101話 打楽器奏者 比嘉悠介と相馬冬深
なんと、神平中学校も『ポプ吹コンクール』に出場することが決定したのだ。
打楽器パートの練習場である音楽室では、様々な打楽器の音で溢れかえっていた。
その中でも一際目立つほどの演奏をする者がいた。
比嘉悠介と相馬冬深。悠介のドラムは迷いなく複雑なリズムを機械のように刻んでいた。
「技術とは一瞬の勇気」
彼は余裕そうに口角を上げる。スネアを打つと同時に、スティックから手を離す。それから一瞬にも満たない時間で再びスティックを掴み、サスペンドシンバルを打つ。これにより、スネアを連打した刹那、シンバルへ繋げることが可能だ。
本来なら至難な技術が要される場面も、彼は技術ひとつで全てを解決させる。
「見た目もカッコいい。まさに一石二鳥」
演奏中の見た目も気にしている悠介は満足そうだった。
一方の冬深も、ポプ吹コンクールの練習をしていた。小さなグロッケンを巧みに操る。叩いた音は細かくひとつひとつが耳に届く。
「例え、今に私が失敗しようと、吹部に明日は訪れる…」
彼女は自分へ落ち着きの言葉を掛け、再び一呼吸挟む。すると神速の速度でマレットを動かす。『学園天国』の早打ち箇所を彼女は入念に練習していた。
神平中学校は、例年通りに練習を続けていった。
しかし茂華中学校では…
『うっ…、うっ…』
早朝、木管パートの練習室から、ひとりの泣き声が聞こえてきた。
そんなことも知らずに瑠璃は、その練習室を素通りしようとする。
「…ふぁー、これから毎日部活ってことは、新学期は早起きに困らないじゃん」
次にどんな独り言を言ってやろうかと、間が空いた時にようやく気が付いた。
「ん?泣き声?」
ただひとりの泣き声。それは自身の過去をフラッシュバックさせた。
「どうした…の?」
ドアを開けた瑠璃に飛び込んできた光景。それはオーボエを掴んだまま、嗚咽を出し続ける久城美心乃の姿だった。
「…ソロ、むずかしい…」
どうやら、彼女はソロに不満があるらしい。瑠璃はトコトコと彼女へ歩み寄る。
「おねーさぁん、大丈夫?」
友達だからこそ、敢えて元気に話しかける。
「誰!?」
すると泣かれた所を見られた彼女が叫ぶ。
「…瑠璃だよ」
瑠璃は明るい声でそう言った。
「大丈夫?」
すると美心乃はコクリと頷いた。
「昨日ね、巫琴と遥篤にソロ聴いてもらったの。そしたら全然駄目だね、って」
彼女はそれだけ言って咽び泣いてしまった。
「…そっかぁ」
すると彼女は更に肩を震わせる。涙がぼろぼろと床へ滴る。
「大丈夫だよ。元気出して」
そんな彼女は天使のような表情を見せる。普段は妹みたいな彼女も、精神が壊れかけている彼女には励ましてくれてる母のように見えた。
「頑張ろー?」
瑠璃がそう言って猫のように笑った。その純粋な励ましに美心乃はこくりと頷いた。
しかし、これが厄介だった…。
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