第18楽章 初練習は教室で…
――翌日。
練習の正式な1日目を迎えた。
「…隼乃くん、小皷さん、高津戸さん以外の愉快な仲間たち!各教室で基礎練習をやっていただきたいです」
広一朗はそんな部員たちに、開口一番こう言った。
「略してイカ焼き」
その言葉に、颯佚と心音が頷いた。
「1年1組は打楽器とトランペットとフルート」
どうやら打楽器も入るらしい。
「1年2組は残りの皆様で!レッツゴー!」
広一朗の指示が終わったタイミングで、優月が指摘の声をあげる。
「井土先生、打楽器はなにを?」
「えっと…基礎練習してください。パッド使って!基礎合奏で茂華ふたりにやらせますから」
それを聞いたふたりは頷くと同時に、気合いが入った。
1年1組教室。
「…瑠璃ちゃんって1組だったんだ」
「そうなんですー」
基礎打ちの為、メトロノームの音がスマホから響く。カッカッと無機質な音が、スピーカーを介して耳へと届く。
「優月先輩、肩に力を抜いてください」
「え…っ?」
「普通にリズムキープはできてます。だけど、このままじゃ疲れちゃう」
「あ、うん」
優月は強張らせた肩の力を、一気に脱力へと持っていく。するとパッドの上を上下するスティックの動きは、より流麗となった。
「おぉ…」
何だか、少しラクになったような気がした。
「私と同じですね」
すると瑠璃はそう言った。
「肩に力が入るから、動きがぎこちなくなって、更にテンポが狂う所が」
それを聞いて、優月は、はぁ…とため息を吐く。
「確かに、そうだね」
と言いつつ、瑠璃の方を見る。彼女は何だか必死そうだった。
「瑠璃ちゃん、ひとつ気になったんだけど…」
「ん?はい?」
「…敬語慣れてないよね?」
「えっ?」
優月が訊いた瞬間、瑠璃は頬を赤くした。
「……」
そして黙り込む。何だか恥ずかしそうな顔をしていた。
「大丈夫?」
それを心配して、優月は追及の言葉を投げ掛ける。
「…だ、大丈夫です」
しかし声も言葉も不自然極まりなかった。
「…もう僕にだったらタメ口で大丈夫だよ」
見かねた優月が、こう言葉を投げ掛ける。
「…ほ、本当?」
「うん。優愛…ちゃんからもタメ口だし」
「やったぁ!」
そう言って彼女は喜んでいた。その高ぶった声を聞くに、許可されたことが、よほど嬉しいのだろう。
(…瑠璃、まさか…)
しかし、それを遠目に見ていた紅愛が違和感を感じる。
「紅愛ちゃん?」
「あっ?」
そんな表情に気をかけた咲慧が訊ねる。
「どうしたの?」
「……」
(この人、小倉先輩のこと好きなのかな…?)
しかし紅愛は無視して、咲慧のことを考え始める。紅愛は、優月と咲慧の仲がよいことを既に知っている。
「…加藤先輩」
「ん?」
すると紅愛が、咲慧の耳元まで近づいた。
「加藤先輩って…小倉先輩のことが好きですか?」
「えっ?」
当然、咲慧は困惑の声を上げた。
「ど、どうして…?」
「いえ、なんとなーく気になりまして…」
紅愛の声に、嘘を返す隙はない。恐ろしい後輩だ。
「…優月くんはただの友達だよ」
だが、彼女は真実のみを返した。
「……」
咲慧の眼を紅愛はジッと見る。その瞳の中には、焦燥も濁りも何もない。
「…そうですよね」
だから紅愛も自然に返した。
「き、急にどうしたの?」
咲慧が思わず、質問の意味を問う。
「いえ。少し気になったので」
その佇まい、口調からも、これ以上追及する隙がない。そして、なぜか彼女の前では嘘はつけない。そんな異質な存在こそ、月館紅愛だった。
そして、この時から紅愛は見抜いていた。
優月と瑠璃の未来と運命を――……。
その頃、休憩室は日心と広一朗が話していた。今後、変える楽器について、相談をしていたのだ。
「…私は金管であれば助かるのですが」
「高津戸さんが金管ねー…」
広一朗は1枚の紙を取り出す。
「去年は井上さんが抜けオーボエが、明作さんが抜けて久城さんがボーン、ユーフォは河又くんが抜けても海鹿さんがいます。その中に入るのも良いですが、チューバとかも助かりますね」
「志靉の務めだったものか」
日心が鋭い声で言う。大橋志靉は今は退部してしまったものの、チューバ奏者であった。
「ええ、ほかには…」
そう言って、彼は少しの間考え始める。
