第24楽章 ポップル THE フェスティバル
――ポップル THE フェスティバル当日
優月たち吹奏楽部は、朝から楽器をトラックに詰め込みはじめた。
「アドレナリン過多でも、これはキツイ」
「その体質は関係ねーだろ」
「エヘヘ…」
瑠璃はゆなと様々な機材を運んでいる。
「あーーーっ!終わったぁ!」
「終わってないです。ゆな先輩、頑張りましょう!」
「いえー、瑠璃は鬼!」
「鬼だったら吸血鬼がいいなぁ♡」
「…うぐ!」
瑠璃は持ち前の純粋さで、うまくゆなを扱っているようだ。
「むつみさんに見せてやりたい…」
「そうだね」
心音と広一朗は、ふたりをただ見守っていた。
「心音ー!手伝えー!この副部長!」
「ったぁく、古叢井ちゃん!代わるよ」
「あっ、すみません!」
女子も頑張っているが、男子も負けてはいない。
「…なるほど」
隼乃駿佑という男の子は、モノ運びに慣れているのか、着々と進めていく。指示通りに運ぶその姿は運送屋のようだった。
「抹月ちゃん、それお願い」
「ふたりで持つぞ、月館ー」
「わかったー」
紅愛と抹月も吹部経験者だからか、そそくさと楽器をトラックへ持っていく。
「…高津戸さん、持っていきましょう」
「あの、ビブはひとりじゃ難儀だ。ふたりで送り届ける」
「はいっ!」
美乃凛は威勢のよい返事で、楽器を軽々と運ぶ。孔愛にも似た剛力は、和太鼓で培ったものなのだろう。
「…今年は終わるの早いな」
優月は那珠葉と、小物楽器やドラムの脚を運んでいく。
「那珠葉さん、重くない?」
「重くないです」
那珠葉も意外と力持ち…ということはなく、普通にのしかかる重力に苦心していた。
「わっ、小倉先輩!」
「あ、久城さん」
「那珠葉!そこ代わって!」
「ええ?うん」
美心乃は腕に力を入れて、優月をアシストする。
「先輩、も少し上げてくださーい」
「え、まじ?」
(握力と身長が足りな…い〜〜〜!!)
優月は思い切り苦労しながらも、すべての楽器と機材を運び切る。
「海鹿さん、トラック出るから下がって」
「あ、はい!」
優月は美羽愛を後ろに後退させる。
(…2年の方が扱い大変かも)
彼はそう思いながら、バスに乗り込んだ。
「いない人、いませんか?」
「いないよ」
「挨拶します!お願いします!」
『お願いします!』
颯佚と心音のレスポンスの直後、バスがゆっくりと動き出す。
そして…道の駅 色桜へバスが動き出した。
優月は3回目だな、と思いを巡らせる。イヤホンからは数年前のバラードが流れている。普段はポップスや東方ソングを聴いているが、何だか今は落ち着きたい気分なのだ。
(…来年はもうないのか)
落ち着いているからこそ、深い考え事ができる。
それは…卒業後、間もない未来のことだ。
もう引退まで1年もない。
楽器に触れられる時間も…もう残り僅かなのだ。
今まで吹奏楽部での2年間の思い出が、万華鏡のように蘇ってくる。どれも大変だったが楽しかった。
しかし…同じ本番にはもう2度と出られない。
そう考えると、少し寂しくも思った。
――道の駅色桜
道の駅色桜は、色鮮やかな桜が見られる桜の名所として有名だ。その広場には少し大きな舞台がある。そこでは既に茂華高校の演奏が始まっていた。
「…重いなぁ」
「瑠璃ちゃん、持つの手伝うよ!」
「優月先輩、ありがとうございます」
優月と瑠璃が機材を運んだ時だった。
「やってんなぁー」
「だなだな」
日傘を差した白髪の女性と、男性にすれ違う。
(…えっ?)
