表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
想いよ響け!! 涙の東関東大会編
196/203

124話 全国吹奏楽コンクールへ

東関東大会後の後日談です。


茂華中学校に競り負けた神平中学校。

「…うっ、うっ…!」

まさか、茂華中学校に本当に負けるとは、思っていなかったのだろう。殆どの人が声を上げて泣いていた。

しかし、ただ1人。無表情で結果に頓着する者はいた。

相馬冬深だ。 

(…彼らは本気で、全国に行けると思い込んでいた。それは伝説故の夢想に過ぎないというのに)

彼女だけは、結果を受け入れ、茂華中学校を賞賛していた。

(…ティンパニの子、演奏中に泣いていた。それほどに本気になれた)

そして、称賛の目は同じ打楽器奏者である古叢井瑠璃へと行く。

(変わる…、それは素晴らしいことなのかもしれない。恐らく、あの子のティンパニが無ければ、間違いなく選ばれていたのはこちらだ)

あの感情と力の籠もったティンパニ。あの音が審査員の心を震わせたに違いない。

…少し悔しい。

彼女の中で、黒い感情が湧くはずが、青い感情だけが渦巻く。

自分も、駄目だと決めつけて、クラリネットをやりたいと言う事を避けていた。だが、それは大きな間違いだった。今までの経験から駄目だと決めつけていた。

(…私もできれば変わりたい)

冬深はそう思って、隣を見る。


比嘉悠介。打楽器奏者だ。

「比嘉」

「…」

「無理もないかぁ」

悠介はまるで死んでいるかのように、何も話さなかった。

「…姉との約束の前に、自分との約束だ。まさか、評価なら絶対に負けないと思った茂華中に負けるなんてな」

「…そう」

「そもそも、あちらのポテンシャルを見誤ったことで、俺は奏者失格だ」

「茂華中を下に見てれば、そうなるか」

悠介は姉との約束で、全国大会に行けなければ吹奏楽を辞めると約束したのだ。

恐らく、彼は本当に辞めるだろう。相手を見下すに近い行為をしていた時点で、楽器を手にする資格はない。

その後も、悠介たちは各々、反省を繰り返していた。


(…古叢井…瑠璃)

だが、冬深は少女の名を口にしていた。 

(朱雀先輩から教わった奏者…)

あのふわりとしたツインテールの少女が思い浮かぶ。遠くから見ても優しそうな雰囲気を与える少女。

いつか、彼女と仲良くなりたい…。



数日後。茂華中学校。

『東関東支部大会金賞、全国吹奏楽コンクール出場、茂華中学校吹奏楽部』

『…はい!!』

『代表、矢野雄成、鈴衛音織!』

『はい!』

『はい!』

朝会で、吹奏楽部はふたつの賞で表彰された。吹奏楽部が全国大会に行くのは8年ぶりのようで、古参の先生は泣きかけていた。

『…すげぇ』

瑠璃の隣の出席番号の生徒も驚いていた。

瑠璃は壇上に上がるふたりを、誇らしげに見つめた。



しかし、その日の夕方。

「…ごめんなさい!失礼します!」

雄成は、母の容体が悪化したと部活を早退して行った。


「矢野先輩、どうしたんでしょう?」

希良凜が訊ねる。しかし、事情を知る瑠璃は何と答えれば良いか、分からなかった。

「先輩ー、それ、僕も気になるんですけれど」

「え〜」

何と秀麟まで気になっている。

まさか、彼の母の容体が悪化した、とは言えない。もしかしたら2人に余計な心配をさせるかもしれないからだ。

「…う、うーん」

瑠璃が、何とか誤魔化そうとした時。


「古叢井さん、末次君」

「あ、」

音楽室に笠松がやってきた。普段は木管金管の指導に当たる彼女だが、一体今日はどうしたのだろう?

