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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]地区コンクール大会 本編
39/208

月に叢雲花に風の章

地区コンクール大会編最終章です。

今回は、恋愛が絡んでいるので、瑠璃と想大に注目してくれると嬉しいです!!

月に叢雲花に風。それは、良いことには邪魔が入りやすいことの例え。月が出てきたと思ったら、雲に邪魔され、花が咲いたと思ったら、風に散らされてしまう。それを言い表している。


優月は、待ち合わせ場所である、茂華公園に来た。茂華公園は、茂華中学校のすぐ真横にある。

ブランコに乗って待つこと数分、誰かが、こちらへ来た。

「優月君!」

「あ…」

それを見た優月の眉が、少しひそめられる。

「堀田君」

そこにいたのは、茂華中学校吹奏楽部元部長の堀田俊樹だった。彼とは少し因縁がある。

「想大君に、誘われちゃって」

「そうですか、そうですか」

「まだ優愛ちゃんのことで怒ってるの?」

「皆にバラしたこと?全然怒ってませんよーだ!」

優月が皮肉のように言うと、堀田は「そうか」と頭髪をくしゃくしゃと掻き回す。

「東藤高校はどうだ?」

「普通。友達はあんまできないけど」

「吹部は?」

「すごく楽しい!」

優月は、そう言って笑った。


「おーい!」

その時だった。今度は想大が、こちらへ来た。

「うおお…」

「ふっ」

想大は、紺色の浴衣を着ていた。それを見た優月は想太の耳元へ、

『まさか、古叢井さんとデートだった!?』

と心配の声をかける。

しかし、想大は「別に」と何ともなさそうに言った。

だろうな、と優月も、これは本当だな、と無意識に思った。

「あれ?優愛ちゃんは?」

すると、堀田がそう訊いてきた。

「優愛は、多分、後輩と…」

優月は察したようにそう言った。その声は、普段の可愛らしい声とは違った低い声だった。




茂華駅の小さなホームに、列車が滑り込む。

降りた初芽が、思い切り腕を伸ばす。

「いやぁ、電車なんて、久し振りだった」

そんな彼女に、

「いや、電線ないから、鐵道だね」

と茉莉沙が突っ込んだ。

「あっ!」

すると初芽の目が、見開かれる。

夕日の斜陽に負けぬ光が、待ち構えていた。辺りからは、囃子の賑やかな音が響いていた。

「すごぉ」

すると、茉莉沙が初芽の手を引く。

「はいはい、早く屋台行きますよ」

「りょ!」

茉莉沙はどこか嬉しそうだった。


『そういえば、市営の時、私のお陰って言ってましたよね?あれどういう意味なんですか?』

かき氷の屋台に並びながら、茉莉沙は初芽に問う。

「あっ、いや、実は河又がクイズを出してきて…」

「クイズ?」

「そ!移動しない乗り物ってなんだ?っていうもん…」

「ブランコ」

初芽が言い切る前に、茉莉沙は、あっさり答えてしまった。

「最後まで聞いてよぉ」

苦笑混じりに初芽が言うと、茉莉沙は「すみません」と微笑した。 

「それで、ブランコって言えば、で思い出したのが茉莉沙なの」

「よく分かんないです」

初芽の弁解むなしく、彼女にはそう言われてしまった。

「だよね。私も茉莉沙のことを思い出したら、なんか迷いと緊張が吹っ切れて、呼吸が楽になったの」

「すご」

茉莉沙は思わず、そう口にしてしまった。

多分嘘ではないな、それは初芽の、真摯な瞳を見て感じた。



「優愛先輩、浴衣可愛いですね」

指原希良凛が、そう優愛を褒める。

「えへへ。そうでしょ?」

「はい!」

先輩と後輩のベタなやり取り。それを見ていた瑠璃には憧れでもあった。

(はぁ)

