100話 定期演奏会の序章
定期演奏会編に続く物語です!
そして100話を突破しました!
読者の皆様、本当にありがとうございます!
ポプ吹コンクールのリハーサル後、井土はこう言った。
『…では、定期演奏会についての話しを始めます』
そう言う井土の顔にいつもの穏やかさは無かった。少し強張っていた。まるで何かを恐れているかのように。
「今年から色々変えようと思います」
その言葉に、彼の予想通りに部員たちはざわめいた。
「今年から、今までやった曲ではなく、皆さんのやりたい曲をやろうと思います。そして部員全員で1つの物語を作ってもらおうと思います」
辺りがガヤガヤと反応する。
「…それってどういう事ですか?」
心音が反応する。
「ですから、部員全員で曲を決めて、物語まで作ってもらおうと考えてます」
優月は辺りを見回す。今日に限って、颯佚と咲慧がいない。颯佚は風邪を引き、咲慧は通院で早退したのだ。1年生も孔愛がいない。
これには流石の茉莉沙も困った顔をしていた。むつみに限っては見てられないという表情をしている。
「…私たちがまとめるんだよなぁー」
むつみは消え入るような声で言う。
「本当に心配…」
茉莉沙も難色を示す。
1から作り上げるというのは荷が重い。しかも、この先も退部者が出るかもしれない。
そんなプレッシャーと戦いながら、定期演奏会を作り上げるのは大変なことだ。
これを理解しているのは部長と副部長、ただ2人だけだった。
すると井土は少し表情を崩す。
「もちろん、私も放置というわけではなく、アドバイスなどはしたいと思っています」
それでも大変だろう。
そして、優月もかつてない窮地に立たされるのだ。
「…わー、どうしよもない」
優月は男子1人という苦しい状況に立たされる。
「私はー、恨みのある人に復讐とか」
「え、めっちゃいいー!」
「それっぽい曲、探してみよー」
ゆな、心音、氷空、ほのかの話しをただ聞くことしか出来なかった。ゆなは既に計画を立てているのか、スイスイと押し進めていた。
「…うーん、曲がまず思いつかない」
1人だけマイナス意見を吐き出す優月に、ゆなは少し眉をひそめた。
「まず物語を考えればどうなの?」
その苛立ったような声に、優月は小さく頷いた。
「うん」
優月も少し眉間に皺を寄せる。
物語が思いつかないから、曲を先に決めようとしたのに…。口にしようとした言葉は胸の奥へと逃げ帰ってくる。
なぜか、最近はゆなの言いなりだ。
彼女の過去を聞いてから、何となく彼女に逆らえなくなった気がする。
それが、ゆなとの対立を起こすとも知らずに…。
そして更に最悪なことが、この黒嶋氷空だ。
氷空は男子と話したことがないのか、優月と目も合わせてくれない。ほのかとはまた違うタイプだった。
「…はぁー」
ほのかと心音、氷空はずっと3人まとまって話していた。ゆなはたまに3人へ口出しをする。
見事、優月の孤立状態が完成した。
演奏面が少しずつ充実してきたと思えば、次は人間関係だ。部活はこれだから大変だ。それだからやり甲斐がある。
そう感じるのは、彼にはまだ早かったのかもしれない。
午後の太陽が地上をめらめらと照らしつける。
帰り道、優月は小さくため息を吐いた。今日は誰ひとりとも帰り道に会わなかった。
「…このままじゃ、孤立しちゃうかな」
咲慧や颯佚がいない日や、ふたりの生徒会の日は大体こうやって孤立してしまう。
これは、何とかするべきなのか?
そして定期演奏会を前に、ゆなとの対立が起きてしまう…。
このストーリーは定期演奏会に続きます。
お楽しみに!




