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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
中間テスト&高校生たちの吹奏楽コンサート編
198/204

126話 美玖音と優月

「…東藤高校の数学のテスト範囲は、どこかな?」

図書館に着いてから、間もなく勉強は始まった。

優月は、テスト範囲の撮影されたスマホを見せる。

「範囲も撮ってるんだね。魅力的です」

「まぁ、東高(こっち)にも優秀な子がいるからね」

主に咲慧のことだが。

「ここなら、私もやったけど少し難しかったなあ」

そう言いながら、彼女はキラキラと光るボールペンを取り出した。見るに限定品だろう。それでいて消しゴムは百均から買ったものと、文房具のギャップが凄かった。

「…まずは余事象からやってみようね?」

「うん」 

「まず、余事象の確認ね…」

彼女の教え方は先生より丁寧だった。言葉の意味を理解してから、基礎を始める。それから応用の解き方を教えて実践する。1ページをめくるまで、15分もかかるけれど分かりやすかった。

何より、偏差値の高い高校の生徒だからか、説明ひとつひとつが分かりやすい。


30分も経過すれば、テスト範囲の後半へと差し掛かっていた。

「じゃあ、次は確率だね」

「ここ、少し難しいんだよなぁ…」

「私も思った。まず"くじ"に例えてやってみようかな」

「くじ?」

「ええ。まず"戻すくじ"と、"戻さないくじ"の何が違うのか?からだね」

「…戻すくじと戻さないくじ?」

「ええ、戻さないくじであれば、当たりを引く確率は上がります。対して戻すくじは、戻してしまうので当たりも外れも全てセーブ。そうなれば、戻さないくじは同じ"分数"を繰り返すことになります」

