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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]血迷う迷宮の楽章編
24/208

血迷う迷宮の楽章 【破②】

【注意!!】

本内容は、自傷行為、自殺未遂の表現が、含まれます。ご注意ください。

物語の描写上、差別的な表現がされることが、あります。

決して、推奨する訳ではございません。

ご注意ください!!



今回は、茉莉沙視点の話です。

物語の都合上、直接的な暴力表現がされることがあるので、ご注意下さい。


※この物語はフィクションです。

※登場する人物、学校名、団体名は、全て架空のものです。

※作中の都合上、オノマトペを使うことが、あります。

※また、実在する曲名を使わせていただくことがあります。


ご了承下さい。


部活終わり、優月が、想大と話しをする。

「…疲れたー」

想大が、腕を伸ばす。

「…そうだね」

優月は、彼の伸び切った二の腕を、つんつんと、つついた。

「それにしても、ありゃ、熱出すわな」

「そう?」

「だって、日が暮れるまで、練習してるんだぞ」

想大の言葉は、最もだ。


しかし、このまま辞めてしまうのでは無いか、優月はそう思ってしまった。



そんな茉莉沙は、保健室で、寝込んでいた。

「…この傷、どこでついたの?」

むつみが初芽に訊く。

「…それはね…」

茉莉沙は、重々しい口調で、語りだした。




ーー茉莉沙が中学1年生の冬ーー


「明作さん、スネアの打つタイミングが、早いです!」

御山ジュニアブラスバンドは、アンサンブルコンテストに、出場するべく、練習に、打ち込んでいた。


茉莉沙は、かつて、小学6年生で、ドラム担当の沢柳律(さわやぎりつ)と、鍵盤楽器担当の佐野玲那(さのれいな)と共に、活動していた。


茉莉沙は、入って半年ということもあり、グロッケンとパーカッションセットを担当した。


「明作さん…シャープに、気をつけて下さい!」

「はい」

連日、続く練習に、彼女は、奮闘していた。



それから、2週間後、本番のアンコンがあった。


「…ふぅ。疲れたぁ」

佐野玲那が、そう言って、緊張と照明の熱で、吹き出した汗を、拭う。


「玲那さん、お疲れ様」

そこに、沢柳律が、ぽんと肩を叩いた。

「…でも、金賞いけるでしょ!」

「さぁな…」

すると、沢柳は口角を上げる。


「何か?」

茉莉沙が、こちらを向く。

「いや、メイがいるから、わからん」

沢柳は真顔だった。冗談では無さそうだ。


「ごめんなさい…」

茉莉沙は、手元の白い手を、まじまじと見つめる。やはり、自分は邪魔なのだろうか?

阿櫻克二という副監督の、指示で、このメンバーになったのだが、本当にこれで良かったのだろうか?


それに最近、自分の体がおかしい、と思うことがある。

自分自身にさえ、無関心だからだろうか?


