135話 決意のトランペット
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華幽山。人気のない公園に、ひとつの音が響いた。トランペットだ。
夕日の光と陰に塗られた少年は、黙々とトランペットを奏で続けていた。
「……」
トランペットを胸元へ下げた彼。自然と溜息が溢れる。
その時。
「雄成!」
「…!!」
ふたりの少女が、袋を提げてやってきた。
「…澪子、瑠璃!!」
途端、矢野雄成は表情に色を付ける。
「…こんな所で吹いちゃって」
澪子が呆れたように言う。
「登るの大変だったでしょ?」
その言葉と同時に、緑茶の缶を掴ませる。
「一流のトランペット奏者を舐めるな」
雄成が不遜な表情で言う。
「…そうだよ!大変じゃないよ!これくらいヘトヘトしないよ」
「アーヘイヘイ」
雄成も瑠璃も体力オバケだ。澪子はその事実を突きつけられて嫌になる。
「全国大会、明日だろ?良いのか?」
ベンチに腰掛けられた雄成が訊くと、瑠璃は小さく頷く。
「まぁ、早退してきちゃったけど」
「…第2の指揮者が駄目でしょ」
「へへ」
雄成は瑠璃に恩があるので、言い方は他の人よりも優しい。
「…雄成、澪子がね、」
瑠璃が何かを言い掛ける。
「…あ、それは」
「澪子、雄成が大会出場しないなら、澪子も出ないだって」
瑠璃は冷たい声で言い放った。
「!?」
刹那、澪子に鋭い視線が飛びかかる。
「…澪子、どうしてだ?」
「…」
「まさか、俺と一緒に母さんを看取りたいのか?」
「…そう。それに雄成は私の憧れだから」
澪子は正直に答えた。
「…俺の母さんは、もう手の施しようがないと医者は言っていた」
「…ふふ」
そこへ、何故か瑠璃は笑ってきた。
「…なんだ?」
雄成はその笑い声を聞き逃さず、少し機嫌の悪そうに訊ねる。
「信じてるんだね。雄成」
「は?」
「…今、トランペットを吹いてるのって、明日の全国大会に出たいから、じゃないの?」
「そんなこと…」
瑠璃は、雄成が言い訳を口にすることを許さない。
「…だって、今まで部活を早退して、トランペットを練習してるのだって、全国大会に出たくなきゃしないでしょ?」
「最初はそうだった」
「今もそうだと、私は思うよ」
瑠璃が大人っぽく笑いかける。その顔が母と重なる。
「…取り敢えず、俺は母さんと別れるその時まで、部活には戻らない」
「…」
澪子は、その言葉に立ちすくんだ。
「瑠璃。全国大会に行けた理由は、実質君だ。俺のことなんて放っといて…」
「部長無しで、全国大会に行く吹部はありえないよ」
「…!?」
雄成の心臓がドキリと軋む。
「…雄成、最期までお母さんを信じてあげるんでしょ?」
「…ああ」
「明日と明後日…、きっと明明後日まで生きてるよ」
「…きっと、そうかもしれない」
「じゃあ、全国大会しに静岡行こ?」
瑠璃が諭すように言う。
「…信じる、か。分かった」
雄成は決意した。
「…俺の母さんが全国大会が終わっても、生きてることを信じる」
「…雄成」
澪子が言うと、瑠璃の手が飛び出す。その手と手をハイタッチする。
「…てなると、今から連絡入れなきゃだな」
「だね」
こうして、3人は華幽山を下りた。
その日の夜。
面会時間が過ぎても、雄成は母の病室にいた。
今は、もう旅立ちを待つだけ…と断定された母は、寂しそうに暗い天井を見つめていた。
「…母さん」
「ゆ…せ…い」
「俺、全国大会に明日から行く…。ごめんね」
「…いいの。いいの。…ゆうせ…いがやりたい事をやって…くれれば…」
「…」
「今まで…ちゃん…とした…青春を送ってあげられなくて…ごめんね…」
もう声にならない声だ。
その言葉に、思わず大粒の涙が溢れる。
「俺のせいだ。俺ひとりが面倒ばっかり掛けるから…こんなに酷くなるまで気付いてあげられなかった…」
「…いいの、それが、親の役目。でも雄成の…大人になる姿を…見たかったなぁ」
名残惜しそうに言った。それだけは分かった。苦しいはずなのに、こうして話してくれる。
「母さん…死なないで」
そう言って、母の細い指に何かを嵌めた。
「…結婚指輪」
「きっと…父さんが見守ってくれるから…」
「ありがとう。雄成、最期まで」
そう言って…また深い眠りに付いてしまった。
あと何回、彼女は眠ることができるのだろう?不安になった雄成は、静かに泣き出した…。
小さい時から、ずっと母に迷惑を掛けてしまっていた。
『ねぇ、母さん!僕もトランペットやりたい!』
雄成がトランペットを始めたキッカケは、茂華高校の定期演奏会を訪れた時だった。その時から、金色に煌めくトランペットに憧れた。
母には、何度も無理を押し付けた。
いつも吹いているトランペットも、母に買ってもらった物だった。父がいなくて大変なはずなのに…。
それからは、様々な賞をもらった。
だが、全ては母の苦労有っての物種。賞を取る度、無理を押してくれた母に感謝した。
しかし、彼女ががんに罹ってからは大変だった。それでも、トランペットを続けさせてくれた母に、報いたいとずっと頑張った。
だけど、そんな母の死に目を見られないのは、1番いけないことだと、ずっと思っていた。
しかし、母を信じない自分が1番悪いと気付かされた。
明日からの全国大会。
母を信じて、演奏しようと本気で思った。
【次回予告・楽器のプチ知識】
『澪子、トランペットってのは、約3000年前の古代エジプトの壁画に描かれていたものが、最も初期の形態とされているらしいぞ。また木材、骨、金属が使われていたようだ。今とは違う音が出ていそうだな!』
by 矢野雄成
【次回】 秀麟と…希良凜 打楽器パートで密かな恋♡




