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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]入部&春isポップン祭り編
3/171

演奏と入部の章 [前編]

「…へぇ。お父さんがフルート奏者だったんだ…」

明作茉莉沙が、鉄骨の階段に座り込み、そう言った。

彼女は,部内で唯一のトロンボーンの担当で、学校の裏の庭でトロンボーンを練習していた。

「はい。だから,もし吹部に入ったらフルートやりたいなぁ…って思ってまして」

1年生の岩坂心音はそう言うと、短い髪をバサバサと掻いた。

「…良いんじゃない。初芽に話しを通しておこうか?」

茉莉沙がそう提案した。

「あの…初芽と言うのは?」

初芽結羽香(はつめゆうか)。私の友達でフルート担当してる」

彼女がそう言うと、心音が小さく頭を下げる。

「えっと…お願いします」

すると、茉莉沙は「分かりました」と首を縦に振った。

茉莉沙の綺麗で美しい顔立ちは彼女へ安心感を与えていた。

ー音楽室ー

「…す、すごいね」

ホルン担当の周防奏音が目を輝かせそう言うと、女の子は

「ここの人間が下手なだけ」

と冷たく振りほどいた。

この女の子は,先程までドラムを叩いていた。

「…なんてね。」

女の子は,小さくお辞儀をする。

「私は,鳳月ゆな。宜しく」

その女の子は鳳月ゆなと名乗った。

「鳳月…さん、凄いですね」

奏音がそう言った。

まるで,バンドマンかのようなパフォーマンスにその場にいた全員が圧倒されていた。

ゆなは「ありがと」と頭をぺこりと下げる。

「…経験者か?」

夏矢颯佚が訊ねる。

「…別に」

ゆなはドラムスティックを指でクルクルと回しながら,そう答えた。

「…私,中学では、吹部に入ってなかった。ドラムは習ってただけよ」

「…へぇ」

美心が,そういうことか、と言わんばかりに言った。

彼女も入部するのだろうか?と優月は気になった。

鳳月ゆな…。もしも彼女が入部すれば…。

「そろそろ、合奏だ」

茉莉沙がそう言って、腰を上げる。

「…あの,ありがとうございました」

ぺこりと、心音が頭を下げた。

「…どうも。入部待ってますね」

その言葉を残して、茉莉沙は昇降口へと姿を消して行った。


茉莉沙、初芽…。いずれも初めて聞く名前だった。

「…端から入る気なかったけど…ちょっと興味出てきたな…」

明作茉莉沙ー。魅力的だな、とさえ思った。

「氷空ちゃん、上手いねー」

雨久がそう言って、彼女の頭を撫でる。

「ありがとうございます!」

黒嶋氷空(くろしまそら)という女の子がてへへ…と笑う。

「…私、中学でもペットやってたんですよ」

「へぇ~」

雨久がそれを聞いて、口元に笑みを浮かべる。

「氷空ちゃん、他に候補ない?」

「え?なんのです?」

「部活」

すると氷空は紺青の瞳を、雨久へぶつける。

「無いです。吹部一択です」

「…嬉しい!!」

雨久はそう言って、目をキラキラと光らせた。

こうして…勧誘して初の彼女の入部が決定した。


―翌日―

「入ったんだねぇ…」

川又悠良ノ介が銀色に光るユーフォニアムを抱えて意外そうに言った。

「よかったじゃん」

そこに、1人の女の子が入り込んでくる。


「…うぉぉ…むつみ…」

彼の後ろに立っていた女の子は、特殊な容姿をしていた。

「…その恰好、やっぱかっこいいな…」 

すると、その女の子は不機嫌そうに,フンと鼻を鳴らす。

「これが元の容姿なんだから」


彼女の容姿は、雪のような真っ白な髪、髪の毛先も整っていて、細い前髪はサーベルを想起させてくる。瞳も赤く光り輝いていた。

まるで、アニメの中から出てきたようだ。

この女の子の名は、井上むつみ。

「…通る通る」

そう言って、むつみは椅子と椅子の狭い空間を通り抜けていった。

「…そうだな」

むつみの事を知っているのだろう。悠良ノ介は口元に柔らかい笑みを浮かべた。 


だが悠良ノ介は何かに気付いたように、目の色と声色を変える。

「てか、ユーフォ誘えよ!ユーフォ!」

ユーフォとは,ユーフォニアムの略称である。

「嫌よ。オーボエ誘うんだから」

「…頼む―!むつみ、上手いんだから、オーボエは1人で良いだろ!」

