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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
茂華中学校 夏の合宿編
167/208

95話 囁く 囚われの本性

投稿日の今日は古叢井瑠璃ちゃんの誕生日です!

茂華中編の主人公で、作者もめっちゃお気に入りの1人です!誰よりも悩んで成長している彼女の誕生日を祝ってくれたら嬉しいです!

これから成長するであろう瑠璃ちゃんを見守っていただけませんか!


追記 ちなみに『吹奏万華鏡』の作者も今日が誕生日です笑。

駄目だ、どうしても思い切り叩ける自信がなかった。今日の夢が瑠璃の心を縛り付ける。さっき見た夢のように、また壊れたらどうしよう?そんな不安が晴れることはなかった。

瑠璃はそんな感情を抱きながら、午後の合奏を迎えることになった。

「では、ポプ吹コンクールの曲、昨日の続きをやってみましょう。昨日は1番までだったので間奏から」

瑠璃は悩みを胸に隠しながら、その演奏を見守る。楽譜は簡略化されているからか、希良凛のドラムは安定していた。やはり呑み込みが早いだけある。


次にビブラフォンを早打ちする秀麟を見る。彼の技術力は1年生ながら高い。

何だか自分が1年生だった時のことを思い出す。同じホールであのビブラフォンを演奏した。

『…そこはクラリネットと合わせます。できますか?』

笠松からそんな指示が飛ばされた。瑠璃は集中力を高め、腕から一定の力だけを抜く。そうして打つ音は綺麗に響いた。

『できてます』

笠松が満足そうに言うと、瑠璃はホッと胸をなで下ろした。すると隣にいた少女が笑いかけてきた。

『…優愛お姉ちゃん』

それは、ティンパニ専用のマレットを軽く握った優愛だった。その優しい笑みに応えるように瑠璃も可愛らしい笑みを浮かべた。しかし心の中は空っぽのようだった。

本当は太鼓類がやりたい。

今では叶わぬ淡い希望を夢見ていたから。



「…!」

記憶の海から顔を出すと、管楽器パートへの指導が始まっていた。瑠璃は指導されているサクスフォンパートの部員を見る。ベルからは何度も甲高い音を吠え続ける。その度に良し悪しの判断が下されていた。

10分後、ようやく3間奏へ入った。ドラムは希良凛から瑠璃へ入れ替わる。瑠璃は不安げな表情をしながらスティックを構える。昨夜、中北から教わった所はまだ心許ないのだ。


瑠璃はスティックを振る。しかしシンバルからのロールがズレてしまう。そこからハイハットシンバルのオープンクローズに入った所で止められる。

「古叢井さん、少し早いです。あと余裕がなさそうなら、振りはもう少し小さくしてください」

「はい」

駄目だ、と瑠璃は落胆する。

家でも、できる限りドラムの練習をしている彼女だが、どうしても大振りになって叩いてしまう。

「では、もう一度」

瑠璃は汗がにじむ額を腕で拭う。さっきより低い位置からスティックを振る。タイミングは完璧だったのだが、スネアドラムを叩く所が遅れてしまった。過去のことを思い出して動揺している彼女の演奏は明らかに精彩を欠いていた。

そんな危なげな演奏が多いので、

「一旦、管楽器だけでやってみましょう。打楽器パートは休みで」

と笠松が指示をした。

情けないなあ、と瑠璃は素振りしながら思う。なぜ今更自分は過去に囚われているのだろう。

すると、中北が肩を叩いてきた。

「…古叢井さん、大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

瑠璃は小さく頷いた。無理しないでね、優しい彼女はその言葉を残して笠松の所へ戻っていってしまった。

「瑠璃お姉さん、大丈夫ですか?」

そこへ秀麟までもがやってきた。

「うん、大丈夫」

瑠璃はこくりと頷いた。その表情にいつもの子供っぽい笑い方はなかった。



ばしゃん、ばしゃん…と波が砂浜とぶつかり合う。

「わぁ!裸足だと冷たい!」

「当たり前でしょー」

美心乃と凪咲が言い合っている。今は午後の5時。部員は先生達と近くの湖に来たのだ。湖と山から見える夕焼けは最高だった。

「…コンクールが終わればもう受験なんですか?」

「文化祭が終わったらだよ」

「…そうですか」

秀麟は瑠璃の頼りなさそうな表情を見つめる。

「本当に大丈夫ですか?」

その問いに彼女は、結った一本の後ろ髪をはためかせる。

「…夢見ちゃってね」

「夢ですか?」

「うん。私、前も言ったけどティンパニを壊しちゃったことがあったんだ」

「それは知ってます。希良凛先輩から聞いているので」

「その…ティンパニを壊す夢を見ちゃって…、怖いの。また壊したら次こそ太鼓ができなくなるんじゃないのかなって」

「それで楽器決めの時に躊躇っていたんですね」

秀麟はひとつ彼女の心情を見抜いた。

「私、生まれつきアドレナリン過多体質で、思いっきり叩いた時の破壊力がすごいみたいなの」

生まれつきの体質。それが瑠璃には怖かった。

しかし子供の頃はそこまで気にはならず、誰かと喧嘩する時も、天龍で太鼓を叩く時も便利だと思っていた。


すると秀麟が真剣な瞳でこちらを見てきた。

「後輩ながら申し訳ないんですが、壊したということに関しては先輩が未熟だったからですね」

「え?」

「瑠璃先輩、自分の技術に自信を持ってないように見えます。でも瑠璃先輩は本当に上手いです」

秀麟は彼女の瞳を一点に見つめる。

「…もっと自信を持って演奏したらどうですか?」

その言葉に瑠璃は自然と頷いた。


ただ去年までの1年、なるべく力を抜いて演奏することを心掛けてきた。だからこそ、誰よりも努力していたし技術も桁違いに上昇した。

だが、そこに至るまで数多のトラウマだって植え付けられた。ティンパニ破壊だけではない。音量差でソロのオーディションを落とされ優愛を悲しませたことだってあった。

だから、それからは思い切り叩かないようにしていた。


だが、それは考えるほど深くはなかった。

ティンパニを壊したのも、ドラムのソロオーディションで落選したことも全ては自分が未熟だったからだ。

ならば、過去に囚われ続けることも未熟故だろうか?でも秀麟には聞けない。彼は必然的に困ってしまうだろう。

それに彼の言っていることは理解できた気がする。きっと苦しい過去を振り切って思い切り叩け、と言いたいのだ。

「秀麟君、瑠璃頑張る」

瑠璃は秀麟の青い瞳だけを見て笑った。

「ありがとう」

「…いえ、僕は瑠璃先輩の本気の演奏を見たいだけですので」

照れ隠しのように言う彼の期待に答える為に、居残り練習も頑張ろう、と思えた。

ありがとうございました!

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ポイントやブックマークもお待ちしております!

次回もお楽しみに!



【次回】 再び瑠璃が◯◯◯◯される!

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クッソ当日に祝えなかった... だが言わせてもらおう! お二方、おめでとうございました! これからも頑張ってください応援しております!
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