第19楽章 謎の打楽器奏者 優次
ぱっぱらぱっぱぁーーー!
翌日、音楽室に優月が来るなり、トランペットのけたたましい音に出迎えられた。
「…こ、こんにちは」
「あ、こんにちは。小倉優月先輩」
そのトランペットを吹いていた少女は、優月をフルネームで呼んで出迎える。
「あ、こぐらじゃなくて、おぐらなんだけど…」
彼が間違っていた所を指摘すると、
「あ、ごめんなさい」
と素直に謝ってきた。彼女の細い前髪が左右に揺れた。
「…ううん。大丈夫だよ」
優月は安心させるように、人の良い笑みを浮かべた。
今日は楽器が決まったので、最初から個人練習かと思いきや、広一朗から話しがあった。
「今日は2週間後に行われる、春isポップン祭りの説明をします」
紙を配られた後の、その言葉に周りの空気が一気に締められる。
「毎年、茂華と冬馬、そして私たち東藤が参加しておりますが、今年もやるそうで…運営が新しく名前をリニューアルしました」
その言葉に、優月と瑠璃がわざとらしく「えっ!?」と声を上げる。
「…ポップル THE フェスティバルです」
そのリニューアルされた名前に、瑠璃が「おーっ」と声を上げる。それを他の部員はニコニコと見守っていた。
「ポップンと春を掛けたようです」
彼はそう言うと、肩をすくめた。
「まぁ、やることは変わりません。他の学校の演奏を聴いて、自分たちも演奏して、そして合同で大合奏するだけです」
だけ、では済まされないのでは?と優月は思いながら、説明する彼の双眸をジッと見つめた。
――茂華高校。
茂華高校も今、その本番への練習に励んでいる頃だ。
『ここ、ミスしやすいから、気をつけてね』
『はい、ギルティ!』
『優次くん、なんか好き』
恐らく、そちらの方が練習の進捗は、捗っていることだろう。
――東藤高校。
「…参加校ですが…」
そう言って彼は、スマホを見る。画面には要項が文字となって踊っていた。
「茂華中、高。あと冬馬中学校とウチだけですね」
「冬馬高校は当分、イベント出られないしね」
そう言ったのは冬一だった。
冬馬高校の中に、ヤンキーが屯する組織が見つかり、あの高校は地獄の様相を見せている。
「…茂華高校かぁ」
一方の瑠璃と抹月は楽しそうに笑う。
(凪咲に会える!)
(花琳に会える!)
それぞれ親友が所属しているからだ。現在、凪咲はクラリネット、花琳はパーカッションを演奏している。
「…そんな訳で、合同合奏の練習のため、今年も茂華高校で練習します」
『はい!』
今年も茂華高校で練習するようだ。
「来週の日曜日に練習しますので、近くなったら詳細は連絡します」
そう言って彼は、他にも事細かな連絡をする。
「…それで、ポップル THE フェスティバル本番ですが、紙に書いてある通り、私服でお願いします。何でもいいですが、露出多めはやめてくださいね、1年生」
その言葉に、何人かが苦笑し返した。
「…あとはまぁ…、当日までにちょこちょこと説明すれば、いいかなぁ」
広一朗の話しはこれで終わりのようだ。
「それでは、明日から合同練習でやる曲の練習をするので、今日までは基礎練をやってくださいね」
そう言われて、部員たちは今日も練習をはじめた。
「あ、小皷さんはギター貸すので、このあとは休憩室に来てくださいね」
「は…はい」
那珠葉が返事をする。優月はそれを見て、小さく笑った。
(那珠葉さん、ギターになったんだ)
弦楽器が入ってくれて良かった、今はそう思った。
「優月せんぱーい!今日も基礎打ちだって」
「あ、りょーかい!」
すると瑠璃は楽しそうに目を細める。
「茂華中と高校に負けてられないもんね!」
その言葉は、東藤高校吹奏楽部員としての言葉だった。
練習が終わり、瑠璃は抹月や美心乃と帰っていた。
「練習お疲れ様!」
美心乃が言う。
「私はそれほど疲れてないけどな」
「私も〜。合奏とかはなかったし」
抹月と瑠璃がそう返すと、美心乃は「確かに」と言った。
「…そういえば、君らは茂華駅まで列車だっけ?」
「そうだよー。今日は遅くてもいい日だから、みんなと帰れて嬉しいなぁ」
「そうだよね。いつも、小倉先輩と同じく早い便に乗ってるもんね」
美心乃が言う。
「うん。優月先輩も遅くまで練習したい派だって今日ね、言ってたんだよ」
「へーっ。私は彼のことよく知らんのよ」
抹月はそう言った。彼女の白い指が、春風になびくスカートをギュッと押さえる。
すると抹月が突然、提案の声を上げる。
「…そうだ。私の友達!紹介してあげよっか?」
「えっ?友達?」
美心乃が速攻で反応する。興味があるのか、腕を前後に振っている。
「そうそう。茂華高校にいる人なんだけど、パーカッションやってるから、瑠璃と一緒なんだ」
「へぇ、私のおんなじなんだぁー…」
瑠璃はそう言って、その少女の姿を思い浮かべる。未知という名の霞に邪魔されて、その顔はよく見えなかったが、茂華高校に行っていれば、恐らく一緒に演奏していたのだろう。
「…先、電話かけとこ」
そう言って、抹月は友達との電話を開始した。
『抹月?』
「おーう!私だ!抹月!」
『練習後にそのノリはやめて。本当に疲れた…』
「何言ってんのさ!花琳!」
『…それよりね、私よりうまい1年生いてビックリ!』
「はっ?」
抹月が不穏な声を上げる。瑠璃と美心乃がそれに反応する。
「どうしたんだろ?」
「…さぁ」
瑠璃と美心乃が心配の声をあげる。
「花琳よりうまい、って…、そんな人いるわけないじゃん」
抹月が心配そうに言う。
『…って、思うじゃん。ふつーに私よりうまい』
「そいつの特徴聞きたい。どこの馬の骨かも分からん奴が、花琳を超えるだなんて……」
((その子の嫁か!?))
