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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
夏休み終盤 ポプ吹コンクール編
179/208

107話 ゆなとの共演

冬馬中学校の演奏が終わった。

「…冬馬、まあまあだなあー」

ゆなはそう言って肩をすくめた。某スライムアニメを再現した曲だった。しかし新顧問を迎え入れてから、あの中学校は弱体化しているらしい。

「…あの大内東のインパクトが強すぎたのがねー」

むつみも同意の意見を投げる。

そうして、名も知らぬ中学校の演奏が幾つか続いた頃、ようやく茂華中学校になった。


真っ暗な舞台に、ひとつの影が浮かぶ。

優月はその先にいる人物を知っている。

「茂華中って、東関東行くんですよね?」

美羽愛が口を押さえて訊ねる。

「え、うん」

「なのに、出てるんだー」

流石に美羽愛は驚いていた。確かに、東関東コンクールもあるというのに、他のコンクールへも出場しているのは凄いことだ。

しかし、どんな事をするのか?辺りは緊迫に包まれた。


一歩…。

「ほんとに茂華いるやん…」

「何するんだろ」

このコンクールに命をかける勢いで練習してきた東藤中学校は、緊張の糸で張り巡らされていた。

「…何するんだろ?千本桜としか書かれてなかったからなァ」

そう言ったのは部長の東雲妹月だった。

「そだね」

初芽花琳もドキドキと胸を高鳴らせながら、ステージを見つめる。


間もなくして、アナウンスがホールへ響く。

『プログラム6番、茂華(しげはな)町立(ちょうりつ)茂華(しげはな)中学校(ちゅうがっこう)。曲は千本桜。指揮、笠松明菜』 

母校の演奏に、優月の胸が高鳴る。よく知る人間は数えるくらいしかいないけれど、母校の演奏を見守る彼は全員を応援していた。

すると一斉に楽器を吹き出した。

それと同時に、瑠璃が踊り出す。ふわりとツインテールが揺れる。その動きに無駄はない。

イントロだというのに、一瞬で手拍子が湧いた。

1番のメロディーに入ると、瑠璃はゆっくりと横へ右手を伸ばす。その動きはメロディーに合わさっている。完璧なタイミングだ。

『…考えたなぁ、茂華中』

妹月が悔しそうに見る。

『確かに、ダンスだけなら時間を掛けて練習する必要ないし…、演奏面も評価しやすいからね』

花琳も頷いた。

これなら、パフォーマンス面と演奏面どちらも評価されやすいだろう。

思わずの演技にふたりは驚いた。


瑠璃は腰に片手を当て、もう片方の手をくるくると中へ振りかざす。それと同時にステップを踏む。目立ちやすい赤のベストと白いシャツが一層彼女に光を与える。

そしてサビ、シンバルが鳴り響くと同時に、瑠璃は弾けるようにジャンプする。まるで花が散るように。

それからも激しいダンスを踊り続けていた。


『やば…、かわいすぎる』

今まで黙って見ていた美鈴さえも、黄色い声を出してしまう。

『…ほんとに変わったな』

隣の孔愛も驚いている。


各楽器のソロや秀麟のグロッケンの早打ちなど、演奏もさることながら、瑠璃のダンスも別格だった。そんな彼女は一礼してドラムセットの方へと歩き出す。

ぱちぱちぱち、とたったひとりへの拍手が鳴り響く中、当の彼女は細い指で楽譜をめくっていた。そしてドラムスティックを構える。

(すぅー…)

瑠璃は緊張しながらも、スティックを振りかぶる。今まで練習してきたのだ。大丈夫だ。

3サビに入り、曲は更に激しさを増す。瑠璃はスネアを打つ左手のみに力を入れる。するとバランスの良いリズムの完成だ。

(瑠璃ちゃん…)

