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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]地区コンクール大会 本編
32/208

立夏青春の章 [東藤編]

この物語はフィクションです。

人物、学校名、団体名は、全て架空のものです。

作中の都合上、オノマトペを使う場面が、ございます。


※物語の仕様上、実在する曲を、使用する場合がございます。

使用される楽器や描写は、オリジナルのものです。

ご了承下さい。

「えっ?律に会った?」

コンビニから出た初芽が、驚いたように、声を出す。沢柳律。何回か見たことはあるが、話したことはない。


「うん。相変わらずだった」

「そっかぁ」

その時だった。


「先輩」

男の子の声がした。

初芽と茉莉沙が、振り向くと、そこには、優月と想大がいた。


「あっ!小林君に小倉君!」

「そういえば、明作先輩」

優月が、先程話したことを、口に出す。


「ウラって、どんな人が…いるんですか?」

つい気になってしまったことを訊ねる。


「あぁ。ウラっていうのは、各パートで隠し札にされるほどの演奏者ですよ」

「明作先輩も、上手いのにですか?」

「無理だよ。違法な契約を、しているって噂が流れてますし…」

茉莉沙は、律儀に答える。後輩だろうと、礼儀正しく答えることが、彼女の通常運転だ。



すると、想大が2人の空間を、食い破るように、話しかけてくる。

「では…鈴木燐火っていうオーボエ奏者は、知っていますか?」

「あぁ。それを聞いて、どうするんですか?」

「ただ気になっただけですよ」


彼の真摯な瞳を、信じたのか、茉莉沙は答えることにした。

「うーん。よく『焔のオーボエ奏者』って言われてたなぁ」

情報が曖昧なのか、彼女の口調が、拙い。


「なんか…名前に『火』がついてたり、オーボエの音に、情熱が、滲んでいるから…とか、言ってたよ」


「それは、すごいんですね」

優月も、そう言って、ニコッと笑った。

少なくとも、茉莉沙のトロンボーンと同格なのは、間違いないのだろう。


焔のオーボエ奏者。シンプルなフレーズだが、一度会ってみたいな、と思った。





電車に、乗った優月と想大は、話しを、していた。


「鈴木って苗字、どこにでもいるんだな」

想大が、思い出すように言う。

「そりゃ、そうでしょ。うちの部活には、鈴木はいないけど」

「でも、田中はいるんだよな」


あぁ、と優月は流れる車窓を、見つめる。


田中美心(たなかみこ)。優月や鳳月ゆなと同じ打楽器パートの先輩だ。

最近は、怠けるゆなを怒る所しか、見たことが無いのだが。



「苗字っていえば!奏って苗字の人、いるよな?」

「ああ。奏澪先輩。確か、弦楽器やってる人だね」

優月は、そう言って、スマホに指を、走らせる。


「あの人の苗字は、ホント珍しい」

「そうだね」

優月は、そう言って目を細めた。


吹奏楽部は、面白い人が多いな、と優月は、思った。


次の駅にさしかかる頃には、話題は、夏祭りに変わっていた。

「そういえば、祇園祭りはどうするの?」

「ああ。夏祭り」

「誰と行く?古叢井さん?」

「瑠璃ちゃんとかぁ」

想大は、そうごちると、ただぶら下がっている吊り革を、一瞥する。

「優愛ちゃんと行くんじゃない?」

「そっか。古叢井さん、優愛のこと好きだもんね。」


優月は、予定表にある[祇園祭り]という無骨な文字を、見つめた。




翌日。


「はい!今日は、新しい曲を配ります」

顧問の、井土がそう言った。

「この曲は、1学期の終業式から2日後の、市営吹奏楽コンクールで、演奏する曲です」

この大会の、演奏時間は、20分までだ。

大体の団体は、コンクールの自由曲を、やるだけなのだろうが、ここは違うようだ。



「あれ?私、鍵盤?」

楽譜を配られたゆなは、渡された楽譜に、目を疑った。

「あ、そうだね」

美心が、そう言って楽譜を見る。


渡された楽譜は、ビブラフォンだ。

「じゃあ、田中はー」

「私、ドラムじゃないよ。多分、茉莉沙ちゃんだと思う」

「えッ!明作さん!?」

ゆなは、その言葉に、大層驚いた。

「まぁ、いいじゃん。たまには鍵盤も」

「うー」

美心の笑顔とは、対照的に、ゆなは、不満気だった。

「私、鍵盤できないよー」

「それは、私が教えるから」

そう言って、美心は更に、目を細めた。



「鳳月め。お気の毒に」

優月は、配られた楽譜を見ながら、そう言った。


[サママ・フェスティバル!]と書かれている。

彼の担当する楽器は、タンバリンとグロッケン、ウィンドチャイム、サスペンダーシンバルだ。




「ミセスかぁ。インフェルノ以来だなぁ」

最後に演奏したのは、約2ヶ月前。春isポップン祭りの時だ。



「やってみよ」

優月は、そう言って、マレットを手に取る。先端が丸い毛糸で巻かれた少し硬いマレット。


「確か」

優月は、そのマレットを上下に、振る。


ポホホォォォォン…!