抹月の言葉に、瑠璃と美心乃が心の中で、強烈にツッコミを入れた。
『もう東藤駅に着いたし、詳しいことはそこで。待ってあげるから』
「感謝するわー」
そう言って抹月は、険しい顔で電話を切った。
「…マジか。花琳よりうまい打楽器奏者なんて、瑠璃くらいだと思ってた」
その口調と言葉には、嘘のような綻びはどこにも存在しない。間違いなく、手練れなのだろう。
「茂華高校にも、すごい奏者が来たんだね」
美心乃が言うと瑠璃は少し嬉しそうに、暁の晴天を見上げる。
「…そうだね。やっぱり、私、東藤高校に来てよかった!」
その喜色の声に、美心乃は目を細めて頷いた。
――東藤駅
「それで…その2人は誰なのよ?」
初芽花琳という女の子は、瑠璃と美心乃を見るなり、訝しげに質問を投げかけた。
「茂華中出身の古叢井瑠璃です」
「…同じ久城美心乃です」
そう言うと、花琳は眼玉を点にする。
「は…?茂華の子が、東藤高校に?」
「はい!ポップスとか楽しそうだったので」
瑠璃がそう答えると、花琳は悲鳴に近い声をあげた。
「なんてぇ〜〜〜こと!?」
「…花琳、瑠璃のことファンなんだろ」
「うっ…!まぁ、千本桜のとき、すごくよかった」
花琳は照れながらも、瑠璃を認めた。
「えへへ、ありがとう」
それを彼女は、純粋な笑顔でぶつけ返した。
「…はぁ。優次くんもそれくらい純粋だったらな」
すると花琳がそう言った。吐かれるため息は周りの空気を巻き込み消える。
「…優次くん?」
美心乃が首を傾げる。
「そう。優次くん。打楽器がめっちゃうまいの」
…花琳が言う『優次』とは、色黒で髪は白混じりの黒と、外国人のような見た目をしているらしい。瞳も近くで見れば、銀メダルのような色をしているらしい。そして高身長。モテるであろう好条件を身にまとった男子らしい。
「…イケメンっちゃイケメンなんだけどね、無口で真面目なの。だから先輩をよく心配させてる」
花琳はそう言って腕を前方へと伸ばした。
「さっきもね…」
数時間前…♬
『優次くん、グロッケンの早打ちできるかな?』
『できねば、ギルティ』
それだけ言って、凄まじい連打を見せる。精密な音が空気を震わせた…。
現在…♬
花琳が思い出したせいか、更にため息を深めた。
「…無口すぎて、できるのかできないのかが、よく分からないって、先輩たちが言ってた」
「へ、へぇ」
瑠璃が深く考え込む。
(そんな怖そうな子が、やっぱり茂華高は行かなくて……)
ちなみに、瑠璃は高身長で無口な人が、とてつもなく苦手だ。
その時だった…。
茂華駅行きの列車が来る。
「あっ、列車きちゃった!」
瑠璃が言うと、花琳が手を小さくふった。
「瑠璃ちゃん。また会おうね」
彼女の背後を列車のライトが照らす。
「…うん!」
瑠璃は満面の笑みを浮かべて頷いた。そして踵を返し、美心乃と共に列車へと乗った。
…しかし少女たちは知らなかった…。
このあと、待ち受ける大きな困難に。
そして…あの『優次』という少年が、とんでもない能力を隠していることも…。
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