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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
中間テスト&高校生たちの吹奏楽コンサート編
197/203

125話 小倉優月のテスト期間

「…あと1週間!」

打楽器を片づけながらも、優月は焦りに焦っていた。

吹奏楽部の継続の為、中間テストの勉強をしなければならなかった。しかし10月には本番が入っている。その為にテスト期間中でも部活は入っていた。何ともシビアな状況である。

「…あ、ゆゆー、まだ帰らないで〜」

そんな時の部活終わり、井土が話しかけて来た。

「あ、はい」

彼に引き留められるなどいつ振りか?


そんなことを考えていると、彼は大きな旗を持ってきた。カラーガード、優月は彼の持つ物に覚えがあった。

確か、保育園の運動会で振り回したことがある。

「…はい、ゆゆにはこの旗をぶん回していただきます」

「言い方…」

彼の言い方に、流石のゆなも引いている。

「…で、旗の演技を覚えてもらって、それを後輩に伝授してください」

えー、思わず叫んでしまった。ゆななら100%断るだろう。しかし優月にとって、井土の言う事は『はい』か『YES』か『オフコース』だけだ。

「…お、おふこーす」

「?」

結局、引き受けることにした。



はぁあー、溜息を吐き出す。

テストが始まった日から部活は休みだ。それでも続く本番の為に、テスト明けからすぐに練習だが。

あの後、旗の演技を何度か指導された。

『えー、たぶん海鹿さんと大橋さんに、旗をやってもらいます。コミュ症を直しましょう』

『略して、円安』

(心音、うぜー…)

結局、美羽愛と志靉に教えることが決定した。それでも、一応彼女たちは、仲の良い部類なのでまだマシなのだが。


散歩がてら、茂華高校の前を通った時だった。

『優月くーん』

どこからか、誰かの声が聴こえてきた。

(あ、この声…)

下手したら、全く話したことも無い友達より、声を多く聴いた。

「美玖音ちゃん…」

朱雀美玖音。茂華高校の打楽器奏者だ。しかし視力が良いのか、5階の音楽室から顔を出しているというのに、歩く優月に気付いている。

「…もしかして、暇〜?」

「…暇だよ」

そもそも声が届いているのか?しかし、そこは恐ろしい。

「…ちょっと待ってて」

遠くから、暇と聞いた彼女は、優月を引き止めたのだ。

「…は?」

何で、美玖音に引き留められるのか?

