表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
ポップル THE フェスティバル編
298/304

第21楽章 鳳月ゆなの復活 初の合奏

 優月と瑠璃の面談日、ちょうど初めての合奏が行われる日だ。

「左の指はね、弦を支えておく。で、弾いたときに指を滑らせないよう、気をつけて」

「はい」

広一朗は早速、那珠葉にギターの技術を教えていた。彼女の真っ白な細い指が、鋼鉄の弦を震わせる。


「…そうそう。まずは何も押さえないで、自由に6弦を弾いてみて」

「はいはい」

那珠葉は楽しそうに弦を弾く。


「…ギターだ」

瑠璃が羨ましそうに言う。

「瑠璃ちゃんはギター弾いたことないの?」

それを見た優月が問うと、彼女は肩をすくめた。

「中学校の授業で弾いたことあるよ」

「中学校……?そういえば僕もやったっけ」

思い出した優月は、楽しげに目を細める。中学校時代、中学2年生と3年生で一度ずつ、アコースティックギターを授業で弾かされた。


「…でもね、あんまりうまく弾けなかったよ」

「そうなんだ」

優月は驚き混じりの声で、彼女を深く見つめた。

「…んっ?どうしたの?」

あまりにも注ぐ視線が過ぎたのだろう。瑠璃が訝しげな表情で尋ね返してきた。

「えっ…?ううん。いや、瑠璃ちゃんにも、弾けない楽器があったんだなぁ、って」

「えへへ、あるよそれは。リコーダーとかも苦手で、あんまり長くは吹けないし、ピアノだって弾けないよ」

「…そうだったんだ」

意外な話しを聞いた優月は、コクコクと心得たように首を縦に振った。


「その代わり、ドラムとかは凄くたたくよ!」

しかし彼女の声がいつもの明るさを取り戻す。

「そ、そうだね」

そんな陽気さに合わせるように、優月はニコリと笑った。

「じゃあ、練習しょっか?」

優月が言うと、瑠璃は「はーい!」と軽やかな声で頷いた。



今現在、那珠葉を除いて全員が、他の教室で練習中だ。1年生教室にて個人練習をしている。

「…えっと、タンバリンとスネアだよね?」

「うん。瑠璃ちゃん、あとシンバルも」

「スネアとシンバルをたたくのかー」

優月はその言葉と同時に、鍵盤楽器の楽譜を見た。

(…これくらいなら、できそうだな)

なるべく、瑠璃に負担を掛けないよう、優月は鍵盤を少しでも引き受けていた。


スネアの連打とシンバルの切り裂くような悲鳴が、交互に響き渡る。覚えが早い。

(…大丈夫そうだな)

しかし優月は迷う。

自分もドラムやパーカッションセットをやりたい。だが、瑠璃もそれは同じだ。

その気持ちはどうすれば良いのだろうか?



その時だった…。

「いーっす」

誰かが音楽室のドアを蹴って入ってきた。

「…ほ、鳳月さん」

その人物に、優月の全身の毛が逆立つ。

「あ、ゆな先輩だぁ」

一方、瑠璃は彼女に歩み寄る。瑠璃はゆなの本性を知っても尚、仲良き共存を目指すつもりだ。

「むらこいー、やほ」

「むらこい?」

優月が眉をひそめる。

「こむらいのアナグラムだよ」

ゆながそう言って、瑠璃の頭を小さく撫でる。

「えっへへへー」

「むらこい、うまくやってる?」

「はい!」

ゆなもゆなで、女の子の後輩ができたことが、嬉しかったのだろう。いつもより笑みの深さが濃い。

「じゃ、私はドラムやるわー…」

鳳月ゆな復活。優月は小さくその単語を舌の中で、転がしながらマレットを手にする。

「…じゃ、グロッケンやるかー」

「……」

瑠璃は優月の手首を見る。手首が固定されているように見えた彼女は、優月へ話し掛ける。

「優月先輩、もう少し手首を振ったほうがいいよ」

「手首を振る…?」

優月は手首を動かしながら、マレットを上下させる。

「そうそうー」

「なるほどね…」

鍵盤は優月にとっては苦手な部類だ。


「…私、もうできちゃったから、優月先輩に色々と教えられるよ?」

すると瑠璃はこう提案してきた。

「あ、それは助かるよ」

「へへ、先輩は鍵盤苦手だもんね」

「ま、まぁ…」

瑠璃に比べれば、本当に下手だろう。夢のない現実を噛み締めながら、瑠璃の指南を受けた。


(……)

ゆなはそれを見て、つまらなさそうな顔から笑みへと変える。

(…むらこい、やっぱり優秀やな)

