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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]地区コンクール大会 本編
37/208

市営コンクールの章 

今回は、本番回です!

そして、いつもより、倍増!8000文字です!!


交差する明作茉莉沙と初芽結羽香の友情を、お楽しみ下さい!!

優月たちが、入る頃には、各団体の演奏が始まっていた。

11時には、優月の母校である茂華中学校の、演奏が始まっていた。


「やっぱ、茂華中は、上手いわねぇ」

優月の、右隣にいる2年生の井上むつみが、そうつぶやいた。

むつみは、吹奏楽に詳しいらしい。そんな彼女の普段の容姿は、白髪、赤い瞳に白い肌と、アニメから切り取ったかのような美しい容姿だが、今日は黒髪に真っ黒な瞳に染めている。


「今年は、難しそうなやつ選んだなぁ」

優月の左隣にいる、親友の小林想大も、そう言った。

「そうだね」 

優月も、相槌を打つ。


今年の茂華中学校の自由曲は、『メトセラⅱ』という曲だ。オーボエやパーカッションのソロがあることが、特徴だ。


その時、太鼓の音が、ホールを突き抜ける。祭りのような曲調に、優月たちの目が、釘つけられる。

(すっげ…)

優月は、思わずそう思った。

完璧過ぎる、素人だろうと、この曲を知らなかろうと、完璧に仕上げられていると思う程に。



『中学校の部はこれにて終了です』


このアナウンスを背に、優月は想大に、話しかける。

「茂華中、相変わらず凄いなぁ」

「だよね」

ソロが完璧だった。と2人は喚くように話し合った。


その時、明作茉莉沙もロビーで、友達の初芽結羽香と話していた。

「やっぱり茂華中は今年も金賞かな」

初芽がそう言うと、茉莉沙は肩を竦める。

「オーボエの音が、微妙にズレてた。あと、太鼓を打ってた時も、淵に何回か当たってた」

「えっ?」

すると、茉莉沙は真剣な顔つきになる。

「ソロのミスを、見抜かれなければ、いけるんじゃないかな?」

彼女の批評に、初芽はドキッと胸が鳴る。

ソロでのミスは、少し痛手だ。

「そ、そうかな?」

慌てる初芽に、茉莉沙は「うん」と冷徹に頷く。

「オーボエは多少の、緊張から出るズレでしょうけれど、パーカスソロは焦りが顕著に出てましたから」

「そんな…」

他人の学校だが、心配になる。それが初芽結羽香という人物だ。

それを見て、茉莉沙は思わず、吹き出す。

「まぁ、今回は県大会行きの大会じゃないし、講評を見て、地区コンクールは更に、完成してくれると思いますよ」

「あぁ。それなら良かった」

まるで自分事のように、心配する初芽に、茉莉沙は目を細めた。

昔から変わっていないな、と。

しかし、茉莉沙の目に、少し黒が宿る。

(それにしても、ずっと鍵盤やってた子に、いきなり太鼓をやらせるとは、先生も鬼ですね)

