市営コンクールの章
今回は、本番回です!
そして、いつもより、倍増!8000文字です!!
交差する明作茉莉沙と初芽結羽香の友情を、お楽しみ下さい!!
優月たちが、入る頃には、各団体の演奏が始まっていた。
11時には、優月の母校である茂華中学校の、演奏が始まっていた。
「やっぱ、茂華中は、上手いわねぇ」
優月の、右隣にいる2年生の井上むつみが、そうつぶやいた。
むつみは、吹奏楽に詳しいらしい。そんな彼女の普段の容姿は、白髪、赤い瞳に白い肌と、アニメから切り取ったかのような美しい容姿だが、今日は黒髪に真っ黒な瞳に染めている。
「今年は、難しそうなやつ選んだなぁ」
優月の左隣にいる、親友の小林想大も、そう言った。
「そうだね」
優月も、相槌を打つ。
今年の茂華中学校の自由曲は、『メトセラⅱ』という曲だ。オーボエやパーカッションのソロがあることが、特徴だ。
その時、太鼓の音が、ホールを突き抜ける。祭りのような曲調に、優月たちの目が、釘つけられる。
(すっげ…)
優月は、思わずそう思った。
完璧過ぎる、素人だろうと、この曲を知らなかろうと、完璧に仕上げられていると思う程に。
『中学校の部はこれにて終了です』
このアナウンスを背に、優月は想大に、話しかける。
「茂華中、相変わらず凄いなぁ」
「だよね」
ソロが完璧だった。と2人は喚くように話し合った。
その時、明作茉莉沙もロビーで、友達の初芽結羽香と話していた。
「やっぱり茂華中は今年も金賞かな」
初芽がそう言うと、茉莉沙は肩を竦める。
「オーボエの音が、微妙にズレてた。あと、太鼓を打ってた時も、淵に何回か当たってた」
「えっ?」
すると、茉莉沙は真剣な顔つきになる。
「ソロのミスを、見抜かれなければ、いけるんじゃないかな?」
彼女の批評に、初芽はドキッと胸が鳴る。
ソロでのミスは、少し痛手だ。
「そ、そうかな?」
慌てる初芽に、茉莉沙は「うん」と冷徹に頷く。
「オーボエは多少の、緊張から出るズレでしょうけれど、パーカスソロは焦りが顕著に出てましたから」
「そんな…」
他人の学校だが、心配になる。それが初芽結羽香という人物だ。
それを見て、茉莉沙は思わず、吹き出す。
「まぁ、今回は県大会行きの大会じゃないし、講評を見て、地区コンクールは更に、完成してくれると思いますよ」
「あぁ。それなら良かった」
まるで自分事のように、心配する初芽に、茉莉沙は目を細めた。
昔から変わっていないな、と。
しかし、茉莉沙の目に、少し黒が宿る。
(それにしても、ずっと鍵盤やってた子に、いきなり太鼓をやらせるとは、先生も鬼ですね)
彼女は、心のどこかで、そう思っていた。
その時だった。
前の方から「茉莉沙ちゃーん」という声が聴こえてくる。
「ん?」
茉莉沙が、前を見ると、そこには、一人の男の子がいた。
「あ、冬樹くん」
彼の名は、港井冬樹。御浦ジュニアブラスバンドクラブでトロンボーンをしている中学1年生だ。
そんな彼が、茉莉沙に駆け寄る。
「探したんだよ〜」
冬樹は、クラブ時代から、茉莉沙のことが大好きだ。
「探してくれたんだ。ありがと」
茉莉沙も、嬉しくなり、頬を緩める。
すると冬樹は、初芽に向かって、
「こんにちは」
とお辞儀した。
「こんにちはー」
初芽も笑って返す。
「冬樹くん、そろそろだよね?本番」
「うん!!」
その時だった。
『美しく吹く事こそ奏者の誉れ…』
『緊張してるのか?』
聞き覚えのある声が、聴こえてきた。片岡翔馬と薬雅音乃葉だ。
「あ、音乃葉ちゃん」
茉莉沙が、小さく手を振る。
「あ、メイちゃんだ」
音乃葉が嬉しそうに、返事する。
「明作さん、こんにちは」
翔馬も、ぺこりと頭を下げた。
「明作先輩と初芽先輩、何してるんだろう?」
優月とゆなが、2人を探していた。
「メイさんと初芽、先生が呼んでるのに…」
館内はスマホを禁止されている。よって、電話を掛けることができないのだ。
「あっ!」
だが、優月は、2人を見つける。
「鳳月、ロビーの方!」
「はぁ?」
ゆなが訝しげに、2人を見る。
「誰だ?あの3人…」
