第22楽章 合同練習での再会
1週間後――
「…茂華高校」
優月は1人で校門前に佇んでいた。
「…確認確認」
そのまま吹部のグループラインを見ると、チャット欄に要項が書かれていた。
《朝9時に茂華高校の音楽室で集合》
今は8時30分。早く優月は来すぎてしまった。
その時、メールの通知音が鳴る。彼は即座に反応して、その人物のある返信を呑み込む。
「…入るか」
それだけ言って、優月は音楽室へと入った。
♬…音楽室…♬
「美玖音ちゃん、おはよう」
「優月くん、きたきた。おはよう」
優月は音楽室でくつろぐ美玖音を発見した。
「相変わらず早いね」
「親の送りが早かったんだ」
優月はそう言って、近くのスペースに荷物を下ろした。
「…そういえば、後輩は何人入ったの?」
その問いに、美玖音が嬉しそうに笑う。
「…ふたり!超優秀なふたりが新たに、我がパーカッションに加入してくれましたー!」
「…へ、へぇ」
意外といるなぁ、と優月は開いた口が塞がらなかった。
その時だった。
「…おはようございます」
無骨な少年の声が、優月の脳裏を深々と刺す。
「おはよう。茂華中学生だね?何パート?」
一方の美玖音は、容赦なく言葉を浴びせた。
「…打楽器だ」
「私たちと一緒だね」
「そうか。あ、下手くそなやつだ」
「…堀江くん」
失礼なことを平然という少年、その名前は堀江玖打だ。玖打は優月のことをなぜだか、下に見ている反応をする。
「堀江くん?もしかして…ソロで全国に行った?」
「はい。そうですが?」
「へぇー。イケメンだね」
美玖音が取り敢えず褒める。
「俺、年上には興味ないんで。でも、あなたからのお世辞は有り難く頂きます」
「へ、へぇ。玖打くんは同級生がタイプ?」
「いえ全く。どちらかといえば年下。いわば、ロリコンみたいなやつですね」
「へぇ、意外」
玖打の意外な本音に、美玖音が目を見開いていた。
(ロリコンねぇ……)
優月も意外だな、と彼を軽く睨んだ。
しばらくすると、他の部員たちで音楽室は溢れかえった。
「瑠璃せんぱーい!お久し振りでーす!」
「久し振り!秀麟くんとはまだ付き合ってる?」
「付き合ってるに決まってるじゃないですかー!彼とは絶対に結婚までするので!」
「結婚……いいなぁ…」
優月はそんな会話を聞いて、結婚かぁ、とありもしない可能性をこじつけて、妄想をする。
(僕も小さい時は、優愛をお嫁さんにしたいなんて思ったっけ……?)
「中学生からの交際で結婚まで続く可能性、約1%」
その時、誰かの低い声が、優月の妄想とふたりの会話をぶち壊した。
「えっ?」
瑠璃と希良凛に口を挟んだ人間、その人物は色黒でいささか、高身長であった。髪も少し白く瞳は銀。どう見ても、外国人のようだった。
「…私は絶対結婚します」
「どうだろうな、ギルティ」
その男子の名前は優次というらしく、美玖音直下の後輩であった。
(…変わった1年だな)
時間ギリギリに来たゆなもそう思った。
そんな形で、まずはパート同士の顔合わせが始まった。パーカッションパートは当然、東藤高校のふたりに主導力がないので、美玖音が取り仕切る。
「…まずは茂華高校からでいいかな?」
美玖音の言葉に、数人の奏者が頷いた。
「……さて、自己の何を紹介しょうか…」
しかし彼女は、自己紹介のネタを考えている。確かにな、と優月も少し考えつつも訊ねる。
「…去年は『読んでほしい名前』だったよね?」
「うん」
彼の問いに美玖音は頷いた。
「…じゃあ、今年もそれにしよっか!」
「おー…」
「名前、学校、読んでほしい名前でいいかな?」
『はーい』
そう言って、パーカッションパート同士の自己紹介が始まった。
……というわけで美玖音から自己紹介が始まった。
「朱雀美玖音です。茂華高校ですが、出身校は神平中学校です。名前は美玖音ちゃんとか、親近感ある呼び方してください」
「田中碧美です。茂華高校で出身校は御浦中学校です。名前は何でもいいです。よろしくお願いします」
(…何でもいいか。こういうのが1番困っちゃう)
優月はそう思いながら、碧美の方を見る。
そのせいで、優次という男の子の情報を聞き漏らした。
「…優次と呼んでください。よろしくお願いします」
(優次ね…)
すると美玖音が手をたたいた。
「…今回は1年生で優次くんがいます。あと1人だけ1年生が入ってますが、茂華高校からは以上です」
美玖音が締めくくると、今度は東藤高校だ。
優月が何も言わず、立ち上がる。
「小倉優月です。東藤高校で出身は茂華中学校です。優月かよく優々(ゆゆ)と言われますので、どちらかで呼んでください。よろしくお願いします」
