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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
夏休み終盤 ポプ吹コンクール編
170/210

98話 東藤中学校

東藤高校。

「んふぁー、ゆゆ」

部活終わり、今日は珍しくゆながリュックを背にしていた。大きなリュックの中身はパンパンであった。一体何が入っているのか。

「ん?」

優月はそう思いながら、彼女の方を見る。

「私、ちょっと早く帰らないとだから、楽器を全部片付けといて」

「え、いいけど」

「…じゃあ、お願い」

彼女はそう言うと、音楽室から姿を消した。


普段は暇だと騒いで夕方まで音楽室に留まる彼女が珍しい、と思った。そういえば今日は茉莉沙もいない。3年生は全員おらず、2年生と1年生も全員帰り支度を始めている。

「…みんな今日は何かあるのかな」

優月はそう言いながら楽器の群れに毛布を掛ける。

いずれにせよ、優月は居残り練習をすることにした。


その頃、ゆなはむつみの家にいた。

「ホントにお前は何でもできるんだなぁ」

むつみが驚いたように言う。

「…だから、みんなが下手なだけなんだよなぁ」

煽りを上げるように、ゆなは弓を胸へ引っ提げた。むつみの家には弓道場があるのだ。

「…私でも難しい」

「ジルを売却すればできるようにるんじゃない?」

ゆなが冗談めかすように言うと、むつみが彼女の頭をポンポンと叩く。

「そんなわけないでしょ?」

「へへ、バレたか」

ゆながバツが悪そうに笑う。

ちなみに『ジル』とはゆながやっているソーシャルゲームの超レアキャラクターだ。


「あ、私の妹きたよ」

その時、初芽がそう言った。

「…結羽香姉ちゃん、大きい声で言わないでよ」

初芽の隣にいた人物。その人物にむつみの表情が明るくなる。

花琳(かりん)!」

「ん?そいつが初芽の妹?」

ゆなは基本先輩にも呼び捨てだ。

「そうです。私が初芽花琳です。姉がお世話になってます」

随分と礼儀正しいな、と思いながらゆなはむつみに弓を押し付けた。

「…あ、鳳月ゆな先輩ですね。初めまして」

「初めまして」

ゆなは大して興味が無さそうだった。

「…あれ、何の楽器やってるんだっけ?」

と訊ねると、

「打楽器です」

花琳が堂々と答えた。 

「そう…」

心底真面目な子供だな、とゆなは少し眉をひそめた。


彼女がここまで花琳に興味がない理由。

それは彼女が東藤高校に来ないと分かっているからだ。どうやら彼女は茂華高校に進むらしい。一方の茂華中学校にいる瑠璃は東藤高校に進むそうだ。だから別に親しくなっておく必要はないとゆなは思っているのだ。


「…そうだ、ゆなー」

その時、花琳が出口の方を見る。そこには花琳の友達であろう女子がいた。綺麗な白い髪に赤い瞳。まるでむつみのようだった。

「ゆなの新しい後輩、東藤中学校の子で大食いの妹月だ♪」

「…むつみの妹?」

「いや、どこかの民族の末裔らしい」

「漫画みたいな展開キター」

ゆなが棒読みで言うと、妹月は小さくお辞儀をした。

「鳳月先輩、来年東藤高校に行くんで楽しみにしててください」

「あー、ゆゆに頼もっと」

「ゆゆ?」

妹月が軽く首を傾げる。するとむつみが、

「小倉優月っていう高2の男の子だ」

「へぇ」

妹月は多分優月を知らない。

「てか面倒みろよー!」

「やぁ、めんどぉーい」

「カワイイ後輩だろうが!」

…ゆなとむつみは、今日も仲が良かった。



そんな東藤中学校。

音楽室では、8月最後の本番へ向けての練習を始めていた。

肺活量増強のための校舎周り3週のランニングを終えると、パート練習へと入る。


「…花琳ちゃーん」

「千紘」

真っ黒なドラムセットの前に腰掛けた少女に、女の子が話しかけて来た。

「今日も頑張ろ!」

「うん!」

ドラムを叩くのは打楽器担当の初芽(はつめ)花琳(かりん)。そんな彼女に話しかけるのは千紘というトランペットの女の子だ。

「千紘、大丈夫なの?練習しなくて」

「大丈夫よ!アタシ部内1だから」

「あはははは…」

豪語する千紘だが実は実力はあまりない。恐らく3年生の中で1番技術が足りていない。

花琳はドラムスティックを構え、黄金色の円盤へ軽く振り下ろす。ばしん!とシンバルの音が響く。それと連動するように右足でペダルを踏む。細いマレットの形をしたビーターが透明な打面を打つ。

「ドラムうんまぁ、私ほどじゃないけど」

「あははは」

叩きながら余裕そうに笑う花琳を見ながら、千紘はトランペットを持って音楽室を出ていった。


「千紘ー」

「あ、妹月だ」

東雲妹月。この吹奏楽の部長だ。

「…千紘は今から練習か?」

「そだよー。まぁアタシ最強だから練習しなくても…」

「練習はしなさい」

妹月が唐紅の視線を彼女へ突き刺す。すると千紘は逃げるように隣の部屋へと入って行った。

「…はぁ」

千紘は自分がうまいと言って練習をサボっている。どうしたものか、と妹月は頭を押さえた。


ポプ吹コンクール。東関東大会へ進む学校は全て棄権したと思ったのに、なんと茂華中学校が滑り込んできてしまったのだ。これにより、ポプ吹コンクールで金賞を取れるかどうかが危うくなってしまったのだ。

