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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]地区コンクール大会 本編
36/208

市営コンクール出発の章

コンクールついに、本番回です。

これから数話かけて描いていきます!


さて、今回は、夏矢颯佚の過去話です。


吹奏楽部の皆さん、コンクールまでのバスの中では、何を話しているんですか?

7月21日。夏のコンクール本番の日だ。

このコンクールは、御浦市が運営する吹奏楽の大会だ。この日は、部門関係なく行われるコンクールだ。


県立東藤高校。

吹奏楽部員が、楽器運びに奔走していた。たった1人を除いては。

「朝日奈ぁ、頑張れぇ」

昇降口に、ゆなの声が響く。

彼女の声に、呼応するように「俺の筋肉世界一!」と向太郎は叫んだ。

その時、

「ゆな!」

と、田中美心が叫ぶ。

「あっ!」

ゆなは、ティンパニを引っ張っている美心を見て、体を凍らせる。

「やべ」

早く他のものも持ってけ!とゆなが叱りつけるように言うと、ゆなは何も言わずに、音楽室の方へ歩いていった。


鳳月ゆなは、パーカッションパートで、主にドラムや太鼓等の皮楽器を担当している。しかし、練習中に怠ける癖が強く、美心たちの手を、煩わせていた。


「鳳月さん」

その時、茉莉沙が彼女に話しかけてくる。

「何?」

ゆなは、ショボンとした顔を、彼女へ突き刺す。

「私も同じだったよ。結構、楽器の運搬で怒られた」

「え?明作さんも?」

「うん。楽器の解体とか組み立てで」

茉莉沙はそう言って、ゆなから離れるように、階段を上っていった。

「私、楽器の組み立てしたことない」

数秒後、自分は皮肉を言われていることに、気づいたが、彼女の姿は、そこには無かった。


その後、部員たちは、手配されたバスに乗り込む。

初めての本番の人もいるからか、辺りは、緊張と硬い空気に包まれていた。

その時、部長の雨久朋奈が、乗り込んだ部員に向かって、

「居ない人は返事してくださーい!」

と叫ぶように言う。

すると、ゆなが声を張り上げる。

「居ない人は、返事出来ませーん」

あっという間に、ボケを突っ込まれてしまった。

周りからは、クスクスと笑い声がする。


しかし、雨久にとっては、全てが想定内。

「はい!皆さん、今日一日、頑張りましょう!」

彼女が、そう言うと『はい!』と部員一同は、返事をした。

こうしてバスは、御浦市のコンサートホールへ、向かい出した。


「コンクール懐かしいなぁ」

颯佚が、思い出すように言う。その時、

「夏矢くん、吹部だったんよね?」

2年生でユーフォニアムパートの、川又悠良之介(かわまたゆらのすけ)が話しかけてきた。

「はい。神平から」

「あそこ、強いんだってね」

「はい」

颯佚は、そう言って、誇らしげに笑った。しかしその口元は、僅かに下がっていた。

しかし、次の瞬間には、悠良之助は、シートにもたれて寝ていた。

「全く…」


『移動中でも寝ないでくださいね』


女性の声が、脳裏に甦る。確か、中学の顧問の声だ。

「あれから、1年か」

颯佚は、自らの過去を掘り起こす。

「颯佚!」

すると、想大が彼の肩を叩く。丁度、真後ろの席だった。

「ああ。コバだ」

「今日、緊張するだろ?」

「そうか?」

想大の声から滲み出る緊張は、火を見るよりも明らか。

「夏矢君は、中学の頃も吹部だったから、慣れてるでしょ?」

そんな彼に、小倉優月が、こう言った。

「そうだな」

颯佚もそう答えた。

「でも、まぁ、練習は大変だったよ」

「去年は、東関東大会出たんだよね?」

「ああ。まぁな」

その返答に、想大の眉がひそめられる。

「なのに、何で、この高校に入ったの?」

彼はそう訊いた。その問いに、颯佚はえもいえぬ表情で、

「ああ。それは吹奏楽をやりたくなかったからだよ」

と答えた。

「えっ?」

と想大は、目がかっ開く。

「あんなに、サックス上手いのに?」

「ああ。でも今はここに入って、正解だと思っているよ。井土先生のお陰でな」

「先生なの?」

想大が気になったように、顔を覗き込んでくる。

「土日練習は月1、解散も5時半と早い。その上、演奏の進度も深い」

颯佚の目が、煌めく。

「本当に、ホワイトだなって」


(入学式ではボロクソ言ってたくせに…)

