第23楽章 春色ラブメロディー
「…同じ優なのに…この存在自体が恥ずかしい」
「…優月先輩」
昼休み中も、優月は深く落ち込んでいた。音楽室は人が多いという理由で、中庭で食事することにしたのだ。
「瑠璃ちゃんくらいうまくなかった…?」
「うーん。確かに…。結構うまかったなぁ…」
瑠璃も優次という少年の実力を認めたようだ。
「…どう見ても初心者みたいだったのに、実はめちゃめちゃにうまかったなんて…」
その時だった。
「瑠璃ー」
「古叢井さん…」
ふたりの声が、瑠璃の首を横に曲げる。
「あ、凪咲!冬弥ちゃん!」
話しかけてきた人物。それは伊崎凪咲と、他校の友達となった相馬冬弥だった。
「久し振り!」
瑠璃は凪咲に抱きつく。
「…ふふ、東藤でもうまくやってる?」
「うんっ!」
「良かった…」
凪咲は瑠璃のことが大好きだ。瑠璃の小さい頭を優しく撫でる。
「木管はどこで練習してたの?」
「1年教室。そうだ、冬弥ったらね、超Sクラうまいの!」
「へぇ、凪咲がそこまで言うなんて…」
瑠璃は、冬弥の穏やかそうな双眸を見つめた。すると冬弥が楽しそうに目を細める。
「無事、Sクラに固定されてね、毎日が楽しい」
「そうなんだ。良かったね、冬弥ちゃん!」
どうやら瑠璃は、親友との再会を果たしたようだ。
(…いいなぁ)
優月はひとりそう思いながら、ペットボトルをあおる。水分が乾いた喉を強引に潤した。
一方、木管の練習室も盛り上がっていた。
「東雲抹月…って、いい名前だよな」
「…だろだろ!いやー、花琳いなくてショックだってのに、友達できちゃったーっ!」
鈴衛音織と東雲抹月、同じフルート同士、かなり盛り上がっていた。
「貴君はいつからフルートを嗜んでた?」
「…小学生のときからだな。教室にも通ってたんだ」
「それで上手いのか。貴君の活躍はよく耳にしてたぞ」
「マジ!?私、茂華にはフルート勝てないと思ってたんだよ」
「そんなことないぞ。私くらいはあると思う」
「マジぃ!?嬉しいわ」
抹月は楽しそうにそう言う。
「…にしても、中学生のほうも優秀なんだな。中畑みるくちゃんだっけ?めっちゃうまいわ」
「あの子の親、かなり厳しくてな。結構血眼になって励んでるらしい」
「ほぉん…。親が厳しい系ね…」
その時、抹月の目つきが鋭くなった…ような気がした。
その時、凪咲と冬弥が帰ってきた。
「ただいまー」
「伊崎、帰ったか」
「帰ったー」
凪咲は機嫌が良いのか、軽い口調で受け流している。
「誰かと再会したのか?」
「うん。瑠璃がいた」
「そうか」
音織は瑠璃の名を聞いて、懐かしそうに目を細めた。
「…ねぇ、優月先輩」
「ん?」
その頃、優月と瑠璃は、暇そうに茂華高校内を歩いていた。 そんな中、瑠璃がひとつの問いを投げかける。
「優月先輩、加藤先輩のことが好きなの?」
「えっ?咲慧ちゃん…?」
優月は少し驚いてしまった。
「ううん。恋愛感情はまったくないよ」
それでもありのままの事実を否定する。
「…ほんとうに?」
しかし瑠璃は歩み寄り、こちらの言葉を信じない。いや、不安なのか?
「…本当だよ。どうして?」
だから優月は、逆に問いを投げかけた。
「……」
すると瑠璃は突然、黙り込んだ。
「…そ、それは……」
彼女は優月の心配そうな顔を見つめる。見れば見るほど…何だか緊張してしまう。
「それは…?」
優月は復唱する。立ち止まって約数秒。心臓の鼓動が彼女自身の耳を強く波打つ。
瑠璃が何かを言いかけようとした時、月に叢雲花に風。
「…瑠璃!先輩!」
誰かが間を割くように話しかけてきた。
「あ、月館さん」
「く、紅愛お姉様…」
それは月館紅愛であった。彼女は長い髪を揺らしながら、ふたりのもとへと歩み寄る。
「…どうしたの?」
瑠璃が訊ねると、紅愛はあっけらかんとした顔を見せる。
「それはこっちの台詞よ。先輩とどうしたのよ?」
「え…っ…」
瑠璃は思わず動揺する。
「やっぱり瑠璃……!」
その時、優月が慌てて紅愛を牽制する。
「あ、違うよ。自販機探してたの。そしたら瑠璃ちゃんも喉が渇いたって言うから、一緒に歩いてたの」
「…そ、そうだったんですね」
紅愛は瑠璃を見る。
「………」
すると彼女はいきなり黙り込んだ。
「なら、ごゆっくり。私は邪魔だったわね」
そう言って紅愛は小走りで去ってしまった。
(もしかして紅愛お姉様……!)