その表情が、あの悪魔を呼び覚ます魔法陣になることも知らずに……。



そして、いよいよ合奏がはじまる。

「エードゥアいきます」

『はい』

颯佚の指示のもと、まずは基礎合奏だ。優月はめでたくスネアを……とは行かず、瑠璃と共に鍵盤を打っていた。

「古叢井さん、ゆゆ、音が違うよ」

「私、3年でティンパニやってから、全部記憶ない…」

「ゆゆも同じく……」

ふたりは負い目を食らいながら、鍵盤の基礎音階を弾いていた。


(…私は太鼓だけやりたかったから、鍵盤の頃の記憶を捨てちゃった…)

大体の場所は分かるも、不明瞭な所が多い。それは中学時代、細かい練習しかやっていなかったからだ。


(…瑠璃ちゃん)

トロンボーンを吹きながら、美心乃は不安そうに後ろへ目をやる。

優月の音か?瑠璃の音か?聴こえてくる音は少し外れていた。

そんな不安を込めながら、初めての合奏が響く。



 最初の合奏は見切り発車感のつよいスタートだ。それでも淡々と最後まで、部員たちは音を紡ぎ続ける。

「ふむふむー…」

広一朗は楽譜を見ながら、何度も頷いた。最序盤の演奏にしては良い。満足である。

「…うんうん。課題はあるけれど、初心者さんも楽しそうに演奏してるし…だったら、いいでしょーう!」

広一朗がグッドサインと同時に言う。

「略してカレンダー」

心音が調子に乗ってボケる。

「あはははっ!」

すると1年生の何人かが笑う。

「カレンダー…。まぁ、課題を指摘しますか」

広一朗はそう言って、那珠葉へ視線を向ける。

「小皷さん、今回は無理しないで、弾けない所は弾きパクでいいです」

「え…、はい」

弾きパクとは、弾いているフリということである。

「弾きパク…」

那珠葉は楽譜を凝視する。まだ序盤のイントロしか弾けない。無理して弾き続けることはないということか。

(…むっ、弾けるようにしなきゃ)

しかしその言葉は、那珠葉の心に火をつけたのだった。


「…あとは、久城さん。吹き方と音はいいんですが、息継ぎの音が少し大きいです。無理しないでください」

「すみません!」

美心乃がそう言って、深く頭を下げた。

「いえいえ。初心者にしては頑張り過ぎな方なので、お気になさらず」


「高津戸さん、バリトンになった瞬間、音が急に大きくなってます。それは全然結構ですが、音を外すとバレバレなので、技術面も安定させるように」

「御意!」


こうして主に初心者が、広一朗の指導網に引っ掛かる。それでも全員が伸び代がある。

「…もう少し続けてみましょう」

『はい』

トランペット主旋律の響きが、音楽室の壁へたたきつけられる。

「…うん!ストップ!」

「は、はい?」

広一朗がトランペットの3人に、視線を注いだ。

「…巌城さん、音が正確で、音量も丁度よい。でも曲を吹くスピードを早くしてくれますか?」

すると美乃凛が柔らかい顔に、不穏を陰らせる。

「…あ、ごめんなさい」

「大丈夫です。初心者にしては上出来です。ですが、曲のスピードは何より大切だし、遅れれば目立ってしまいます」

その言葉に、美乃凛はコクリと頷いた。その顔はさぞかし不安なことだろう。

しかし……

「…分かりました」

美乃凛は唇を平べったく伸ばした。

「まだまだスピードは早くなれると思います。今の質を維持したまま」

そしてこう言った。

「…今の質を…」

「…維持したまま?」

孔愛と氷空が思わず驚く。美乃凛の顔は自信に満ちていて、とても虚勢に見えなかった。

「そ…そうですか…。でも来週には合同練習なので、それまでに頑張ってください」

「分かりましたー!」

美乃凛の顔は自信に満ちていた―――。

(…まだまだうまくなる。何か言われたら…それ以上の答えを出せれば良いから)

巌城美乃凛。彼女は特異な能力を持っていた…。





部活終わり。

「…楽しみだなぁ。凪咲たちに会えるの」

「そっか。瑠璃ちゃんのお友達は茂華高校なんだ」

「うん」

優月はすぅ…と息を吐く。

「いいなぁ。僕の友達は、吹部の子少ないから」

「そうなんだ」

「中学時代は吹部に関わらなかったからね」

「…確かに」

瑠璃はそう言って笑った。

「…楽しみだなぁ。来週」

その言葉に同調するように、優月も瑠璃を見て首を縦へ傾けた。


しかし―――あの少女との激震は着々と迫っていた。







最後まで読んで頂きありがとうございました!

作中で使用する曲のリクエストだけでなく、アドバイスや感想は大きなモチベーションになります!総合ポイント100point 目指しております!

良ければ、リアクション、ブックマーク、感想、評価をお願いしたいです!

 また吹奏万華鏡では、個性的な奏者たちの物語や、他では絶対に見られない日常、様々な目標に向かう物語を日々更新しております。

多面的に見られる物語を、これからも楽しんで頂ければ嬉しいです。

 次回もお楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