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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
ポップル THE フェスティバル編
297/305

第20楽章 進路はどうする?

 この日、ようやく初合奏が実施された。

「…うんうん。課題はあるけれど、初心者さんも楽しそうに演奏してるし…だったら、いいでしょーう!」

「略してカレンダー」

『あはははっ!』

この日が……あの感動の日へのカウントを、明確に切るのだ―――。



3年1組教室。

「小倉くん、就職か、進学かは決めた?」

「はい。就職にしようかな…と考えてます」

この日、優月は担任の鎌崎(かまさき)紗耶(さや)と面談をしていた。

「…そうなんだ。なにか、やりたいことはある?ほら、昨年末に学年主任の渡邉先生が言ってたでしょう?」

「…やりたいこと…ですか」

3月の初旬、学年主任の渡邉(わたなべ)陣一郎(じんいちろう)から進路講話をされた。 

「…好きなこと。楽器を扱うのが凄く楽しい…ってことくらいですかね」

「なら、音大とかで楽器を学んだら?」

「…!」

優月は鎌崎からの言葉を受けて、一瞬だけドキリとした。

(確かに、楽器をもっと知りたいし、やりたい。でも、大学に行けるだけの覚悟や学力が…)

責任、努力、義務、覚悟、信念。どれも、大学に行くには、優月には重すぎる言葉がのしかかる。


「…学力とかもありますし、それに地元を離れないと…音大は見つからないんです」

優月は下向きな言葉だけを返す。当然、鎌崎を困らせてしまうことは承知だ。だが、音大という可能性を潰してしまわないよう、明確に否定することはしなかった。

「学力ねぇ…」

すると鎌崎は意外なことを言った。

「小倉くん、期末も赤点はひとつもなかったでしょう?」

「えっ?はい」

「…しっかり勉強する癖さえ付けばね、学力は正直言って、何とでもなる。なにも、明作さんみたいにずっと成績を維持しなきゃ駄目!とかはない」

明作…明作茉莉沙。彼女はどちらかといえば、努力の天才であった。今頃、医大で医者になる為、1から必死にもがいていることだろう。 

「…勉強する癖…はい」

(美玖音ちゃんが…僕の姉だったら可能性はあったかも…)