(チューバは'アテ'がいるし、去年いなくても成立はした。ポップス中心なら、こちらを優先するべきか…)
そう言って彼が出した答え。
「…バリトンサックスの可能性もあります」
しかし予想外の言葉を受け、日心は「えっ?」と驚く。
「何ですか、それ?」
「大型のサックスで学校に2台だけあります。ホルンよりは高い音域を担いますが、音は非常に目立ちます。それに、あなたはずっと太鼓をたたいてても、疲れない体力もあるので、恐らく天職ですね」
そんな進言を受けて、とりあえず日心の楽器は、ホルンからバリトンサックスへジョブチェンジとなった。
次に広一朗は駿佑を呼び出した。彼は弦志望の予定だったが、バイオリンやチェロ、コントラバスしか弾けないとのことで、再度楽器は考え直しとなったのだ。
「隼乃くん、隼嶋中ではバイオリンしかやってなかった?」
「はい。ギターとかジャンジャン弾くの、あんまり好きじゃないんですよね…」
躊躇うように駿佑は言う。
「…なるほど。なにか希望はありますか?」
そんな彼に、広一朗が訊ねる。
「希望……」
駿佑が考え込む。
「…やはり低音がいいです」
「ほんとう?」
「はい」
それを聞いて、広一朗は安心した。
「低音がいいなら、チューバとかは?」
「チューバ…。小学生のときに楽団で吹いてました。それなら、少し練習すれば戦力になれると思います」
彼の言葉は渡りに船だった。
「ほんと!大丈夫?」
「はい。低音ならお任せください」
「それなら、好きなチューバを選んで練習してくれる?」
「はい!」
(やっぱり、コンバスとかチェロなら、低音やりたがるだろうね)
ちなみに、広一朗は彼の返答を予想していた。
最後は那珠葉だ。彼女は短髪を揺らしながら、広一朗へと歩み寄る。
「えっと…やりたいパートはありますか?」
広一朗は当たり障りのない優しい声で問いかける。
「…えっと、」
優月にも似た低身長。天邪鬼混じりな顔がしおれる。
「?」
広一朗が首を傾げつつも、彼女の問いを待ち続ける。
「…ギター、弾きたいです」
「え?」
しかし返ってきた問いは、驚きのものだった。
「ギターおもいっきり弾きたいです」
「えっ…?フルート…じゃないの?」
広一朗はつい、我を失いそうな顔をする。
「…はい。フルートは抹月ちゃんがいるし、岩坂先輩が何だか怖そうだし…」
(あはははは…)
その理由に、何だか広一朗の肩の力が抜けた。
「…それで、おウチにエレキギターとベースがあったから、それならおウチでも練習できるかなぁ、って」
那珠葉は細い指を上下へ動かす。はやく弾きたい欲に掻き立てられているのだと分かる。
「…なるほどね。大丈夫だけど、ギターの出番なかったら、パーカッションに回っちゃうよ?」
「全然もんだいないです。雅楽で太鼓やってたので」
「雅楽…。そう」
何だか今年は、異色の能力を持つ1年生が多いな、と広一朗は思った。
「…取り敢えず、全員の楽器が決まったし、明日からは基礎合奏やらせますか…」
那珠葉が出たあと、広一朗は静かに言った。
一方で、基礎練習を終えた優月たちは雑談していた。
「…えっ?瑠璃ちゃんって鍵盤できるの?」
「はい」
「意外…」
「1年のとき、ずっとやらされてたもんねー」
「ちょ、みこちゃん!それは言わないで!」
「えーっ、鍵盤できる子いるの助かるー」
金管パートと打楽器パートはお互い、仲良くなれそうだ。
その時、日心が教室へと入ってきた。
「私、ホルンからバリトンサックスへ鞍替えとなりました」
「おーっ、バリトンか…」
日心の宣言に、颯佚が反応する。
「この学校にもあったんだな」
「2台しか存在せぬようですよ」
「ふーん…」
すると今度はトランペットの孔愛が反応する。
「あ、ボクはバリトン吹けるよ」
「……は?」
なんで?と日心が訊ねる。
「中2のコンクールで、退部してしまった子の代わりに吹いてたから」
「虚妄だろ?」
「ひでぇ」
そのやり取りに、美乃凛と瑠璃が苦笑した。
「教えてあげよっか?」
「…嫌だけど頼む」
日心が素直に頼むと、孔愛が「オッケー」と嬉しそうに頷く。
(……こっちもか)
会話を聞いた紅愛は心の中で、静かに呟いた。
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