しかし、そんなことを、言ってはいられない。

迷惑はかけたくないから。



冬休み明け、初芽と登校しながら、茉莉沙が言う。

「初芽さんは、アンコン、どうだったんですか?」

彼女は厳しい環境に、身を置いていたからか、敬語で話すことが、多くなった。

「アンコン…、銅だった。茉莉沙ちゃんは?」

「うん…。金賞でした…」

「へぇ。凄いじゃん!」

しかし、茉莉沙は、大して嬉しそうでは無かった。

「まぁ、チームメイトのお陰だよ」

「そんなことないよ!」


しかし、彼女が俯いたところを、見ると満更でも無いのか…と思ってしまった。





その後、茉莉沙が、定期演奏会に向けて、ビブラフォンの練習を、していたその時、

「…メイ、シャープのとこ、間違ってるぞ」

「えっ?」

茉莉沙は、突然、沢柳に話しかけられる。

「…ったく、そんな譜読みを、適当に済ますんなら、もう来なくて良いのに」

「は?」


茉莉沙が、怒りの混じった声を、漏らす。

流石に、言い過ぎだ。


「…適当じゃん!こんなに、出来ないから、速水にも叱られて、ばっかりなんだろう?」

「…うっ」

何故か、ぐうの音も、出なかった。

彼の言うことに、間違いはない。


「…あはは」

その時、誰かが笑った。

玲那だ。

助け舟を、出すどころか、苦笑するばかりで、何も言わない。


怒る私が、いけないのだろうか?とさえ思ってしまった。


「本当、阿櫻さんの指示が、無けりゃ、オーディションに出る資格すら無いんだから、出しゃばんなよ!」

「別に、出しゃばってなんか…!!」

茉莉沙が、慌てて弁解しょうとするも、沢柳は練習を始め、その苦し紛れの声は、ず太い音に、掻き消された。


しかし、これはまだ序の口だった。



それからも、厳しい指導を受けること、3カ月後のことだった。

「明作さん!…そろそろ、入って1年ですし、ドラムをやってもらおうかな!」

突然、監督の、速水玲芽が、こう言ったのだ。

「…えっ?」


茉莉沙は、ドラムに加えて、パーカッションセットの付属しているセットを見て、言葉に詰まる。


あれからも、時に、沢柳律の、毒舌指導は、続いていた。


「返事は?」

しかし、茉莉沙の懸念は露知らず、速水が二の矢を飛ばす。


「…は…はい…!」

茉莉沙は、必死に返事をした。

すると、沢柳が、譜面を渡してきた。


「頼むぜー」

その後の、沢柳は、どこか期待しているようだったが、今の彼女からしたら、皮肉にしか、聞こえなかった。



「…せーの」

茉莉沙は、取り敢えずの気持ちで、右足を落とす。すると、ドン!と低い音が鳴った。

次に、シンバルへ腕を伸ばす。パシィン!と大きな音が、鳴った。

「…あ」

その時、茉莉沙の胸に、強い衝撃が、走る。誰かに叩かれたわけでもない。

脳が麻痺したかのような感覚。


その時、

「…明作さん、分かりますか?」

速水が、そう訊ねてくる。

「よく分からない記号が、あります…」

茉莉沙は、そう言って、彼から、手取り足取りの指導を受けた。


そして、合奏の時。


茉莉沙は、やっとの思いで、叩き切った。目の前のことは、なにも覚えていない。


「明作さん!スネアのリズムが、間違ってました!」

それでも、速水に、注意される。

「す、すみません…!」

茉莉沙は、スネアに、スティックを打ち込む。


パン…パン…パパン、パン!


鋭い音が、響く。

やはり難しいな…と、茉莉沙は思う。

その時、沢柳から鋭い視線を感じた。


合奏終わり、沢柳が、茉莉沙に話しかける。

「メイ、大丈夫か?」

「はい…」

年下とは思えない彼の、振る舞いにも、茉莉沙は心を病んでいた。


「そうか」

「なんかさ…合奏中に、凄い視線を感じるんですけど…」

茉莉沙がそう言うと、沢柳は、フッと鼻で笑う。

「いやー、才能ないな…って」

「…ごめんなさいね」


確かに、沢柳は才能の塊だと、思えてきた。

だって、自分でさえ、苦戦したドラムを、いとも簡単に、扱ってみせるのだから。




夏のコンクールが、間近に迫ったある日。


いつものように、スパルタ指導を、終えた茉莉沙に、沢柳が話しかけてくる。

「…今日も同じとこ、注意されてたぞ」

しかし、彼女は気にすることなく、ティンパニとタンバリンの持ち替えの練習を、していた。

「何か?嫌味?」

茉莉沙が、ため息混じりに、そう訊ねる。

次の瞬間…、

「は?ガチで言ってるんですか?」

と沢柳の鋭い声が、彼女を震わせる。

「才能ない上、努力もできない…」

「そんなこと!今だって…!!」

茉莉沙は、マレットを、小物台の上に置き、反論しょうとした。


その時だった。

「下手な後輩は、楽器触ること自体が、大罪なんですよ!」

沢柳が、怒鳴るように、言う。

「…これ以上、俺の時間を奪わないでください!ただのお荷物なんだから!」

そう吐き捨てると、彼は、荷物を持って、ホールから出ていった。


「あぁ…」

彼女は、止めを刺されたように、壁へ寄りかかった。

辛い…気持ちが、全身に込み上げる。

努力しているつもりが、こうなるだなんて。


厳しい指導に、部員からの叱責。そして、自分への苛立ち。本当に、辛い…。

吹奏楽なんて、嫌いだ、そう思った。



「…はぁ」

それから、何ヶ月が、経ったのだろうか?


