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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
想いよ響け!! 涙の東関東大会編
188/208

116話 青春 ー全てを賭けてー

金曜日。

合奏中、突如音楽が崩壊した。

『…ここ、ドラムが最初なんでミスると崩壊します』

『す、すみません』

優月はドラムスティックをスネアに置く。そして謝罪の言葉と共に頭を下げた。

『…来週までにできるようにしといてね』

すると彼は優しい声で言う。

『は、はい』

優月は少し怖くなりながらも頷いた。

『来週の木曜の合奏までにできなかったら、ドラムはクビにしますから』

『…えっ!?』

そして、とんでもない事を言ったのだ。

『そしたら明作さんにドラムやらせますから、頑張って練習してね』

最後に彼は菩薩のような笑みを貼り付けて、合奏は終わった。

これはやばいぞ…。

優月は冷や汗をかいた…。



その日の夜。

優月はブランコでため息を吐き出す。

「…はぁー」

夜中に近い時間の公園にいるものだから、私立高帰りの優愛に見つかった。

「優月くん、こんな時間に会うなんて、久しぶりだね」

「あ、久し振りだね、優愛…ちゃん」

「まー、ポプ吹の会場で実は見たけど」

「え?そうなの?」

「あ、瑠璃ちゃんの演奏を見にね」

「あぁー」

この榊澤優愛と古叢井瑠璃は、中学時代からの関係だ。年は1つ違えど、まるで姉妹のように仲が良かった。

「で、どうしたの?」

優愛は優月の物憂げな心情を見抜いた。

「…実は」

話し終えた優月に、優愛が「クビねー」と言う。

「よくある事だよ。茂華中でも」 

「えっ?」

「言われることだけはね」 

「へ、へぇ」

どうやら、優愛も過去に言われたことがあったらしい。

「…でもね、誰ひとりもクビにされたことは無かったよ」

「えっ…?」

「だって、そう言えば、皆ちゃんとやるもん」

「…なるほど」

「…その先生に、すみませんって謝ってみたら?」

優月は井土のメールに文章を打ち込む。

「…頑張ろうって言ってくれたら、まだまだ信頼されてるよ」

優愛の言葉に優月は少し安堵した。

しかし、茉莉沙にドラムを渡さない為にも、来週の合奏までに練習しなければならない。


「そういえば、久奈ちゃんからね」

すると優愛の話しは、茂華中学校のオーボエパートの話しに移った。

「…茂華中学校、大変だったんだって」

「えっ?大変だった?」

「うん。3年のオーボエの子が、挫折しちゃったみたいで」

「へ、へぇ」 

挫折か、と優月は痛々しい言葉を呑み込んだ。

「…でも、挫折を乗り越えれば、もっと上手くなるだろうねー」

彼女の言葉に、彼はこくりと頷いた。

「あ、そうだ!私、明日ね…」

すると優愛は、とんでもない事を言い出した。



「…神平中か」

優月は家に帰ると、何故かその校名を検索していた。

「…ふぅん」

神平小学校にも吹奏楽部はあったのか、と少し興味を持ってしまう。 そして、いつの間にか、おびただしい量の画像に辿り着いていた。

(…あ)

画像を見れば、颯佚の言う比嘉悠介もいる。そして朱雀美玖音も。

流石に動画は無かったが、画像を見るだけでも、この頃から、かなり上手だったと知らされる。




翌日。

茂華中学校では、3連休の2日は練習に充てられていた。

「…凪咲ったら、また先生に怒られてる」

古叢井(こむらい)瑠璃(るり)は、少し呆れたように凪咲を見る。

どうやら、また早朝に学校に忍び込んで、クラリネットの練習をしていたことがバレたらしい。

「…凪咲ぁー」

瑠璃は伊崎(いさき)凪咲(なぎさ)に話し掛ける。

「あ、瑠璃!」

「また怒られてたの?」

「まぁ、うん。流石に6時は早すぎでしょ?って」

「は、早いよ。雄成や美心乃ちゃんでも、そんなに早く来ないよ…」

瑠璃はやや呆れている様子だった。

「…それより、この前の土曜日。朱雀って先輩が教えてくれたじゃん?」

「えっ?」

朱雀(すざく)美玖音(みくね)。彼女は神平小学校から吹奏楽部を始めていて、全国でも希少な人材と呼ばれる程の打楽器奏者だ。

「…あの相馬って人のこと」

「あぁー、あの子か」

瑠璃は少し思い出したように言う。

「私、その人にクラリネットで、絶対に勝ちたいから」

「凪咲の方が、絶対に上手いと思うけど…。だって、その子、打楽器の方が経験年数、多いんだよ」

「…そうだよ。瑠璃も頑張ろう」 

凪咲も少し焦っているように見える。本番まであと2週間を切ったからか?