優月も心の中で称賛を送った。

ハイハットシンバルの細かい打音が鳴り響く。素人でも難しいと分かるだろう。更に楽器の音色同士が絡み合っていく。

そして最後のスタッカート。たた、たたん!という音と共にドラムの管楽器の残響が鳴り響いた。

難解なリズムを打ち切った彼女は、安心したように顔を和ませる。

しかし、次の中学校が迫っていた。



「あ、次は東藤中か!」

むつみがキラキラと目を輝かせる。

「いや、次は野村中で、その次が神平中。そのあとが東藤中だって」 

「なんだよー。ちぃー」

「…てか、東藤中はなにするの?」

「さー、なんか剣士が打ち合うーって」

「なにそれ…」

ゆなは、むつみが何を言っているのかわからなかった。

その後、東藤中学校の演奏を見たかったのだが、準備の時間に入ってしまった。

ゆなはひとり、衣装を持って舞台裏に繋がる通路へ向かっていた。

「まじで広ぉ」 

その時、がしゃん!と何かが落ちる音がする。

「あー、まずいまずい」

「しまったー!」

「大丈夫!?」

どうやら中学生は運ぶ小道具を落としてしまったらしい。

「ん、あのツイテ」

ゆなはそのうちの1人に迷うことなく話しかけに行く。

「大丈夫ー?」

「あ、鳳月先輩!?」

すると女の子は驚いたように目を丸めた。

「むらこいだよね?大丈夫?」

「あ、大丈夫です!」

すると後輩ふたりも軽く会釈する。

「一気に持つから落とすんだよー。持っていく時は無理なく焦らないでやってね」

ゆなは珍しくアドバイスをしながら、瑠璃に落とした小道具を手渡した。

「はい!」

瑠璃は返事しながら、小道具を受け取った。

「鳳月先輩は、今から本番ですか?」

「そうよ。私たちは今から本番」

すると彼女は、猫のように目を細めてこう言う。

「あの、優月先輩と頑張ってください!」

「…ゆゆと?」

「応援してます!あと頼みます!」

楽しそうに言う彼女に、ゆなは頷き返した。

「じゃあー、来年楽しみにしてるから」

ゆなはこう言葉を残して、着替え場所でもある楽屋の通路へ向かった。

(…1個、むらこいに恩を売っちゃった♪)

今のうちに、瑠璃に恩を売れたことにゆなは満足した。




そして東藤高校は、発表への準備をしていた。

「…やばい」

しかし、優月はメイド服の背中の紐を結ぶことに苦心していた。

楽屋に箏馬の姿はなく、ゆなだけだった。ゆなは巫女服の変装が終わったようで、控室の入り口で欠伸をしながら待っていた。

「…やばい」

怒らせるかもしれない。

そう思っていた時だった。


「動いたら結べないでしょうが」

突然誰かが紐を手に取る。

「え…」

その声に、優月の背中にぞわりと悪寒が走る。

一体なぜ?

「ほ、鳳月さん?」

後ろにいた人物。それは鳳月ゆなだった。いつの間にか背後へいたのだ。

「これでよし。行け」

ゆなは満面の笑みでそう言った。

「あ、やっぱストップ」

すると彼女は、優月の白いヴィッグを整え始めた。まさかのゆなとゼロ距離。

「…え、ごめん」

「ここをこうして…、変装バレるよ」

ゆなはいつになく、優月の仮装を丁寧に施してくれた。

「あと、声はもう少し高く」

「あ、うん」

ゆなはそれだけ言って優月の手を引く。彼女の美しい肌が嫌にも見えてしまう。凛々しく真っ黒な瞳に不安気な自分が写った。

「これでバレない!行け」

そして優月を声で押しだすと、困ったように笑いながら頷いた。

「き、急にどうしたの?」

「むらこいに頼まれた。ゆゆを頼むって」

「え、瑠璃ちゃん!?」

「そ。行くよ」

こう言って彼女は優月に付いていくように通路を歩き出す。



「さ、頑張るよ」

ゆなはそれだけ言って、通路をズカズカと歩いていく。瑠璃のせいなのか、演技に本気になったゆなに、優月は口元を緩め「ああ」と言った。

本気のゆなの演技と演奏、楽しみだ。

ありがとうございました!

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次回もお楽しみに!



【次回】 メイドの優月&巫女のゆな  大暴走!

     瑠璃は葉菜と再会!

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