好敵手再会の章
久し振りの東藤高校の話です!
今後の為に、根幹に関わる話を、書いてみました!
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※この物語はフィクションです。
※人物、学校名、団体名は、全て架空のものです。
県立東藤高校の吹奏楽部。そこは、あまり実力がないものの、地元からは人気のある吹部だ。
「AメロとBメロは、クリア。今、課題点をあげるなら…」
そんな中、ひとりトロンボーンに、打ち込む少女がいた。
彼女の名は、明作茉莉沙。部内で唯一の、トロンボーン奏者だ。
彼女は、初めて1年とは思えない程の、実力者だ。
だが、その正体は、吹奏楽の強豪クラブ内でも、トップレベルのパーカッション奏者だ。
だが、今はトロンボーンと打楽器を、掛け持ちして練習している。
「Fメロ…、ここまでやってみますか」
茉莉沙は、スライドを引く。すると、大きな音を青空へ、響かせた。
(今年は、打楽器もあるから、うかうかしてられない…)
茉莉沙は、慎重かつ効率的に、演奏を進めていた。
その頃、小倉優月も、打楽器を、井土広一郎に、指南されていた。
「小倉君、ボンゴの打ち方が、ちょっと違うかな」
「そ…そうなんですか?」
優月は、幼馴染みの榊澤優愛に、憧れて、吹奏楽を始めた。楽しそうだという彼の予想は、もはや現実のものに、なっていた。
「うん。まず、右左右左で、叩くんじゃなくて、右右左で叩くの」
優月は、言われた通りに、手で皮を打つ。
「こうですか?」
「そうそう!」
すると、井土は、お手本を見せるように、ボンゴを叩いた。
「おお…」
優月は、すごいな、と思う。それと同時に、今すぐできるように、なりたいとも、思ってしまう。
「じゃあ、私はこれで。また分からないことがあったら…」
「ありがとうございました」
優月は、そう言って、楽器の前に立つ。
さて、もう一度やるか、と。
10分ほど練習をした後、優月が、休憩していると、美心とゆなが話していた。美心は3年生の鍵盤担当、ゆなは太鼓諸々を、担当している。
「全く!またゲームしてる!」
「ごめんなさい…」
「前も、言ったよね。それ」
美心の説教に、ゆながペコペコと頭を下げる。
これは、当然ゆなが悪いのだが、最近、美心も彼女に、厳しくなりつつある。
ここ1週間、この景色が、何度も見られる。
しかし、誰も気にする素振りは無い。
井土は、井上むつみに、話しかける。
「井上さん、メイさんに、電話かけてください」
「オッケーです」
井上むつみは、白い綺麗な地毛、深紅の瞳を際立たせる白い肌。まるで、アニメから出てきた美少女の、ようだった。
彼女は、別に、化粧やメイクしている訳では無い。祭典時は、黒髪に黒いカラーコンタクトを付けているので、学校には話を通してあるのだろう。
こうして、合奏が始まった。
個人練習を、しっかりしているからか、合奏は滞りなく進む。
「はい!齋藤さん!そこのクレッシェンド、意識して下さい」
「あっ…」
「夏矢君とは、そこ違いますよ」
「はい」
齋藤菅菜は、自らのサックスを見る。テナーサックスと呼ばれる楽器だ。
「岩坂さん、初芽さんの運指を見てても、演奏に集中できませんよ。難しそうな所は、吹かないで大丈夫だよ」
岩坂心音。今年フルートを始めた1年生だ。
「はい」
「降谷さんも、無理しないで下さいね」
「は、はい」
降谷ほのかという大人しめな女の子も、中学までは、他の部活に、入っていたらしい。
そんな彼女は、優月やゆな、美心の方を、見ていた。敵対者のように。
「次は、Eメロですね。やっていきましょー!」
井土が、楽譜をめくりながら、そう言った。
優しくも面白い人だな、と夏矢颯佚は思う。指示も演奏の芯を食っていて、少し優秀だな、と思ってしまう。
(死ぬ前に、こんな先生に、会えて良かった…)
颯佚は、しみじみとそう思った。
「では…いきますよ!」
各々が、楽器を正眼に、構えた。
茉莉沙も、スティックを持ち直す。学校のものだからか、肌触りが、少し気になる。
自宅から持ってこようか?とも思ってしまう。
その日の練習終わり。
「茉莉沙、お腹空いたー!」
「コンビニ行きますか?」
フルートパートの初芽結羽香と茉莉沙が、話していた。
「でも、練習しないの?パーカスの」
「ふふっ。今日はいいかな〜」
茉莉沙は、いつもは硬い表情を、和ませる。
「あ…」
その時、優月が叩いているであろうドラムの音が、聴こえてくる。
ドコドコドコ…と、壁越しに、タムが鳴り響く。
日によって、音量が違う。
すると、ホルンの音も聞こえてくる。
「小林君かな?」
初芽が、そう言うと、茉莉沙は、
「先に下降りてて」
と言って、茉莉沙は、休憩室に、入ってきた。
「お疲れ様です」
茉莉沙は、ドラムを叩いている優月と、ホルンを手にした小林想大に、話しかける。
「お疲れ様です」
優月と想大は、そう言って返した。
「ドラム、やってたんでしたっけ?」
「い、いえ」
突然話しかけてきた茉莉沙に、優月は驚いた。
しかし、急にどうしたのだろう?