彼女らがみたものは、茉莉沙と初芽が、男女数人と話していた所だ。
優月は、一瞬戸惑ったが、ゆなは、ズカズカと数人の群に歩み寄る。
「ちょっとー!」
その声に、驚いた茉莉沙がこちらを見る。
全く…と優月も彼女を追った。
「あっ…。鳳月さん」
茉莉沙が、顔を少ししかめる。
「あなた、誰?」
鈴木燐火が訊く。
「私は、鳳月ゆな。あんたこそ誰よ?」
ゆなが不遜な態度で答えた。探すのに手間取って苛々しているようだ。
「私は、泣く子も黙る、鈴木燐火26位!つい先月までは、27位だった!」
その答えに、優月が眉をひそめる。
「その順位は何ですか?」
そう訊ねると、燐火は、
「鈴木ランキングって言って、私が世界で何番目に有名な鈴木か、数えてるの」
と答えた。
「へ、へぇ」
2桁と言い張れるくらいなのだから、実力は相当なものなのだろうな、と思った。
「あっ…!」
その時、優月があることに、気づく。過去に彼女の名前を、茉莉沙から聞いている。
「もしかして、オーボエやってる方ですか?」
優月が、そう訊ねた。
「うん。そうだよ」
鈴木燐火。吹奏楽界では有名な名で、『焔のオーボエ奏者』という異名を持っている。そんな彼女は中学3年生だ。
「ほぉ。2人は見ない顔ですね」
すると、今度は翔馬が、口を挟んできた。
「殿方、名は?」
「お、小倉優月です」
優月は、彼の異質な口調に驚きながらも、そう答えた。
「あ、あなたは?」
「俺は、片岡翔馬。トランペットをやっている」
「へ、へぇ…」
トランペットといえば、部長の雨久や、同級生の黒嶋氷空も、吹いている。
「じゃあ、後ろにいる、その方も?」
優月は、初対面や知らない人には、必ず敬語を、使ってしまう癖がある。良いことなのだろうが、何だか堅苦しく思ってしまう。
すると、糸目の女の子が前へ出る。
「そうだ。私は薬雅音乃葉。トランペットが大好きだ!高校2年生だよ」
「あっ…!先輩でしたか」
優月は、そう言って、彼女から目を逸らす。
しかし、ゆなは「ダサ」と冷水をぶち撒けるように言った。
「苗字か?私としては、お気に入りだよ」
音乃葉が自信満々に、言った。彼女の声は、有無を言わせないもののそれに、よく似ていた。
それにしても、と優月は思う。薬雅という苗字を気に入るなんて、彼女のセンスは一体、どうなっているのだろう?
「それよりも、メイさんも、打楽器の運搬を、手伝ってだってさ!」
「ああ。分かりました」
茉莉沙は、そう言って、初芽の手を取った。
「じゃあ、行きますか」
「そだね」
その様子を見て、優月がゆなに言う。
「鳳月もあれくらい人望あったの?」
「あるわけ無いでしょう?」
「そーだよな!」
「フン」
2人が軽い口喧嘩をしていたその時、真後ろから、
「あっ!この前の!」
と、声が聴こえる。
優月が、振り向くとそこにいたのは、沢柳律だった。彼は、楽団トップレベルのパーカッション奏者だ。彼と茉莉沙は犬猿の仲だ。
優月も一度、会ったことがある。だが、どうにも悪い人には見えないのだ。
「久し振りです」
優月が振り向きざまに、そう言った。
「誰?」
しかし、ゆなは彼を知らない。
「俺は、沢柳律。打楽器奏者だ」
「あっそ」
しかし、ゆなにとって、他校のことは、興味が無いようだ。
「スマホ取りに行こー」
彼女は、逃げるように待機場所である、2階の入り口付近へ、去っていった。
「演奏、楽しみにしてます」
優月も、それだけ残して、ゆなの後を追った。
「なんだか…メイと指原に似てるなぁ」
そう言って、沢柳も、音乃葉たちと、持ち場へ戻って行った。
「あったあった!」
ゆなが、上機嫌に、スマホを取り出す。
「そんなの持って、どうするの?」
同じパーカッションの田中美心が、訊ねる。そんな彼女に、ゆなは肩を竦める。
「えっ?空き時間でショート見るんだよ」
「はぁ?」
それを遠目から、優月と想大は見ていた。
「本当、スマホ好きだよな。ゆなちゃん」
「うん。なーんか、異常な気もするけど…」
優月は、そう言ってゆなを、見下ろした。
ゆなの演奏は完璧に仕上げてくるのに、態度と節度が欠如しているのは、少しもったいないな、と思った。