「…なるほど。戻すか、戻さないか、で次の確率は異なるってことか」

「そゆことね」

美玖音は小さいノートに、回答を書き込みながらそう言った。

「じゃあ、この問題を解いてみる?」

「うん」

『当たりの棒3本を含む12本の棒。この中から1本ずつ3回棒を引く時、3本とも当たりくじであるくじを求めろ。 ※ただし1回引いた棒は元に戻せ』


「…求めろとか戻せって何様なんだろ」

思うままに突っ込む優月に、美玖音はポンと肩を叩いた。

「私もちっちゃい頃は気にしてた。同士ですね」

こうして、ふたりで問題を解くことにした。

『12分の3✕12分の3=114分の9』

美玖音の教え通りに問題を解く。

「あとは、約分すれば正解だね」

『16分の1』

「うん、たぶんそれで正解だね!」

それからも、美玖音は大切な要点を問題集へ書き込んだ。その字は驚くほどに美しかった。

「…うーん、数学のテストはいつなの?」

「明後日〜」

「…このペースじゃ間に合わないかも」

美玖音が困ったようにそう言った。

「じゃあ、明日も…良いかな?」

「優月君が良ければ、テスト期間のいつでも」

美玖音はそう言って、にこりと笑った。

その笑みは美しいはずなのに、可愛らしくも見えた。




翌日。

優月は、昨日の出来事を颯佚たちに話した。

「ふはっ!朱雀に勉強教えてもらったんか?」

「え、美玖音に!?」

夏矢颯佚と岩坂心音は驚いていた。

「朱雀の勉強、わかりやすかったろ?」

「うん!凄く」

美玖音は、道筋を立てて教えてくれるので、理解しやすいのだ。

「美玖音ちゃん、絶対に成績上位者だったでしょ?」

「まあ、中学時代は10位くらいだったかな」

「だろうね」

次の教科は古典だ。この教科は50点ほどしか取れないので、優月にとっては苦手な教科かもしれない。

「で、今日も教えてもらうん?」

「うん。今日も教えてもらうの」

「頑張れ」

颯佚が励ますと、優月は「うん」と笑った。



昼過ぎの図書館。

「…あ、来た♪」

美玖音は優月を見つけ、小さく手を振った。

「連絡先、繋いでよかった?」

彼女は開口一番、そう訊ねた。

「うん、大丈夫だよ。実優が良ければ…」

「実優?」

「僕の…妹です」

「いい名前ですね。妹さん」

「まぁ、性格はすごく悪いけれど」

「そうなんだね」

彼女はクスリと笑いながらそう言った。

「もしかして、勝手にスマホの中身を見てくる子?」

「うん。たまに」

優月が困ったように言うと、美玖音は細い髪へ指を絡めた。

「それは素晴らしい性格をしてるね。…悪い意味で」

取り敢えず、美玖音が味方してくれたことに安堵した。


その後、数学の勉強が始まった。今日はいつもより中学生の利用が多かった。

「ここは、PQ// BCならば…だから」

「AP:AB=AQ:ACだっけ?」

「そうだね。そこから?」

「=PQ:BC!」

「正解。それが平行線の性質公式だね。それを当てはめて問題を解いてみようか?」

「うん!」

公式の理解が無ければ応用の解読は不可能、そんな彼女の言葉に、優月は必死に基礎を叩き込む。

「うん!正解だよ!この問題は、普通の計算式じゃなくて、:って記号が付くからね」

「了解!」

美玖音の指導は、1時間近くやった所で終わった。

「明日だよね?テスト、プレッシャーで忘れない?」

「うー、忘れそう。吹部の本番だとそんな事は無いんだけど…」

「…あはははは」

美玖音は珍しく目を細めて笑った。

「私も。でも、緊張しない理由って、勉強より部活の方が沢山練習したからじゃないかな?」

「…あるかも」

優月は目を大きく開いた。

確かに、部活ばかりで勉強どころでは無かった気がした。だが、学生は勉強と部活の両立が重要なのだ。

「取り敢えず、一夜漬けでやってもいいと思うし、寝る前に教本を読んで早目に寝るのも良いと、私は思うよ」

「…ありがと。美玖音ちゃん」

何だか頼りになるな、と優月は改めて思った。

「じゃあ、次の問題解いてみますかねー」

「うん」

美玖音の細長い指が、シャーペンに触れる。カチャリと優しい音がした。そんな芯の出たシャーペンを宙に浮かせる。

今回こそ、赤点は取れないな!優月は美玖音の意思を受け継いだように決意した。

「我が剣を掲げて進め…」

彼女は格言を残して、優月の教科書を指さした。諦めるな、と言うことだろうか?

「うん」

優月も鉛筆を手に頷いた。

何だろう、この感じは?優愛や咲慧と一緒にいる時とは、また違う感覚に陥った気がした。

「…あとは期待値かな?」

「ここも苦手なんだよねぇ…」

「ここは簡単じゃないですかね?」

「え?」

横を見ると、いつの間にか美玖音はメガネを掛けていた。この人、メガネを掛けるんだ。そう思いながら見つめていると、彼女は彼の教科書を指さした。

「ここの公式からやってみましょうか?」

「う、うん」

「まず、期待値の問題は、出された表から式を引用します。分かるね?」

「…表から。そういうことか」

「それが分かれば簡単!表の"商品券の額"と"ガチャから引かれるカプセルの数"を掛け続ければ良いんです」

「つまり、この問題は…」

「それと、平均を求めるのもお忘れなく」

「はーい…」

なんか、メガネを掛けた瞬間、話し方が変わった気がする。丁寧な口調から饒舌キャラへ。

「さて、ガチャ1回あたりに期待できる商品券が、250円と判明した訳ですが、これって200円を払ったら得なの?そんなお悩みを持つアナタ!」

「うお!びっくりした…」

(なんか、分かりやす…)

「優月君、直感で答えてみてね。200円払うのは?」

「得!」

「当たりー。あとでジュース買ってあげるね」

「気前の良い先生か」

優月がツッコミを入れると、美玖音はクスクスと笑った。

「…これが、ガチャ引くのに得か?得じゃないか?の解き方ね」

「なんか…すごい分かりやすかった」

「それは良かった」

美玖音はメガネを外し、穏やかな笑みを浮かべた。相変わらず甘い良い匂いが鼻をさすった。



「本当に飲み物、奢ってくれてありがとね」

帰り、優月は駅まで美玖音を送ることにした。

「大丈夫だよ。優月君、素直だから教えやすかった」

「そう?」

「私の中学校だと、中々そんな友達がいなくてね…」

「大変だったんだね」

優月が眉をひそめてそう言った。

「まぁ、部内で軽いイジメもされましたし…」

え?そうなの?彼は一瞬、目の前が暗くなったような気がした。

「え?イジメ?」

「イジメって言っても、精神的暴力だよ」

「美玖音ちゃん、それ大丈夫だったの?」

「ま、妹夕ちゃんたちに助けてもらってね」

「妹夕?」

「夏矢の今カノ」

「…結局、ヨリを戻したんだ」

すると美玖音は足を止める。

「送ってくれてありがとうね。テスト頑張って」

「うん!美玖音ちゃんもテスト頑張って」

「私は全然大丈夫」

「その自信羨ましい」

すると彼女の目が細められる。

「…でも、仲良くなれて良かった」

「僕も、美玖音ちゃんと仲良くなれて良かった。今度は楽器、教えてね。今、すごい大変なんだから」

すると彼女は「喜んで」と笑い返した。


更に仲良くなった優月と美玖音。

そして…テスト当日

『始めてくださーい』

監督の指示に、テストが始まった。

(美玖音ちゃんに言われた所は、殆ど押さえた…)

しかし、目の前の問題は未知の問題。

知識という剣で、目の前の未知の怪物を倒すようなものだった…。


その頃。

茂華高校も、同じく中間テストの最中だった。この時間は、東藤高校と同じ数学だった。

(頑張れ、優月君)

彼女も、優月のことを気にかけていた。

不安な眼差しで。


         【続く】

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