…あははは。違ぇねぇ」

親友の小林想大さえもそう言った。

「…っえ?想大?」

「…あ、いや…!」

想大はジタバタと藻掻くように言い訳をした。

「す…数学は苦手だろ?中学でも大変…」

「もー、いいよー。想大。分かったから。受験の直前に受験票落としたのも事実だし…」

落ち込んだように優月は机へ突っ伏した。


「…でも、優月は優しいじゃん。俺はそんな優月が大好きだぜ」

突然褒められた優月は「…ありがとぉ」と恥ずかしそうにそっぽを向いた。

(頭、悪いことは否定しないんかい…)



とある中学校でも、部活動の勧誘に大忙しだった。

「剣道部とか、どうだ?」

「楽な部活動入りたーい」

勧誘しては勧誘される校舎は賑やかだった。


そんな中、1人の女の子が勧誘に疲れ切っていた。

「…はぁ」

「おねーちゃん?」

その時、女の子が壁へへたれこむ。

「…瑠璃ちゃん、勧誘してきてー」

ここは茂華中学校、吹奏楽部だ。

部員が十数人程で、人数が少ない。

「えっ?」

「瑠璃ちゃん、お願いします」

そんな中、榊澤優愛がそう頼み込む。

「…おねーちゃん、行きたくないの?」

「うん。強引には誘いたくない」

だからか、この中学校は吹奏楽部の勧誘が激しいと有名だった。部員の圧が凄すぎて…と体育館に閉じこもったり部員から逃げる子もいるらしい。

「…無理矢理、誘いたくないけど笠松先生から言われているから…」

そう言うと、古叢井瑠璃(こむらいるり)はニヤリと口元に笑みを浮かべた。

「了解しましたー!ギュッとしてドーンしてきます!」

「えっ?」

そう言って、瑠璃は音楽室を飛び出した。


(おねーちゃんの為にも頑張らなくちゃ!)