『あー?想大先輩?』
その声に想大が、振り返る。振り返った先には、集団で3人の女の子がいた。
「瑠璃ちゃん!」
声をかけたのは、古叢井瑠璃。茂華中学校吹奏楽部で打楽器を担当している2年生だ。
「優愛ちゃんに、あれ?その子は?」
想大は、気になったことを、すぐ口に出す。
彼は、近くにいる女の子へ、視線を見せる。
「ああ、指原希良凛ちゃん」
すると、優愛が代わりに、そう答えた。
「もしかして、2人の後輩?」
と優月が訊ねる。
「そうだよー」
優愛は、そう言って、彼女の茶髪を、そっと撫でた。
希良凛は、円らな瞳、綺麗な前髪に茶髪と可愛らしい女の子だった。
「こんにちは…」
希良凛が口を開く。その声は、あまりにも高く、ふんわりとしていた。
「こんにちは」
と2人も返す。お辞儀している辺り、しっかりしているんだろうな、と思う。
「ゆゆー!行くぞー!」
その時、ゆなが低い声でそう言ってきた。その声は、いつものように、高らかになることなく、響いた。
「あっ、うん!」
すると、優月は、想大たちに、
「行っくる」
と言って、ゆな達の元へ行った。
「優月先輩、パーカスなんでしょ?」
去った優月を見て、瑠璃が言う。
「そうだよ」
すると、先輩の女の子が、こちらへ話しかけてくる。
「想大君、楽器の準備、行くよー」
その声が、あまりにも普通だったので、
「はーい」
と想大も、何気ない風に彼女と歩いて行った。
「希良凛!」
その時、希良凛に誰かが話しかけてくる。
「あっ、海咲ちゃん」
「今の先輩、かわいくなかった!?」
想大達のことだろう?と瑠璃は、少し頬を緩ませた。
それにしても、希良凛も転入生なのに、友達が多いな、と度々思う。正直羨ましかった。
「はいはーい!」
美心が、優月たちを先導する。
「小倉君はティンパニのチューニングして」
「はい…」
今は、休憩中だ。出番は次だ。
「よし…」
優月は、真っ白な玉をしたマレットを、そっと握る。
実は今回、優月はティンパニを任されていた。
『えっ?ティンパニですか?』
『そーです!!』
『絶対に、鳳月さんの方が、適任じゃないですか?』
『いやー、ゆゆしか、いないの!ホーさんは、和太鼓とかで、移動が大変だし、田中さんは、鍵盤に引っ付いてるし、メイさんは、トロンボーンの部分が入っているから』
『つまり、私が暇だと?』そう言いたくなったが、井土が言うなら仕方ないことだ。
優月は、チューナーをティンパニの打面に、近付けながら、マレットを振り下ろす。
ポン…ポン…パン…
優しく叩かないと、正確に音を掴みづらい。
ペダルをゆっくりと踏みながら、音を変えていく。
モニターの針が、Aへ止まると、優月はマレットを離した。
「あぁー…重い…」
ドラムセットを、持ちながらゆなが言う。
「そんなこと言わないの!アンタがいつも使ってるんでしょー」
美心がそう言って、肩をすくめた。
その割には、涼しい顔でどこか余裕そうだった。
「チューニングできました?」
その時、茉莉沙が優月へ、話しかけてくる。
「はい!オッケーです」
「いやいや」
その時、茉莉沙が、右足をペダルに突っ込む。彼女はマレットを打面へ小さく振る。そして少し、ペダルを上げた。
「多少、低いよ。このままじゃ、演奏中、調子狂っちゃうからね」
「あ、ありがとうございました」
「いえ」
茉莉沙は、そう言って、何事も無かったかのように、小ホールへ戻って行った。
彼女は本当に凄いな、と優月は思った。
その頃、管楽器隊も、合流しようとしていた。
「ふぅー…」
想大が、深呼吸する。白い照明に照らされ、ホルンは銀白に反射する。
「大丈夫」
その時、奏音がそう言った。
「何か、特別なことをしようとするから、いけないの。いつもの練習するように、吹けばいい」
奏音の手に持ったホルンも、白い光を放つ。金色のホルンなのに、なんだか他の色に見えてしまう。
「…はい」
想大は、そう返事した。奏音はそんな彼を見て、クスッと笑った。
経験者は心臓が強いな、彼は初めてそう思った。
「茉莉沙…」
初芽も、茉莉沙が少し心配だった。流石に、2つの楽器をこなせるのか?