優月は思わず、視線をその2人へ向ける。
(…日傘?白髪?あの声?)
ひとりだけ心当たりがあった。
その人物の正体はすぐに分かった。
「おやおや、ゆなったら苦労してんね」
「…むっつん」
トラックから物を吐き出させているゆなは、その人物に目を大きく開いた。
「やっほ!井土先生はどこだ?」
何故ならその人物が…井上むつみと河又悠良之介だったからだ。
「…広一朗?知らない」
「そっか」
むつみは他の部員たちを見下ろす。
「めっちゃ部員入ったな。手伝おうかと思ったんだが、井土先生に許可取らないとだよな」
するとゆながトラックの荷台から飛び降りた。
「いや、手伝え。ゆらも手伝え」
とても後輩と思えない態度を取るゆな。しかしむつみも悠良之介も慣れっこだ。
「…分かった。日傘さしてくれた恩を返してやる」
そう言って、むつみはトラックの荷台へと転がり込んだ。
「新1年生と新2年生〜!私が下ろすの手伝うから、受け取ってね」
むつみが叫ぶように言うと、
『ありがとうございます!』
後輩たちがお礼の言葉を投げ返してきた。
「…よし、悠良之介!お前はブースまで楽器を運んでいくれる?」
「全然構わない」
悠良之介はそう言って、楽器たちを運び出す。
卒業後なのに、ふたりの連携力は以前よりも増している。それを見たゆなの頭の中で、ひとつの仮説が立てられた。
「なぁ、むっつんとゆらって付き合った?」
ゆなが無神経に訊ねる。
「…黙ってやれ!」
しかしむつみが慌てて誤魔化した。
そうしてOBOGカップルに救われながら、楽器や機材をステージ裏まで持っていけた。
こうして、取り敢えず楽器の運び出しが終わると、次は演奏の合間にチューニングだ。
「抹月、もう少し音を高く」
「いや、これが正常。私をいじらないでください」
「へへ、バレたか」
抹月とむつみは知り合いで、テントの中で仲良く話していた。
「…にしても、何人入ったんだ?」
「7人だった気がする」
「すごい入ったな」
抹月はそれを聞いて、小さく頷いた。まだ一桁といえど、弱小校は人数が少ない傾向にあるので、当然の原理なのだが。
その時、私服の広一朗がやってきた。
「おー!むっつん」
「井土先生、お疲れ様す!」
「ゆらくんにも会ったよ?もしかして…付き合った?」
すると彼は頬を赤らめ、核心を突くが如く尋ねた。
「…アハハハハハハハハハ」
それを聞かれ、むつみは突然、笑い出した。
「逆にそれ以外の何で、彼といるんです?」
そしてこう答えたのだ。
この答えで広一朗は何となく察した―――。
一方、瑠璃と優月は打楽器の組み立てを終えて、茂華高校の演奏を聴いていた。
「かわいいだけじゃだめですかー?」
「……」
流行りのフレーズに、瑠璃のみならず、美乃凛も便乗していた。
(このふたりなら…なんか許せちゃう)
マジレスする優月は、そのまま美玖音の方を見る。やはりうまいな、と思う。ハイハットの処理ひとつひとつが完璧だ。
そんな茂華高校の演奏は、あっという間に終わった。
次は茂華中学校吹奏楽部の演奏だった。
(…やっぱり堀江くん、すごい)
玖打は打楽器なのだが、鍵盤楽器も自在に演奏している。隣の瑠璃を見てみれば、うまーいと褒めていた。
(…流石全国レベルの奏者)
優月は、玖打が有名であることを知っている。
だが、何かが足りない気がした…。
そして時間は矢のように過ぎ去り、東藤高校だ。
『優月先輩、頑張ろうね!』
『瑠璃ちゃん…』
(全然緊張してないの凄いなぁ)
いよいよ、楽器を構え本番が始まる――。
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