彼女は、心のどこかで、そう思っていた。


その時だった。

前の方から「茉莉沙ちゃーん」という声が聴こえてくる。

「ん?」

茉莉沙が、前を見ると、そこには、一人の男の子がいた。

「あ、冬樹くん」


彼の名は、港井冬樹(みなといふゆき)。御浦ジュニアブラスバンドクラブでトロンボーンをしている中学1年生だ。


そんな彼が、茉莉沙に駆け寄る。

「探したんだよ〜」

冬樹は、クラブ時代から、茉莉沙のことが大好きだ。

「探してくれたんだ。ありがと」

茉莉沙も、嬉しくなり、頬を緩める。

すると冬樹は、初芽に向かって、

「こんにちは」

とお辞儀した。

「こんにちはー」

初芽も笑って返す。

「冬樹くん、そろそろだよね?本番」

「うん!!」

その時だった。


『美しく吹く事こそ奏者の誉れ…』

『緊張してるのか?』

聞き覚えのある声が、聴こえてきた。片岡翔馬と薬雅音乃葉だ。


「あ、音乃葉ちゃん」

茉莉沙が、小さく手を振る。

「あ、メイちゃんだ」

音乃葉が嬉しそうに、返事する。

「明作さん、こんにちは」

翔馬も、ぺこりと頭を下げた。



「明作先輩と初芽先輩、何してるんだろう?」

優月とゆなが、2人を探していた。

「メイさんと初芽、先生が呼んでるのに…」

館内はスマホを禁止されている。よって、電話を掛けることができないのだ。

「あっ!」

だが、優月は、2人を見つける。

「鳳月、ロビーの方!」

「はぁ?」

ゆなが訝しげに、2人を見る。

「誰だ?あの3人…」

彼女らがみたものは、茉莉沙と初芽が、男女数人と話していた所だ。


優月は、一瞬戸惑ったが、ゆなは、ズカズカと数人の群に歩み寄る。

「ちょっとー!」

その声に、驚いた茉莉沙がこちらを見る。

全く…と優月も彼女を追った。


「あっ…。鳳月さん」

茉莉沙が、顔を少ししかめる。

「あなた、誰?」

鈴木燐火が訊く。

「私は、鳳月ゆな。あんたこそ誰よ?」

ゆなが不遜な態度で答えた。探すのに手間取って苛々しているようだ。


「私は、泣く子も黙る、鈴木燐火26位!つい先月までは、27位だった!」

その答えに、優月が眉をひそめる。

「その順位は何ですか?」

そう訊ねると、燐火は、

「鈴木ランキングって言って、私が世界で何番目に有名な鈴木か、数えてるの」

と答えた。

「へ、へぇ」

2桁と言い張れるくらいなのだから、実力は相当なものなのだろうな、と思った。

「あっ…!」

その時、優月があることに、気づく。過去に彼女の名前を、茉莉沙から聞いている。

「もしかして、オーボエやってる方ですか?」

優月が、そう訊ねた。

「うん。そうだよ」


鈴木燐火。吹奏楽界では有名な名で、『焔のオーボエ奏者』という異名を持っている。そんな彼女は中学3年生だ。


「ほぉ。2人は見ない顔ですね」

すると、今度は翔馬が、口を挟んできた。

「殿方、名は?」

「お、小倉優月です」

優月は、彼の異質な口調に驚きながらも、そう答えた。

「あ、あなたは?」

「俺は、片岡翔馬。トランペットをやっている」

「へ、へぇ…」

トランペットといえば、部長の雨久や、同級生の黒嶋氷空(くろしまそら)も、吹いている。


「じゃあ、後ろにいる、その方も?」

優月は、初対面や知らない人には、必ず敬語を、使ってしまう癖がある。良いことなのだろうが、何だか堅苦しく思ってしまう。

すると、糸目の女の子が前へ出る。

「そうだ。私は薬雅音乃葉。トランペットが大好きだ!高校2年生だよ」

「あっ…!先輩でしたか」

優月は、そう言って、彼女から目を逸らす。

しかし、ゆなは「ダサ」と冷水をぶち撒けるように言った。

「苗字か?私としては、お気に入りだよ」

音乃葉が自信満々に、言った。彼女の声は、有無を言わせないもののそれに、よく似ていた。

それにしても、と優月は思う。薬雅という苗字を気に入るなんて、彼女のセンスは一体、どうなっているのだろう?