「それならアンタは3人分、練習して何とかしなさい。私は頑張って誘うから。嫌なら頑張って誘いなさい!」

そう吐き捨ててむつみは楽器庫の扉をバタンッ!と勢いよく閉めた。

「…はぁ」

辛辣な彼女の言葉に、悠良ノ介はハハハ…と打ちひしがれた。



「失礼します」

すると、1人の男の子が音楽の扉をゆっくりと開ける。

「…来た来た」

そう周防奏音(すおうかのん)がボヤいた。

「夏矢君、こんにちは」

「こんにちは。周防先輩。少し気になったんですが,トロンボーンの部員はいないんですか?」

「…えっ?め、明作さん…」

奏音がたじろつく。すると颯佚が肩をすくめる。

「いるにはいるんですね」

「…い、いるよ。ど、どうしたの?トロンボーンをやりたいの?」

「…いえ」

颯佚は、そう言って、1枚の書類をファイルから抜き出す。

「…言っておきますが、俺はサックスをやります。前の神平中でも、やっていたので…」

「…へ、へぇー…」


奏音は落胆したように肩を落とした。

それと同時、何故,出身中学校を?と気になる。


「…神平!マジ!?」

その時、鋭い声が響く。

その声の主はむつみだ。

「神平中って吹部の超強豪校でしょ!」

むつみが叫ぶように言うと、奏音はそうなんだ、と目を丸くした。

「はい…」

その反応を待っていたかのように、颯佚は口元にうっすらと笑みを浮かべた。

「…は、入るの?」 

むつみがそう言うと「入部届けを先生に渡しに来たんです」と入部届けを突き出した。

「…今年は奇跡だ」

むつみが嬉しそうにこう言うと、颯佚が「先生は?」と訊ねる。

「…まだ一度もここの顧問に会っていないんですよ…」

困ったように颯佚が言うと、奏音が、

「…職員室かな」

と返した。それを聞いた彼は、音楽室から出ていった。



そんな彼と入れ替わりに、今度は優月が音楽室に入ってきた。

「…あれ、鳳月さんは?」

田中美心が彼へそう尋ねる。

「…今日は見てないです」

優月はそんな彼女に首を左右に振って返した。

「こんにちは」

すると、もう1人の女の子が彼へ話しかける。

「…!」


後ろを振り向くと、真っ黒な髪を肩まで垂らし目をキリッとさせた女の子がいた。

「…初芽」

むつみがそう言うと、初芽結羽香(はつめゆうか)は手を上下に振る。

「そこの子、フルート興味ない?」

「…っぇ」

優月は困ったように眉をひそめた。

「…すみません。ないです」

そう断ると、初芽がそっか…と残念そうに頭を押さえた。

強引に勧誘しない辺り、良識ある人なのだろう。


「…小倉君が入れば、フルート3人になってたんだけど…」

「…3人ですか?」

少し引っ掛かった優月が首を傾げる。フルートは初芽結羽香だけでは無いのだろうか?


「…うん。1人、入ったの」

それを聞いて「へぇ…」と感心した。

「…部活はここ?」

初芽が『吹奏楽部には入るのか?』と訊ねた。

「…まだ考え中です」

「そうなんだ。入部、待ってるからね」

そう言って彼女は去っていった。


「…」

優月は少し沈黙してしまった。なんか申し訳ない。



「何やってるの?」

その時、誰かが彼の沈黙を打ち破るように、話しかけてきた。

「…あ!」

その人物は鳳月ゆなだった。

「…鳳月さん。ちょっと考え事してた」

そう言って少し青みがかった地毛の髪を掻いた。

するとゆなが、へぇ…と目を丸くする。

「考え事するんだ。お前、頭悪そうだから考え事できないと思ってた」

「…っえ」

突然、貶されたことに彼は、戸惑いを隠せない。

「…あ、頭悪そうに、見えたんか…」

しょぼんと優月は落ち込んだ。


しかし、ゆなは何も言わず,ドラムを打ち始めた。

何度見ても、凄い。それは、自分が凡人だからだろうか?


「…あっ」

それを見て誰かが言った。

しかし、その人物はトロンボーンケースを手に音楽室を去って行った。

(…はぁ)


茉莉沙の脳内で何かがフラッシュバックする。

「…今も続けていればあんな風に叩けていたのかな…?」

茉莉沙はそう言って、過去を憂うように小さな手で顔を仰いだ。




この時、明作茉莉沙が恐ろしい存在に進化するということを,今はまだ誰も知らない。



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