「演奏会って、メイがソロするんですか?」

副顧問の阿櫻に、沢柳がそう尋ねた。

「いや…、ソロは流石にな。今年は、律に頼むつもりだ」

「…しゃ!」


帰り、茉莉沙は、トボトボと廊下を歩いていた。

その時、小部屋から、話し声が、聞こえてくる。


『いやー、メイって、才能とか無いのに、出しゃばるから…』

『そう言うな、大切な仲間だろう?』

『いてもいなくても変わんねー…』


それを聞いた茉莉沙の頭の、中で、プツンと何かが切れた。

彼女は、逃げるように、ホールから、出ていった。



この日の夜。


速水の、厳しい言葉が、甦る。

『明作さん!そこ、違いますよ!何度言ったら分かるんですか?』

『このままじゃ、ソロを交代することに、なってしまいます!』


『下手な後輩は、楽器触ること自体が、大罪なんですよ!!』

『才能ないくせに出しゃばり上がって…』

『いても、いなくても、変わんねー…』

沢柳の罵詈雑言が、甦る。しかし、全て事実だ。


そうだ。

私が悪いんだ。

誰かに話すことですら、無いんだ。


ここ半年、まともに練習できていない。

沢柳が怖くて。



茉莉沙は、行き場を求めるように、引き出しから、白銀に光る何かを、取り出す。

「あった…」

それは、ハサミだった。

「私なんて…!」

ハサミを、自らの腕に、走らせる。



しばらくすると、真っ赤な血が、真一文字の傷から流れ出す。

「…あはは」

少し、落ち着いたかのように、茉莉沙は笑う。

そして、もう一度、刃で腕を、切りつけた。


その時、傷んでいた心の傷が、少しづつしぼんでいくのを感じた。


風船に、例えると、ガスという名の、膨らんだストレスが、心から抜けていく。

「…いたい」

だが、押さえた右の手は、自らの血に、塗れていた。


それから、茉莉沙は、自傷行為を、幾度となく繰り返した。



それから、1ヶ月後…

夏休みが、終わった茉莉沙は、自らの行いに、後悔した。

腕には、大量とは言い難いものの、誤魔化しきれない量の、切り傷。


吹奏楽は嫌いだが、楽器は辞めたくない…という気持ちで、始めた自傷行為だが、後先を考えていなかった。



新学期、初芽が茉莉沙に、話しかける。

「茉莉沙ちゃん!おはよう!」

「おはよ…」


茉莉沙は、薄ら笑いで、そう返す。

「あれ…上着?寒いの?」

初芽が、心配そうに覗き込む。

「…うん」

茉莉沙は、自然と頷いた。


「茉莉沙ちゃん、体調悪かったら、言ってね!」

初芽はそう言って、笑った。


何も言えなかった。

友達に嘘をついた。

体より、心のほうが辛いなんて、言うことが、できなかった。



それから、事態が、急展開したのは、2週間後だった。


「…はぁ…はぁ…」

その日は、気温が30度近くあった体育の時間だった。

走っていた茉莉沙は、異変を感じる。

体が、熱い。


なんせ、彼女は上着で校庭を、走っていたからだ。先生の制止も無視して、彼女は、奔走していたのだ。

当然、体は、悲鳴をあげ、限界を迎えるだろう。



彼女は、走り終えた直後に、倒れてしまった。

意識が朦朧とする。


「茉莉沙ちゃん!茉莉沙ちゃん!」

初芽が、駆け寄る。

「…うう」


それから、彼女が目覚めたのは、数十分後だ。

「…あっ。初芽…」


すると、茉莉沙は、すぐに言葉を失う。

なんと、傷だらけの、両腕が、露わになっていたからだ。

「…茉莉沙ちゃん、この傷、どうしたの?」

「…い、いや」

彼女の、問いに、目を逸らすも、

「茉莉沙っ!!お願い!!」

と一蹴された。


「自分で、切った」

茉莉沙は、諦めたように、そう言った。

「誰にも迷惑かけたくなくて…それで…辛くなる度に自分の腕を切った」

彼女の方が、小刻みに揺れる。


「そっか…」

初芽は、それだけ言って、茉莉沙を抱きしめる

「ごめんね…。辛かっただろうに」


友達を悲しませてしまった罪悪感に、茉莉沙はボロボロと涙を流す。

「初芽には、関係ないもん…」

彼女は、悲しそうに、布団へ潜った。



「茉莉沙、何があったの?」

「うん」

茉莉沙は、沢柳たちのことを話した。


「…ひどい」

初芽は、そう言って、茉莉沙の目を見る。

「そんなことないよ。私が悪いんだよ。みんなの足を引っ張るから…」

「辞めようとは、思わなかったの?」

「うん。私、音楽は続けたかったから…」


それを聞いた彼女は「分かった」と言う。


恐らく、リストカットだろう。

リストカットは、『死ぬ』ことを目的に、自傷しているのではなく、『生きる』ためにしている場合が多い。

それを、初芽自身の母から、聞いていた。



「茉莉沙、お母さんに、このことは?」

「言ってないよ…」

「そっか」

茉莉沙も、こんなことは、言えないのだろう。


「茉莉沙、どうしても辛かったら、精神科…言ったほうが良いよ。辛い気持ちが和らぐから」

そう言って、初芽は、音楽室を出た。


「初芽」

茉莉沙は、そう言って、布団に潜り込んだ。

精神科。音楽を続けるなら、絶対に行くべきなのだろうか?



そして、このあと、物語は大きく狂う。

ついに、茉莉沙の戦いが、決着する。

次回

茉莉沙が狂う。トロンボーン奏者との出会い。

ソロオーディション…茉莉沙VS沢柳の章

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