「それよりも、メイさんも、打楽器の運搬を、手伝ってだってさ!」

「ああ。分かりました」

茉莉沙は、そう言って、初芽の手を取った。

「じゃあ、行きますか」

「そだね」


その様子を見て、優月がゆなに言う。

「鳳月もあれくらい人望あったの?」

「あるわけ無いでしょう?」

「そーだよな!」

「フン」

2人が軽い口喧嘩をしていたその時、真後ろから、

「あっ!この前の!」

と、声が聴こえる。

優月が、振り向くとそこにいたのは、沢柳律だった。彼は、楽団トップレベルのパーカッション奏者だ。彼と茉莉沙は犬猿の仲だ。

優月も一度、会ったことがある。だが、どうにも悪い人には見えないのだ。

「久し振りです」

優月が振り向きざまに、そう言った。

「誰?」

しかし、ゆなは彼を知らない。

「俺は、沢柳律。打楽器奏者だ」

「あっそ」

しかし、ゆなにとって、他校のことは、興味が無いようだ。

「スマホ取りに行こー」

彼女は、逃げるように待機場所である、2階の入り口付近へ、去っていった。

「演奏、楽しみにしてます」

優月も、それだけ残して、ゆなの後を追った。


「なんだか…メイと指原に似てるなぁ」

そう言って、沢柳も、音乃葉たちと、持ち場へ戻って行った。



「あったあった!」

ゆなが、上機嫌に、スマホを取り出す。

「そんなの持って、どうするの?」

同じパーカッションの田中美心が、訊ねる。そんな彼女に、ゆなは肩を竦める。

「えっ?空き時間でショート見るんだよ」

「はぁ?」


それを遠目から、優月と想大は見ていた。

「本当、スマホ好きだよな。ゆなちゃん」

「うん。なーんか、異常な気もするけど…」

優月は、そう言ってゆなを、見下ろした。

ゆなの演奏は完璧に仕上げてくるのに、態度と節度が欠如しているのは、少しもったいないな、と思った。


『あー?想大先輩?』

その声に想大が、振り返る。振り返った先には、集団で3人の女の子がいた。

「瑠璃ちゃん!」

声をかけたのは、古叢井瑠璃(こむらいるり)。茂華中学校吹奏楽部で打楽器を担当している2年生だ。

「優愛ちゃんに、あれ?その子は?」

想大は、気になったことを、すぐ口に出す。

彼は、近くにいる女の子へ、視線を見せる。

「ああ、指原希良凛ちゃん」

すると、優愛が代わりに、そう答えた。

「もしかして、2人の後輩?」

と優月が訊ねる。

「そうだよー」

優愛は、そう言って、彼女の茶髪を、そっと撫でた。

希良凛は、円らな瞳、綺麗な前髪に茶髪と可愛らしい女の子だった。

「こんにちは…」

希良凛が口を開く。その声は、あまりにも高く、ふんわりとしていた。

「こんにちは」

と2人も返す。お辞儀している辺り、しっかりしているんだろうな、と思う。


「ゆゆー!行くぞー!」

その時、ゆなが低い声でそう言ってきた。その声は、いつものように、高らかになることなく、響いた。

「あっ、うん!」

すると、優月は、想大たちに、

「行っくる」

と言って、ゆな達の元へ行った。


「優月先輩、パーカスなんでしょ?」

去った優月を見て、瑠璃が言う。

「そうだよ」

すると、先輩の女の子が、こちらへ話しかけてくる。

「想大君、楽器の準備、行くよー」

その声が、あまりにも普通だったので、

「はーい」

と想大も、何気ない風に彼女と歩いて行った。


「希良凛!」

その時、希良凛に誰かが話しかけてくる。

「あっ、海咲ちゃん」

「今の先輩、かわいくなかった!?」

想大達のことだろう?と瑠璃は、少し頬を緩ませた。

それにしても、希良凛も転入生なのに、友達が多いな、と度々思う。正直羨ましかった。




「はいはーい!」

美心が、優月たちを先導する。

「小倉君はティンパニのチューニングして」

「はい…」

今は、休憩中だ。出番は次だ。

「よし…」

優月は、真っ白な玉をしたマレットを、そっと握る。

実は今回、優月はティンパニを任されていた。



『えっ?ティンパニですか?』

『そーです!!』

『絶対に、鳳月さんの方が、適任じゃないですか?』

『いやー、ゆゆしか、いないの!ホーさんは、和太鼓とかで、移動が大変だし、田中さんは、鍵盤に引っ付いてるし、メイさんは、トロンボーンの部分が入っているから』

『つまり、私が暇だと?』そう言いたくなったが、井土が言うなら仕方ないことだ。


優月は、チューナーをティンパニの打面に、近付けながら、マレットを振り下ろす。

ポン…ポン…パン…

優しく叩かないと、正確に音を掴みづらい。

ペダルをゆっくりと踏みながら、音を変えていく。

モニターの針が、Aへ止まると、優月はマレットを離した。


「あぁー…重い…」

ドラムセットを、持ちながらゆなが言う。

「そんなこと言わないの!アンタがいつも使ってるんでしょー」

美心がそう言って、肩をすくめた。

その割には、涼しい顔でどこか余裕そうだった。


「チューニングできました?」

その時、茉莉沙が優月へ、話しかけてくる。

「はい!オッケーです」

「いやいや」

その時、茉莉沙が、右足をペダルに突っ込む。彼女はマレットを打面へ小さく振る。そして少し、ペダルを上げた。

「多少、低いよ。このままじゃ、演奏中、調子狂っちゃうからね」

「あ、ありがとうございました」

「いえ」

茉莉沙は、そう言って、何事も無かったかのように、小ホールへ戻って行った。

彼女は本当に凄いな、と優月は思った。




その頃、管楽器隊も、合流しようとしていた。

「ふぅー…」

想大が、深呼吸する。白い照明に照らされ、ホルンは銀白に反射する。

「大丈夫」

その時、奏音がそう言った。

「何か、特別なことをしようとするから、いけないの。いつもの練習するように、吹けばいい」

奏音の手に持ったホルンも、白い光を放つ。金色のホルンなのに、なんだか他の色に見えてしまう。

「…はい」

想大は、そう返事した。奏音はそんな彼を見て、クスッと笑った。

経験者は心臓が強いな、彼は初めてそう思った。

「茉莉沙…」

初芽も、茉莉沙が少し心配だった。流石に、2つの楽器をこなせるのか?

