立夏青春の章 [御浦編]
こんにちは!
制作上、名前の変更をさせていただきます。
薬雅音ノ葉→薬雅音乃葉
川又悠良之介→川又悠良之介
指原綺羅莉→指原希良凛
変更、申し訳ございません!
それでは、物語をお楽しみ下さい!!
セミの鳴き声が、チラチラと響き始める夏のある日。
ここは、墓場だ。墓の前で、女の子がひとり、手を合わせていた。
「元気にしていますか。お母さん、お父さん…」
墓には、[月峰家]と書かれていた。
それをみた、田中美心は、優しそうに笑った。
「私は、今、すごく死にそうです」
優しい表情とは裏腹に、美心の言ったことは、随分と重い言葉だった。
実は、美心の苗字は『田中』ではない。受け入れ先の苗字を借りたものだ。
しかし、そんなこと、誰も知る由などなかった。そして、悲劇の渦を作り出すことも…。
その時、東藤高校の音楽室。
各パートが、本番へ向けて練習中だった。
それでも打楽器、俗に言うパーカッションパートは、喧騒に包まれていた。
「アァ!負けたぁ!」
鳳月ゆなが、スマホでゲームをしているのだ。
いつもなら、美心が叱ってくれるのだが、彼女は今日は、休みだ。
その一方で、優月は、渡された楽譜と、睨み合いをしていた。
「…うるさぁ」
その優月が、ゆなをチラリと見る。
トランペット、ホルン、フルートやサクスフォン等の音とは、分断された、どこか不快な音。
ゆなが、何をしようと、誰も怒らない。それが、彼女のサボり癖に、拍車をかけているのだ。
その時だった。
「鳳月さん」
ふと、大人しい声が、ゆなの首を動かした。
「あい」
「ちょっと…ドラムを貸してほしいんだけど」
そう言ったのは、明作茉莉沙。部内でも一目置かれているトロンボーン奏者だ。
そんな彼女は、元打楽器奏者でもあり、その経験から、たまに打楽器に派遣されることがある。
「あいあい」
そう言って、ゆなは丸椅子から、重い腰を上げ、トコトコと、近くのアップライトピアノの椅子へ、座り込んだ。
どうやら、まだゲームを続けるらしい。
その時だった。
茉莉沙の持つスティックが、大きく振り下ろされる。無論、音は大きい。
それでも、正確だ。
「うわぁ」
優月は、凄いなぁ、と毎回感心する。『楽団最強』と揶揄されるだけあるな。
小さな体のどこに、そんな体力を隠しているのか、と思う程に、演奏は途切れない。
彼女の深紅の瞳は、楽譜台へ釘付けられていた。
「ほぉぉ…」
突然の爆音に、驚いたのか、ゆながスマホを下げると、彼女を睨むように見る。
「ごめんなさい。うるさかったですか?」
そんな彼女に、茉莉沙が振り向いて、言う。
「いや、大丈夫」
茉莉沙の律儀な言葉遣いのせいで、彼女が後輩に、見えてしまう。本当は先輩なのに。
合奏が終わると、茉莉沙は、いつものように、初芽に話しかける。
「じゃあ、私は、薬雅音ノ葉ちゃんに会ってくるね」
「うん。またねー」
薬雅と言う女の子は、全国トップレベルのトランペット奏者だ。
そんな彼女とは楽団時代からの友達だった。
御浦市のホール。
電車で十数分。懐かしい場所へ来た。
「ここ、懐かしいなぁ」
茉莉沙は、懐かしそうにそう言った。
かつて、苦楽を共にした場所だ。苦しいことの方が、多かったけれど。
しばらく日陰で待っていると、黒い髪に細めの女の子が、こちらへ手を振ってきた。
「やぁ」
「あっ」
茉莉沙は小さく会釈した。最低限の礼儀だ。
「久し振り。メイちゃん」
「お久しぶりです」
「相変わらず固いなぁ」
そう言って、音ノ葉は朗らかに笑った。
薬雅音乃葉。彼女は、御浦ジュニアブラスバンドクラブ、世間では、御浦吹奏楽団と呼ばれているが、音乃葉は、ウラと揶揄される奏者だ。
「良かったら、見ていくかい?いまならサワ君も居ないよ」
「挨拶だけなら良いけど」
茉莉沙は、当時、打楽器奏者の沢柳律を、越えたと、組織からもてはやされていた。
2人は、ホールの中に足を踏み入れる。
エアコンの涼しい空気が、彼女の緊張を、少しほどいた。
「おおおお~っ!まりたん!」
その時、もうひとりが話しかけてきた。その声は、音乃葉の声とは、また違うどこか熱意のある声だった。
「あれ…。鈴木さん」
茉莉沙は、その人物を見て、目を丸めた。
鈴木燐火。オーボエのプロ奏者。彼女も、ウラと揶揄される実力者だ。
赤と黒の短髪に、灰色の瞳、色黒な肌とボーイッシュな容姿だ。
「港井君から聞いたよ。トロンボーンをやってるんだってね」
「はい」
茉莉沙は、はにかむように言った。
「もうまりたんの、パーカス聴けないのは、寂しいなぁ」
赤みがかった髪を、ぐしゃぐしゃと掻き回しながら、燐火は残念そうに言った。
「いや、実は、パーカスも少し続けてます」
そんな彼女に、茉莉沙がそう言った。
「おおっ!そうかそうか!良いねぇ」
彼女の態度は一変。口角を上げ、ニヤッと笑った。
「ところで、鈴木さん、練習はどう?」
「厳しい稽古のおかげで、世界で26番目に、有名な鈴木になったよ」
「私がいた時は、30番だったよね」
「あれから、大きな大会に、出たからなぁ」
燐火は、誇らしげに言う。