早くもなく、遅くもないスピードで言葉を紡ぐと、次はゆなが立ち上がった。
「鳳月ゆなです。東藤高校で出身は冬馬中学校です。ゆなって呼んでください。よろしくお願いしまーす」
軽い声で自己紹介を終えると、瑠璃の方を見る。
「はい、古叢井瑠璃です。東藤高校で出身は茂華中学校です。瑠璃とか瑠璃ちゃんって呼んでください。よろしくお願いします」
すると、かわいい~、と美玖音が笑う。ちなみに美玖音と瑠璃は仲良しだ。
瑠璃は隣に座る那珠葉へ声をかける。
「那珠葉っち、いいよ」
「私も?」
「うん」
「分かった…」
すると那珠葉が突然、立ち上がった。
「小皷那珠葉です。東藤高校で出身は水戸内原第一中学校です。なずとかなずはちゃんって呼んでください。よろしく…お願いします…」
必要なことだけを言って、那珠葉は恥ずかしそうに黙り込んだ。
「最後は茂華中学校かな?」
「はいー」
すると希良凛が立ち上がった。
「指原希良凛です。茂華中学校で出身は御浦小学校です。さっちゃんとかさっしーとか、希良凛ちゃんって呼んでください」
(…私と小学校が一緒)
碧美は希良凛の顔をまざまざと見る。
(……そういえば、2つ下に希良凛ちゃん、いたな)
碧美と希良凛は以前、面識があった―――。
「末次秀麟です。茂華中学校で出身も茂華小学校です。秀くんと呼んでください。よろしくお願いします」
秀麟が終わると、ツンとした雰囲気を醸し出す少年が、突然立ち上がった。
「…堀江玖打です。茂華中学校で出身も同じく茂華小学校です。呼び方は正直…何でもいいです」
すると彼は浅く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
淡々と緊張もしない玖打。本番慣れしている故か。
「…では、練習をちゃちゃっと始めますかね」
『はーい!』
パーカッションパートは毎年、コミュニケーションを重視している。すべて美玖音の手腕だ。
「…那珠葉ちゃんは、カバサだっけ?」
「はい」
「瑠璃ちゃんは…合同だとコンガだよね」
「うん!」
1年生の那珠葉は当然の如く、目立たない小物楽器だ。優月と瑠璃はボンゴとコンガなのだが。
一方、ゆなと美玖音は上級者ということもあり、去年のようにドラムを演奏している。自身が鳴らす音とは圧倒的に違う、高質な音になんだか気後れしてしまいそうになる。
「…ゆなちゃん、そこのリズムは四分だよ」
「いーよいーよ!どうせバレないって!」
美玖音とゆなはすっかり打ち解けているのか、もう適当に会話をしていた。
「ぐぅーっ、僕もドラムやりたーいっ」
優月が悔しそうに言うと、瑠璃も同意するように頷いた。
「私も。あとマレットで音でっかくしたい!」
「…ふふ、マレットを強奪してやろうか…」
優月が悪い顔で言う。だが冗談だ。
「いいね!やっちゃえー」
瑠璃もそれを分かって、思い切り便乗していた。
一方のドラムはやはり皆の目を引いていた。
「うまいな」
すると玖打が、ゆなと美玖音に話し掛ける。
「…私がうまい?当たり前でしょ」
褒められたと思ったゆなが鼻の下を伸ばす。
「…違う。ゆなさんじゃない。朱雀先輩の方だ」
しかし、その賞賛の先はまったく違っていた。
「あ、ありがとう。全国レベルの子に言われると、もっと頑張れちゃう」
美玖音は喜びつつそう言った。
「…ぐ、なんだと?」
「俺もできますよ。でも叩く強さが乱暴なんです。天性に頼り切りの典型的な例だな」
悔しがるゆなを置いて、玖打は希良凛たちの方へと戻った。
暇だな、と優月は、優次のところへ向かった。
「…ゆ、優次くん。大丈夫?」
もちろん瑠璃同伴でやってきた彼。その声は純粋な心配に満ちていた。
「俺ですか?」
「あ、うん」
地を這うような低い声。思わず優月は身震いしてしまった。
「何を言いますか?できねばギルティですよ」
しかし彼は余裕なのか、そんなことを言う。
(ギルティ…有罪)
すると、彼はマレットを自在に動かす。燃え盛る炎のような動きが、鍵盤を深く鳴らす。ビブラフォン特有の涼やかなメロディーが、優月の度肝を抜いた。
(…う、うう、うま!?)
(この子が…花琳ちゃんの言ってた…優次くん)
この優次という少年。のそっとしているように見えて、機敏な手首使い、そして鋭い勘の持ち主であった。
まさか…まだ美玖音並みに、驚かされる奏者がいたとは。
新たな発見と再会を繰り返しながら、午前の練習は終わってしまった―――。
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