イヤホンを持ち上げた彼が、心の中で、そう突っ込んだ。

「で、どういう学校だったんだよ?」

すると、想大がこう言った。

「とにかく、ブラックだったよ。6時15分までは練習だったし、お喋り禁止だし、土日は毎週練習だし」

え、厳しくない?と想大は思った。

「それ、鳳月だったら終わってたじゃん」

優月は、さりげなく言った。


「しかも、退部制度が無かったから、辞めたくても辞められなかった」

颯佚が、そう言って自嘲するように、笑った。

「辞めたいと思ってたの?」

優月が、そう訊いた。彼は、勘だけで、人の心を読むことに、長けている。

「何回もな」

「始めた理由は?」

優月が続いて質問すると、

「元カノと、一緒の部活に入った。それだけだ」

その声に、2人の瞳孔が大きく開く。

「えッ!元カノ!?」

「ああ。今はもう別れたけど、元々彼女がいたんだ」

「そうだったんだ」

まさか、颯佚に恋人がいたとは…。


「入部してからは、大変だったよ。サックスにしたのも、先生の指示だし、正直、俺は、そんな目立った楽器はやりたくなかった」

「そうなんだ」と優月は言う。

「んじゃあ、何やりたかったんだ?」

想大が訊ねる。

「うーん。特にやりたい楽器とか無かったかな。俺はパーカス反対派だったから、ユーフォとかチューバとかの低音に憧れてたと思う」

「そうなんだ」

意外だな、と想大は思った。

「何回も、辞めたいと思ったなぁ。あん時は。だから高校では他の部活に入ろうとしたし、なるべく吹部が盛んじゃない高校に行きたかった。何より…」

その時、颯佚が見せたのは、白刃のような歯をちらつかせ、瞳を歪めた、何とも言えない顔。

「その彼女にも、会いたくなかったしな…」

その表情は、普段、彼が見せることはない凄んだ表情だった。

余程のことがあったんだな、と2人は思った。

「でも、この吹奏楽に入らなかったら、一生吹奏楽を楽しめなかっただろうな」

「…そう」

颯佚は優しげのある声で、こう言う。

「こうして、仲間と破茶滅茶に笑い合ったり、結果を気にせず演奏できたり、好きな楽器を好きなだけできるし。これが本来あるべき姿なのかなって思うよ」

「そうだね」

彼の言葉に、優月も同意を示す。

茂華中学校で吹奏楽を始めていたら、違う結果になっていただろう。こうして遅くまで努力できただろうか?のびのびと練習できただろうか?

答えは神様だけが知っている。



そして、30分後、コンサートホールに到着した。ホールの駐車場に植えられたヒマワリが、太陽のように爛々と太陽輝いていた。


バスを、降りると、辺りにもバスが停車していた。

赤い文字のバスに、緑の文字のバス、オレンジに塗られたバスなど、様々な色のバスが、整列していた。


「ここ、合唱コンクールで来たなぁ」

優月が、そう言って、辺りを見回す。どこか懐かしい。

想大が「合唱コンクール?」と訊ねる。

「うん」

そうなのだ。優月は、小学生の頃、特設合唱部に所属していた。合唱部の活動目的が、合唱コンクールに参加することだった。

彼も、何度か来ている者だというのだ。


すると、見覚えのあるバスが1台。

「あっ」

そのバスのフロントガラスには[茂華中学校吹奏楽部様]と書かれていた。

(優愛ちゃん…)

優月は、今現在、ホールのロビーを動いている彼女たちを想像した。



その想像通り、茂華中学校吹奏楽部の、榊澤優愛は、友達と話しながら、ロビーを歩いていた。

「優愛ちゃーん!」

「優愛さん」

すると、後輩2人に話しかけられる。

「あっ、もう開会式始まっちゃった?」

その問いに希良凛は「はい!」と答えた。

優愛も希良凛も、コンクールに何度も出ている。


ついに、夏のコンクールが、幕を開けるのだ。

そして、優月たちは、再び舞台に立つ…。

ありがとうございました!

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次回

茉莉沙と初芽、超覚醒!

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