練習中、何度も打ち切ってまで、茉莉沙のトロンボーンとパーカッションを入れ替えることのできる時間を計ったのだ。


その時だった。ユーフォニアムの河又悠良之助がこう尋ねてきた。

「乗っても、移動しない乗り物ってなぁんだ?」

「えっ?」

突然のクイズ。

「なに?ヒント」

「『乗る』けど『移動』はしない。そのまんま」

「えっ?乗るけど、移動は…しない?」

その時、誰かが、クスッと笑った。

「初芽、緊張してる?」

部長の雨久朋奈だ。その手にはトランペット。

「普段の初芽なら、答えられるだろうに」

「そうだよー」と井上むつみも言う。

「…しょうがないなぁ。『遊具』だよ」

そろそろ、舞台裏なので、悠良之助も助け舟を出すことにした。

「遊具?…もしかして、ブランコ?」

初芽は、そう言って答えた。

「正解!!以上、悠良之助のくだらないクイズでした!」

悠良之助は、小さな声で正解を告げた。

「先輩、緊張してますね」

流石に、と後輩の岩坂心音もそう言った。

「ま、俺もだけど」

心音も緊張、しているようだ。


その時だった。

ブランコと言えば、と初芽は何かを思い出す。

それは、中学の卒業式の直後、遊んだ日の会話。


『茉莉沙、高校の部活、何にするの?』

『えっ?決まってないです』

『てことは、吹部、辞めちゃうの?』

すると、茉莉沙がくすっと、笑う。

『辞めたら?』

『闇落ちします』

その答えが、面白かったのか、茉莉沙は珍しく声を上げて笑っていた。

『大丈夫だよ。輪廻の輪に還ったとしても、私は吹奏楽を、辞めないと思う』

その答えに、初芽もプッと吹き出す。

『それ、どういう意味?』

『深い意味はないですよ』

『じゃあ、茉莉沙と一緒に吹けるのかな。茉莉沙が太鼓、私がフルートで』

『ふふっ。それはやってみたいね』

茉莉沙が、深紅の瞳を、大きく揺らした。



そうだ、あの日の会話を、ブランコで思い出した。ずっと忘れていた。

「そうだね。私、緊張してたね。でも」

その時、初芽がフルートを光で、ちらつかせる。

「もう解けたよ」

その時の彼女の、表情は自信に満ちていた。


そして、ついに本番だ。

各々が、楽器を構え、席へ着く。


(初芽)

その時、茉莉沙もトロンボーンを、構える。

「ふぅ…」

去年は、楽器の掛け持ちは無かった。去年、先輩が抜けたから、打楽器を手伝っただけの話。

だが、今はもう違う。パーカッション奏者でもあるし、トロンボーン奏者でもある。


「おお…!メイちゃん、決まってる!」

「語弊凄そうだな…」

それを、音乃葉と燐火が見ていた。

「あの時、阿櫻に稽古つけられてきたからな。楽しみだ」


『続いて、16番、県立東藤高等学校吹奏楽部、『百年祭』、『サママ・フェスティバル』』

すると井土が、指揮棒(タクト)を構えた。それに呼応するように、部員も楽器を構えた。

そして、初芽と心音が、息をゆっくりと吹き込んだ。


刹那、フルートの優しい伸びやかな音が響いた。そして、ほのかもクラリネットを吹き始める。

そして、少しづつ音が増えていった。

それでも、フルートの音響は、死なない。氷の温度のような高く落ち着いた音は、まるで氷の不死鳥のようだった。

どこまでも飛んでいけるかのような、途切れることを知らない、フルートの音。


(初芽先輩!)

心音も、フルートを吹きながら、激しく脳が揺さぶられるのを感じた。

彼女は覚醒したのか?

こんな音、今まで聴いたことが無い。


(すごい…)

茂華中学校吹奏楽部の部長の香坂も、そう思わずには、いられなかった。


(初芽、覚醒したのか?)

