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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
想いよ響け!! 涙の東関東大会編
182/212

110話 茂華中高合同練習会 [前編]

9月6日。

殆どの部員が帰った後の音楽室。

「あーれ、何してるの?」

うまい棒をかじりつきながら、鳳月ゆなが部長副部長に訊ねる。

「…これからの方針」

茉莉沙よりも先にむつみが答えた。 

「…へー。今後の方針って?」

「この前、井土先生に言われたやん」

「え、もしかして、人間共が群がってるとかなんとかってやつ?」

「何いってんの?」

むつみは真顔で言葉をぶつける。その下りの何が面白かったのか、茉莉沙はクスクス笑った。

その時、顧問の井土がやってくる。

「違いますよ。男女学年パート分け隔てなく仲良くしてくださいって言ってるんですよ」

「略してチート」

フルートの心音がそう突っ込んできた。

「…ゲームでチート技見つけた時の快感半端ないんだよなぁー」

ゆなはそう言って眠そうな欠伸をした。

「それにしても、ゆゆったらー」

「小倉君がどうかしたんですか?」

すると井土は顔を少し歪めてこう言った。

「ビブの楽譜が読めなかっただなんて…」

「私も読めん。ドラムは感覚、鍵盤は諦め、それがわたくし鳳月ゆなです!」

彼の悩みの言葉と対照的に、ゆなは気楽そうにそう言った。

「チョップ!」

「いたい!むっつん!」

「諦めるな」

むつみは怒ったように突っ込む。

「いやー、私よりはマシですよ」

その時、茉莉沙が庇うように言った。ちなみに茉莉沙も元はプロレベルの打楽器奏者だった。色々あって今はトロンボーンだが。

「…私も、彼の時くらいまでは全然落ちこぼれでしたし…」

「は、はぁ」 

彼女の過去を知っている者は、全員何も言えなかった。

その沈黙を破ったのは井土の言葉だった。

「そうだ!メイさんのドラムの楽譜が出来たんでした!」

「えっ?」

茉莉沙は4枚の楽譜を受け取ると、誰も使っていないスティックを手に取った。

「少しやってみます」

彼女がドラムを叩くのは数週間ぶりだった。




その朝、茂華中学校。

この日は茂華中学校と茂華高校の合同練習が、茂華中学校である日だ。

「おはようございます!」

瑠璃が音楽室に入ると、全部員の半数が音楽室に詰め込まれていた。

「来るの早っ」

凪咲も後輩たちの方を見て、感心の声を上げた。

いつもなら、もう少し遅くに来るはずなのだが。もう少し早目に出れば良かったかな?とふたりは思った。



「…高校生の方々が来ています。パートごとに練習を始めましょう」

顧問の笠松の言葉で、今日の練習が始まった。パートごとに教室を分けて練習と指導が始まった。

「久城先輩ー、行きましょう」

「うん」

瑠璃はふと、美心乃に視線をやる。やはり彼女は元気のなさそうな顔をしていた。

まるで昔の自分みたいだ。

(…美心乃ちゃん) 

