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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
立ちはだかる脅威 文化部発表会編
216/234

142話 暴走!! 生徒指導部長

『マジでやべぇわ!あの先生!』

むつみが音楽室の中で叫んでいた。その声は、音楽室へ入ってきた優月の心臓を震わせた。

「…むつみ先輩?」 

先生、とは誰だろう?そう聞こうとした時、

「どしたん?話聞こか?」

反対側の休憩室から、顧問の井土がやってきた。

「あ、井土先生!」

むつみが不満を爆発させたように、立ち上がった。それと同時、ゆなと咲慧が同時に入ってきた。

「…町江いるじゃん!?また頭髪で怒ってきたの!!」

「あぁ~、町江先生ね。仕方ない」

井土の声は、(なだ)めるもののそれではなく、1人の人間として呆れているようなものだった。

「…だって、元冬馬高校の教員だったもん」

「たく、一緒にすんなよ」


「そうだよ、あんなクソがいる高校と一緒にすんなよ」

するとゆなも、乗りかかってきた。

ゆなのいう『クソ』とは高久雪哉のことだろう。ゆなと元々付き合っていたが最初から遊びのつもりで、付き合っていた奴だ。最後はゆなを貶める計画だったらしい。結果、ゆなと咲慧に半殺しにされた奴は、冬馬高校に入学、吹奏楽は辞めているらしい。


「…本当、ゆなっ子大丈夫?」

「次会ったら、スティックで顔面タコ殴りにするから大丈夫よ」

「それはスティックが可哀想…」

ゆなの壮絶な過去を知る優月は、あまり笑えなかった。


一方、井土は町江について、少し顔を渋めている様子だった。

「あの人、定演のスケジュールにも、文句言ってきたんだよね…」

え?優月が思わず首を回す。井土LOVEな優月は、その時点で生徒指導部長の彼をよく思わなかった。

「…まぁ、学生は部活より勉強ですが、本番の月に休むなんてあり得ませんからね」

「ここが弱いから、舐めてるだけなんじゃないの」

そこへむつみが言う。

「マジで去年までの先生の方が良かったわ」

そう言って入ってきたのは、河又悠良之介だ。

「…ゆらくんやん、今日は早いね」

普段は来るのが遅い彼に、井土は少し目を丸めていた。

「町江から逃げてきた」

するとその理由は、しょうもない事だった。

「全く、また宿題を忘れたんじゃないでしょうね?」

「へへ、忘れちった!」

「卒業できないぞー」

井土が言うと、 悠良之介はフフンと鼻を鳴らす。

「別に、向太郎先輩と同じ所に、就職できれば良いし」 

「それ以前の問題って言ってんの!この馬鹿!!」

そんな悠良之介へ、むつみは鉄拳を飛ばした。

「痛ぁ!むつみ、力強くなった?」

「当たり前でしょ?楽器を運んで筋肉ついてるんだから!」

「えぐぅ」 

ゆなが笑う。

確かにその通りではある。まず、彼は何事にも本気になれないのだ。昨年度の定期演奏会だけは、真面目に練習をしていたが、それ以外は殆どない。リズム力すらも、初心者の優月を超えるかどうかも怪しい。


「…はぁ、生徒指導部長厳しすぎ」

むつみは、白々しい地毛を宙へとなびかせる。

「ヴィッグを付けろとか何とか…」

悩むむつみ。井土も溜息を吐く。

「よね。別に頭髪くらいは良いんじゃ…」

彼も一定の自由は許したいと思っているようだ。

「…むつみのは地毛なのに」

そして、悠良之介もむつみと、同じくらい怒っていた。

この生徒指導教師、町江雪道により、この吹奏楽部は危機に晒されることとなる…。



部活終了後。

「優月くん、ナレーターの練習した?」

「え…?ううん」

「ちゃんとしたら?」

「…うん」

それは30分前…。


『ゆゆー、楽しんでいまぁすかー!ですよ!』

『た、楽しんでいますかー!』

『もっと声を高く!』

『楽しんでまぁぃすかー!』

『た、高過ぎー!』

中々、呼び掛けが上手くいかず、しどろもどろとなっていた。

『うーん、こればかりは、ゆゆをクビにできないなぁ』

『どうして?』

心音が聞く。

『オーディエンスが盛り上がらないから』

『…去年のやつね』

『?』

皆は知るが、1年生含めた咲慧は分からない。

『…優月くんが、去年何かしたんですか?』

今度は咲慧が聞く。

『去年、彼が凄い3年生を沸かせたから』

『ま、まぁ、そうだったなぁ』

悠良之介が少し羨ましそうに言った。


去年…

『ゆづきぃー!!』 

『…あ、あははは』

優月は脇役の如くステージの横へいたのに、当時の3年生から盛大な声援を貰ったのだ。その切っ掛けは、優月がメイド服を披露目たことである。


思い出した優月はバツが悪そうに笑った。

『…それでか』

『ですので、ゆゆ。無理して頑張ってくださいね』

井土が冗談めかして言う。 

『は、はい…』

優月は小さく返事をした。



思い出した咲慧は、優しそうに肩を下ろす。

「優月くん、期待されてるんだよ。頑張って」

「う、うん…」

ふたりが階段を降りきり、職員室前を通ろうとした時だった。

「…町江先生」

優月が思わず顔を渋めた。

「本当だ」 

咲慧と優月は静かに通ろうとする。

『本当に本校の生徒としての自覚を持ちなさい!!』

決して優しい言葉でも、口調でもなかった。怒られている本人は、どんな罪を犯したのだろう?


