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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
古叢井と矢野… 全日本吹奏楽コンクール編
208/209

135話 決意のトランペット

読んで頂きありがとうございます!!

読んで頂けたらリアクション、面白かったりアドバイスがあれば感想、面白いと思ったらブックマークをして頂けたら嬉しいです。また新キャラクターの募集もしておりますので、御希望がありましたら、ぜひ感想へ!!

華幽山。人気のない公園に、ひとつの音が響いた。トランペットだ。

夕日の光と陰に塗られた少年は、黙々とトランペットを奏で続けていた。

「……」

トランペットを胸元へ下げた彼。自然と溜息が溢れる。 

その時。

「雄成!」

「…!!」

ふたりの少女が、袋を提げてやってきた。

「…澪子、瑠璃!!」

途端、矢野雄成は表情に色を付ける。

「…こんな所で吹いちゃって」

澪子が呆れたように言う。

「登るの大変だったでしょ?」

その言葉と同時に、緑茶の缶を掴ませる。

「一流のトランペット奏者を舐めるな」

雄成が不遜な表情で言う。

「…そうだよ!大変じゃないよ!これくらいヘトヘトしないよ」

「アーヘイヘイ」

雄成も瑠璃も体力オバケだ。澪子はその事実を突きつけられて嫌になる。




「全国大会、明日だろ?良いのか?」

ベンチに腰掛けられた雄成が訊くと、瑠璃は小さく頷く。

「まぁ、早退してきちゃったけど」

「…第2の指揮者が駄目でしょ」

「へへ」

雄成は瑠璃に恩があるので、言い方は他の人よりも優しい。

「…雄成、澪子がね、」

瑠璃が何かを言い掛ける。

「…あ、それは」

「澪子、雄成が大会出場しないなら、澪子も出ないだって」

瑠璃は冷たい声で言い放った。

「!?」

刹那、澪子に鋭い視線が飛びかかる。

「…澪子、どうしてだ?」

「…」

「まさか、俺と一緒に母さんを看取りたいのか?」

「…そう。それに雄成は私の憧れだから」

澪子は正直に答えた。

「…俺の母さんは、もう手の施しようがないと医者は言っていた」

「…ふふ」

そこへ、何故か瑠璃は笑ってきた。

「…なんだ?」

雄成はその笑い声を聞き逃さず、少し機嫌の悪そうに訊ねる。

「信じてるんだね。雄成」

「は?」

「…今、トランペットを吹いてるのって、明日の全国大会に出たいから、じゃないの?」

「そんなこと…」

瑠璃は、雄成が言い訳を口にすることを許さない。

「…だって、今まで部活を早退して、トランペットを練習してるのだって、全国大会に出たくなきゃしないでしょ?」

「最初はそうだった」

「今もそうだと、私は思うよ」

瑠璃が大人っぽく笑いかける。その顔が母と重なる。

「…取り敢えず、俺は母さんと別れるその時まで、部活には戻らない」

「…」

澪子は、その言葉に立ちすくんだ。

「瑠璃。全国大会に行けた理由は、実質君だ。俺のことなんて放っといて…」

「部長無しで、全国大会に行く吹部はありえないよ」

「…!?」

雄成の心臓がドキリと軋む。

「…雄成、最期までお母さんを信じてあげるんでしょ?」

「…ああ」

「明日と明後日…、きっと明明後日(しあさって)まで生きてるよ」

「…きっと、そうかもしれない」

「じゃあ、全国大会しに静岡行こ?」

瑠璃が諭すように言う。 

「…信じる、か。分かった」

雄成は決意した。

「…俺の母さんが全国大会が終わっても、生きてることを信じる」

「…雄成」

澪子が言うと、瑠璃の手が飛び出す。その手と手をハイタッチする。

「…てなると、今から連絡入れなきゃだな」

「だね」

こうして、3人は華幽山を下りた。



その日の夜。

面会時間が過ぎても、雄成は母の病室にいた。

今は、もう旅立ちを待つだけ…と断定された母は、寂しそうに暗い天井を見つめていた。

「…母さん」

「ゆ…せ…い」

「俺、全国大会に明日から行く…。ごめんね」

「…いいの。いいの。…ゆうせ…いがやりたい事をやって…くれれば…」

「…」

「今まで…ちゃん…とした…青春を送ってあげられなくて…ごめんね…」

もう声にならない声だ。

その言葉に、思わず大粒の涙が溢れる。

「俺のせいだ。俺ひとりが面倒ばっかり掛けるから…こんなに酷くなるまで気付いてあげられなかった…」

「…いいの、それが、親の役目。でも雄成の…大人になる姿を…見たかったなぁ」

名残惜しそうに言った。それだけは分かった。苦しいはずなのに、こうして話してくれる。

「母さん…死なないで」

そう言って、母の細い指に何かを嵌めた。

「…結婚指輪」

「きっと…父さんが見守ってくれるから…」

「ありがとう。雄成、最期まで」

そう言って…また深い眠りに付いてしまった。

あと何回、彼女は眠ることができるのだろう?不安になった雄成は、静かに泣き出した…。



小さい時から、ずっと母に迷惑を掛けてしまっていた。

『ねぇ、母さん!僕もトランペットやりたい!』

雄成がトランペットを始めたキッカケは、茂華高校の定期演奏会を訪れた時だった。その時から、金色に煌めくトランペットに憧れた。

母には、何度も無理を押し付けた。


いつも吹いているトランペットも、母に買ってもらった物だった。父がいなくて大変なはずなのに…。

それからは、様々な賞をもらった。

だが、全ては母の苦労有っての物種。賞を取る度、無理を押してくれた母に感謝した。

しかし、彼女ががんに罹ってからは大変だった。それでも、トランペットを続けさせてくれた母に、報いたいとずっと頑張った。

だけど、そんな母の死に目を見られないのは、1番いけないことだと、ずっと思っていた。

しかし、母を信じない自分が1番悪いと気付かされた。



明日からの全国大会。

母を信じて、演奏しようと本気で思った。

【次回予告・楽器のプチ知識】

『澪子、トランペットってのは、約3000年前の古代エジプトの壁画に描かれていたものが、最も初期の形態とされているらしいぞ。また木材、骨、金属が使われていたようだ。今とは違う音が出ていそうだな!』

by 矢野雄成


【次回】 秀麟と…希良凜 打楽器パートで密かな恋♡



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