特別練習の日から、話しは、しているものの、未だ距離が縮まった感じがしない。

その上、全然、優愛と話せないのだ。

最初は、こうなるなんて思ってすらいなかった。新しい後輩に優愛を、取られるなんて…。


「瑠璃ちゃんも、かき氷食べる?」

「あ、うん!」

突然の優愛の問い。勿論、OKだ。

そうして、並ぶことになった。

すると、目の前にいた人物に、優愛が声を上げた。

「あっ!!」

何事かと、2人は、その先の人物を見る。

「はい?」

「あ、あの…この前、フルート吹いていた方ですよね!」

優愛が迷わずそう言った。その通り、目の前にいたのは、初芽結羽香本人だった。


実は、東藤高校と茂華中学校は、繋がりがある。春のイベントに、コラボ出演したことがあるのだ。

だから、多少は顔を知る者がいる。


「あぁ、市営の時か。そうですよ」

すると、茉莉沙が初芽の背後へ回り込んだ。

「そう言うあなたは、打楽器やってた子?」

「はい!!」

「でも、よく分かったね…」

「いやー、部長の白夜が、超褒めてたので!あれは全国いけるって!」

すると、茉莉沙が小顔を、初芽に向け「だって」と言った。

「あ…!」

すると、今度は瑠璃が、叫ぶように言う。

「ドラムやってた…!!」

その声に茉莉沙は「はい」とだけ言った。

え?人見知り?と瑠璃は眉をひそめる。

「いや、私、トロンボーン専門なので」

茉莉沙は控えめに言う。

「あー、大丈夫だよ」

心配する瑠璃に、初芽がにこりと笑う。

「この子、元パーカッションなんだけど、太鼓をやり始めると、覚醒しちゃうだけだから」

「えっ?覚醒?」

この人は何言ってんだ?瑠璃は思う。


そういえば彼女、ドラムを叩きながら、薄ら笑いのような何かを浮かべていた気がする。


「ちょっと…!初芽!」

良い所で、茉莉沙が制止した。

「確かに、私は打楽器やってました」

「け、敬語?」

優愛が、思わずそう言ってしまう。しかし、次の言葉で、それは吹っ飛んだ。

「御浦ジュニアブラスバンドっていう所で」

「えっ!あ、あの?」

「はい、あの」

「すごーい!です」

「どうも」

茉莉沙は、またも控えめに返事をした。

それにしても可愛いな、と瑠璃は思う。

「茉莉沙は、そこでトップだったんだよ!」

「えっ?こわ」

優愛が思わず言う。

こんな小さくて大人しめな女の子に、全国レベルの実力が隠されているのか、と。


すると、話している間に、初芽や茉莉沙たちの番になった。

「すみません、かき氷、ふたつ」

「あい!」

「何にする?」

「レモンで良いんじゃないですか?」


2人は本当に仲が良いな、と瑠璃は羨ましくなった。それと同時に、ずっと言いたかったことが、喉から飛び出す。

「ね、ねぇ、優愛ちゃん」

「うん?なぁに?」

「この前、何でも話、聞いてくれるっていったよね?」

「言ったねぇ。何かあったの?」

「あの…私、今度の本番こそ、ドラ…」

「えっ?」

しかし、瑠璃が言い終わる前に、優愛の声に、掻き消された。そんな彼女の声は、いつもの可愛らしい声では無く、焦燥にかられた声だった。

「希良凛ちゃん!!」

優愛が、名前で呼ぶことは珍しい。相当なことがあった時くらいだ。

「えっ?さっちゃん!?」

遅れて、瑠璃も気付いた。

指原希良凛が、いない。どこにも。

「さっちゃんが、いない!!」

「うん!!」

希良凛は、この町の祭りは、初めてだ。迷子になっても何ら不思議では無い。

(そんな…!さっちゃん!)

瑠璃は、悔しい気持ちを必死に呑み込み、優愛の手を引いた。

(早く…見つけないと…!)