彼女の様子に少し不安になってしまった。


「…瑠璃ちゃん」

その時、誰かが背後から話しかけて来た。どこかで聞いたことのある声。

「!?」

瑠璃はばっと後ろを振り返った。

「す、朱雀先輩!」

朱雀美玖音。茂華高校吹奏楽部の打楽器奏者だ。

「…久し振り〜」

「久し振りです!」

瑠璃は硬い表情で一礼する。

「あれー、なんか表情硬いね。…何かあったの?」

そして彼女の胸中は、美玖音に即座に見抜かれた。

「あ、いや…」

瑠璃はどう答えれば良いか、分からなかった。

その時だった。

「何か、殆どの3年生がピリピリしてるんですよ」

後輩の希良凜が言った。

「…へぇ。そっか、全国大会目指してるんだってね。神平中ビビってたよ」

すると美玖音は、ニコニコと柔らかい笑顔でそう言った。

「えっ!?神平中がですか?」

「てか、私の古巣だよ。私は神平中出身だからね」

「…は、はぁ」

始めて知った瑠璃と希良凜は、目をパチクリとさせた。

「…あの!神平中はそんなに強いんですか!?」

希良凜が一筋の希望を見出したいという気持ちを、美玖音にぶつける。

「強い?強いけど半分は強がりだよ。私はしなかったけど、コンクールに出る子は気休めみたいに自分の演奏を上手いって言うから」

「強がり…」

「そう。そりゃあ、自分の演奏に自信を持たないとだからね」

「そうなんですね。つまりハッタリ!」

「そういうわけじゃないけど…確かに誇張していたりはしている」

古巣の情報を軽々と吐き出す彼女に、瑠璃は疑惑の視線を向ける。

だがそれは…もう1人の後輩も同じようだった。

「どうして、そんなに話してくれるんですか?」

1年の末次秀麟。彼の言葉に美玖音は、くすりと笑い返した。

「だって、私自身、神平中学校あんまり好きじゃないから。あそこは平気で無視とかするし」

「…酷いですね」

「そう。それだから茂華高校に行ったの。だから私は茂華中学校を応援してる」

「ありがとうございます」

律儀に感謝の言葉を言う彼に、美玖音は人の良い笑みを浮かべた。



(…いい子たちだわ)

美玖音は中学時代の回想にふけっていた。

『先輩ー、勝手に音変えんでくださいよ。でも音綺麗ですね』

『…私は別に何でも良いです…。何でもするので朱雀先輩に委ねます』

比嘉悠介と相馬冬深。優秀なふたりの後輩の他にも、後輩や同級生はいた。

東関東大会金賞が決まったある日。

『朱雀先輩!茂華また東関東落ちだそうですー』

『へぇ、それは残念だね』

『顧問変わってからつまんなくなりましたよな。音楽』

『…そうかな?』

『技術も私たちの方が上ですよねー』

『コンクールの結果ならね』

しかし、神平中(ここ)はというかバラバラだった。

全員が全国大会に行く、その血眼になってでも叶えたい夢が部員たちを支えていた。

本顧問もしたたかな人間だった。正直、すぐに不要を切り捨てる顧問のことを、美玖音はあまり好きではなかった。

『…足元すくわれるよ。そんなに調子に乗ってると』

美玖音は、確かそれだけしか言えなかった。



『みくねせんぱーい』

その時瑠璃に手を振られて、意識を取り戻す。

「あ、はい!」

「…大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。何かあった?」

「先輩はどうティンパニを叩いてますか?」

「…えっ?ティンパニ?うーん…」

美玖音は少し考え込むも、瑠璃にティンパニ専用のマレットを手渡される。

「先輩、叩いてくれませんか?」

「…良いよ。お手本が見たいんだね?」

「はい」  

すると美玖音はティンパニの前へ立つ。譜面を見て数分だけ試奏する。

「できそうですか?」

瑠璃は少し不安気に訊ねる。華高のトップランカーと揶揄される彼女とは言え、迷惑では無いだろうか?それを考えるだけの余裕が瑠璃にはあった。


その不安気な声を耳に通した美玖音は、険しい表情をして目を閉じる。

「この朱雀。約8年の経験に叩けない曲は…」

瑠璃がこちらを覗くと同時に、美玖音は凛とした目をぱちんと開ける。

「きっと()い…」

刹那、沈黙が走る。

その沈黙を自ら破るように美玖音が笑う。

「多分もうできる!」

「え、はやっ」

「ティンパニは小学生からやってたからね。音階と音量を注視すれば何ら問題はないね」

美玖音は少し冷や汗をかきながら、楽譜通りに曲を進める。

「実はマードックは、神平小でやってたんだよね」

「え、そうなんですか?」

「そこでもティンパニをやってたけど、今はもうあんまり覚えてないね」

美玖音はマレットを跳ね上げる。多分、感覚だな、と瑠璃は思った。

「でも、瑠璃ちゃん出来てるよ。ただ音量がまずいかなってだけで」  

「…それが、私、音のコントロールが極端で…」

「極端?それは大きい音か、前みたいな小さい音しか出せないってこと?」

「はい」

すると美玖音は少し眉をひそめた。

(…これは、思ったより深刻だなあ)

そんな彼女は、途中までティンパニを叩き切った。


「…これはもう、あれしかないね」 

マレットを置いた美玖音は、瑠璃へある決断を下した。

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