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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]地区コンクール大会 本編
38/210

祇園祭りの章

こんにちは!

今回は、祇園祭りの回です!

みんなは、お祭り、誰と行きたいですか??

最後まで読んでくれると嬉しいです!!

「初芽先輩のフルート、上手かったですね!」

同じフルートの心音が、そう言った。

「うん。なんか、いつもより呼吸が楽になった気がして」

「ええ、怖い」

すると、茉莉沙が初芽へ突っ込む。

「初芽ぇ!あんな音、初めて聴いたんですけれど!」

普段は大人しい彼女も、この時ばかりは、興奮していた。

「ふふん、茉莉沙のお陰だよ」

「?」

そうなのだ。

茉莉沙との会話を思い出して、その後、頭の中で迷いと緊張が切れたのだ。


「フルート、凄く綺麗だったな」

チューバ担当の向太郎もそう言って、ニヤリと笑う。 

「そうですねえ」

ユーフォニアム担当の悠良之助も、同意を示した。


打楽器の搬送が終わり、優月たちも戻ってきた。

「想大君、ただいま!」

「あっ、おかー!」

2人は、お互いに、手を振り合う。

「やばかったな!」

「ああ、明作先輩のドラム?」

「じゃなくて!!初芽先輩のフルート!!!」

どうやら、管楽器の部員たちは、初芽の覚醒の話題で持ちきりのようだ。


「確かに…」

今までとは、比べ物にならないくらい、澄まされた優しい音。 

まるで、あの香坂の演奏に、追いついたかのようだった。


その時、部長の雨久が、パンパンと手を叩く。

「はい!時間まで、他団体の演奏を見ていてください!ホール内はお静かに!!」

すると、部員は向き直り、

『はい!』

と返事した。


彼等が入って丁度、御浦ジュニアブラスバンドの演奏だった。

楽団は、県内全域の小学生から高校生までが、加入できる。茉莉沙も、かつては、そこでトップ奏者だった。


「やっぱ人数、違うわ…」

むつみが、こう言った。ぞろぞろと人が、入ってくる。A編成全員で55人。

それぞれが、楽器を構える。

金色のトランペットやホルン、サックス、銀色に光るフルート、オーボエ。

その無数の楽器が、高級な煌めきを放つ。


指揮者の速水が、タクトを構える。

すると、スッと音もなく、楽器を構えた。無音の構えに、誰かの生唾をのみ込む音だけが、残る。


誰かが、トランペットを吹く。高くも、落ち着いた音。その音がビリビリと、空気を震わせる。

音乃葉や翔馬も、トランペットを吹き出す。

このふたりは、楽団内でもトップの実力者。いわば、県内や全国レベルにも、匹敵する実力を有している。


次々と他の楽器も、増えていく。

そして、遠雷を想像させるかのようなティンパニの音。

次の瞬間、パシィンとシンバルが打ち鳴らされる。

その音から飛び出すように、管楽器の華奢な音が響き始める。


(うま…)

普段は、真面目な雨久でさえも、思わず心の中で叫んでしまう。

(相変わらず、クオリティ、高いな)

音楽音痴な悠良之助でさえも、そう思った。


沢柳も、打楽器を打ち鳴らす。彼もトップレベルの奏者だ。格が違う。

音は正確、生き物に命を吹きかけるかのようだった。


茉莉沙も、元々は彼と共に、行動していた。

(沢柳も、相変わらず凄い)