「…だってさ、初芽」

「分かってる」

初芽は、2人の会話を聞いて、スマホを取り出す。

「迷子は放っておけない」

かけた先は、想大だった。




「うまぁ」

唐揚げを咀嚼しながら、想大が言う。

「よかったね」

優月は、そう言って、ポテトを口にした。照り焼きバーガー味。香ばしいなと思う。

「堀田君は、何か食べたいのある?」

「焼きそばかなぁ」

「じゃあ、並ぼう」

その時だった。

「ん?あのヒヨコ顔」

想大が足を止める。優月もその顔に、覚えがあった。

「あれ?指原って子?」

そこにいたのは、何かを探す、指原希良凛だった。

「あれ!」

想大は呼びかける。だが、祭囃子が少しうるさい、気がした。

「あっ…!この前の」

希良凛は、顔を上げる。

「あの…優愛先輩と瑠璃さん、見ませんでしたか?」

迷子か、優月が直感する。

「見なかったよ。あの、一緒に探しませんか?」

「お、お願いします」

この時、優月を見ていた想大は、初芽の着信に、気づけなかった。


そうして、屋台を歩きながら、優月が希良凛に訊ねる。

「さっちゃんは、2人に連絡したの?」

「うん。でもスマホの充電は切れちゃって…」

希良凛のスマホは、電源を起こしても、真っ暗な闇を宿すばかりだ。

「そうですか」

優月は、優愛へ連絡しょうと迷った。その時、

「あっ!瑠璃ちゃん!!」

想大が声を上げた。

「えっ?」

2人が振り返る。

「うん…うん…、分かった分かった!茂華駅の前で」

想大が通話を切ると、ニコッと笑う。

「茂華駅で合流するってさ」

「よ、良かった。ありがとうございます」

希良凛が頭を下げる。

その様子に、3人も安堵の息を、漏らした。



6時30分。

希良凛は、やっと瑠璃たちと再会した。

「良かった。さっちゃん」

優愛がそう言うと「ごめんなさい」と希良凛が、謝った。

「ううん、いいの。ごめんね、目を逸らしちゃって…、もう少し私がちゃんと見てれば…」

「…先輩」


そのやり取りを見て、瑠璃は何故か泣きそうになった。

違う、私がもっと見ていれば、と。


その時だった。

「お姉さん、奪われちゃった?」

ふと軽い声が響く。

「あっ、想大先輩」

その声の正体は、大好きな想大だった。

「あの、一緒に、花火見ない?」

「えっ?」

突然のお誘いに、ビックリする。

「い、いいの?」

「元々、その為の浴衣だし」

そう言って、彼は紺色の振袖をはためかせる。

断る理由は、無かった。

「うん!!」

すると、優愛へ想大が、声をかける。

「優愛ちゃん、瑠璃ちゃん、借りるねー!」

「わっ!」

2人は、そう言って、元いた大通りへ走っていった。


「瑠璃ちゃん…」

「優愛ちゃん、そっとしてあげて」

優月がそう言った。

「えっ?」

「で、コンクールの結果は?」

「銀」

すると、優月は「でも大丈夫」と笑った。

両想いな2人は付き合う、そう分かった。


しばらくすると、花火が上がる。

赤、青、黄昏色の花火が、ドーンと爆音を上げ、闇を綺麗に彩った。

「わぁぁ…」

「瑠璃ちゃん、これ」

花火へ釘付けになっている瑠璃に、想大が手渡したものは、かき氷だった。

白い氷粒に桃色のシロップ、ほんのりと甘い香りがした。

「えっ?いいの?」

「ああ」

「いただきます」

瑠璃はそう言って、ふたつあるスプーンのひとつを手に取る。

そして、一口、口に運んだ。

「甘ぁい〜」

瑠璃は、頬を押さえ、猫のように目を細めた。

目に入れても痛くないくらいの可愛さに、想大は少し頬を赤らめる。

「じゃあ、俺も」

想大も氷粒を、口に入れる。

「ほんと…だ」

「でしょう?」

しばらくすると、瑠璃の顔から赤が消える。

「想大先輩、あの私ね、コンクールの結果ね、銀賞だったんだ」

「銀賞、すごいじゃん」

「でも、金賞獲らなきゃ、付き合わないって…」

「そんな事、言ってたっけ?」

気まずそうに言う瑠璃に、彼は白を切る。

「正直言って、どっちでもいいや。銀でも金でも」

「えっ?」

一度、決めた約束だ。

「だって、俺が瑠璃ちゃんのこと好きっていう気持ちは、変わらないもん」

「えっ…?」

「その代わりさ、ひとつお願いがあるの」

「な、なに?」

「文化祭で、瑠璃ちゃんの演奏を聴きたい」

「いいよ」

だが、意味が分からなかった。

「瑠璃ちゃんの、本気の演奏がー」

「!!」

「なんか、さっきの後輩ちゃんに遠慮気味じゃなかった?瑠璃ちゃん、あの子に負けちゃうよ」

「負ける…」

それだけは、嫌だ。絶対に。


「想大くん!ちょっと待っててね…」

すると、瑠璃の目が、変わる。

『叢雲から月、風無き花』

この言葉の意味が、想大には分からなかった。

「私、今度こそ、想大くんと付き合えるように頑張る」

「えっ?」

「それまで、待っててね」

別にいいけど、とは言えなかった。


瑠璃の目には紅い狂気。どこか茉莉沙にも似ていた。

そして、この後『文化祭編』で、瑠璃と希良凛が火花を散らすことになるのだ…。



それから、数日後。

「えっ?文化祭!?」

「そう!私、さっちゃんとドラムソロで、競うの!」

「えぇ…」

そんなことする必要ないだろ、と優愛は思ったが、何も言わなかった。

別に、瑠璃がドラムを任せられただろうに…。


しかし、そんな思惑は大きく外される。

その前に、地区コンクール大会だ。

読んでいただきありがとうございました!

次回もお楽しみにしてください!!!!


【次回】

最後の執念… パーカッションソロの奇跡

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