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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]地区コンクール始動編
21/208

音楽室整理の章

この物語はフィクションです。

人物、学校名、団体名は、すべて架空のものです。

ご了承下さい。

『…退部阻止ですか…』

音楽室脇の休憩室から、初芽の声が聴こえてくる。

聞いた内容は、茉莉沙の退部の原因を掴む、という内容の話だ。


優月は、それを聴いて目を細める。

(明作先輩…)

茉莉沙には、辞めてほしくない、優月もそう思った。



翌日。


「…想大君、今日は美術部じゃないの?」

優月が、親友の想大へ、そう訊ねる。

「いや、吹部優先しないと…。最近、練習時間が取れてないし…」

「…まぁ。コンクールもあるしね…」

そう言って、音楽室の扉を開く。

「こんにちはー…」 

2人は、挨拶しながら、違和感を感じる。

誰も、楽器を出していない。茉莉沙でさえも。

ゆなが、楽器を出さないことは、いつものことだが、誰一人出していない。


「…はい、みなさん、来ましたねー」

すると、顧問の井土広一朗が、パンパンと手を叩く。

「…それでは、今から、音楽室の整理をしたいと思います。やることとしては、使えない楽器を処理することと、授業で使うドラムを出すことです」

『はい!』

殆どの部員が返事する。

掃除か…と2人は思う。

「とりあえず、ドラムちゃんは、パーカッションに任せるとして、使えない楽器の処理は、他の子にお願いします。いいですね?」

彼は、どこか一点に、視線を向ける。

「あ…?」

優月は、何だか、落ち着かなくなった。

彼の視線は、何故か自分に向けられてる?思ったからだ。


「ほーい!まずは、要らない楽譜を、処理しますよー!」

チューバ担当の朝日奈向太郎が、そう指示する。

『はい!』

そうして、彼の言葉から、掃除が始まった。


「…優月くんは、朝日奈くんの手伝いをお願い」

顧問の井土が、優月へ歩み寄り、そう言った。

「…え?指示と違いますが、いいんですか?」

「おけ!」

優月は、そう言って、向太郎や想大を追った。


向太郎が、誰も入らないような一室の、ドアを開ける。

「うおぉ…」

すると、埃っぽい臭いが、鼻を突く。

「…君等は入らんで良いから、楽譜の束だけ、持ってってー」

向太郎がそう言って、次々と楽譜と雑誌の束を、床に放る。

「…持ってきまーす」

優月が、楽譜と雑誌の束を持ち上げる。教科書が混じっているのか、想像以上に重い。

「…重そー」

齋藤菅菜もそう言って、束を運び上げる。

「…優月くん、俺はどうすれば?」

「うーん…、渡されるまで待ってなー」

と想大の問いに答えると、彼は、辺りを見回す。


「…ゆな、そのハイハット持ってってー」

「重いから、いやー…」

田中美心も、鳳月ゆなの扱いに、苦心しているようだ。


音楽室の隅に、冊子の束を放り続けること、約10分。埃っぽい床が、ようやく顔を見せた。

「…終わったー…」

初芽がそう言って、ホッと息をつく。

「お疲れ様でーす」

すると、岩坂心音が、そう労いの言葉をかける。

「心音さん、次はギターだって…」

すると降谷ほのかが話しかけてくる。

「ギター?」

次は、どうやら、ギターを処理するらしい。


「…ででん」

初芽がギターの弦を、指で、弾く。

「…早く、やりましょう」

茉莉沙が、そう言って、ギターを手に取る。

「茉莉沙ー、ギター弾いてよー」

初芽が、笑いかけると、

「…これ、調弦されてないし、音、変だよ」

と彼女は、弦を弾く。

ビン…!ベン…!と濁ったような音がする。

「駄目だねー…」

2人に、弦楽器担当の奏澪が話しかけてくる。

「奏さん…」

茉莉沙が、ギターを手に、振り返る。

「それも、弦をハサミで、切っちゃって下さい」

「えぇ…」と初芽は勿体なさそうに言う。

「貸して」

だが、茉莉沙がハサミを片手に、もう片手を、初芽へつき出す。

「うん」

すると、茉莉沙は、一切の躊躇いもなく、弦を切り破った。

ぱちん!と糸が切れた音が響く。

「…おぉ」

初芽は、両手を広げ、驚きの声を上げる。

その時、

「…これも、使えないんですか?」

と優月がギターを手に、尋ねてきた。

「うん…。使えないねー…。これは…」

初芽が、諦めたように言い、ハサミを優月へ渡す。

「使えないから、弦、切っちゃって…」

「えっ?切っちゃって、良いんですか?」

彼の動揺を、受け止め、「良いよ」と言う。

それを聞いた優月は、ハサミの刃を弦へ、向ける。そして、持ち手に、力を込めて、押す。

その時、緊張の糸が途切れたように、弦が、ぱつん!と切れた。

