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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
立ちはだかる脅威 文化部発表会編
226/226

152話 悩ましい進路

『末次秀麟です!』

『古叢井瑠璃です!』 

ふたりの奏者がドラムの横へ立つ。

超絶レベルの真剣勝負。最大で最後の闘いが始まる…。

茂華中学校。

『ここは期末テストに出ますから、しっかりやっておいて下さい!』

理科の時間。先生の期末テストの話しに、生徒たちは耳を傾けていた。

「中嶋先生、本当にテストに出すんだよなー。ね?瑠璃」

「あ、うん!」


コンクールも終わり、コンクールに追われた吹奏楽部員も、進路と勉学へと力を入れていた。

「…はぁ、ちょっとだけ難しいなぁ」

「瑠璃。東藤とはいえ、油断してたら落とされちゃうよ」

「凪咲は茂華高校だもんね」

「まぁね。もっと上手い人と高め合いたいし」

「凪咲らしい」

瑠璃がニコリと笑う。

廊下を歩く2人。その会話の中にコンクールの会話など微塵もなかった。

あるのは…卒業後の進学先のみ。


茂華中学校の学生が進学する先は、県立なら主に5つほどある。まず地元の茂華高校、学力偏差値は50程。2つ目が御浦高校、大学進学を目的とした高校、偏差値は70付近だ。3つ目が冬馬高校、だがヤンキー校の為に志望する人は少なく偏差値は30とかなり低い。4つ目が神平高校、ここは県内有数の優秀な高校で、偏差値は75だ。最後に東藤高校、比較的に茂華町から近く、偏差値も40と割と低めで進学する生徒も多い。

凪咲は地元の茂華高校。一方の瑠璃は東藤高校を志望していた。



しかし母には反対されていた。

『…はぁあ、本当に東藤高校なの?好きな人がいるから?』

『ち、違うよ』

『はぁ…。吹奏楽部で部費も高かったから、鉄道の定期を払うお金がないわ』

『…ごめん』

お金の話。金銭面は瑠璃にとって大きな弱点だった。本当は迷惑を掛けたくはないのに…。

その時、忌々しい目で母が尋ねる。

『まさか、高校入っても吹部入るの?』

『えっ…!?』

当たりだ。入りたい、そう言おうとした。だが…、

『…やめてよね。お金掛かるし誰も払えないよ』

『…』

母には先に釘を打たれてしまった。

確かに、今年は例年より部費が桁違いに高かった。理由は全国大会に行ったから。例年に比べて合宿費、指導料、新幹線などの移動費、全国大会での宿泊費など、町が負担したとはいえ、庶民にとっては痛い額であることに変わりはなかった。


しかし東藤が弱小校であることを母は知らない。だが、今は説明する時ではない。

『い、一旦考え直すね』

そう言って母の個室を後にしたのだった。




「…はぁあ」

瑠璃はたった1人で進路に悩んでいた。

「瑠璃ちゃん、元気ないね」

音楽室のテラスでひとり悩む瑠璃に、誰かが話しかけてきた。

「あ、美心乃ちゃん」

それは久城美心乃。オーボエ奏者で全国大会へ大きく貢献した人物である。

「どうしたの?こんな顔するなんて、瑠璃ちゃんらしくないよ」

「へへ、そう?」

「いつもの可愛い顔が台無しだよ」

それほど、自分は沈んだ表情をしているのだろうか?予想以上にショックで、瑠璃は思わず顔を引きつらせた。

「ねぇ、美心乃ちゃんはさぁ、どこの高校行くの?」

「私?東藤高校だよ。家から近いからね。鉄道で行く必要がないし」

「鉄道…。いいなぁ」

瑠璃が思わず羨望の眼差しを彼女へ向ける。

「瑠璃ちゃんは東藤高校じゃないの?鳳月って女の子に誘われたんじゃ…」

「お母さんには反対されちゃった」

「えぇ…。まぁ、確かに鉄道の定期、ちょっと高いもんね」

「まずお母さん、吹部に反対してるんだぁ」

「ふぅん、お金?」

「うん。優月くんが月の部費は、2000円って言ってたけど」

「ああ、あの優月さんか。小学校一緒だったから、本当は先輩呼びしたくないんけど」

「えっ?そうなの?」

優月と美心乃は同じ小学校だったのか?

