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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
中間テスト&高校生たちの吹奏楽コンサート編
199/204

127話 怪物

テスト前。

「で、朱雀に教えもらった数学はどうだったんだ?」

「うーん、何とかなりそうかも」

「定演の為にも赤点は取れないからな」

颯佚の言葉に優月は頭を押さえた。

「そーだよー!」

「ま、期待値とかやっとけば、何とかなるんじゃないか?」

「…だと良いけど」

その時、タイミング悪くチャイムが鳴り響いた。

「あ、もう時間か!頑張れ、小倉くん」

「うん…」

優月は席につく。鼓動が暴れる。部活の懸った戦いだ。いくら難しくたって赤点は取れない。


そして…

『始めてくださーい』

監督の言葉で、時計の秒針が静かに動き出した。


目の前の問題。それは優月にとって未知なる怪物だった。だが、それに挑む他無いのだ。

『3つのサイコロを振った時、ひとつだけ奇数になる確率を答えろ』

問1から配点3点の問題である。赤点を取れない優月にとって、1点たりとも落とせないのだ。

(…サイコロが3つ?全部で出る目は18?で、ひとつだけ奇数…?)

思考が溢れ、少し戸惑う。時間はあるが、目の前の問題と言う名の怪物は倒れてくれない。

(答えは…3分の1!)

優月は怪物に剣を振るうように、答えをマスに書き込んだ。すると目の前の怪物はよろめいた…気がした。少なくとも答えに自信はある。

その後の問題は、美玖音に教わった基礎から成り立つ問題が多かった。彼女は最初から出題傾向を押さえていたかのように、問われる問題は全て迷わず答えられた。

(基礎ができれば…すぐに解ける!)

しかし、これがクエストなら小者を倒したかのようなもの。配点は非常に少なかった。それでも点数を取りこぼす事が無いように、慎重に解き進めた。

そして、問題は終盤へ。

目の前の問題は、もはや手の付けられない野犬の暴走を止めるかのような難易度だった。

(…やばい)

しかし、公式を忘れてしまった。

『…これが平行線の性質の公式だね』

まずい。Xに入る数は何なのか?

野犬に襲われる子供のように、優月は額から汗が流れる。もう分からない。

(もうここまでか…)

諦めようかと思ったその時…、

「あ!」

優月は"ある道具"を見つけた。道具は、まるで獣に毒を打ち込む注射器のように活躍した。



この日までが、優月たちは早帰りができる日だ。

優月がスマホを起動する。

「あ、美玖音ちゃん」

すると、まさかの相手から連絡が来ていた。

《テストお疲れ様!数学どうだった?》

可愛らしいアイコンの横に浮かぶ文字。優月はくすっと笑いながら返信した。

《平行線のやつ、定規使ったら何とかなった》

すると、スタンプが飛び込んできた。可愛らしいというよりは、美しい顔をしたマスコットキャラクターだ。

《定規w ま、私も使ったことがあるけどね》

ふっ、優月は思わず吹き出した。どんなに優秀な彼女でも裏技は使うのか、と。

《美玖音ちゃんは?》

訊ねると、

《簡単だったよ!》

と返信が飛んできた。

やっぱり、美玖音には勝てないな、と改めて思った。


すると、

「ゆゆー」 

心音に玄関前で呼び止められた。

「ん?どうしたの?」

「テストどうだった?」

「うーん、不安」

「それは俺もだわ」

心音もやはり不安らしい。

「…鎌崎だっけ?テストの答案作った先生?」

そして、彼女はこう聞いてきた。

「たぶん」

ちなみに鎌崎は優月たちの担任だ。

「んじゃ、赤点かも」

「でも、期末は定演前だから取れないよ、赤点」

「それは分かってる」

定期演奏会。厳しい練習が押し寄せる時期に、補習が入るのはマズイのだ。

「あ、でも美玖音に教わったんでしょ?数学」

「うん。心音って、美玖音ちゃん知ってたの?」

「なっつんから聞いたからなぁ。知ってる」

「へえ」

だが、心音と美玖音が話す所は、1回だけ見かけたことがあった。


心音と別れ、優月は帰ろうとした。

その時、

「ん?」 

スマホがポケットの中で揺れた。

これが、あの事件を知らせる合図だった。

《ゆゆー、旗の練習してって〜》

吹奏楽部のグループラインから、そんな文章が流れてきたのだ。



そうして、音楽室への階段を上がる。早く帰れるかと期待したのに、まさか居残り練習とは。

優月は音楽室前の扉に手を掛ける。

「…ん?」

すると、いつもは重たいはずの防音扉が、すんなりと開いた。

「…誰かいるのかな?」

優月が音楽室前へ足を踏み入れた瞬間、

ぱんっ!

何かが弾けるような音がした。それは拳と拳がぶつかるような生々しい音。

「井土先生?」

何をしてるんだろう?と思いながら、ドアを開ける。

「!?」

しかし、ドアの先にいた人物は、顧問の井土では無かった。


「美羽愛ちゃんと…しーちゃん」

それは、1年生の海鹿美羽愛と大橋志靉だった。しかし、彼に気づく前に、志靉が叫んだ。

『放っといて!!』

『放っておけない』

何の話しだ?と優月は疑問になる。これが、むつみや心音のような人なら、すぐに止めに入るのだろうか、女子同士の会話に突っ込むのは野暮だろうか?