相変わらず個性的だなぁ、と茉莉沙は思った。
練習中は真剣な2人も、オフの時になると、個々の個性を爆発させる。
「待っててくれ。阿櫻を、呼んでくる」
そう言って、音乃葉は、ボールにつながる通路へ歩いて行った。
「音乃葉ちゃんが私を呼んだみたいだけど、何の用でしょう?」
茉莉沙が、そう訊いた。すると燐火が、
「あー」
と笑う。
「特に用は、無いと思うよ。音乃葉ったら、茉莉沙が泣いている所見てから、放っておけないみたいで」
その言葉は、茉莉沙へ深く突き刺さる。
「その節は…」
実は、茉莉沙は、沢柳たちの厳しい指導のせいで、精神を病んでしまったことが、あった。それ以降、沢柳が苦手になったのだ。
「音乃葉ちゃん、本当は優しい子なんだから、警戒することないよ」
「うん」
燐火の灰色の瞳が、どこか安心感を与えられる。
「こんにちは。明作さん」
その時、1人の男性が、音乃葉と共に現れる。
阿櫻克二。楽団の副監督だ。年齢は56。
「お久しぶりです。阿櫻先生」
茉莉沙は、そう言って頭を深々と下げる。
打楽器パートと決めたのも、彼だ。
「元気にしてましたか?」
落ち着いた口調は、相変わらずだ。
茉莉沙は「はい」と言う。頷きはしない。
「メイちゃん、高校でトロンボーン、続けてるんだってさ」
音乃葉が、こう言った。
「はい。あと、パーカッションを少々」
2人が言うと、阿櫻はニコッと笑う。
「今は、速水監督は、いません。良かったら、皆で少し吹きませんか?」
突然の阿櫻の提案。
え、と茉莉沙の口から声が零れる。その声は、拾うに値しない程の小さな声だった。
「いいじゃないか。アンサンブルができるとは、最高に最高だ」
音乃葉が、満足そうにそう言った。よほど合奏が好きなのだな。
「おぉー。まりたんのボーン聴けるのか〜」
燐火も、期待をしているようだ。
どうやら自分が吹くのは、確定事項らしい。
それから、紆余曲折。彼女はトロンボーンを、吹くことにした。
「メイちゃんは、ここで待ってなさい。優秀な配下を連れてくる」
こうして、またも音乃葉は、姿を消した。
「すぅー」
茉莉沙は、その間、借りたトロンボーンを、チューニングすることにした。
ロングトーン、タンキング、基礎練習を難なくこなしていく。1人だからか集中できる。
その時だった。
扉がものすごい勢いで、開く。
「師匠の目掛けと吹く…」
現れたのは、金色に光るトランペットを、構える男の子。
「奏者として無上の喜びよ。感謝する」
なんだ?この人は?
生まれてくる時代を間違えてはいないだろうか?と心配する程、変わった口調をした男の子だ。
彼は、片岡翔馬。中学2年生だ。
「こらこら、片岡、メイちゃんが、ドン引きするでは無いか」
と音乃葉が、翔馬の頭をポンと叩いた。
それにしても、彼はやたらイケメンだ。口調さえ変でなければ、普通にモテるのではないのか?
「コイツは、片岡翔馬。私の後輩さ」
「宜しくお願いします」
聞けば、彼は集中力を上げるべく、無駄な会話を極限まで減らした結果が、このような侍のような話し方になったらしい。
しばらくすると、阿櫻と燐火も、戻ってきた。
その後、本日2度目の合奏が、始まった。
翔馬のトランペットも上手かった。部長の雨久と競り合えるくらいに。
「いやぁ。幸せだ」
トランペットを磨きながら、音乃葉は笑った。
「上手いなぁ。私、びっくりしたよ」
燐火も、茉莉沙を褒める。
「どうもぉ」
茉莉沙は、控えめにそう言った。言われ慣れていることだが、プロに言われると恥ずかしい。
「良かったら、少しだけ演奏見ていくかい?」
すると、音乃葉がそう言った。
「いいんですか?」
今後のためにも、トロンボーン奏者を見ておきたい。
「いいんだいいんだ!今はまだ3時だし!」
「では、お言葉に甘えて…」
こうして、30分程、彼女たちの演奏を、見ることにした。
「冬樹くん、相変わらずだなぁ」
監督の速水にも、事情を伝え、見学することにした。
それにしても、まさか音乃葉たちと吹けるとは。貴重な体験だな、と思った。
そして、帰ろうとしたその時。
「あなたが、元最強ですか?」
誰かが、話しかけてきた。
茉莉沙は「はい…」と振り向いた。そこにいたのは、自分よりも小さな男の子。
「沢柳先輩から聞きました。あなたは、すごい人と」
「誰?」
「僕の名は、指原莉翔。彼の下で学ばせてもらっているパーカッション奏者です」
莉翔という男の子も、個性的だ。和装に、小さく髪を結んでいる。女の子のような人物だ。
しかし、彼が、とある人物へ悲劇を引き起こす。
「…はぁ」
自分の部屋。
田中美心は、ため息混じりに、アルバムを見ていた。
「お母さん、お父さん」
美心は、そう言って、幼き日の写真を、引き出しへ静かに仕舞った。
これが、危険なサインとも知らずに。
指原莉翔…。指原?どこかで聞いたことあるような?
それと、美心のシーンは、伏線です。
ありがとうございました!
良かったら、
リアクション、ポイント、感想、ブックマーク
をお願いします!
[次回]
瑠璃と指原…の話