「確かに、小学校とバンドクラブ、掛け持ちしてたって言われた時は、めっちゃ驚いたけど…」

その時だった。

「…あ、古叢井さん」

その時、顧問の笠松が瑠璃に呼びかける。

「あ、はい」

瑠璃は彼女へ向き直る。

「…先輩、来てるよ」

「え?」

その言葉の意味が、今の瑠璃には分からなかった。



「…こんにちはー。ここの卒業生の榊澤(さかきさわ)優愛(ゆあ)です。楽器は打楽器やってました」

突然の来訪者に、瑠璃は目玉が飛び出るほどに驚いていた。

(優愛お姉ちゃん…)

優愛と瑠璃の関係はかなり深い。まるで姉妹のような仲だったから。

「…えー、榊澤さんは去年まで、この部に所属してたので、1年生は知らないかと思います」

「ですよね」

「ちなみに、今はどこの学校にいますか?」

「凛西良新高校で、美術の専門コースですね」

優愛も少し恥ずかしそうに言う。

「…あの先輩って」

ちなみに秀麟は、何度か話したことがある。去年の合同演奏会で。

彼がそんな事を考えていると、練習が始まった。



早速、瑠璃は優愛に駆け寄った。

「優愛お姉ちゃん、来るなんて思わなかった!」

「ふふ、本番前だし、今週くらいまでかなって」

「えっ?」

「来週は本番1週間前だから、合奏三昧でしょ?」

優愛もここの引退生だ。ここの道理は理解している。

「…先週は茂華高校が来たんですよ」

希良凜もそう言って、優愛に飛びついた。

「茂華高校かぁ」

「でも、優愛先輩まで来るとは驚きです」

「へへ、先生に許可もらえたのが、今日だったんだ」

優愛は、(たま)に先生に、会いに行っているのだが、話しの流れで見学を許可されたらしい。


「あの…榊澤先輩、お久しぶりです」

「あ、久し振りー」

優愛は軽く手を振り返す。ちなみに内なる心情は(この子誰?)と困惑していた。

「…末次くんだね?」

「はい!」

「去年、会ったよね〜」

「はい!」

どうやら秀麟は、優愛をずっと覚えていたらしい。

「榊澤先輩、すっごく美人だから覚えてますよー!」

「…え?ありがとう!めっちゃ嬉しい」

ギャルみたいな物言いで言う彼女に、瑠璃と希良凜は軽く笑い出した。



それから、打楽器パート全員分の指南をしてもらった。

「…瑠璃ちゃん、相当、優秀な子に教えてもらってたんだね。私より上手いよ」

「えへへへ…」

本気で言う優愛に、瑠璃は少し照れてしまった。

(まぁ、今となっちゃ、優月くんにも抜かされてるかもだけど…)

「前みたいな重い叩き方も治ってるね。瑠璃ちゃん、叩きつけるように叩いてたから、ティンパニが破れちゃったんだよ」

優愛が苦笑すると、瑠璃は恥ずかしそうにモジモジする。

「でも、今はもう大丈夫だね」

「うん!」

でも、その時、中北の声が聞こえてくる。

「中北ちゃん先生?どうしました?」

「たまに前みたいな叩きつける演奏することあるから、そこは注意だね」

「あぁ」

優愛は仕方ないなと、瑠璃に1から指導を始めた。




その頃、神平中学校。茂華中学校同様に、休日練習に励んでいた。

「…冬深ちゃーん」

「…はい」

打楽器の相馬(そうま)冬深(ふゆみ)。彼女が後輩の女の子に話し掛けられる。

「ここが、まだ甘いって言われた。どうするのがいいの?」

後輩だが、まるで喋り方は、友達と会話するかのようだ。

「…ここは、ティンパニか…」

どうやら、唯一入ったティンパニの箇所を、指摘されたらしい。

「…マレット」

「はい!」

後輩からマレットを受け取った冬深は、本来後輩が立つべき場所に立ち、ティンパニを打ち出す。真っ直ぐなリズムが音楽室の外へまで響き渡る。跳ね返る残響さえも心地よい。

「…闇雲に練習はしないで」

「はい」

「…それだけ、あとは頑張って」

何と手本だけを見せて、冬深は鍵盤楽器を奏でに帰ってしまった。

「…さっきの」

冬深の言う通りに打つ。

「…さっきよりは良くなったかな?」

後輩は自分の音と冬深の音を重ね合わせる。まだ甘い、判断した彼女は同じリズムを何度も繰り返した。


出来るまでやる。

最後まで自分で考える。

そして一度見たものは必ずできるようにする。

良き技術は次世代へ引き継ぐ。

それが神平中学校の強さでもあり、『弱さ』でもある。

ありがとうございました!

次回もお楽しみに!


【次回】 降谷ほのか編 正体は…?

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