そんな優愛との出会いは1年前だった。


『…はぁ』

瑠璃は転校生だった。そのせいか、余り馴染めず友達ができていなかった。

『…どうしたの?』

そんな時に会った人物が榊澤優愛(さかきさわゆあ)だった。

『…ん?誰?』

『私?私は榊澤優愛だよ。吹奏楽部、興味ない?』

『…すいそう…がくぶ?』

初めて聞いた。

『…うん。楽器を演奏する部活』

優愛が端的に説明する。

『…じゃあ、なんで楽器を持ってないの?』

瑠璃が訝しげに聞く。

すると優愛は小さな両手をパッと開く。

『私、太鼓やってるんだ』

『…へぇ』

分かり易く説明したからだろう。

すぐに彼女は理解を示した。

『…行ってみたい!!』

『…ふふ』

優愛の優しい人柄に瑠璃は惚れた。


それから、1年…。

「吹部、入らない?」

古叢井瑠璃は、勧誘をする側となった。


「…瑠璃ちゃんの面倒見てくれて、ありがとね」

新しく部長になった香坂白夜が優愛にそう言った。

「ふふ。まぁ…あの子は私の可愛い後輩だから…。ティンパニとかをやらせると大変だけど」

そんな瑠璃にも1つ問題がある。

ドラムやティンパニなど叩いて音を出す楽器の扱い方が酷いのだ。

この1年だけで2、3枚程、ティンパニの皮を破っている。彼女は手加減を知らないのだ。

あとで、厳しく教えなければ。


東藤高校。

その頃、優月が困ったように、ため息をつく。

「…鳳月がいない」

鳳月ゆなは休みのようで,優月は孤独を感じていたその時…

「こんにちは」

後ろの方から、柔らかい声が聞こえてくる。自分に向けられたものだと優月はすぐに分かる。

「…こ、こんにちは」

後ろを振り返った彼は「えっ…」と息を呑んだ。


この男性に見覚えがあったからだ。

「小倉君だね。久し振りです」

「…久し振り…です… 」


彼が男性と会ったのは、ほんの1ヶ月前のことだった。


一般入試の日のことだった。

『…どこいったんだ』

その日は、風が強かった。

『…やばい。あと10分で…』

優月が探していたものは受検票だ。風に飛ばされどこかへ落としてしまった。

見つけられなければ、大変なことに…。

そうして数分程、駐車場を彷徨っていると、

『…おはようございます』

と誰かに話しかけられる。


『…お、おはようございます』

優月は泣きそうになった顔を、男性へ向ける。

『…受検生ですか。お名前は?』

しかし、男性は柔らかい声で彼にそう聞いた。


答えている暇は無いのだが、答えないわけにもいかない…。

『おぐら…小倉優月です…』

何とか、泣きそうな気持ちを堪えて、彼はそう答えた。


その時、男性の頬が少し緩む。

『…では、この受験票はあなたのものですか?』

そう言っては彼が出したもの。それは、探していた筈の受検票だ。

『はい…!ありがとうございます!』

優月が頭を深々と下げると、男性は笑う。

『車の下に落ちてましたよ。あと私は、井土広一朗(いづちこういちろう)です』

そう言って、井土広一朗(いづちこういちろう)はにこりと笑った。

『井土先生!ありがとうございます!』

『…いえいえ。入学お待ちしています』

そう言って、井土は去って行った。



ー現在ー

まさか…彼が、吹奏楽部の顧問だったとは…。

「あの節は、ありがとうございました」

そう言って、優月は、またも頭を深々と下げる。

井土が拾っていなければ,受験に間に合わなかった。彼には頭が上がらない。

「…打楽器やりたいの?」

井土がそう訊ねる。

「…は、はい」

すると、井土が美心の使っているドラムスティックをおもむろに掴む。

「ちょっと、いいかな?」

そう言って、井土がドラムセットを打ち始める。

「…好きな曲は?」

「えっと、スピッツ…」

それだけ言うと、彼は歌いながらドラムを叩き始めた。

ツ、ツ!パン!ツッツッ!パン!!