一方、取り残された瑠璃は頬を赤らめた。
しかし優月の声が、思考を追撃破壊した。
「どうしたの?」
「あ、ううん。何でもないよ!行こう!」
「う、うん…」
強引に瑠璃が主導権を握りながらも、ふたりは校舎の隅にあった自販機で飲み物を購入した。
そして午後、合奏が始まった。
(…やばい。マツケンサンバとか初めてやった)
優月はボンゴを叩きながら、重なるリズムに感動していた。
瑠璃は隣のコンガをそこそこの強さで叩いている。うまいなあ、いいなあ、なんて考えていた。
「はい、ストップ!末次くん、カウベルの音をもう少し大きくしましょう!」
そう言ったのは茂華高校顧問の今川京華。
「はい!」
秀麟は返事しつつ、カウベルを構えた。
『マツケンサンバII』。このパーカッションの苦労はピンキリだ。優月がボンゴ、瑠璃がコンガ、ゆながドラム、那珠葉がカバサに比べ…、
茂華高校は、美玖音がドラム、碧美がグロッケン、優次がビブラフォン。
茂華中学校は希良凛がタンバリン、秀麟がカウベル、玖打がサスペンドシンバルだった。
「…あと、トランペットの…東藤高校の巌城さん」
「はい」
「音のハリがしっかりしてますね。ですが、音程がまだ曖昧なので、改善してください」
「分かりました」
美乃凛は笑いながら頷いた。美乃凛は指示されればされるほど成長する。
「それと同じく國井くんも、です」
「わ、わかりました」
「あと、相馬さん、もう少し音量を上げてもいいですよ」
「はい」
こうして、どの学校も等しく集中攻撃を受けていた。
「…マツケンサンバIIと怪物。これで大丈夫そうですね。皆さん、来週ですが準備は良いですか?」
『はい!』
各学校の各奏者が返事を返す。その声は意欲に満ちていた。
「今年は新1年生も多いですが、その分、迫力が増すと思います。みなさん、頑張りましょう」
『はい!!』
毎年恒例、今井の言葉で合同合奏は終わった。
「それでは、これで合同練習を終わりにします。ありがとうございました!」
『ありがとうございました!』
茂華高校の部長、篠葉麗咲の言葉で合同練習は終わりを告げた。
楽器をしまいながら、優月と美玖音は話していた。
「美玖音ちゃん、コンガは茂華高校のを使うんだよね?」
「そうだね。今井先生と井土さんがそう言ってたし」
美玖音はそう言って、小物楽器を丁寧に台へ並べた。
「…そうだ。優月くん、一緒に帰らない?」
「一緒に?」
「合奏の前、言ってたじゃん?図書館まで行くって」
「ああ、うん。駅と近いし、別に大丈夫だよ」
「ちょっと、相談したいこともあるしね」
そう言って美玖音は、意味ありげにウインクを放つ。
一方、瑠璃は凪咲と帰っていた。夕日が山に差す時間、校門には殆ど人はおらず、ほとんどの人は帰路についていた。
「中学校以来だね」
「そうだね。一緒に演奏するのも、一緒に帰るのも」
「来週、頑張ろうね」
「そうだね。瑠璃も頑張るんだよ」
すると瑠璃は頬を風船のように、膨らませた。
「私は大したの任されてないもん」
それを聞いて、凪咲が頭を強めに撫でる。
「…そんなこと言ってー…。来年からはどうなるかも分からないんでしょ?」
それを言われて、瑠璃の表情が氷のように固まる。
「そうだった。今は半年しかできないんだった…」
その下向きな言葉に、凪咲は慌てて慰める。
「あ、そんなつもりでは言ってないよ…!」
しかし瑠璃はあっけらかんと首を傾げる。
「…そんなって、どういうつもり?」
「あ、いや、瑠璃を傷つけるつもりで、って意味」
「そんなに私が心配?」
「正直、瑠璃が自殺しないか心配…」
凪咲の不穏な言葉に、瑠璃は無理やり笑う。
「大丈夫だよ!楽器があったら楽しいもん!絶対に死ねない」
「……」
(それって…楽器をやめたら…どうなるの?)
―――姉さんみたいに?
優子みたいに苦しくて、急にこの世を去るかもしれない?
また…あの空っぽな空虚感と底なしの闇に襲われなきゃいけないの?
守ったって意味がないの…?
瑠璃…、私がいるんだから壊れないでね…。
そんな瑠璃や凪咲の気持ちなども知らず、優月は美玖音と校門を出ていた。
「えっ?想大くんに会ってみたい?」
「うん。何回か電話はしたんだけど、やっぱり優月くんが推す人だからさ、会ってみたくて」
「…いい人だし、美玖音ちゃんの初彼氏になるかもね」
優月がなじるように言う。
「ま、楽器が彼氏なんだもんね、美玖音ちゃん?」
その問いに、美玖音は頬を膨らませる。
「えーーーいっ!」
美玖音が優月の肩を強くたたく。
「いったっ……!?」
(えっ……?)
突然、聞こえた優月の悲鳴。
瑠璃は大きく振り返る。
「…あ、優月先輩」
(…美玖音ちゃんと帰ってる…?)
その顔は途端に、不安に満ちた。
「瑠璃?」
すると凪咲が小さく首を傾げてきた。
「あ、ううん。何でもないよ!」
夕日が沈むように、優月と美玖音の姿が消えていく。オレンジ色の陽光が哀愁を醸す。消えるふたりの姿が、瑠璃にとっては何だか、寂しく見えてしまった。
(私ってばか。どうせ明日も会えるから)
―――たくさん甘えてやるんだから。
そして――新体制の本番がはじまる…!
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