『歩きスマホして、人にぶつかって…、他の人だったらどうするんだ!?』

『す、すみません』

どうやら歩きスマホをした上に、誰かにぶつかってしまったようだ。

『私以外にぶつかったら、どうするんだ!?』

((お前かよ!!))

思わず、2人は心の中で突っ込んでしまった。

少し怒りすぎだな、2人は同時にそう呟いた。



翌日。

昼休み、ゆなは先輩の齋藤(さいとう)菅菜(かんな)と音楽室で昼食を取っていた。

「はぁ~、昨日ここで町江の話ししたのよ」

ゆながサンドイッチを開けながら言う。

「…町江先生。生徒指導の1番偉い人じゃん」  

「そう」

「でも、あの人、むつみちゃんの頭髪、厳しく接してるんだよね。何も、そこまで怒らなくても、むつみちゃんはグレないのに…」

「それな。頭おかしいのかな」

「うーん。そんな事はないんじゃない?でも、確かに、むつみちゃん少し威圧感あるし」

「…あんなの普通でしょ?」

ゆなはそう言って、サンドイッチを咀嚼した。

「でも、冬馬にいたんなら、気持ちは分からなくもないかも」

「そう?」

「だって、冬馬中の子が、更にグレた連中の集まりでしょ?」

菅菜はそう言って、ふうと溜息を吐く。ゆなも菅菜も冬馬中学校の出身だ。治安レベルは県内最悪で不良校でもある。

「…ったく」

しかし、このあと、ゆなは生徒指導の牙へとかかってしまうのだった。





その日の放課後。

「鳳月さん、遅いですねぇ。一体どうしたんでしょう?」

合奏が一段落した頃、井土が言うと、優月と筝馬は空席のドラムセットを見つめる。

「…鳳月さん、お腹壊したのかな」

「でも、さっき職員室近くの窓枠で、スマホ触ってましたよ」

「へ、へぇ…」

その時だった。


ピリンピリン♪

「!?」

突然、電話が掛かってきた。

「…校内電話からですか。嫌な予感する」

「略して好夜間(こうやかん)

不安そうな井土と対照的に、心音がいつもの調子でボケる。

「健康上の夜間救急の相談や受診のことですね」

そのボケを茉莉沙が、思わず解説にした。

「さすが…茉莉沙先輩!」

美鈴が褒めると、

「医大志望だからね」

と茉莉沙は笑ってみせた。



「え!?鳳月さんがですか!?」

その時、井土が驚いたように言う。

「…」

それに真っ先に反応したのは、優月だった。

「…鳳月さん」

一体、ゆなが何に何があったのだ?

すると、井土はとんでもないことを言う。

「鳳月さん、生徒指導受けてるみたいです」

「うわっ!いつかやられると思ってた!」

優月が思わず言う。

『えぇえ〜〜〜〜〜!?』

衝動的に口を突いて出た言葉は、部員の殆どを大きく驚かせた。

「…ま、まぁ、鳳月さんは少々問題児だからね」

井土が慌てて擁護すると、呼応するようにむつみが頷く。

「…はぁあ、仕方ない。じゃ、ゆゆドラムの曲やりますか!月に叢雲華に風!」 

そうして、部活が終わろうとしていた。



活動終了10分前に、ゆなはトボトボと帰ってきた。その表情は少しばかり不満に満ちていた。

「…ただいま」

「おっ!ゆな帰ってきた!」

「おかえり」

むつみと井土が反応する。次に心音が口を開く。

「どうして、生徒指導くらったん?」

「スマホ」

「はっ?」

「なんか、職員室近くの窓枠に座ってスマホやってたの。そしたらいきなり怒られた」

「はっ?それだけ?」

呆れたむつみが、思わず聞き返す。

「それだけ」

「あいつ、もはや病気だろ」

むつみが拳を握りしめる。初芽結羽香が慌てて、怒りを押さえようとする。

誰もが、むつみの気迫に息を呑んだその時、

「病気なら私が見てあげましょうか?」

茉莉沙がそう言った。

「……」

次に出たのは、明るい笑い声だった。

「アハハハハハハっ!!」 

最初に笑ったのは心音とほのかだった。次々と音楽室は、笑いの渦に巻き込まれる。

茉莉沙は本気で言ったのか、場を和ませる為にボケたのか、分からない。ただこのタイミングで、この言葉は秀逸だと思った。


「…少し厳しすぎるね」

しかし、井土はひとりだけ険しい顔をしていた…。

【次回】 井土がキレられ…優月はキレる…!!

     東藤高校吹奏楽部の危機!!

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― 新着の感想 ―
ひっでぇ教師も居たもんだァ!気ィの短ェ先生さんよォ いざという時は私がぶん殴って差し上げましょう^^ それと、もしやまたメイド服見れる...? 期待期待...( -ω-)旦~~
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