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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
茂華中学校 夏の合宿編
164/208

92話 思わぬ相談

3時になると合奏が始まった。全長スケールで合わせたあと早々に合奏が始まった。ちなみに2日目の午前中は特別講師が来るらしい。

「では、課題曲からやっていきましょう」

そう言って笠松は両手を構えた。彼女の動きに無駄は一切ない。その構えに応えるように部員たちも一斉に楽器を構える。すると空気はよりピリピリしたものに変わる。

雑音なくフルートの音が響いた。


ぱん!と弾けるように曲を終えると、笠松は何度か頷いた。

「中北先生、どうですか?」

笠松は打楽器パートの近くにいた副顧問へ問う。

「うーん」

そんな中北は難色を示しているようだった。

「最初のフルートが、ホールだと意外に響きづらいですね。鈴衛さんの音に合わせるように皆さんも吹いてください」

『はい!』

気の入った返事に、中北は満足そうに口元を締めた。

「それではマードックから最後の手紙、やってみましょう」

すると全員がスッと自然に楽器を構えた。去年とは全く違う落ち着いた佇まいは、経験の差を顕著に示していた。しかし音を発した瞬間、すぐに止められてしまった。

「クラリネット、もう少し音を小さくしてください。音量のバランスがクラリネットに傾いています」

凪咲は「はい!」と返事した。凪咲のクラリネットの音は非常に大きい。肺活力やリードの使用も中学生離れしているからか音量は人三倍大きかった。

やはりホールでは聴こえ方が全く違った。大き過ぎる音もあれば小さ過ぎる音もあった。結局、夜の6時までは音のバランスを調整した。

「では、7時30分からまた練習なので、それまでは夕食休憩して下さい」

『はい!』


〈食堂〉

「はぁ~、やっぱり他の音と合わせるの大変…」

凪咲が木造りの机に突っ伏した。

「ホールだと、音が大き過ぎると目立つもんね」

久城美心乃も同意する。

「私に音量合わせられないのかな?」

「凪咲ちゃんのクラリネット、音大きいから無理だって」

凪咲の不満そうな台詞に美心乃はただ苦笑した。やはり目一杯音を鳴らせないのは不満が残る。


一方の打楽器パート。

「わぁい!豚汁だぁ」

瑠璃は目の前の豚汁に大はしゃぎしていた。その表情に疲れの色は全く見えない。

「…先輩、豚汁好きなんですか?」

「うん。好きだよ」

瑠璃は嬉しそうに目を細める。ニコニコと目からは嬉色が溢れている。


すると雄成が『いただきます!』と言う。

「…いただきます!」

瑠璃たちも復唱して食事を始める。

真っ白な豆腐を咀嚼すると、灼熱の感触が口の中へ溶ける。

「あッつー!」

瑠璃は口に広がる熱の感触に必死に耐える。

「先輩?」

希良凛が訝しげにこちらを見るが、彼女は熱に耐え笑う。

「豆腐熱い」

「確かに、熱そうですね。舌は大丈夫ですか?」

彼女の心配に瑠璃は「大丈夫だよ」と笑顔で返す。

「瑠璃お姉さん、このポテサラ美味しいですよ」

「え、あ!ポテトサラダだぁ」

打楽器パートは一段と和気あいあいとしていた。


一方のユーフォニアムとチューバパート。

「…遥翔ぉ、七味唐辛子くれる?」

セルビアが頼むと、霞江遥翔は赤い粉の入った七味唐辛子の瓶を手渡す。

「ん」

「すまない」

するとセルビアに誰かが話し掛けてくる。

「先輩、私にもくれませんか?」

「あ、ああ。いいよ」

チューバパートの土谷(つちや)菫玲(すみれ)はセルビアからもらった唐辛子瓶を掴んで一礼した。

「…ん」

すると遥翔が肩身狭そうにこちらを見る。

「あ、」

セルビアはそんな彼を見て気まずい気持ちになる。遥翔と菫玲は付き合っているのだ。

しかし、ふたりは今喧嘩中だ。そのせいか最近は話している所を見ていない。

菫玲が去ると、セルビアは遥翔に耳打ちする。

「ねぇ、土谷さんと仲直りしてよ」

「したいけど…」

「なに?」

「…どうすればいいか」

セルビアはふたりの恋仲に突っ込みたくなかった。しかしふたりはギスギスしているので何とかしたかった。



〈PM19:30 ホール〉

「…さて、ではパーカッションも入り組んだ複雑な場所から」

笠松はそう指示する。

秀麟はタムタムへスティックを構える。ここはタムタムの激しいリズムが入っている。強弱を付けることが課題だ。

「…末次君、古叢井さんと管楽器は合わせてください」

瑠璃もマレットを構える。そしてマレットを小さく振る。それと同時、管楽器の音がホールいっぱいへ広がる。最初とは違うバランスの取れた綺麗なリズム。眠気に襲われそうな部員もいる中、合奏は厳格な雰囲気で進む。

