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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]地区コンクール始動編
20/209

退部阻止の章

この物語はフィクションです。

人物、学校名、団体名は全て架空のものです。

ある日の夜、茉莉沙はイヤホンで音楽を聴きながら、譜読みをしていた。

渡された譜面は、港井冬樹(みなといふゆき)という男の子から、渡された楽譜だ。


彼との出会いは、数年前にも遡る。


茉莉沙は、元々、御浦ジュニアブラスバンドクラブという吹奏楽の超強豪クラブでパーカッションをしていた。

だが、冬のある日の夜,練習で削れたメンタルが限界に達してしまって、泣き出したところに彼が現れたのだ。

あまり、誇れたものじゃない。



しばらくすると、カバンから一冊のノートと問題集らしき冊子を机へ置く。

「…はぁ」

思わず、ため息をついた。




今日の夕方、冬樹とこんな会話を、していた。

『茉莉沙ちゃん、忙しいのに、一緒に吹いてくれてありがとう』

冬樹がそう言うと、茉莉沙は『大丈夫だよ』と笑う。

『…ま、茉莉沙ちゃん…さっきの…話し…』

『…はい?』

すると冬樹が彼女に、一歩駆け寄る。


『…ほんとうに、吹奏楽、やめちゃうの?』

彼の動揺する言葉にも、茉莉沙は、眉ひとつ動かさなかった。

『…やめる予定かな。将来のこともあるし…。私、医者になるのが夢なの』

そう言って、茉莉沙は小さく手を振った。

『ばいばい…』


彼とは、コンクールの日まで、会うことは、ないだろう。 

彼は組織内でも、トロンボーンのトップ奏者だ。

彼がこのまま吹き続ければ、恐らく、茉莉沙を軽く凌駕する実力になるだろう。



「…部活を辞めるべきか、月曜日、雨久部長に相談しておきますか…」

茉莉沙は、そう言って、シャーペンを手に取った。

そしてこのあと、彼女の行動は、部内に闇を落とすのだ…。





月曜日の部活終わり。

茉莉沙が、トランペットを吹く雨久朋奈に、話しかける。

「…先輩、相談があります…」

「…茉莉沙ちゃん、珍しい…!」

しかし、ここは、優月のドラムやら、想大のホルンやら、颯佚のサックスで、練習の音が響き渡っていた。


「…準備室に行く?」

雨久はそう言って、茉莉沙を連れて、音楽室脇の部屋へ入って行った。



「座って…」

雨久が、顧問の座るオフィスチェアに腰掛け、茉莉沙には、パイプイスを座らせる。

「ありがとうございます…」

茉莉沙は一礼すると、拳を握りしめる。

「あの…私…、部活を辞めようかな…って、思っていまして…」

その言葉に、雨久は息を呑む。


「…そっか」

雨久の声に、茉莉沙はうん、と頷いた。

「…私も井土先生も止める気はないよ。でも…茉莉沙ちゃん、楽しそうに吹いてるように見えたから、本当にここで辞めちゃっていいの?」

「…」


その時、茉莉沙はハッ!とした。

確かに、吹いている間は、嫌なことを忘れられる。楽しい、楽しいのだけれど…


「…そうですね。辞めるかもしれないので、相談しておきました…」

茉莉沙はそう言って、「ありがとうございました」と一礼して、出ていった。



「初芽…、帰ろ」

トロンボーンを仕舞った茉莉沙は、初芽を誘う。

「…茉莉沙、いいよ」


初芽も、フルートケースを片付け、岩坂心音に手を振る。

「心音ちゃん、またね」

「お疲れ様でしたー」



茉莉沙と初芽は、音楽室に続く長廊下を、歩きながら、話しをする。

「…さっき、雨久さんと何話してたの?」

初芽がそう訊ねる。

「べつに」

茉莉沙は、そう言って、俯いた。


「そんなこと言って、また誤魔化すつもり?」

初芽は、何かを思い出す。


それは、体中を傷付けた少女が、泣き叫ぶ記憶だった。


「…誤魔化すって…」

茉莉沙は美しい瞳を、少し歪め、初芽を見る。

「なんか、あったら相談なさい」