「…あらら、失礼しましたー」

優月は小声で音楽室を出た。何だか邪魔するのも申し訳ない、そう思ったからだ。


だが、数秒後。

『もう!しつこい!』

どちらの声だろうか?その声と同時に、格闘する音が聴こえた。

「えっ…?」

殴り合う…まではいかないが、バシバシと物騒な音がする。

(待って…、美羽愛ちゃんとしーちゃんって、そんな人だったん!?)

井土は、体育祭の為の職員会議でいないはずだ。

(これって…ゆゆ出動!?)

何だか、怖くなって優月は、意味不明な発言を連発した。

そして、意を決してドアを開く。



すると案の定、美羽愛と志靉は乱闘に近いことをしていた。

しかし、志靉が一方的に手を入れるだけで、美羽愛はそれを全て受け流している。美羽愛の動きは、格闘経験者かのように攻撃を防ぐ。

「…どういう状況」

これは修羅場なのかと優月が黙って見ている。

志靉の拳が4回ほど空を切ると、美羽愛は彼女の腕を引き、肘打ちを放った。威力が高いそれは彼女を吹き飛ばす。何だか痛そうだ。

何とか、美羽愛が暴走を収めてくれた、そう安堵したのも束の間、彼女はのそりと立ち上がった。

「はぁ…はぁ…」

志靉は拳を固める。まだやるつもりなのか。

少しばかりぽっちゃり体型の美羽愛だが、その体型に(たが)わず、格闘技もできるらしい。恐らく志靉が美羽愛を殴り倒すのは不可能だ。

それ以前に、こんな所を戻ってきた井土に見られてはマズいと思った。

「…」

止めるべきか、このまま降参することを祈って見守るべきか?

幸い早帰り期間なので誰も来ない。

そして更に小競り合いがヒートアップした。


しかし、美羽愛は一切拳を振り上げなかった。志靉が一方的に空を殴りつけるだけだった。それは美羽愛が攻撃を受け流しているからだ。

「…志靉ちゃん!」

太ももを足で押された志靉は後方へ弾け飛ぶ。

「くっ!」

そこで、空間が始めて大きく開ける。

その時、優月は始めて近くに、分解されたドラムセットがふたりの奥にあることに気が付いた。

借りたのだろうか。真っ黒な大きなバスドラムとタムタム。中古っぽいそれは、黙って床へ鎮座していた。


「やばい!」

この嵐のような乱闘に、ふたりは話しながら攻撃を交わし合っている。何の話しをしているかは知らないが。

楽器に突っ込まれたらマズイ!

優月は無意識に、放置されたドラムへ飛び出した。

「あ…」

そんな彼へ気付いたのか、美羽愛の目が見開かれる。だが、気付いていない志靉の暴走は止まらない。


(…このまま、しーちゃんを暴走させたら。でも、こんな所で叫びたくない) 

間違いなく、楽器や機材にも危害を来すだろう。そう危惧した優月は、どう止めるかを思案していた。

その時、脳裏にひとつの策が思い浮かぶ。

(ん?叫ぶ…?)

いい方法というよりは妙案が思いついた。


まだ気付いていないであろう志靉たちの後ろを潜り抜け、優月は自主練用のドラムセットからマイスティックを抜く。

そして、放置されたバスドラムとスネアドラムに回り込む。

近くに保管している優愛からもらったスティックを握ると同時に、ペダルへ右足を乗っける。

(…止まれ!)

思い切りスティックを右手で振り抜くと同時に、右足が叩き起こしたビーターが打面へ跳ねる。

だーんっ!!!!

次の瞬間、太鼓の爆音に音楽室の壁が震える。

大口径から放たれるバスドラムの音は、予想通りに、志靉の動きを不意打ちのように止められた。


「……あっ!」

志靉に心臓が跳ね返ったような衝撃が全身を駆け抜ける。そんな彼女はこちらを見てきた。

「…せ、先輩!?」

なぜ、目の前に優月先輩が?

目の前の彼は、怒っている表情はしていなかった。ただ困ったような顔をしていた。

「み、美羽愛ちゃん」

「…志靉ちゃん、止まったぁ。先輩、すみません!」

すると美羽愛は慌てて、優月に滑り込んだ。

「大丈夫だよ。楽器が近くにあって、危なかったから」

「はぁ…」

美羽愛は、取り敢えず優月が怒っていないことに安堵した。

「でも、借りた楽器を勝手に叩いちゃった…」

罪悪感で顔を青ざめす優月に、美羽愛は更に頭を深く下げる。

「ほんっとうに!すみません!私が前を見てなかったから!!」

「まぁ、大丈夫だよ…」

どうしよう?

しかし、何故に2人は揉めていたのだろう?


これが、大橋志靉の本性だったのか?

ありがとうございました!

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ポイントやブックマークもお待ちしております!

次回もお楽しみに!


【次回】 志靉の過去…

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