「…ふたりは、ソロオーデション受けますか?」

「ソロ…オーデション」

瑠璃は心拍数が高まる。

文化祭のソロオーディション。かなりの難易度で、技術だけではなく表現力が求められる。

「そのオーディション、希良凜先輩は?」

すると秀麟は、希良凜が抜かれていたことに異を唱える。

「あ、指原さんはね」

笠松は、何も知らない彼に説明する。

「去年、ソロやったから今年は我慢してもらおうと思ってて。指原さん、いい?」

「え!全然大丈夫です!」

希良凜は、すんなりと受け入れた。

彼女は、弟を見返そうとソロオーディションに挑んだところ、ギリギリで瑠璃に勝利したのだ。

「…じゃあ、楽譜配っちゃいますね」

すると、ふたりへ楽譜が配られる。

「例年とは違って、落ちちゃった方は鍵盤じゃなくて、ボンゴとかやってもらうから、よろしくね〜」

「あ…はい」

(…これ、落ちたらヤバいやつかも)

去り際、彼女はこう言った。

「コンクールの練習やりながら、練習してね」

コンクールとソロオーディション。当分はその2つを両立させなければ成らなかった。



その時、茂華病院に着いた雄成は、すぐさま母の病室へ飛び込んだ。

「…母さん!」

今は眠っていた。しかし顔色は明らかに悪化していた。

「…くっ」


数日前。

『…全国大会!?おめでとー!』

『俺ひとりのお陰じゃないよ』

同じ病室で褒めてくれた母の姿が、脳裏に思い浮かんだ。

「…大丈夫!ぜったいに」

彼は、母を信じて見守っていた。

しかし、もう彼女の状態は手遅れであった。そんな残酷な事実を、彼は今はまだ知らなかった。




それから1週間後の土曜日。

「…優愛お姉ちゃん!久しぶりー!」

「昨日、電話したでしょー?」

「へへ」

「あ、全国大会出場のペナントや!始めて見た!」

優愛と白夜が、茂華中学校に来たのだ。ちなみに香坂(こうさか)白夜(はくや)はフルートで元部長だ。

「そっか、優愛はもう吹部やってないもんね」

隣にいた白夜が言うと、優愛は首を僅かに横に振る。

「いや、たまに楽器は触ってるよ。友達にせがまれるから」

「へ…へぇ、そうなんだね」

すると、凪咲と音織が校門から出てきた。

「あ!香坂先輩に、榊澤先輩!本当に来たんだ」

「…ふふ、白夜様」

すると白夜は、ふたりに笑い返す。

「音織ちゃん、久しぶり。1ヶ月ぶりかな?」

「いえ。まだ1ヶ月は経っていないかと」

「そっか。今年は?文化祭でソロコンやるの?」

「やるそうです」

「音織ちゃんで決定かな?それとも他の子も選ばれるのかな?」

すると音織の顔が少し曇る。

「今年は私で決まりなら良かったんですけど…」

「ん?音織ちゃんじゃないの?」

「…白夜様、見たでしょう?あの奏者」

「あー、中畑みるくちゃん?あの子、うまいよね」

「吸収力や音感が良いので、もしかしたら…、去年の打楽器みたいに…」

そして瑠璃の方へ視線をよこす。


瑠璃と優愛は、何も知らずにオーディションの話しをしていた。

「今年こそは、オーディション選ばれると良いなぁ」

「ふふ、瑠璃ちゃん、私よりもう上手いから大丈夫だよ」

「…」

「どうしたの?」

すると瑠璃の表情が真剣なものになる。

「秀麟くん、知ってるでしょ?」

「うん。前に褒めてくれた子なら」

「…あの子ね、私が去年叩いたスカパラ、コピーしてきたの」

「え!すご!?」

優愛は口元を押さえて、大きく驚いていた。どうやら小学生が、容易にできるものでは無いと思っていたらしい。

「…じゃあ、末次君と接戦かな?」

「たぶん。でも、私は負けない!!」

その声にはただならぬ決意が籠もっていた。

「…瑠璃ちゃん」

何だか、成長したなあ、と優愛は少し嬉しくなった。

「それに、私には、美玖音ちゃんって言う強い味方がいるから」

「だ、誰?って思ったけど、去年会ったような…」

(いや、それ以前にも?)

優愛の中で、美玖音の姿はどこか気になっていた。

「でも、全国大会も頑張って!」

「もっちろん!」

瑠璃は優愛とハイタッチをする。乾いた音が響いた。


全国大会。

それは着実に迫っていた…。

ありがとうございました!

読んでくれた方は、

リアクションをお願いします!

意見や面白かったら感想をお願いします!

ポイントやブックマークもお待ちしております!

次回もお楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