テスト勉強は朱雀(すざく)美玖音(みくね)という茂華高校の友達とやっている。しかし普段は吹奏楽に心血を注いでいる。まるで優月のように。


「…それと、地元を離れる気はないの?」

すると鎌崎の追及が鋭くなる。答えという名の砥石(といし)に、質問という刃が鋭利に()がれる。その刃が貫く先は……己の将来だ。

「…実は卒業したら、ひとり暮らしなんです。だから音大で学んだとして…生活と両立できるか」

その声には、ただならぬ未来への不安が滲む。

「料理は?できるの?」

「一応作れます。家族にも美味しいと言われるレベルには…」

「洗濯は?」

「たまにやってます。暇な時とか」

「……なるほど」

優月はそれなりの家庭力を付けてある。料理は気分転換にもなるし、洗濯は外の空気を吸う機会にもなる。

「…それなら、ひとり暮らしの土台には不足はなさそうね。何かそこまで不安…とかある?」

「…課題とか、今のままでもまだ要領が悪いのに、家庭と両立できるかな、って」

「課題。なるほど、それは不安ね。確かに講義の課題とひとり暮らしの両立が難しい、って言う子は何人も見てきたわ」

そう言って鎌崎は指で髪に触れる。

「…確かに、入ってキツイとなると、下手すれば将来が大変なことになっちゃうね」

「はい」

「学費は?奨学金狙い?」

「いえ。それは大丈夫らしいです」

「なるほどねー。取り敢えず、音大一択に絞るのも良いけれど、他にもあなたには好きな事がまだあるはず。それを今後はゆっくり見つけて」

「他に好きな事……。はい」

優月は鎌崎に会釈しながら、その課題を胸に留めた。



その頃、瑠璃も稲代と面談をしていた。

「古叢井瑠璃さん。茂華中出身だね?」

「はい!」

「茂華って…自然豊かな場所よね。一度、リゾートに行ったことあるのよ」

「リゾート…あ、華蝶蜂月(かちょうふうげつ)ですか?」

「そうそうー。良いところよね」

どうやら、稲代は観光好きらしい。

「…それで、苗字は…すごく珍しいね」

「よく言われます」

瑠璃は丁寧な口調で返す。それにしても、古叢井は本当に読まれにくい。

「…古に叢雲の叢、で普通の井ねー」

「はい」

「でもロマンある苗字ね」

「ありがとうございます」

そうして話しは更に過去へと入る。

「それで、部活は吹奏楽部だよね?」

「はい!」

「中学の時もやってたの?」

「はい!」

「すごーい。何の楽器?」

「打楽器です」

「カッコイイーーー♡」

「エヘヘ…」

こう言われると、瑠璃は嬉しくなってしまう。つい固く締めたはずの頬が緩んでしまった。

「どういう系の楽器?」

稲代は、瑠璃の経歴に興味を持ったのか深入りする。しかし瑠璃はそれが嬉しいので、笑顔で淡々と答えた。

「1年のときは鍵盤で、2年から和太鼓とかティンパニとかドラムやってました」

「へぇーーー」

「…でも、私、最初は鍵盤、すごく苦手だったんです」

すると瑠璃の声は突然下がる。暗い過去を稲代に話すつもりだ。


「苦手?」

稲代が食いつく。先ほどまで釣り上がった瞳が、突然、不安に滲む。

「…はい。私、ティンパニの皮を何回か、叩き破っちゃって…」

「え?そんなことが?」

「それ以降、ティンパニとか触らせてもらえなくなったんです。だから、1年生の時は鍵盤しかやりませんでした」

彼女にとっては重い過去以外、何物でもない。

「そうだったんだ。でも、今はドラムとかティンパニをやってるんでしょう?」

彼女の問いに、瑠璃の柔らかい双眸が細められる。

「はい。私の先輩が変えてくれたんです」


『自分から変えなくちゃいけないんだよ!』


榊澤優愛。彼女の言葉は今でも覚えている。あの日から、瑠璃にとっては本当の姉となった存在だ。

「…私、本当に限界で…部活中もよく悔しくて泣いてたんです…」

徐々に瑠璃の声が重くなる。苦しい、悔しい…負の感情が、幼い声に色濃く滲む。

「で、ある日、先輩に見つかっちゃって…本音を言ったら……」


『その未来を変えるのなら、瑠璃ちゃんも変わらなくちゃいけない』


「…って言ってくれたんです」

それを聞いて、稲代は優しく微笑んだ。

「いい先輩だったのね…」

「はい!」

すると彼女は両手を組んで言う。

「なにか、これからも学校生活以外にも、部活で困ったら相談してね」

「はい」

「てか、相談する相手はいるの?」

その質問に、瑠璃はひとりの男の子を思い浮かべる。

―――優月だ。


「…はい。仲のよい先輩がいるので」

「そう。お名前は?」

「…小倉優月先輩です。よく話していたので…」

優月とはなぜかよく遭遇する。それが偶然なのか、運命なのかは分からない。

「小倉くんかぁ。ありがとう」

「先生、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ、これからも宜しくお願いします」

その言葉を背に受けて、瑠璃は音楽室へと向かう。



「…あ、」

その途中で、優月がいた。

「優月先輩、こんにちはー」

「瑠璃ちゃんも面談だったんだ…」

「うん」

「…瑠璃ちゃん、何か話したの?」

「うん。中学校のときのこととか…」

中学校の時のことか、と優月は舌のなかで、そんな言葉を転がした。


「…先輩は何話したんですか?」

「えっ?」

「面談で…だよ?」

瑠璃の確認するような声質は、なんだか心地良い。

「うーん、進路についてかな」

「あーね…。就職だったっけ?」

「うん。今のところは、だけどね」

「そうなんだ。大学には行かないの?」

「…先生には音楽が好きなら、音大も視野に入れたら?って勧められたよ」

「そうなんだ。音大ね…」

瑠璃は静かに目を細めて、言葉を復唱する。

「私も進路考えなきゃ…」

「そうだよね」

優月は瑠璃の言うことに、相槌を打つ。


「ま、今は部活頑張りたいなぁ」

「そうだよね」

瑠璃がこの高校を選んだ理由は、吹奏楽部たったそれだけだ。



しかし…この時の瑠璃は知らなかった。

『古叢井さんが鍵盤できるなら、ふたりの代わりに、やってもらおうかな』

『え!いいじゃん!』

『……えっ?』

瑠璃の心を揺るがす大事件が、静かに迫っていることを……。

 あの日のような光景と心情が、再び目の前に差し迫ることを―――。







最後まで読んで頂きありがとうございました!

作中で使用する曲のリクエストだけでなく、アドバイスや感想は大きなモチベーションになります!総合ポイント100point 目指しております!

良ければ、リアクション、ブックマーク、感想、評価をお願いしたいです!

 また吹奏万華鏡では、個性的な奏者たちの物語や、他では絶対に見られない日常、様々な目標に向かう物語を日々更新しております。

多面的に見られる物語を、これからも楽しんで頂ければ嬉しいです。

 次回もお楽しみに!


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