茂華も間違いなく、技術と演出を万全にしてくるだろう。金賞を取りたい我が東藤中学校は厳しい練習にも必死で食らいついていた。 



《フルートパート:音楽準備室》

妹月も白銀色に光るフルートに息を吹き込む。彼女の技術は競合に匹敵するだけあって綺麗に響いた。彼女の肺活量は尋常じゃないので、長く吹いても疲れないのだ。

「東雲先輩、ここの強弱わかりません」

そこへ1年生が相談に来る。

「あー、そこか!そこはな、クレッシェンドするんだ。分かるだろ?」

取り敢えずクレッシェンドの意味を確認する。するとその後輩は頷いた。

「うん!つまり少し高くするんだな。こう」

妹月は自身のフルートへ息を吹き込む。すると音は更に高くなる。

「…はぁ」

何もしてないように見えるが、高い音を出すというのは相当な技術が必要だ。

「まぁ、難しいからな。来週までには出来るようになっとけよ」

そう言ってケラケラと笑う彼女に、後輩はありがとうございます!と礼をした。

「…さてと」 

短いソロパートを淡々と吹きこなす彼女はまるで中学生離れしていた。


すると壁の向こうからドラムの音とグロッケンの軽快な音がこちらにまで飛び込んでくる。

「…はじまったかぁ」

打楽器パートもようやく練習が始まったようだ。



《トランペットパート:空き教室》

「千紘ちゃーん、ちゃんと練習しないと」

「えー」

千紘はトランペットを腕に提げ、外の景色を見ていた。この空き教室なら校庭にいる運動部を見ることができるのだ。

「アタシ最強だから大丈夫だよ」

そんなことを言う千紘に、彼女の友達は「んもー!」と怒ったように彼女の肩をつかむ。

「あわわわわっ!?」

千紘はもがくが友達は気にしない。

「さあ、練習するよ」

「はぁーなぁーせー!」

千紘は本気で自分に陶酔していた。


《打楽器パート:音楽室》

「ああ、バスドラムが」

練習を中断した花琳が残念そうに言う。バスドラムの打面にヒビが入っていたからだ。強く踏んだりはしたが、壊れるまでのことをしてない花琳は困ってしまった。

「ガムテ貼るかぁ」

それで妥協した彼女に、後輩の女の子が話し掛けてくる。

「花琳先輩、どうしました?」

「え、バスドラにヒビが入っちゃって…」 

「じゃあ、新しいの買ってもらいましょうよ」

女の子はそう言って煌めいた瞳を彼女へ向ける。

「…うーん、新しいのねぇ」

花琳がぼやくと、

「どうしました?」

顧問登場。彼は少し年を取り小太りな体格だった。名前は野政(のまさ)文太郎(ふみたろう)

「野政先生、バスドラムにヒビが入りました。新しいの買いましょうよ」

女の子は三つ編みをなびかせてそう言った。しかし野政は難色を示す。

「それは…難しいかな。ガムテープを貼って補強しておいて」

「えー、新しいドラム欲しかったぁ」

その女の子は頬をフグの如く膨らませる。不満の中に滲む怒りが頬を赤く染める。

「だから、叶望(かなみ)ちゃん、諦めよう」

「はぁーい」

渡邊叶望はそう返事してマレットを握った。

「…まぁ、初芽さんが引退したら掛け合ってみましょうか」

仕方なさそうに言う彼の言葉を聞いていたのは、花琳だけだった。


それから30分後、合奏に移った。

「では、サックスの春川くんと高山さんから」

すると2人は音楽室の前に立つ。

東藤中学校の演出は『剣士同士の戦い』だ。演奏する曲もそれに合わせてある。


ポプ吹コンクールでは、2つの評価対象がある。1つ目は演奏だ。コンクールなので当然、演奏や技術は争点となる。2つ目は演出だ。ポップスやボカロを演奏するコンクールなので演出も重要になる。例えば、台詞無しの劇や芝居、ダンスなども評価される。予め審査員には何をするのかを通達して発表するのだ。

その2つの評価対象で、金賞と銀賞と銅賞を決めるということだ。


「茂華が同じ劇してたら終わるけどな…」

妹月が小さな声で友達に言う。

「茂華は劇なんてしないでしょ?何するんだろうね?」

演奏面が強い茂華中学校は本当に難敵だ。そのうえ演出面まで充実されたら溜まったものではない。

「…茂華中から情報を掠め取れないかな?」

友達が言うと、

「東藤高にいるらしいよ。吹部にいて向こうの吹部に詳しい人」

妹月が悪そうに言う。

「え、誰?」

「さぁ?昨日会った先輩が知ってるらしい」

「なぁんだ」 

茂華が怖い。

それは部員全員の心を締め付けていた。


野政の指示で、春川と高山が楽器を左右に動かす。それからは剣士のように剣で打ち合う振りをする。

ドラムを叩きながら見ていた花琳は、複雑な気持ちになった。他の奏者は自分の演奏に手いっぱいだが、唯一花琳だけは違っていた。


8割は完成した東藤中学校。

「…さて、明日は実際に剣を持ってやりましょう」

その言葉で部活は終わった。

「…はぁ、見てる分には面白いんだけどねぇ」

妹月はそう言った。後輩は、

「なんか不自然に見えましたが。それに御浦の楽団もいるんですよね?」

と難色を示した。御浦楽団とは全国でもトップクラスの吹奏楽楽団だ。主に子供が在籍している。

「…でも演奏はいいから、それでも充分太刀打ちできるでしょ」

妹月は客観視していた。

演奏も演出もきっと茂華や御浦ジュニアブラスバンドにだって勝てる。そう信じていた。


今回は東藤中学校のとある1日を描いてみました!


ありがとうございました!

読んでくれた方は、

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ポイントやブックマークもお待ちしております!

次回もお楽しみに!


【次回】 作中No.1 対 明作茉莉沙


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