「あの、1個聞きたいことがあって」
「は、はい」
「私のパーカス用の楽譜は、どこにありますか?」
「えっ…?後ろのピアノの上です」
すると、言葉の意味を、呑み込んだ茉莉沙は、
「ありがとう」
と言った。
「小倉くん、タム回し、してる?」
「は、はい」
そうなのだ。
ゆなに追いつきたくて、練習しているのだが、中々突っかかる。
「貸してくれますか?」
茉莉沙は、そう言って、優月のスティックを、構える。
「すーっ」
刹那、茉莉沙の握るスティックが、激しく振り下ろされる。
手首の振りと、スティックの狙いが、正確であるが故なのか、突っかかること無く、音は進む。
ドコドコ…!!ドコドコ…!!ドコドコ…!!
勢いよく、タムが震える。
その音圧だけで、壁を破壊できそうだ。
「すげぇ…」
想大が、ホルンを抱えてそういった。
「ほんとぉ」
優月も、体中が無意識に、震える。
これが、トップレベルの演奏者の実力なのか、と思ってしまった。
茉莉沙も茉莉沙で、夢中で打っていた。
脳の中が、少しずつ覚醒していく。
(あ、まずい!)
しかし、彼女は、スティックの流れを止めた。
「危ない…」
そう言って、茉莉沙は優月に、スティックを返す。
「ありがとうございます。本当に凄いですね…」
「どうも。感覚でやっただけなんだけども…」
そう言って、茉莉沙は、はにかんだ。
お世辞なしに、この実力はエグいな…と思う。
この人物を超える、沢柳律とは、本当に何者なのだろうか?
その後、優月と想大は、コンビニへ歩いていた。
「ファミチキ食べたい」
想大が言った。
「高くない?300円もするから、買えないや」
優月も、悲しそうに言う。
「それにしても、明作先輩、本当に凄いなぁ。ゆなちゃんを超えてるんじゃないか」
「鳳月ね…。どうだろう?」
ゆなの、実力も折り紙付きだ。
井土からも、絶大な信頼を得ている程に。
「この時間のファミマ初めてだな」
優月が、そう言って、店内に入る。
「妹に、ポテチでも、買おう」
店内に入るなり、優月は、ポテトチップスの袋を、カゴへ入れる。
「あれ?」
すると、レジに、茉莉沙が並んでいた。
彼女もコンビニに来るのか、と優月は思った。
それより…想大はどこだ?
「お願いします」
茉莉沙は、日用品のタオルと、サラダとドレッシングをカゴに、店員へ話しかける。
本来なら、快く返される返事。
しかし、その反応は、冷ややかなものだった。
「あれれ…キミ」
その声に、茉莉沙の鳥肌が立つ。
「えっ?」
「見ない間に、腑抜けたんだねぇ…」
感じの悪い話し方。彼女は、睨みつけるように、店員を見る。
「俺なら、10回は気づいてるよ。元トップ演奏者さん」
その店員の名は、沢柳律。御浦ジュニアブラスバンドクラブの打楽器奏者だ。
こんな所でまさかの再会…。
「トロンボーンは、どうだ?」
沢柳は、そう言って、商品をレジに通していく。
「楽しいよ」
茉莉沙は、不遜な声で、そう返す。
「へぇ。でも、打楽器は下手になってそう…」
「そんなことないよ。こっちでも、そこそこ叩いてる」
すると、沢柳はレジに通した商品を、前へ出す。
「お会計、680円です」
「ありがとうございます」
そう言って、茉莉沙は、小銭を出す。680円きっかりだ。
「ありがとうございまーす」
彼の声を無視して、茉莉沙は、商品をリュックの中に、入れる。
「じゃあ、初芽待たせてるので…」
「ああ。夏のコンクールに、会おうな。その時は、君の演奏を見られるのかな?」
「去年みたいに、順番が近くなるかもね」
茉莉沙は、そう言って、自動ドアへ逃げて行った。
(ありゃ…相当嫌われてるなぁ…)
茉莉沙の事情を、知っている優月は、そう言った。
彼のせいで、茉莉沙は鬱病に掛かった過去があるのだ。茉莉沙が、あそこまで難色を示すのには、それ相応のことをしたのだと、分かる。
しかし、優月はそんなこと気にしない。
「お願いします!」
「はいー」
そう言って、彼はポテトチップスを、レジに通す。
「君、メイのお友達?」
「はい。先輩です」
優月は、そう返事した。同じ制服、同じ時間帯に来ているのだから、吹奏楽部と分かるのも、当然か。
「沢柳さん、茉莉沙先輩と、お友達なんですね」
優月は、敢えて、何も知らないフリをする。
「そう。クラブでの後輩」
一切、悪びれず、年上を後輩と言える辺り、どこか、ゆなと似ついている。
優愛や瑠璃では、礼儀正しいのに。何だこの差は、と思う。
「音ノ葉ちゃんが、会いたいって言ってたのに…」
「音ノ葉ちゃんですか?」
「そう。ウラのトランペット奏者なの」
ウラ、その言葉に、優月は反応した。
以前、優愛から聞いたような。
「ウラって、何ですか?」
つい、気になり、聞いてしまった。
「ウラはね、特に優れていて、特別な大会に参加する人の事を言うんだよ」
「凄いんですね」
「俺やメイは、なれなかったなぁ。いつか、なってみせるがな」
そう言って、拳を握りしめた。
優月は、もしかしたら彼は向上心が、暴走しただけなのかな?と思った。
その時だった。
「それでウラって、他には、誰がいるんですか!?」
想大が、訊いてきた。
「うーん。あとは、鈴木燐火って、オーボエ奏者の子だな。メイに、訊いてみな」
「はい!」
想大は、威勢良く返事した。
しかし、この『ウラ』という存在が、茉莉沙の血を、凍らせていく。
この言葉の意味は、すぐに分かるよ。多分。
[次回]
沢柳を越える『ウラ奏者』現る…。
焔のオーボエ奏者 鈴木燐火。
ありがとうございました!
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