練習中、何度も打ち切ってまで、茉莉沙のトロンボーンとパーカッションを入れ替えることのできる時間を計ったのだ。
その時だった。ユーフォニアムの河又悠良之助がこう尋ねてきた。
「乗っても、移動しない乗り物ってなぁんだ?」
「えっ?」
突然のクイズ。
「なに?ヒント」
「『乗る』けど『移動』はしない。そのまんま」
「えっ?乗るけど、移動は…しない?」
その時、誰かが、クスッと笑った。
「初芽、緊張してる?」
部長の雨久朋奈だ。その手にはトランペット。
「普段の初芽なら、答えられるだろうに」
「そうだよー」と井上むつみも言う。
「…しょうがないなぁ。『遊具』だよ」
そろそろ、舞台裏なので、悠良之助も助け舟を出すことにした。
「遊具?…もしかして、ブランコ?」
初芽は、そう言って答えた。
「正解!!以上、悠良之助のくだらないクイズでした!」
悠良之助は、小さな声で正解を告げた。
「先輩、緊張してますね」
流石に、と後輩の岩坂心音もそう言った。
「ま、俺もだけど」
心音も緊張、しているようだ。
その時だった。
ブランコと言えば、と初芽は何かを思い出す。
それは、中学の卒業式の直後、遊んだ日の会話。
『茉莉沙、高校の部活、何にするの?』
『えっ?決まってないです』
『てことは、吹部、辞めちゃうの?』
すると、茉莉沙がくすっと、笑う。
『辞めたら?』
『闇落ちします』
その答えが、面白かったのか、茉莉沙は珍しく声を上げて笑っていた。
『大丈夫だよ。輪廻の輪に還ったとしても、私は吹奏楽を、辞めないと思う』
その答えに、初芽もプッと吹き出す。
『それ、どういう意味?』
『深い意味はないですよ』
『じゃあ、茉莉沙と一緒に吹けるのかな。茉莉沙が太鼓、私がフルートで』
『ふふっ。それはやってみたいね』
茉莉沙が、深紅の瞳を、大きく揺らした。
そうだ、あの日の会話を、ブランコで思い出した。ずっと忘れていた。
「そうだね。私、緊張してたね。でも」
その時、初芽がフルートを光で、ちらつかせる。
「もう解けたよ」
その時の彼女の、表情は自信に満ちていた。
そして、ついに本番だ。
各々が、楽器を構え、席へ着く。
(初芽)
その時、茉莉沙もトロンボーンを、構える。
「ふぅ…」
去年は、楽器の掛け持ちは無かった。去年、先輩が抜けたから、打楽器を手伝っただけの話。
だが、今はもう違う。パーカッション奏者でもあるし、トロンボーン奏者でもある。
「おお…!メイちゃん、決まってる!」
「語弊凄そうだな…」
それを、音乃葉と燐火が見ていた。
「あの時、阿櫻に稽古つけられてきたからな。楽しみだ」
『続いて、16番、県立東藤高等学校吹奏楽部、『百年祭』、『サママ・フェスティバル』』
すると井土が、指揮棒を構えた。それに呼応するように、部員も楽器を構えた。
そして、初芽と心音が、息をゆっくりと吹き込んだ。
刹那、フルートの優しい伸びやかな音が響いた。そして、ほのかもクラリネットを吹き始める。
そして、少しづつ音が増えていった。
それでも、フルートの音響は、死なない。氷の温度のような高く落ち着いた音は、まるで氷の不死鳥のようだった。
どこまでも飛んでいけるかのような、途切れることを知らない、フルートの音。
(初芽先輩!)
心音も、フルートを吹きながら、激しく脳が揺さぶられるのを感じた。
彼女は覚醒したのか?
こんな音、今まで聴いたことが無い。
(すごい…)
茂華中学校吹奏楽部の部長の香坂も、そう思わずには、いられなかった。
(初芽、覚醒したのか?)