結局、彼女が来るのを待つことにした。


「…お待たせー」

結局、10分もしないうちに、彼女は下へ下りてきた。

「え、さっきまで…何をしてたの?」

「何って、楽器の調子を見てたんだよ」

「へ、へえ」

流石だなあ、と思いつつ、優月は美玖音と少し話すことにした。

「あなた、家はこの辺りなの?」

すると美玖音に、そんなことを尋ねられる。

「いや、ここから少し遠いよ。中学はバス通学だったし」

「そうなんだー」 

美玖音の鞄についたキーホルダーが左右に揺れる。白いハイビスカスのキーホルダーだった。

「…美玖音ちゃんは、神平のどこに?」

「私はねー、」

美玖音はスマホでマップを開く。

「ここ」

「あわ、すご!」

彼女の家は、県内でも有名な蕎麦畑の近くだった。ちなみに田んぼアートも有名な場所らしい。

「…いいなー。毎年田んぼアート見られるんでしょ?」

「まぁね。私はそういうの興味ないけど」

「嘘だー」

ふたりが仲良く話していると、町の開けた場所に着く。


「…そういえば、どこに向かってるんだっけ?」

「え、適当だよ」

美玖音はてっきり、茂華駅に向かうのかと思ったが、そんなことは無いようだ。

「…あ!」

そこで、優月はとある場所を指差す。

「どうしたの?」

「僕が元いた保育園」

「え、保育園そこなの?」

美玖音は何か驚いていた。

「うん」

茂華保育園。優月と想大が元いた保育園だ。

「…私、この前行ったんだよね」

「この前?」

「うん。保育体験に。私、将来の夢が、学校の先生か保育士だからね」

「意外」

「え?そう?」

美玖音が首を傾げる。その仕草にわざとらしさは無い。

「プロになるのかと」

「何の?」

「打楽器の」

「私はそういうの興味無いかな…」

マジか、と思った。美玖音の技術力は、プロ奏者顔負けのレベルだ。少し勿体ないように思えた。

「優月くんは、将来の夢とかある?あと1年で進路決めなきゃでしょ?」

「えぇ~、特には…」

「大学は?」

「数学の成績悪過ぎて行けなさそう…」

「勉強教えましょうか?近くに図書館あるよね」

「…え、いいの?」

「いいよ。ま、後輩もセットだけど」

「あははは…」

「まぁ、今のは冗談で、本気で進路決めたほうが良いよ。部活ばっかり考えても進路は決まらないからね」

なんか言葉は説教なのに、本人の声は綿飴のように柔らかかったので、優月はただ頷いた。

進路。2年生になって半分が過ぎた。そろそろ決めなきゃなあ、と優月は思った。

その時、保育園の方から音楽が聴こえてきた。保育園から少し距離が離れていたが、曲は風に乗って耳を撫でるように響く。

「あ、夜に駆ける」

美玖音がふとそう言った。

「…ホントだ」

「運動会の練習かな?」

「多分ね」

結局、美玖音が近くで見たいと言うので、保育園の前で見ることになった。


「かわいい〜、ね?」

「そうだね」

彼女は、目を輝かせて子供のダンスを、見守っていた。

(…美玖音ちゃん)

面倒見が良さそうな人だな、と優月は思った。

しばらくすると、数人の園児がこちらへ駆け寄る。

「…あ、なんか来るね」

優月はここの卒園生なのでこのあと、どうなるかは予想がついた。

『こんにちは〜』

フェンス越しに手を振る子供。

あー、自分にもあんな時があったんだな、と優月は懐かしくなった。

「こんにちはあ」

美玖音はいつもとは違う猫撫声で、そう返していた。どうやら、保育士になりたいという思いは伊達では無いらしい。

あまりにも園児が寄ってくるので、

『あ、美玖音ちゃん、えっ!優月くん!?』

「…あ、バレちゃった」

先生にもバレてしまった。

「お、お久し振りです…」

優月は慌てて頭を下げる。美玖音はそれをキョトンとした目で見ている。

「久し振り〜!美玖音ちゃんも研修以来ね」

「はい。お久し振りです」

美玖音は、先程とは違う淡々とした声で返す。そのギャップが何だか怖い。

「中学生になってからも一度、来てくれたよね」

「はい」

岡本(おかもと)美百合(みゆり)。優月が保育園時代にお世話になった先生だった。

「え、今はどこ高?制服からして…東藤?」

「はい!そうです」

「あらら、今は?テスト期間?」

「はい。テスト期間なので早帰りで」

「そうなのー!勉強しなくちゃだね」

「は、はい…」

保育園時代、この先生には、噛み付いていた思い出があるが、今となっては頭が上がらない。

「…あ、旗」

その時、優月がふと言った。

「あ、旗ねー、懐かしいよね」

岡本が言うと、優月は「はい!」と頷いた。

「旗ですか?」

そこに何も知らない美玖音が、首を傾げる。

「そう。年長さんが旗を回しながら踊るの」

岡本の説明に、美玖音は「はあ」と目を見開いた。

「優月くん、結構うまかったよねー」

「え、そうですか?」

「そういえば、部活とかは?」

「あ、吹奏楽部です」

優月は質問に躊躇わずに答えた。

「…え、吹奏楽部!?楽器は?」

「打楽器です」

「えー!じゃあ、美玖音ちゃんと一緒?」

「はい」

学校は違えど、パートは一緒だから、そういう事になるだろう。

「それで…まぁ、丁度、旗を回す練習してるんですよね…」

こんなタイムリーな話題、たどり着く方が難しいはずなのに。

「そう、頑張って!」

結局、こう言われてしまった。


約10分話した末、優月たちは帰ることにした。

「そういえば、もう剣道はやってないんですか?」

保育園のマウンドを一瞥した優月が尋ねる。

「剣道?」

美玖音は再び首を傾げた。

「あー、剣道はねぇ、2年ほど前に無くなりました」

「えぇ…」

逆によく持ったな、とも思った。


剣道。

何度か繰り返したとき、何かが頭の中に飛び込む。

《や、やめて…》

《ありがとう。練習台》

目の前の女の子の首筋に、竹刀が突きつけられる。この映像が今、鮮明に蘇る。


「…あ!」

気付けば、保育園から離れていた。

「さーて、図書館に行って、勉強でもしようかな?」

「え、今、4時半過ぎだよ」

「…あー、確かに列車出ちゃうかな?」

悩む美玖音は、すぐに結論を出した。

「じゃあ、6時発の電車まで勉強するね」

「おぉ」

「優月くんも一緒にどう?」 

時間はあるな、と優月はスマホのホーム画面を開いた。

「…じゃあ、いい?」

「…ええ、喜んで」

そんなこんなで、優月は彼女に数学を、教えてもらうことになった。

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