「…想大君、使えないギターの弦は、切っちゃって!」

優月は想大に指示をする。


その様子を見た初芽と澪は、微笑んだ。しかし茉莉沙は、大して、何も言わず、淡々とギターの弦を切り破った。


ドラム班も、順調そうに進んでいた。

「悠良ノ介!キックペダル、取ってー!」

美心の指示に、「これすか?」と、悠良ノ介は、ペダルと大太鼓を叩くようなマレットが一体化した、キックペダルを、持ち上げる。

バスドラムは、ペダルを右足で踏むことによって、そのマレットの形をしたビーターが、跳ね上がり、打面を打ち抜くのだ。

「それそれー。早くして」

「…はーい」

「…ゆなは駄目だな…」

天才の宿命というべきか、演奏以外は、ダラダラと怠ける彼女をみて、美心は全てを諦めた。


その時、優月は、ギターを運びながら、初芽に話しかける。

「初芽先輩、あの、ちょっと人から、聞いた話なんですけれど…」

「…なに?」

優月は、気になった一心で、こう聞いた。

「…明作先輩って、部活、辞めちゃうんですか?」

「…あ」

初芽は、凍り固まった。

しかし、すぐに反応する。

「うん。小倉君、これは、内緒だよ。実はね、茉莉沙は、元々ね、パーカッション奏者だったの」

「…え?」

今度は、優月が凍り固まった。

「…そうだったんですか?」

「うん。でも学校の吹奏楽に、所属していた訳では無くて、『御浦ジュニアブラスバンド』っていう超強いクラブにいたの」

その彼女の言葉が、嘘とは、思えなかった。


その時、夕焼けの中で、交わしたあの会話が甦る。

『…明作先輩って、中学生の頃からトロンボーンをやってたんですか?』

『いいえ。あなたと一緒』


ようやく辻褄が合った。

あれは、自分も、同じく、高校から楽器を始めたという意味だったのか、と

「…御浦ジュニアブラスバンドって強いんですよね。後輩から、噂はかねがね聞いてました…」

「へぇ。流石、茂華中学校出身ね」

「…実は、その友達も、パーカス担当なんですよ」

すると、初芽は「…えっ?」と、首を傾ける。

「それって、マリンバとか、やってた子?」

その言葉に優月は、首を横に振る。

「違いますね…」

古叢井瑠璃(こむらいるり)のことだな、と思う。

「じゃあ、舞台で、バスドラ踏んでた子?」

優愛のことだが、こんな言い方をされると、何とも言えない気持ちになる。


「そ…そうです」

初芽は、その言葉に、目をキラキラと光らせる。

「そうなんだ。茂華のパーカスって、全員可愛いよねー…」

彼女が、そう言うと、優月は「そうですね」と微笑んだ。



あの2人は今頃も、仲良く活動しているだろう。

しかし、瑠璃を悲劇が襲うことを、この時は、まだ知らなかった。



その後、部員の働きもあり、ようやく、音楽室整理は終わった。

そして、井土が、休憩室へ優月を呼び出す。

「…小倉君、これ…」

そう言って、彼が指さしたものに、優月は目を疑う。

目の前には、黒いドラムがあった。小さくてどこか、かわいらしかった。

「練習後は…ここで、勝手に叩いてて、いいよ」

井土の言葉に、優月の喉から、勝手に声が、飛び跳ねる。

「えええええっ!?」

しかし、井土は眉ひとつ動かさず、笑うばかりだった。

「…ありがとうございます!」

優月は、嬉しさのあまり、深く腰を折った。

これから、毎日、人目を憚らずに、叩けると思うと…。


井土が去ったあと、優月は、ドラムスティックをスネアドラムに、すとんと落とす。

すると、ぱん!と鞭を打つような音がする。

そして、優月は右足で、ペダルを踏む。

バンッ!という空気を張るような音が響いた。

優月は、その後、そのドラムを演奏し始めた。

それを、扉越しに、見る者がいた。

その人物は、逃げるように、音楽室から走り去っていった。


だが、音に酔いしれていた優月は、そのことに微塵も気づかなかった。


玄関前の廊下を、歩きながら、優月は想大と話す。

「…良かったな。ドラム使えて」

「うん!井土先生、ほんっと神!」

「はは」

2人が、外へでたその時だった。


どこからか、泣き声が、聴こえる。

「泣いてる?」

優月は、本能的に、泣き声のする方へ歩き出す。

すると、ベンチに1人、俯いて、泣く者がいた。

「明作先輩…」

想大が思わず言った。


優月は、茉莉沙に近づく。

「あの…大丈夫…ですか?」

何故か、小さい子を慰めるかのような声色になってしまった。

「きもち…わるい…」

そんな茉莉沙の目は、赤く腫れていた。


そして、彼女の過去話が、幕をあける…。


ありがとうございました!

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次回

茉莉沙の敵…

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