茉莉沙も、トロンボーンを吹きながら、そう思った。まるで強豪校の奏者のようだった。
そして、茉莉沙もスライドを引く。
その時、茉莉沙も何かを思い出した。
1年前…。何故、そんな前のことを思い出したかは、分からない。でも不意に思い出した。
『上手いね。茉莉沙のトロンボーン』
『そんな…。友達から教わっただけです』
『またまたー』
初芽は、茉莉沙の腕を人差し指で、突いた。
『私も、茉莉沙に追いつかれないように、頑張らなくちゃだなぁ』
『えっ?』
『だって、茉莉沙の努力で勝てる人、絶対にいないんだから』
そこまで言われると、少し照れる。
『始めた時間と能力は関係ない。私、茉莉沙を見て初めて実感した!』
それを言われて、声が出せなくなった。
そんなこと無かったじゃん、今ここで無性に言いたくなった。
初芽も心音と共に、必死に吹いていた。
自分と同じように。
そして、トロンボーンのスライドを、再び引いた。
その音は、一音外すことのない、正確な音。熟練者のような研ぎ澄まされた温かな音。
トロンボーンとフルート、そして、他の音が、ホール内で、絡み合った。
そして、ゆなも、必死に和太鼓を叩く。
ドドドドン…!
厳かに響いた。
優月も、必死にティンパニを、叩いた。
美心も、負けずビブラフォンを打つ。
最後まで、失速すること無く、吹き続けることができた。
こうして、百年祭という曲は、幕を閉じた。
会場は、拍手が巻き起こる。
続いて、茉莉沙がスティックを打ち鳴らす。
そして、シンバルを打った。
この曲は、茉莉沙がドラムをやる曲だ。彼女たっての希望で。
すると、先程とは一変、手拍子が起こった。
優月も、タンバリンを天へ掲げ、手のひらで、音を打ち出す。
美心とゆなも各々の鍵盤を、打った。
井土は、指揮するばかりで、話が違うが、まぁいいだろう。
茉莉沙が、ドラムを打つ内に、何かを思い出す。
それは、またしても、初芽との会話。
春休みだっだろうか、ブランコに乗っていた時だ。
『茉莉沙の太鼓と、私のフルート、合わせてみたいな』
『えっ?』
『茉莉沙のドラム、凄かったじゃん。あんな笑いながら叩くんだもん!』
『えっ?あれは無意識で…』
そうなのだ。余裕からなのか、楽しいからなのか、何故か薄ら笑いが浮かんでしまうのだ。
『あれ、また見たい』
そんな事言ってた。
(…ふふっ)
その時、茉莉沙の目の色が変わる。どこか狂気に塗れていた。
その時、ドラムの音が、更に大きくなる。
自分にとっては、これくらい普通なのだが、世間では、ヤバいと思われるくらいの。
大きくハイハットが揺さぶられる。スティックを振る度、タムやシンバルは揺れ、会場を爆音で包んでいるのが、分かった。
テクニックも凄い。タムを打った衝撃で、手首を脱力させ、反動でシンバルを打つ。
この技術は、沢柳から勝手に吸収して、得たものだ。
音力技術共に、瑠璃や希良凛の脳が揺さぶられる。
「すごい」
「えぐ…」
それくらい、茉莉沙のドラムは、常軌を逸していた。それくらい上手い。
そんな、彼女のドラムと管楽器の演奏は、あっという間に、幕を閉じた。
再び拍手が、会場を包む。
「悪魔復活か」
それを見た沢柳が、嫌らしく笑みを浮かべた。
彼は、狂気&本気状態の彼女を、何度も見てきた。ああなると誰にも手を付けられなくなるくらいの化け物になる。
「上手いなぁ」
それを見た、後輩の指原莉翔も、思わず賞賛を送った。
演奏が、終わった茉莉沙は、ポタポタと汗を流しながら、笑った。
やっと終わった、と。
「あの女の子、すごいですね」
希良凛が、そう言った。
「そだね」
瑠璃も、そう同意した。
しかし、彼女の表情も、狂気に満ちた茉莉沙に、少し似ていた。
そして、これをキッカケに、瑠璃も手につけられない存在になるのだ。
近い未来、瑠璃と希良凛は、対立する…。
長いお話し、読んで頂き、ありがとうございました!
[次回]
優月と想大、瑠璃と希良凛と優愛、夏祭りに行く…
良かったら、
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