神々しい音が、辺りの空気を震わせる。

うん、上出来!と優月は満足したように、笑った。

「あとは…」


井土が、譜読みをしてくれた楽譜を見て、グロッケンを打つ。

しかし、心の中で、とっかかりを覚える。

「これは…どうやって…?」

井土に訊ねるのもいいが、生憎、彼は、澪の指導をしている。

こういう時は、試行錯誤しながら叩いてみる。




「明作さん、椅子の高さ、低くしといたよ」

ゆなが、茉莉沙に、そう言った。

「助かります」


茉莉沙は、それだけ言って、スティックを構える。

昨日も同じことを思ったが、学校の備品は、本当に手触りが悪い。


それでも、今は練習するしか無い。


茉莉沙は、踵をペダルへ勢いよく、踏み落とす。

ドドッ! ドドッ!


元とは言え、彼女も、ゆなと並ぶほどの実力者だ。力加減も完璧に、こなしてみせる。

かつ、スピードも一切落とすこと無く、楽譜を進めていった。



その傍ら、美心もゆなへの指導が、終わっていた。

「できるじゃん!」

美心が、彼女の肩を叩く。

「うげぇ…。難しい」

それでも、ゆなには、相当苦戦したようだ。

「てか、明作先輩、パーカスやらないんでしたよね?」

「うん。最近、考えが変わってきたんだって…」


当時、茉莉沙は、美心達に、打楽器を選ぶ、と宣言したそうだが、突然トロンボーンを始めたらしい。


「この学校の吹部、パーカスには恵まれているなぁ」

美心が、ふとそう言った。

そんな会話、必死に叩いている茉莉沙に、届くわけが、無かった。




合奏が始まった。

「はい、初見大会のお時間です!」

井土は、ニコニコと笑って、そう言った。


ホルン担当の想大は、誰がトロンボーンを?と思ったが、副顧問の飯岡太智(いいおかだいち)が吹くらしい。


お祭りじゃねぇか。

と想大は、心のどこかで、そう思っていた。


飯岡も、元は吹奏楽部でトロンボーンを吹いていたらしい。そんな彼は、滅多に顔を出さないのだが。



井土が、カウントをする。

澪が、ギターの弦を、掻き鳴らす。

と同時に、茉莉沙の踏むビーターが、勢いよく、跳ね上がる。


続々と、様々な楽器が、曲を盛り上げていく。

優月も、胸の辺りにあるタンバリンを、右手で打つ。



曲が、サビまで進むと、井土が、ニコッと笑う。

「皆さん、楽しそうだね」

すると、思わず、優月に、笑みが零れる。

確かに、コンクール曲よりは、楽しい。


「降谷さん、音をもう少し、小さくしていいですよ」

「はい」


「齋藤さん、入りが少し、遅れてましたね。夏谷君や他のパートの子と合わせてください」

「はい!」


「井上さんのオーボエも、クラ同様、小さくする部分は、小さくしても大丈夫ですよ」

「はい!」

むつみは、そう言って、黒鉄のオーボエを見つめた。このオーボエは、自分の所有物だ。

「ユーフォも、自信を持って!」

「はい」

初見ということもあって、指導が矢継ぎ早に、飛んでくる。


「レミリンは、音量上げて結構です」

レミリンはホルンの愛称だ。奏音はホルンを構える。

「コバは、無理しないで大丈夫です。それにしても、最近、少しづつ吹けるようになってきましたね」

そう言って、井土は笑った。

想大は小さく会釈する。居残り練習の甲斐が、あった。



それから、合奏は終わりを迎えた。

井土が、こう言う。

「7月中は、この2曲をやります!文化祭、定期演奏会に向けて、頑張りましょう!」


すると、彼が部長の雨久へ、目配せをする。

「これで今日の部活を終わりにします!お疲れ様でした!」

『お疲れ様でした!』


部活の終わった生徒は、思い思いの行動に移す。




「茉莉沙、お疲れ様!」

初芽結羽香が、茉莉沙に話しかける。

「お疲れ様」

茉莉沙は、そう言って、共に、音楽室を出る。


「茉莉沙のドラム、久し振りに聞いたなぁ」

「3ヶ月前でしょう」

初芽の問いに、そう苦笑し返した。

「そうだ。私、来週、音ノ葉ちゃんに会いに行くことにしたの」

「えっ?そうなの!?」

2人の会話は、闇の中へ消えていった。





その頃、どこかのホール。

「音ノ葉、燐火。来てくれて感謝します」

副監督の阿櫻克二がそう言った。


「今日も良い日だ。トランペットを吹ける」

そう言ったのは、トランペット奏者の薬雅音ノ葉。

「世界で26番目に有名な鈴木。鈴木燐火、ただいま到着しました」

鈴木燐火。彼女は、灰色の瞳、少し赤みがかった髪に、色黒な女の子だった。

「前は、27番目だったな…」


そして、奥から小柄な男の子が、現れる。


「ウラ…。今年も全員が揃ったな」


御浦ジュニアブラスバンドも、静かに動き出していた。



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