上手い…。と優月は震えた。ゆなと何処か似ている。

「…はい!」

井土はそう言うと、細い人差し指を伸ばす。

「…こんな感じで入部したら、叩けるようになるからね」 

「…あ」


その時、いつか話した優愛との会話を思い出す。

『優月くん、私のドラム変じゃなかった?』

『…ううん。凄くカッコ良かったよ』

優月がそう言って褒めると優愛が『ありがとう』と照れたように笑った。

『ねぇ…、やっぱり、ドラムって難しいの?』

『いやー』

彼の問いに優愛が真っ向から否定する。

『人にもよるけど、そんなに難しくはないよ。1カ月練習するだけでも、全然上手くなれるし』

『へぇ…』

何故だか彼は、そうだな…と思ってしまった。

『…何より楽しいから、優月くんでもできると思う』

ニヤニヤと笑う優愛に優月が眉をひそめる。

『…それ、どういう意味?』

『…別に。優月くん、リコーダーも吹けないんでしょ?』

確かにその通りだ。

『悪かったねぇ』

優月はそう言って、恥ずかしそうに笑った。そんな彼に優愛は頬を赤く染める。

『悪いことじゃないよ。私もピアノ投げ出しちゃったんだから人の事言えないし』

彼女が皮肉げに笑うと、優月は『…そんなことないよ』と言った。

好きな人だったからなのかは、分からない。だが彼女の言う事が正しいと思ってしまった。


「…入部したら、出来るようになるんですね…」

優月が独り言のように言う。

「…もちろん、努力の量によりますがね」

もう答えが出た気がする…。

「…他に候補は、ありますか?」

「…いえ。無いです…」

「そうですか…」

すると彼は、姿を消した。


「…小倉君、これを」

しばらくすると、戻ってきた井土が1枚の紙を渡してきた。

「…これは?」

渡されたものは縦30マス、横3マスの表が印刷された紙だった。

「部活の予定表です。一応、渡しておきますね」

「あ、ありがとうございます」

優月は、その紙を見て目を丸くする。

「…春isポップンフェスティバル?」

そう太文字で書かれていた所は4月の後半だ。

「そうです」

「これって、1年生も出るんですか?」

すると「ええ」と彼は答えた。

「現に、入部した鳳月さん…あ、いや、今日は、お休みのようですが、既に練習を始めていますしね」

ゆなが吹奏楽部に入ったのか…と優月は狼狽する。

「…あの人って、ドラム習ってたみたいなんですけれど…僕もドラムをやるんでしょうか?」

そんな訳は無い、と既に分かってはいた。

「いえ、タンバリンとか、簡単なものをやってもらいます」

「そうなんですね…」

打楽器自体、容易に触らせてもらえるものではなかった。だからか、彼の胸が高鳴る。

「…分かりました。入部を検討します」

「入部、待ってるね」

井土はそう言うが、既に答えは決まっている。

すると「あっ」と女の子が声を出す。ドラムを使いたいようだ。

そう思って優月は声のする方へと視線を移す。

しかし、そこにいたのは、トロンボーンパートであるはずの明作茉莉沙だった。

それを見た井土が「あっ!」と壁に張られた時計を見る。時刻は5時5分を指していた。

「…小倉君、今から合奏だから、また明日で!」

そう言われて、優月は帰路についた。


しかし、トロンボーンパートである筈の彼女が何故、ドラムを?


茂華中学校。

その時、古叢井瑠璃も「はぁー…」とくたびれ切っていた。

「…私が誘うだけで、逃げられちゃったぁ」

不機嫌そうな彼女をみて優愛は首を横に振る。

「そんなことないよ。ありがとう」

優愛に励まされた瑠璃は「…えへへ」と照れてしまった。

「…でも、部員をいっぱい入れたほうが楽しそうだよね。明日も頑張る!」

瑠璃がそう言うと「頑張ろう!」と優愛も笑った。



ー翌日ー

「皆さん、今日はミニコンサートに来てくれてありがとうございます!」

部長の雨久朋奈がそう言って、観客の1年生や教職員へお辞儀した。


「…あれ?」

すると優月の後ろの席に夏矢颯佚(なつやそういち)が座り込む。

「先生にサクラやれって言われた」

そう言う彼の顔はどこか不満気だった。

「アハハハ…」

優月は、乾いた笑い声を上げた。

「…あら、来てたんだ」

その時、鳳月ゆながわざとらしく、ニヤリと笑って隣の席についた。

「…鳳月こそ学校来てたんだ」

優月も仕返しのようにそう言った。それを聞いたゆなは、

「何言ってるのよ?同じクラスなのに…」

と不機嫌そうに頬杖をついた。

「…そうなんだ。僕、席が前の方だから全然気づかなかった」

目から鱗、優月の顔にゆなは「そうだな」と返した。

「で、吹部には、入るの?」

「…入るつもり。今日のコンサート見て決める」

その言葉に「そっか…」と、ゆなは頷いた。

その時だった。

「はいはい、静かにしてて」

女の子が氷水を流し込むようにそう言った。

「…はーい」

ゆなは反省したようにそう返事して、一言も喋らなくなったり

「…」

こう言ったのは、降谷ほのか。その冷たい視線はゆな、そして優月にも向けられていた。


間もなくして、演奏が始まった。

「あれ?」

しかし、優月はすぐに違和感に気づく。

「鳳月…。どうして、田中先輩がドラムやってないの?」

彼の言う通り、ドラムを打っていたのは、美心ではなく、茉莉沙だった。

打ち出されるリズムは全て正確。

そんな彼の問いにゆなは、

「…田中は、鍵盤楽器しか出来ないから」

そう言って、眉をピクリと動かす。


「先輩を呼び捨てする人、初めて見た…」

優月は、美心のことより、彼女が先輩を呼び捨てしていることの方が驚いた。

しかし、何故、彼女がドラムを叩けるのだろうか?


そして、手捌きも並み外れている。上手い。

少なくとも初心者では無いな、と優月はすぐに気付いた。

その後も、トロンボーンと、シンバルやグロッケン等を入れ替えながら、美心の手助けをするように演奏をしていた。


(…あの人)

ゆなは、茉莉沙を見て、感づいた。

自分より優れているかもしれない…と。


「すげぇ…」

ひとりひとりが生き生きと、演奏している。

入学式の時の演奏とはまるで比べ物にならないレベルだ。恐らく、極限まで極めたのだろう。

ここで3年間頑張るのも良いかもしれない。


演奏だけが全てじゃない…優月はそう感じた。


翌週、彼は、入部届けを提出して、吹奏楽部に入部した。

そして、優月もとんでもない計画に身を投じることになる。

ありがとうございました!

良ければ、

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