「…うん。何かあったらね」

茉莉沙は微笑して、返した。

「…そだ!コンクールの自由曲、調べてきた?」

すると、茉莉沙は、ほっそりとした美しい指を、肩に置く。

「…初芽は?」

「…ふふん。茉莉沙が活躍しそうな曲かな」

「それって、トロンボーンのこと?」

「もち!」

茉莉沙は、はぁ…とため息をつく。

「そんな私に吹いてほしいの?」

「そりゃ…茉莉沙のトロンボーンは、大人顔負けだもん!地区大会金賞、東関東大会出場間違い無し!」

「……ぷっ!」

茉莉沙は、突然吹き出す。

「そう…?」

「そうだよ!」


茉莉沙の、トロンボーンは確かに、上手い。冬樹から教わっていたことや、毎日、基礎練習を欠かさずしているからか、そこら辺の部員と比べると、実力は、相当に高い。


「…ありがとね」

そう言って、とことこと階段を降りる。


「茉莉沙の方こそ、何かないの?」

「…うーん。今年は、上手いサックス奏者と、パーカッション奏者が、いるから、それを活かせるような曲がいいかな…って」

「…それと、プロレベルのトロンボーン奏者もね」

茉莉沙は、それを聞いて、頬を赤く染めた。


その時だった。

「…さようなら!」

誰かが、こちらへ挨拶をしてきた。


「小倉君、小林君、またねー」

初芽が、手を振って、挨拶し返す。

「…かわいい」

初芽は、優月を見て、ふとそう言った。

すると、茉莉沙が、

「あの子さ…、私に似てるような気がするの…」

と独り言のように言った。


「…そう?」

初芽が彼女を覗き込む。

「うん」

「…へぇ」  


優月は、そんなことも知らず、想大と話していた。

「去年は、ベートーヴェンの『第九』だったよね」

「…そうだったっけな」

想大は、顔を歪める。


何故か、瑠璃の顔が、脳裏に甦る。

古叢井瑠璃は、ティンパニの皮を、破るという事件を起こした事が、あった。


「…でも、自由曲で『第九』は、ちょっと…」

そもそも、誰がティンパニをやるのか?

ゆな達が、やるとは思えない。


「まぁ、俺はホルン、吹けるようにならないと…」

「そうだねぇ」

2人は肩を、並べて、歩いて行った。








翌日のことだった。


「…初芽、ちょっといいか?」

突然、雨久に話しかけられる。

「は、はい…」

初芽は、昨日茉莉沙が話していた、休憩室へついていく。


「…初芽は、茉莉沙ちゃんが部活、辞めたいってこと、知ってる?」

「……は、はい」

しかし、理由が分からない。


「何でか、あの子から、聞いた?」

「聞いてないです…」

茉莉沙が、楽しそうに、トロンボーンを、吹いている所を見ると、部内に不満がある訳では無さそうだ。

「正直言って…茉莉沙ちゃんが、居ないと、合奏が成り立たないの…」

「…茉莉沙は…部内に必要って、ことですか?」

「…うん」

だが、こう言うことにも理由がある。


一瞬だが、彼女の冷たい目に、迷いが見えたのだ。一瞬だったので、断定こそできないが。

「…だから、引き留めたい」



その時、扉の向こうから、ガン!と何かが落ちる音がする。

「・・・」

雨久が一瞬、黙り込む。



「ちょっ…!想大くん!」

優月が小声で、彼の手を引く。

「悪い悪い。頭がクラクラしたもんで…」

「ホルンの吹きすぎだよ。無理しちゃって…」



2人が音楽室へ入ったのと、察した雨久は、

「…本当は私、あの子と一緒に、吹きたい」

そう言った。

「…分かりました」


退部阻止…ということか。

とにかく、茉莉沙の辞める理由を掴まなければ、ならない。




このあと、茉莉沙の痛ましい過去が、時を超えて明かされていく。

ありがとうございました。

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次回…

音楽室全公開…優月が叫ぶ…。

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