第15楽章 自己紹介 [前編]
「今日の部活をはじめます!お願いします!」
『お願いします!』
新部長である颯佚の言葉で、ついに部活が始まった。初日ということもあり、今日は自己紹介だった―――。
「では、まず3年生から自己紹介ですね。名前、担当楽器、あとは…今まで呼ばれたあだ名の中でいちばん印象に残っているあだ名を言ってください」
そう言ってこの流れを仕切るは、顧問の井土広一朗だ。彼は黒板に自己紹介項目を書いていく。
「ハイハイ、新3年生〜。前に並んでください」
そう言われて優月たちは、1年生と2年生の前に並ばされた。無論、その場に留まっていたゆなも、巻き込まれた。
「…ま・ず・は、部長の夏矢くんと副部長の岩坂さんかな」
そう言われて、颯佚へ視線が浴びせられる。
「えっと…夏矢颯佚です。楽器はテナーサックスです。今までで呼ばれたあだ名でいちばん印象に残ってるのは……ですかね」
すると彼は真摯な目で頭を下げる。
「よろしくお願いします」
しかし肝心な部分が聞こえない。
「え?夏矢くん、何て言ったの?」
広一朗がすかさず追及する。
「……ま、まどくん…です」
颯佚が頬を赤らめて答える。
「なんで?」
しかし今度はゆなが追及する。
「…そ、それは、まどマギヲタクだったから…」
「あーね、知ってた」
ちなみに颯佚が少女漫画好きなのは、定期演奏会にまどマギの主題歌を選んだ時点で、皆にバレていた。
(あらあら…)
優月は苦笑に近い笑みをこぼしていた。
颯佚が恥ずかしがる間もなく、次は心音だ。
「岩坂心音です。楽器はフルートです。あだ名で印象に残ってんのは…ココかな。特に隣の氷空から呼ばれてます」
そう言って心音は、隣に立つ氷空を手のひらで示す。
「ま、1年間よろしくおねがいしまーす」
拍手が心音へ浴びせられる。次は氷空だ。
「黒嶋氷空です。楽器はトランペットです。あだ名で印象に残ったのは…つーん…」
その時、ゆなが「つーん!?」と反応する。
「…考える時の擬音語だが?」
「変わってるね」
「どーでもいいでしょ?ま、クロちゃんですね」
すると氷空が深く頭を下げる。
「よろしくお願いします」
今度は、氷空の隣に立っていた咲慧が自己紹介をはじめる。
「加藤咲慧です。楽器はアルトサックスです。印象に残ったあだ名は……カスタードです」
その時、どっと笑いが沸き起こる。その意外な言葉に、場の空気が一気に緩んだ。
「な、なんでカスタード?」
今度は優月が訊ねる。咲慧と優月は親友なのだが、それは聞いたことがない。
すると、ゆながすかさず答えた。
「…加藤のK、咲慧のS、太鼓のD。その単語を合わせてカスタード。ね?」
「ゆ、ゆなっ子!」
咲慧は頬を赤らめる。
「咲慧は和太鼓のプロなんだもんねー」
「そうなの?」
そこへ美乃禀が反応する。
「そ、そんなことないよ」
咲慧のその言葉に同情するかの如く、2年生の数人が頷いていた。
(…確かに)
すると広一朗が突然口を開く。
「そお?高津戸さんとがっぷり四つじゃなかった?」
その問いの根源は、去年度の文化部発表会に遡る。確かに同じ太鼓で、大立ち回りをやってのけた高津戸日心の方が評価されるだろう。
「…確かに、日心の方がうまいっちゃうまいか」
ゆなも呼応するように言う。友に言われて悲しかったのか、咲慧が落ち込むように頭を垂れた。
「ま、白鬼って言われてるもんね」
そこに美乃禀が口を挟む。
「そうなの?」
那珠葉が尋ね返す。
「うん。日心ちゃんはめっちゃうまいし、白い鬼の仮面を被って演奏するのが御家芸だから」
(やばい…。引っ張られそう…)
優月が、聴こえるふたりの会話に、つい失笑してしまう。このまま、脱線するかと思いきや…
「はい、太鼓の話しはあとー!次、ゆゆ!」
話しが切られ、広一朗は優月を指名した。
(この流れで、咲慧ちゃんより面白い話しなんて、思いつかないのだが……)
脳裏に不満を浮かべつつも、優月は辺りをチラチラと見回す。辺りには沈黙が取り戻され、優月自身の鼓動が、耳の奥までへばりついている。
「えっと…小倉優月です!楽器は打楽器です。呼ばれたあだ名で印象的だったのは…」
(まずい、ここはゆゆと言うべきか?)
しかし、ここで勝手に口が閉ざされる。ここは普段、部員から呼ばれている『優々(ゆゆ)』と言うべきか?それとも……
『死んだ表情に、優月で優月ですね』
かつての後輩、筝馬の言っていたあだ名を言うべきか?頭のなかで選択肢が周り狂う。
「…ゆゆと死月です」
(あー、言ってしまった……)
その時、辺りが騒然とする。
「しづきって何?」
そこに広一朗が首を傾げてきた。
「あ、筝馬くんに付けられたあだ名で…」
「ほーーーん…」
優月が弁明すると、広一朗は納得したのか、黙り込んだ。
(筝馬先輩が…)
瑠璃は久遠筝馬の姿を思い浮かべた。
「…良かったら仲良くしてください。よろしくお願いします!」
優月がそう言って会釈するように、頭を下げた。
途端、乾いた拍手が鳴る。
(…よおっし、カミングアウト成功。略してオットセイ)
頭のなかで羞恥心を掻き消すように、気味の悪い笑みを浮かべながら、彼は一方後ろへと下がった。
「降谷ほのかです。パートはクラリネット、言われてびっくりしたあだ名は『ふるほのプリン』です」
平然と言ったそのあだ名に、辺りは騒然とする。
「ふ、ふるほのプリン?なんで?」
今度は心音が反応する。
「…私、プリンが好きすぎて、小学校の給食でプリンを持ち込んだの。そしたら怒られて…その日からあだ名が『ふるほのプリン』になった」
「そ、そうなんだ」
心音が気まずそうに顎を下げる。
「今は『ふるほの』って略されてます。後輩方は『ふるほの先輩』と呼んでください。よろしくお願いします」
控えめな仕草でそう言う彼女。そこに礼節の欠片は一切ない。まるで自分が最高学年であることを、自覚しているかのように。
「……最後、鳳月さん?あなた、休部してたんですから、インパクト残してください?」
すると広一朗が煽るように、ゆなへと語りかける。めんどくさ、と言いながらも、ゆなは前の木目へと足をかける。
「…鳳月ゆなです。楽器はパーカッションです。今まででいちばん印象に残ったあだ名は…ゆなっ子くらいですかね」
そんな彼女に、咲慧が大きく反応する。
「ちょ…!ゆなっ子!それつまんない!」
「それしか呼ばれなかったでしょ?」
「…じゃ、中3のとき、何て呼ばれてたっけ?」
「あ?」
するとゆなの表情があからさまに変わる。
「…?」
優月が興味ありげに前へ乗り出す。ゆなの表情はいつになく、赤くなっていた。
「…そ、それは…」
「言っちゃいなよ」
「……クソすぎるあだ名だし、対面で1回も呼ばれたことないぞ?」
「いいじゃん」
(そんなに言いたくないあだ名なのか?)
ゆながここまで拒絶する。それは何だか珍しい。
「私が中学の時、言われていたあだ名、それは…」
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【次回】
とんでもない…宣言……?