「はい、OKです」

笠松がそう言うと全員の肩の力が抜ける。

「…では、ポプ吹コンクールの曲をやろうと思います」

その指示にも部員は戸惑うことなく準備を始める。

「古叢井さんと指原さんはドラムの準備をして下さい」

『はい!』

希良凛は嬉しそうにドラムを用意する。

曲は『千本桜』だ。この曲は2014年に作られた曲でアーティストは和楽器バンドだ。

実は春isポップン祭りで一度やっている。


「…では、最初やってみましょう。古叢井さんは少し待っててください」

『はい』

瑠璃は途中までダンスを踊ることになっている。終盤は希良凛と交代してドラムを叩くのだが、ダンスが主な役割なので瑠璃はずっとダンスの練習をしていたのだ。

「では、まずドラム抜きで、デテテ、デテテ、デテテって所から」

すると管楽器が一斉に観客席へ向けられる。

次の瞬間、ベルからよく聴くリズムが弾けるように響いた。

瑠璃は頭の中で踊っている自分を想像する。明日の午後にダンスを交えた通し合奏をするので、そこが初めて部員たちにダンスを見せる場だ。

唯一の打楽器、秀麟はグロッケンの早打ちからタンバリンに持ち替える。曲は慎重に進み1番で止まった。

「…はい、最初のタンギングからメロディーですが、指回りが遅れないように気を付けてください」

『はい!』

「では、ドラムも混ぜてもう1回、今度は最後までやるので、指原さんから古叢井さんへのドラムチェンジもお願いします」

そう言って通し合奏が始まった。


練習が完全に終わったのは20時30分頃だ。すると学年ごとに風呂の時間になる。

皆は帰ったが、ドラムパートの瑠璃と希良凛、そして3年生の雄成と凪咲はずっと練習をしていた。

「…瑠璃ちゃん、希良凛ちゃん」

「中北先生?」

ドラム練習をしていたふたりに中北が話しかけて来た。

「少しリズムがズレてたかな」

「えぇ!」

希良凛は瑠璃以上に驚いていた。

「さっしーからもう1回聴かせてくれるかな?」

「はい!」

希良凛は途中までのリズムを刻む。

「うん、楽譜を重視してるけれど、少し遅くなってるから早くね」

「はい」

「じゃあ、お風呂入っておいで」

「はい!ありがとうございました!」

希良凛が帰ると、瑠璃はすかさず中北に言う。

「先生、私のは…」

「ごめん!もう1回叩いてくれる?」

「はぁい!」

瑠璃は嬉しそうにスティックを構える。瑠璃は3間奏から入るリズムを集中して刻む。複雑なリズムは途中で引っ掛かってしまいそうになったが思い通りにできた気がした。

「なるほどー」

しかし中北はまたしても難色を示す。

「…瑠璃ちゃん、ドラムは基本左右交互に叩くんだよ」

「え、」

瑠璃は少し困惑してしまった。優愛には片手連続で叩いても良いと言われた気がしたのだが。

それを言うと中北は笑う。

「それは、次へのリズムに間に合わない時のみに使うんですよ。ここは左右交互で刻まなければいけません」

なるほど、瑠璃は納得した。思えばそんな事を言われたのは複雑なパーカッションソロの時だった気がする。


その後も付きっきりでドラム指導を受け、瑠璃は風呂に入っても悩みは抜けきらなかった。

そんな彼女は今、小学校時代の友達の月館紅愛と電話越しに話していた。紅愛は大内東中学校のサクスフォン担当だ。そんな彼女とはお盆のプールで再会した。そこからは毎日のように電話している。

『合宿!?茂華は強いわね。羨ましいわ』

「えへへ」

『そうだ。ポプ吹コンクールだけど、私はサックスソロやるから楽しみにしててね』

「うん。お姉様のソロ楽しみにしてる!」

紅愛の言葉に瑠璃は嬉しそうに頷いた。そう言って電話を切り、部屋へ戻ろうとしたその時。

「先輩」

ユーフォニアムパートのセルビアと遥翔が、こちらへ手招きをする。

瑠璃はスマホを仕舞うとふたりの元へと歩き出す。

「どうしたの?」

瑠璃は要件を訊ねる。すると遥翔がこう言った。

「先輩、助けてください」

ありがとうございました!

良ければ、

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