彼女も、ひっそりと賞賛を送った。

楽団時代、彼のことは嫌いだった。年下というのに、澄ました態度、絶対的な自信に裏打ちされた実力を突きつけられたから。


しばらくすると、オーボエの音が響き渡る。その音は、情熱を音で奏でるようだった。燐火のオーボエは、群を抜いて上手い。ホール内に熱を注ぐように。

すると、ホルンやフルートも、存在感を表してきた。

御浦ジュニアブラスバンドクラブ。例年通りの大成功を、収めた。



帰りのバスに乗った、優月たちに、雨久が確認を取る。

「乗ってる人は、返事してくださーい!」

『はーい!!』

雨久が、人数を数える。17人丁度だ。

「挨拶します!お願いします!!」

『お願いします!!』

すると、バスはゆっくりと動いた。タイヤが砂利を踏むカラカラという音が、僅かに耳に残った。


「すーっ…すーっ…」

部員の半分は、眠りに落ちていた。

「初芽…」

茉莉沙が、眠る初芽の肩を叩く。

「…うん?」

茉莉沙が起こしてくるなんて珍しい、と思いながら、初芽は目を覚ます。

「今週の夏祭り、浴衣でもいい?」

茉莉沙がそう言った。

「えっ?茉莉沙、浴衣持ってるの?」

「うん。お母さんに、新調してもらったから」

心を許した友人の前なら、彼女の口調も、ラフになるらしい。

「じゃあ、私も浴衣着よ」

「茂華駅に集合だよね?」

「で、いいんじゃない?」


茂華祇園祭りは、町の大通りに屋台を構え、神輿や山車が通るイベントだ。夜になれば花火大会もある。このイベントが何気に、部員の楽しみでもあった。


「でも、本当に良いの?冬樹君と行かなくて」

「何言ってんだ、友達と行くっつってんだろ」

茉莉沙は、苦笑混じりにそう言った。彼女がこんな口調になるのは、非常に珍しい。

「そだね」

初芽も相槌を打った。





土曜日。

茂華駅で、電車を待ちながら、想大が言った。

「うぁぁ…!今日も部活かぁ」

「そだねー」

優月もそう言って、スマホを見る。

7月28日。今日は花火大会だ。朝からお囃子の準備を始めている。

「でも、午前練だし、いいじゃん。帰ったら、着替えて集合しよう」

優月は、そう言って、青ジャージのズボンのポケットから、イヤホンを取り出した。


茂華中学校の音楽室も、今日ばかりは、夏祭りの話題で持ち切っていた。

「久奈先輩、木管で行きましょうよ!」

「いいね」

「トランペットパートで行きたかったなぁ」


瑠璃も、先輩の優愛と話していた。

「えっ?ユーフォの子?」

瑠璃がきょとんとすると「そう」と優愛が頷いた。

「希良凛ちゃんのお友達も、一緒に行きたいんだって」

「大丈夫だよ」

「良かった」

すると、指原希良凛がこちらへ、駆け寄ってきた。

「優愛先輩、瑠璃さん、おはようございます」

「おはよう」

2人も返す。

(…さっちゃん)

瑠璃はずっと引っ掛かっていた。希良凛とは、人並み話しているはずなのに、未だ『さん』付けだ。

「はぁ…」

特に深い意味は無いのだろうが、あったら、どうしょう?時々そう考えてしまうのだ。



『はい!そこのランペ、しっかり音を合わせてくださいね!』

「はい」

雨久と氷空が返事をする。

「あとは、初芽さん、市営のときのように、指回し、してください。本番だけできて、練習では、できないっていうのは、無いと思うので」

「は、はい」

初芽は、不満そうに返事した。

(あれ?どうして指回りできたんだっけ?)

あれは、一時的な覚醒だったのか、と初芽はひとり落胆した。

「コバのホルンも、あんまり無理しないで大丈夫ですよ!」

「は、はーい」

市営の時、少し間違ってしまったからな、と想大は思った。

「ゆゆも、ティンパニの打ち方が、強いです。壊れちゃうかもしれないから、もう少し弱めてください」

それを聴いてプッと想大は、笑ってしまった。

何故か、脳裏には、優月と瑠璃の不遜な顔が、浮かんだ。



12時には、練習が終わった。

「先生、ハイハットのオープン・クローズって、どうやってやるんですか?」

井土に、優月が訊ねた。

最近、できるようになりたいな、と思っていた。

それに、優愛はハイハットのオープン・クローズを知らない。

「ああ、それは、こう」

井土は、ハイハットを叩く。次に、足を少し浮かした。そこにもう一発。

ツッツゥー…

「で、バスドラを常に踏むっていう感じ」

「なるほどです」

「まぁ、ハイハットを打つ回数を減らすっていう感じかな…」

「ありがとうございます」

優月は、そう言って、ドラムを打つ。その時、

「優々(ゆゆ)、スティックの腹で打つんじゃなくて、先端で打つんだよ」

井土が踵を返して、そう言った。

「これじゃ、ダメー!」

そう言って、井土は、おもむろにスティックを棚から取り出し、ハイハットへスティックを叩きつけた。

ザンザン!!

「は、はい」

井土は、多少大袈裟にやってくれるので、分かりやすい。


井土が、休憩室を出ると同時に、想大が入ってきた。

「さて、セッションしますか!」

「う、うん」

優月も慌てて、スティックを構えた。

そして、暫く、自由に演奏を始めた…。




午後4時。瑠璃と希良凛が先に、待ち合わせ場所に集合する。

「あれ?さっちゃん、皆は来たの?」

「いえ、まだですね」

希良凛は、円らな瞳を、細める。

「そっか…」

「瑠璃さん、可愛いですね」

希良凛の放った言葉に、瑠璃は頬を赤らめる。

「あ、ありがとうね」

瑠璃は、檸檬の浴衣を着て、二つ縛りのゴムも、キャンディーがくっついていた。普段見ない可愛らしい姿だ。

「去年は、私服だったけど、今年こそは、って浴衣着てみたの」

頬を赤らめた姿がまた可愛らしい、と思った。


「あっ!」

その時、優愛たちがこちらへ手を振ってきた。

「優愛お姉ちゃん、香坂部長」

瑠璃の目が、大きく見開かれた。

優愛も、桃色の浴衣を身に纏っていた。

「こんにちは」

希良凛が会釈すると、優愛が手を振って返した。

「じゃあ、優愛、私は凪咲のとこ行ってくるから」

「あーい。ユーフォの子、来るまで待ってればいいんでしょ?」

「ああ、それなら大丈夫って、グループで」

香坂のメールの文面を見た優愛が「ええぇ…」と苦い顔をした。

どうやら、クラスメートと行くことになったらしい。

「分かった。じゃあ、2人共、行こっか…」

そう言った優愛の桃色の振袖が、はたりと翻った…。

ありがとうございました!

良かったら、

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次回

月に叢雲花に風…。瑠璃と優月…

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