「うん。江坂小学校だったから」

「へぇ…」

それは初めて知った。

「まぁ、言いたいことをちゃんと伝えなよ?」

「う、うん…」

まるで凪咲のような助言を貰い、瑠璃は練習へと戻っていった。




その日の深夜。

ひとり瑠璃は考え事をしていた。目の前にあるドラムセットは、去年のクリスマスプレゼントと称して、颯姫のお古を貰ったのだ。

(…私、吹奏楽をやめたらどうなっちゃうんだろう?)

ただ心中には不安が絶えなかった。それは、吹奏楽を…太鼓をやめたらどうなってしまうのか?ということだ。

(天龍やめた時は…人格を失いかけちゃったんだよねぇ…)

瑠璃にとって太鼓は無上の趣味だ。やめたらどうなるか、一度経験している。"あの時"は更に性格が暗くなった気がした。

その流れで無意識に、誰かとのLINEに目を落とした。

"月館(つきだて)紅愛(くれあ)"

同級生ながら、瑠璃の姉のような存在だった。夏休みのプールで再会して以降、時に連絡を取り合っている。

そんな紅愛が、瑠璃を初めて助けた人物だ。彼女の人格の半分は、紅愛から受け継いだものであった。

彼女と一緒に楽器を演奏したいのに。

今度こそドラムを沢山やりたいのに。

叶わないのだろうか?

瑠璃は泣きそうな顔で塞ぎ込んだ。ただバスドラムの側面を小さな手で撫でながら、自身を慰めるように笑った。きっと何とかなる、そう思わなければ、決意が潰れてしまいそうだったから。


「瑠璃お姉ちゃん、大丈夫?」

その時、末っ子の樂良(らら)が話しかけてきた。

「樂良…」

既に寝ていたと思ったが、樂良は水を飲みに来たようだ。

「今からドラムをたたくの?」

「えっ?」

すると樂良がこちらへ駆け寄ってきた。こんな事を言えるほど樂良は純粋な少女だ。

「違うよ。皆寝てるでしょ?」

「じゃあ、何してるの?」

「考え事だよ」

「…なんの?」

樂良に突っ込まれ、瑠璃は言葉を失ってしまった。

「うーん、吹部を続けるかどうか、だよ」

「…続けないの?やめちゃうの?」

「…辞めさせられちゃうかもなんだ」

家庭内とはいえ、樂良は事情を知る由もない。

「樂良、寝よ?」

「うん…」

これ以上、不安な感情を妹に吐露したくないので、瑠璃は樂良を連れて寝ることにした。




翌日。

『…今日からソロオーディションの練習を始めてください!』

笠松からそんな指示が下された。

ソロオーディションとは、11月に行われる茂華祭の吹奏楽発表にて、ソロの権限を奪い合うというものだ。

各楽器が熾烈な戦いをする中、今年のパーカッションパートは平和かと思われた。しかし…


『秀くん、めっちゃ上手いな!?』

『希良凛ちゃんに言われると嬉しいっす!』

突如、雷鳴の如くドラムが鳴り響いた。


(わ、わぁ…)

瑠璃は凍った。なぜなら空き教室のドラムで、秀麟が希良凛とドラムの練習をしてたからだ。

彼がドラムを得意だということは、周知の事実だが、何だかもっとパワーアップしている。

手首の捻転使用が更に上達していた。恐らく優愛よりも上手い。そしてあの比嘉を思い出させる。

(…わ、私もやらなきゃ)

秀麟にはドラムの曲が1曲しかない。鍵盤も既に出来ているので、充分にソロオーディションの練習へと充てることができる。

だが…

(でも…血が騒ぐなぁ)

瑠璃はどこか愉しそうな笑みを、浮かべて音楽室へと入った。


【次回】 秀麟の恐ろしさ… そして瑠璃は…。

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