茉莉沙も、トロンボーンを吹きながら、そう思った。まるで強豪校の奏者のようだった。

そして、茉莉沙もスライドを引く。


その時、茉莉沙も何かを思い出した。

1年前…。何故、そんな前のことを思い出したかは、分からない。でも不意に思い出した。


『上手いね。茉莉沙のトロンボーン』

『そんな…。友達から教わっただけです』

『またまたー』

初芽は、茉莉沙の腕を人差し指で、突いた。

『私も、茉莉沙に追いつかれないように、頑張らなくちゃだなぁ』

『えっ?』

『だって、茉莉沙の努力で勝てる人、絶対にいないんだから』

そこまで言われると、少し照れる。

『始めた時間と能力は関係ない。私、茉莉沙を見て初めて実感した!』

それを言われて、声が出せなくなった。



そんなこと無かったじゃん、今ここで無性に言いたくなった。

初芽も心音と共に、必死に吹いていた。

自分と同じように。


そして、トロンボーンのスライドを、再び引いた。

その音は、一音外すことのない、正確な音。熟練者のような研ぎ澄まされた温かな音。

トロンボーンとフルート、そして、他の音が、ホール内で、絡み合った。

そして、ゆなも、必死に和太鼓を叩く。

ドドドドン…!

厳かに響いた。

優月も、必死にティンパニを、叩いた。

美心も、負けずビブラフォンを打つ。

最後まで、失速すること無く、吹き続けることができた。

こうして、百年祭という曲は、幕を閉じた。


会場は、拍手が巻き起こる。

続いて、茉莉沙がスティックを打ち鳴らす。

そして、シンバルを打った。


この曲は、茉莉沙がドラムをやる曲だ。彼女たっての希望で。

すると、先程とは一変、手拍子が起こった。

優月も、タンバリンを天へ掲げ、手のひらで、音を打ち出す。

美心とゆなも各々の鍵盤を、打った。


井土は、指揮するばかりで、話が違うが、まぁいいだろう。


茉莉沙が、ドラムを打つ内に、何かを思い出す。

それは、またしても、初芽との会話。



春休みだっだろうか、ブランコに乗っていた時だ。

『茉莉沙の太鼓と、私のフルート、合わせてみたいな』

『えっ?』

『茉莉沙のドラム、凄かったじゃん。あんな笑いながら叩くんだもん!』

『えっ?あれは無意識で…』

そうなのだ。余裕からなのか、楽しいからなのか、何故か薄ら笑いが浮かんでしまうのだ。

『あれ、また見たい』


そんな事言ってた。

(…ふふっ)

その時、茉莉沙の目の色が変わる。どこか狂気に塗れていた。

その時、ドラムの音が、更に大きくなる。

自分にとっては、これくらい普通なのだが、世間では、ヤバいと思われるくらいの。


大きくハイハットが揺さぶられる。スティックを振る度、タムやシンバルは揺れ、会場を爆音で包んでいるのが、分かった。

テクニックも凄い。タムを打った衝撃で、手首を脱力させ、反動でシンバルを打つ。

この技術は、沢柳から勝手に吸収して、得たものだ。


音力技術共に、瑠璃や希良凛の脳が揺さぶられる。

「すごい」

「えぐ…」

それくらい、茉莉沙のドラムは、常軌を逸していた。それくらい上手い。


そんな、彼女のドラムと管楽器の演奏は、あっという間に、幕を閉じた。

再び拍手が、会場を包む。


「悪魔復活か」

それを見た沢柳が、嫌らしく笑みを浮かべた。

彼は、狂気&本気状態の彼女を、何度も見てきた。ああなると誰にも手を付けられなくなるくらいの化け物になる。

「上手いなぁ」

それを見た、後輩の指原莉翔も、思わず賞賛を送った。


演奏が、終わった茉莉沙は、ポタポタと汗を流しながら、笑った。

やっと終わった、と。


「あの女の子、すごいですね」

希良凛が、そう言った。

「そだね」

瑠璃も、そう同意した。

しかし、彼女の表情も、狂気に満ちた茉莉沙に、少し似ていた。

そして、これをキッカケに、瑠璃も手につけられない存在になるのだ。


近い未来、瑠璃と希良凛は、対立する…。

長いお話し、読んで頂き、ありがとうございました!

[次回]

優月と想大、瑠璃と希良凛と優愛、夏祭りに行く…


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